英雄は愛しい女神に跪く

シーチキンたいし

王都に向けて 野営


「おーい!十夜!」

「優理、一人で大丈夫だったか?」

「心配しすぎだよ。全然平気!」


しばらくして、馬車と見張りを数名残して来たらしい優理達と合流した。


「や、やぁ、トーヤ君。これは…すごいね」

伯爵や護衛の騎士と冒険者も、辺りの惨状に引いていた。

これをものの数分で殺ったという事実が、この惨状として広がっているからだ。この洞窟に来るまでに、何十人もの死体が転がっていた。


どれも綺麗に急所を切られていた。一撃で無力化したことが伺える。

「これで血の臭いでモンスターが寄ってこないと良いんだけどね」

「いいじゃねぇか。晩飯があっちから寄ってくるんなら」

「モンスターを晩飯って……、君ってつくづく大物だよ」

「それより、中の戦利品確認しろ」


伯爵は護衛をともなって中の戦利品を見に行った。伯爵も中をみて驚いていた。


「こんなに溜め込んでたのか。領内の財政に回せそうだな」

「えぇ、以前より考えていた政策も施行できそうですね」


執事や護衛達がせっせと運びだし、戦利品を確認したのち、均等に7割俺に持ってきた。

金が合わせて1億5000万ニアン。白金貨一枚分以上あった。そして宝石類と魔道具がいくつかきた。これだけあれば、平民なら何もしなくても暮らせるだけある。

俺は全てカバン型のアイテムボックスに入れた。このアイテムボックスの良いところは、イベントリにも繋げることができる。

なのでイベントリを知られずにすむし、盗難対策として俺と優理以外、中の物を取り出せないようにしてあるので盗るだけ無駄だ。例え、盗んだとしても、勝手に帰ってくるように設定してある。これも十夜が創造スキルで作ったものだ。

魔法鞄アイテムバックを持ってたんだね」

「あぁ、狩った魔物の素材も入るし、楽でいい」

「そうだね。うちもあるけど、性能が良い分高かったよ」

「……そうだな」

自分で作ったとは言わない方が良さそうだ。


「旦那様」

「どうだい?あったかい?」

「いえ、見つかりませんでした」

「…そうそう尻尾を掴ませてはくれないか」

「探し物はこれか?」

執事が遅れて洞窟から出てくると、伯爵に何やら報告していたので、俺はさっき手に入れた羊皮紙を投げ渡した。

伯爵はそれを受け取り、中を確認すると目を見開いて驚いていた。


「こ、これは!どうして君が……?」

「俺が最初にあの部屋に行った時に見つけた。それだけ鍵付きの箱に入ってたしな。気になって開けたら入ってた」

「あ、ありがとう!報酬は」

「いらん」

「しかし……」

「いらん。受け取っておけ」

それよりいいマジックアイテムくすねたから…とは言えない。

「ありがとう。これはかなりいい証拠だ。絶対陛下のもとに届けないと」

「そうですね!」

執事と伯爵は今一度羊皮紙を確認して、嬉しそうに話していた。

俺は優理の側に行き、離れていた分を充電するように優理を抱き締めた。


「十夜?疲れたの?」

「いや、優理を充電中だ」

「なにそれ?」


優理は呆れながらも、拒むことはなかった。


「優理、アイツ等はどうだ?」

「大丈夫だよ?ちゃんとマーキングしてるから」

「そうか」

言わずとも、優理は十夜が何故数名逃がしたのか理解していた。なので、逃げた数名にはマーキングして、完全感知で直ぐに追えるようにしてあるのだ。

転移で突然遠くに逃げない限り、優理の完全感知からはそうそう逃げられない。

せいぜいつかの間の安息を満喫していろ。




それからすぐ、盗難団の死体をまとめて片付けると、馬車に戻り再び王都に向けて出発した。

盗難団の惨状を知り、今朝のように俺達を侮るものは一人もいなかった。

日が沈もうと言う頃、野営をするとことなった。

「ここらへんで野営をしましょう」

護衛騎士や冒険者達はてきぱきと野営の準備に動き出した。俺と優理は呑気に朝と同じ定位置の馬車の上で寛いでいた。

「優理」

「ん?いいの?」

「あぁ」

「じゃぁ、領域の守護者ガーディアン

優理が魔法を唱えると、馬車をすっぽり囲むように結界が展開された。

これは優理のオリジナル魔法。どの属性にも属さない『結界魔法』だ。

初級から上級は、簡単な結界を張ることができる。王級になれば『反射結界リフレクトバリア』で王級以下の魔法を跳ね返す結界を張れる。

そして帝級の『領域の守護者ガーディアン』は魔力量に伴い、結界の大きさを指定でき、条件付けもできる。条件付けとは、例えば「結界に外から触れたら拘束する」など条件付けすれば、本当にその通りになるのだ。

勿論優理はLv.MAXなので、それ以上の結界も張れるが、これはまた使ったときにでも説明しよう。

「十夜君、これはなんだい?」

「結界だ」

「結界?まさか……」

「そのまさかだ。この結果内に居れば誰にも害される事はないだろう。勿論モンスターにもな」

「す、すごい……」

伯爵は結果をまじまじと見ながら、感心したように言った。


「これで見張りは必要ないな」

「ユーリ君、本当かい?」

「はい、任意で解かない限り消えませんので大丈夫ですよ」

「こんな魔法…見たことないよ」

「まぁ、私のオリジナルですからね」

「その年でオリジナル魔法を持っているのかい?すごいね」

「ありがとうございます」

そんな会話をしていると、ある程度野営の準備が終わった。

俺は優理の天国のような膝枕から起き上がって、「狩りに行ってくる」と残して結界を出ていった。



「すみません。きっと直ぐに戻ってきますので」

「はははっ、全然いいよ。ユーリ君はトーヤ君とは付き合いは長いのかい?」

「えぇ、出会ってからずっと一緒にいます」


伯爵は当たり障りのない質問を優理にぶつけた。出会ってから間もないが、十夜は自重しないので、伯爵はとても新鮮に感じていた。

本当なら十夜の言動や行動は、不敬罪で打ち首にさらていても可笑しくないのだ。

しかし、十夜はそれを恐れない。

「彼はなんと言うか…付き合いは短いけど…ハッキリしてるよね」

「十夜は私以外に遠慮しませんからね」

「……君たちは何故この国に?」

目的はありませんよ。とりあえずゆっくり世界を見て回るだけです」

「そう。我が国は帝国とならんで広い。色々回るといいよ」

伯爵はそれ以上聞くことはなかった。

二人を敵に回してはいけない。それだけはこの一日目の旅路で痛いほど痛感した。

「王都に着いたら君たちはどうするんだい?」

「たぶん、しばらく滞在します。そのあとは決めてません。でもカザリアには戻らないと思います」

「そうかい。ならシュナイツ公爵領の領都リーデルをめざすといいよ」

「リーデル、ですか?」

「あぁ、カザリア程ではないが冒険者の集まる町なんだ。あそこは終焉の深森ゼロ・フォレストのような危険な場所はないけど、薬草が採れる小さな森や豊富な鉱山があってね。まぁ、ドワーフの国とは比べ物にならないけど鉱山都市として有名だよ。鉱山からは宝石も沢山獲れるから、宝飾品も有名だね」

「情報ありがとうございます。考えてみますね」


そんな雑談をしていると、十夜は何か大きな荷物をもって戻ってきた。

「喜べ、今日は旨そうな熊だぞ」

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