英雄は愛しい女神に跪く

シーチキンたいし

ギルドでのテンプレは回避不可



「おい坊主。随分羽振りが良さそうじゃねぇか?先輩に分けてくれよ」

振り返ると、いかにもな厳つい顔立ちの恰幅のいい大男がいた。ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ近づいてくる。金を巻き上げようとする気満々と言ったところだろう。

再びやって来た異世界テンプレな展開に、正直俺は飽きていた。

「はぁ…」

「何だぁ?その態度は!痛い目見たくなかったら言う通りにするんだな!」

「ギャハハ!ビビってんのか新入りぃ?」

「いい女連れてるじゃねぇか。そいつも置いていけよ!」

呆れて溜め息をついたのを、諦めて大人しく金を出すと解釈したバカな冒険者達は、次第に態度をでかくしていく。

それよりも俺は聞き捨てならない言葉を耳にした。

「あー…、やっちゃった。おじさん達、死にたくなかったら逃げた方がいいよ?」

「はぁ?何言ってんだ」

いち早く俺の変化を察した優理は、絡んできた冒険者に忠告した。これから俺のする行動を優理は良く理解しているからだ。

ただの見栄をはって喧嘩を売ってくるくらいなら、こっちが無視をしていればいいだけだ。だけど、だけは許さない。


こいつらは俺の地雷を踏んだ。


「失せろ三下ァ。優理を見てんじゃねぇよ。潰すぞ」


俺の優理は何人なんぴとたりとも触れさせない。

俺の優理を害するやつは、すべからく死ね。


優理俺の女にそれ以上近づいたら……殺すぞ」

「な、なに格好つけてんだッ!痛い目見ねぇとわかんねぇかぁ?」

「分かった、吠えるなクズ野郎。相手してやるからかかってこい」

「て、てめぇぇぇぇ!」

「殺っちまえ!」

自分は下手な挑発をするくせに、挑発されるとすぐキレて襲いかかってくる野郎など、三下以下だ。

こう言う輩に一番良く効くのは『恐怖苦痛』だ。

殴りかかってきた最初の奴の拳を、指一本で止めると、そいつは面を食らったように驚愕する。身体強化がなくてもこれくらい俺にとっては朝飯前だ。

そして逃げる間を与えず、反対の手で顔面を鷲掴んで上に上げれば、男の体は宙に浮く。
俺の手から逃れようと暴れるので思い切り手に力を込めた。

「い、あだぁぁぁッ!ヒッ、ゆ、ゆるじ…で…ぐれぇッ」

「おいおい、こんなもんかよ先輩冒険者。」

俺より恰幅のいい大男を片手で浮かせているその姿を見ている周りの冒険者達は、若干引いていた。あきらかに異常を感じ取っていたのだ。

「十夜、もういいよ。やめよ?」

「あ?いいのか?このクズ野郎が二度と優理に近づかねぇよう…腕の二、三本イっとくか?」

「腕は三本もないよ…面倒だし、ここ公衆の面前だよ?」

「そうか。命拾いしたな三下。二度と面見せんじゃねぇぞ」

どこまでも優理至上主義で唯我独尊な俺の扱いを優理は良く知っている。俺は男から手を離して解放してやった。

男はドサリと床に崩れ落ち、痛む頭を抱えて唸っている。顔には俺の指が食い込んだ痕がしっかりと残っていた。

「トーヤ様と査定が終わりました……って何ですかこれ?!いったい何が?!」

「何でもねぇよ。しいて言うなら先輩冒険者に冒険の軽~いを受けただけだ。」

ですか…」

ギルド内で起こったことだ。ここでいくらシラを切ろうが、言い逃れは出来ないだろう。しかし、本当の事を言って聴取に時間をかけられたくない。だからシラを切り通す。

ここは異世界だ。俺達のいた地球とは、何もかもが違う。科学ではなく魔法がある世界。常識の通用しない世界。

そんな世界に来たのだから、慎重にもなる。エレルから貰った能力で、大抵の敵には負けないが、用心にこしたことはない。可能な限りの常識と情報を収集しておくことが今後の方針だ。

「はぁ、分かりました。今回はそれで。しかし、次からはないですよ?冒険者同士の私闘は、ランク下格、もしくは冒険者ガードの剥奪になるんですから。」

「わかった。これからは気を付ける」

「はい。ではこちらが今回の買取価格75万8千ニアンです。ご確認下さい。」

大銀貨7枚と銀貨5枚と大銅貨8枚。一日の報酬にしては破格だ。

しかし、こんなものは序の口だ。俺達はあの終焉の深森ゼロ・フォレストで数ヵ月とはいえ生活していた。俺の創造スキルで造った『アイテムボックス』、見た目以上にものが入るカバンには、大量の素材がゴロゴロある。

このランク以上のモンスターの素材や貴重な薬草や鉱石など、全部売ったら人生遊んで暮らせるだけの金が手に入るほどだろう。

しかし、このアイテムボックスのおかげで、すべて売る必要はない。このボックスは俺の魔力を限界まで注ぎ、優理に時空系魔法を付与させた一品。内容量無制限なうえ時間停止のおかげで、生物でも大丈夫というすぐれ物だ。

「確認した。また獲物がとれたらよろしくな」

「はい、いつでもお待ちしております」

「終わったー?」

「あぁ、いくぞ優理」

俺達は冒険者ギルドを後にした。

その後は街の中を見て回った。さすが冒険者の街と言ったところだ。冒険者用の鍛冶屋、魔法屋、魔法道具屋。それに冒険者の採ってきた素材で造られた一品を売る店や、魔物の肉を料理して提供する店まで多種多様。

「んー!このお肉美味しいね!」

「なるほど、フォレストボアの肉か。なかなかだな」

宿のレストランで食事を終わらせ、部屋に戻ってくると、優理が珍しく俺に甘えた。

優理は滅多に弱味を見せない。だけど、こうして俺を頼ってくれる。俺を信頼してくれていく。だから俺も背負い込みすぎる優理に代わって、優理が優理でいられるようにしてやるんだ。

何かを言いたそうに隣に座っていた優理を安心させるように抱き寄せた。優理はされるがまま俺の胸の中で安心する。

「ありがとう十夜」

「優理…?」

「私を…いつも守ってくれて、ありがとう」

優理はいつも俺を気遣っている。それは不安から来るものだ。

俺が体を張って優理を守ることが、優理にとっては『十夜を縛り付けているのではないか?』と不安させてしまう。優理は優しいから。

だけど、優理を守りたいと思う気持ちは、俺の意志真実だ。

「何言ってんだ。当たり前だろ」

「…うん、でも本当にありがと。今度は私も守るね!」

「優理……」

優理にとってこの世界の仕組み、スキルや魔法なんかは、喉から手が出るほど欲しかった力だろう。

だからこそは、誰にも邪魔させない。

「あぁ、二人で生きよう」

「うん!」


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