英雄は愛しい女神に跪く

シーチキンたいし

初対面は第一印象が大事



あれから、優理と共にいくつものクエストをこなした。

討伐から採取と幅広くこなし、気づけば半年も経たずにランクは二人ともBになった。それはそうだろう。どの依頼も他の冒険者達の半分以下の時間で達成しているのだから。

ランクはC以下の依頼などそんなに時間がかかるものなのだろうか?

「お二人がおかしいんです!」

「……そうか?」

冒険者ギルドで雑談しながら依頼を受注していると、受付嬢は声を荒げた。

「だいたい、どの依頼も1日で完了ってなんですか?おかしすぎますよ」

「行って帰ってくるだけだろう?ほとんどカザリア周辺しか行ってないしな」

「だとしても!1日はおかしいです!普通は他の村につくのに移動だけで1日は掛かるんですよ!」

「……なるほど?」

カザリア周辺の村の依頼をする普通の冒険者は、乗り合い馬車を利用している。日本にあったバスの様に時間が決められているらしい。

なので、朝に依頼を受注して、乗り合い馬車を予約し、冒険の準備をして、夕方に周辺の村へつき、一晩泊まる。そして翌日依頼をこなし、その日の夕方に帰ってくると言うのが一番早いルーティンらしい。

大型のパーティーや上級冒険者になると、個人やパーティーで馬車を所持しているが、それでも1日で行って帰ってくるヤツはいないと言われた。

俺達はカザリア周辺なら半日で、周辺の村へなら1日で依頼を完遂して戻ってきている。

確かにこのスピードなら驚異的だろう。


「馬車なんかより走った方が早いがな」

「馬車より早く走るって何なんですか……」


雑談しながらも依頼を見るが、今日もクエストボードはガラ空きだった。

いい依頼はないので今日は休みにしようかと優理と話していると、受付嬢のリーヤが駆け寄ってきた。

「トーヤ様、ユーリ様、お二人に指名の依頼が来ています。」

「指名……?どいつからだ?」

「…えっと、その…領主様からです」

ここルマニアン王国の南に位置するカザリアは、ラクス・クーベルト伯爵が治めるクーベルト領の領都。

領主であるラクス・クーベルト伯爵は、ルマニアンでも歴史ある名家で、王族の血筋も混じっている大貴族。調べた限りでは敵になる要素はなかった。


「領主様……ね」


正直、あまり関わりたくない。


「領主様がいったい何のようだ?」

「えっと…来月、ルマニアン王国建国生誕祭があるんですけど、その夜には周辺国の要人を招いた夜会があるんです。領主様は王都までの道中の護衛を依頼したいそうで…」

「護衛の依頼かぁ、私達まだ護衛の依頼はやったことないね」

「そうですね!お二人はたくさん依頼もこなして、規定数は達成していますから…この依頼が完遂されれば、Aランク昇格間違いないですよ!」


まるでタイミングが良すぎて、逆に怪しい。

領主なら勿論領兵もいるだろうし、お得意の護衛もいるはずだ。それなのに大事な依頼を初めて会う俺達に指名して出すなんて、おかしい。


「断る」

「えぇ?!領主様からの依頼なんですよ?!断るんですか!」


依頼を断ると、リーヤはまた声を荒げて突っ込んできた。


「そんな怪しい依頼は受けん」

「怪しくないですよ!」

「だいたい何で俺たちなんだ。お得意の護衛だってもっとランクの高い奴だっている。それに領兵だっているだろうが。それを初対面の俺たちに依頼を出すなんて怪しすぎるだろ」

「い、言われてみれば……」


リーヤも俺の話を聞いて、考え込む。


「護衛の依頼は釣りだろ。…用があるのは本当だろうがな」

「しかし……指名の依頼を断るとなると、ギルドの条約上罰則はありませんが昇格に影響が……」

「受けてもいいんじゃないかな」

「ほ、ホントですか?!」

優理は朗らかに微笑みながら承諾してもいいと言った。

「優理……いいのか?」

「だぶん大丈夫だよ十夜」

「お前の勘か?」

「うん。……だめ?」

「いや、お前の勘なら間違いないな」


以前から優理の勘には助けられてきた。

まるで、未来を知っているかのように直感が働く。エレルが優理にあたえた未来予測と完全感知のスキルはこれが基になっているのだろう。

「変更だ、その依頼受けてやる」

「ありがとうございます!」

「明日、詳細を聞きに領邸を訪ねると伝えておいてくれ」

「わかりました」










翌日、俺達は領邸を訪ねるために用意をしていた。

「十夜……それでいくの?」

「あぁ、なんか変か?」

「変じゃないよ、むしろカッコいいけど…」

「うん?」

「まぁ、いいや」

そんなやり取りをしつつ、用意を済ませて領邸に向かった。


カザリアの中心に立つ領邸は、城を思わせるほど大きく、立派なものだ。

門の前にやって来ると、俺達に気付いた門番はぎょっとしたように驚いて、慌てて俺達を止めた。


「止まれ!ここはクーベルト伯爵様の領邸だ。用件はなんだ!」

「依頼を受けてきた冒険者だ。クーベルト伯爵に会いに来た」

「……話は聞いている。だが、本当にお前達なのか?ギルドカードを提示しろ」


門番の男は警戒しながら、怪訝そうに見た。そう、まるで不審者を見るように。それもそうだろう。なぜなら俺達が完全武装して門の前にたっているのだから。

領主に会うのだから、初対面はきちんとしておかなければと思ったのだがな。


「十夜……やっぱ不味かったんだよ、それ」

「そうか?初対面は第一印象が大事だと言うだろ?ちょっとしたジョークのつもりだったのだがな」

「門番さんには笑えないジョークだよ…」


優理は苦笑いを浮かべながら、唖然とする門番に「うちの十夜がすみません」と謝った。

仕方なく、装備を外して異空間に仕舞って、ギルドカードを提示した。


「仕方ないな。これでいいか?」

「…初めからそうしてくれ」


門番はギルドカードを確認して間違いないとわかると、案内役をつけて門を通してくれた。

執事のような中年の男はスーツのような正装で優雅に案内をしているが、この男戦闘なれしている。

隠しているようだが、歩き方や細かい所作までは修正しきれていない。それなりに手練れであれば、見破れるであろう。

「こちらの部屋でお待ち下さい。旦那様を呼んで参ります」

「わかった…それと、下手な芝居はやめろ。腹が立つ」

「……申し訳ありません」

男は驚いたように目を見開き、慌てて謝ると足早に部屋を出ていった。

「もう、十夜。あんなに脅かさなくても…」

「あいつ、鑑定系のスキルを持ってる」

「それはそうだけど、十夜のスキルなら盗み見覗きはされないでしょ?」

「まぁ、そうだがな」

俺達の持ってるスキルは、おそらくバレたら面倒なことに巻き込まれるだろう。

この世界のスキルと魔法は、1から10までのレベルを等級分けしている。

初級(レベル1~2)、中級(レベル3~4)、上級(レベル5~6)、王級(レベル7~8)、帝級(レベル9)とあり、レベル10つまりMaxと表示されるものは、この世界では神級、人外の力とされている。

この世界にいる英雄クラスの人間ですら一つ、二つあるくらいだ。それなのに、俺達はいくつもLv.MAXがあり、アクティブスキルですら俺の『限界を突破する者』のスキルで気付いたらLv.MAXになっている。

どこかの宗教団体にバレたら神に祭り上げられそうなレベルだ。

そのなかの『存在隠蔽』のスキルは、隠密にも使えるが、一番重宝しているのはステータスの隠蔽だ。

お陰で俺も優理も、下手に誰かにステータスを知られることはない。俺のスキルを看破するには、鑑定系のスキルの上位互換スキルがLv.MAXないと無理だ。

そうそうそんなスキルを持っているヤツはいないだろうからな。

数分後、扉が数回ノックされて、身なりのよい男と護衛と執事が数人入ってきた。

「やぁ、初めまして。私はカザリア周辺を治めるクーベルト領の領主、ラクス・クーベルトだ。」

「……」

「おい!伯爵様が挨拶をしているのに失礼だろう!」

「リーク、やめろ」

入ってすぐ、伯爵が挨拶をしてきたが、俺も優理もそれを返すことはなかった。

何故なら最初に『忠告』したからだ。

優理もそれを分かっていて、何も言わないのだ。

「俺は二度と言うのが嫌いなんだ。一度で理解しろ。俺はソレ鑑定をやめろと言っただろう。次はない」

「……すまないね不躾で」

俺が、端から見たら誰もいない方に威圧を飛ばすと、おそらくこの伯爵家の隠密であろうものがヘタりこんだ。

見えなかったのは、視認を誤魔化す魔法を使っていたようだが、俺にも優理にもそれは通用しない。

「部下の管理くらいちゃんとしておけ。それと、下手にソレ鑑定はしない方がいいぞ。格上には通用しないどころか、不快にさせるだけだ」

「すまない。よく言い聞かせておくよ」

「それで?依頼の件だが、俺達に王都までの護衛を依頼だったか?」

「そうだよ。今度のルマニアン王国建国生誕祭に出席する予定なんだけどね、いつもの冒険者は今、別の依頼でこの街には居ないんだよ」

「……なるほどな」

「そこで、新しく臨時で雇うことにしたのだ。君たちのことは噂になっていたよ。ギルドに入って半年足らずでBランクにまで上り詰めた新進気鋭の二人組がいるってね。」

「私達、噂になってたんだね」

「派手にやり過ぎたか…」

ランクを上げるのを急ぎすぎたせいで、目立ってしまっていたらしい。

粗方の情報収集を終えて、生活と収入の基盤を得るため、ランク上げを急いだ。ランクが高ければ、それだけ危険な仕事が多いが実入りがいい。

少し急いで進めすぎたと反省した。

「噂を聞いて俺達に依頼を出したわけか」

「そうだよ、是非とも君たちに護衛を頼みたい」

「いいですよ」

「本当かい?」

「私も十夜も、今は丁度大きい依頼は受けてないので」

答えない俺の代わりに、優理は朗らかに笑いなか了承した。

「そうかい?いやー、よかったよ。引き受けてもらえて」

「でも、一つ教えてもらえませんか?」

「なんだい?答えられることなら、答えよう」

「私達は囮ですか?」

「!!!」

優理は笑みを崩さず聞いた。伯爵や周りの人間は驚いたように目を見張る。

バレバレだ。

俺や優理に下手な言い訳など通用しない。伊達に前世で『天才化け物』と呼ばれていたわけではないのだから。

「私達をだしに、大きい獲物を引っ掻けようとしてるんですよね?」

「……どうしてそう思ったんだい?」

「最初から、こんなの少し考えればわかるでしょう?」

「……いや、それは…」

優理がさも当たり前のように言うが、少ない会話でこれに気付く冒険者はまず居ないだろう。

「いいですよ?知らないフリで依頼を引き受けます。」

「……。」

「その代わり、その獲物…下さい」

「は?」

伯爵は優理の言葉に、意味がわからず固まった。

優理の言葉の意味を理解した俺は、顔が愉悦に歪む。確かに手っ取り早い良い案だ


「だから、下さい。その獲物」

「く、ください?」

「えぇ、その獲物も、その獲物が持っているであろうものも全部。」

「!!……それは、どういう…」

「だから、言いましたよね?知らないフリで依頼を引き受けますって。勿論、依頼は完遂しますよ。獲物込みで」


優理は心底楽しそうに笑っていった。


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品