英雄は愛しい女神に跪く

シーチキンたいし

冒険者の街 カザリア



「止まれ!身分証を提示しろ」

カザリアの街の門までつくと、門番の衛兵に止められた。

「ご苦労様です。」

アレン達は身分証を門番に見せていたが、あいにく俺達は身分証を持ち合わせていない。

「すまない。身分証を持っていない。」

「そうか、じゃあコレに触れてくれ」

そう言って門番が出したのは大きな水晶玉が乗った機械のようなものだった。魔道具のようだ。

「これは?」

「見たことないのか?コレにさわると、過去に犯罪を犯したことがあるかどうかわかるんだ。身分証を持っていない者は、コレに触れて正常であれば税金の銀貨一枚払って中に入れる。」

「へぇ…」

俺がその水晶に手をかざすと、青く光った。優理も同じように触れると、同じように青く光った。

「うむ、正常だな。二人で銀貨2枚だ。早めに身分証は発行しておくといいぞ。一々街には入る時に税金を払わずにすむからな」

「わかった 」

俺達は銀貨2枚を払って街へと入った。

異世界最初の街、冒険者が多く行き交うカザリアに到着した。

「すごーい!昔の外国みたいだね!十夜」

「あぁ、壮観だな」

中世ヨーロッパのような街並み。さすが冒険者の街だ。にぎやかで栄えている。カザリアは、冒険者が討伐したり採取した素材なども取引されるため、商業もまた盛んだ。露店が並び、活気に溢れている。

そんなカザリアを治めているのは、ラクス・クーベルト伯爵という男だ。カザリアは、ルマニアン王国のクーベルト領地の領都でもあり、クーベルト家は古参貴族で、爵位も伯爵。領主は街の整備にも力を入れていて、領民にも人気が高いらしい。

「トーヤさん!」

「サイ、どうした?」

「これから冒険者ギルドに依頼達成の報告に行くんだが、一緒にどうだ?ギルドまで案内するよ」

「それじゃあ頼む」

商人のアレンとはここで別れ、俺達はサイの案内のもとギルドに向かうことにした。


暫く歩くと、大きな建物が正面に見えてきた。建物の上には、ドラゴンにクロスされた剣の模様がかかれた旗が風に靡いていた。

「ここが冒険者ギルドの本部だ」

「すごーい!おっきいねぇ」

「なんたって、冒険者の街だからな!領主様が立派なギルドを建ててくれたんだ。」

ギルドに入ると、中も壮観だった。大きな掲示板に、大きな受け付けカウンター、隣には酒場も併設されていてたくさんの冒険者が食事していた。

「じゃあ、俺達は報告に行ってくる。冒険者の新規登録はあっちのカウンターでやってるぜ」

「悪いな」

「案内ありがとうございますサイさん!」

「今度クエスト一緒に行こうぜ!」

「あぁ」

鷹の爪ホークエッジ』のメンバーと別れ、新規登録の受け付けカウンターに進んだ。

「いらっしゃいませ。新規登録ですか?」

「あぁ、二人だ」

「では、こちらにご記入をお願いします。代筆は必要ですか?」

「必要ない」

渡されたのは、登録票と書かれた紙だった。文字は、エレルのおかげで問題なく習得していたので、登録票に書かれている内容は容易に理解できた。

名前、年齢、出身国、出身地(村街の名前)、職業の欄がある。

「これは全部埋めないといけないのか?」

「いえ、最低名前、職業は書いてくだされば大丈夫です。」

「そうか、じゃあこれで」

俺達は出身国と出身地を抜いて記入したものを提出した。

「トーヤ様とユーリ様ですね。次にこちらの魔道具に触れてください。」

受付嬢は次に四角い台のようなものを出した。

「これはなんだ?」

「こちらはギルドカードを発行するさい、ギルドカードに表示するためのスキルや魔力適正を測る魔道具です。」

「ギルドカード?」

ギルドカードとは、ギルドの会員証のようなもので、身分証にもなるらしい。そのため、ギルドカードには、登録票に書いた内容と、冒険者ランク、そして使用するスキルが記載される。魔法が使える場合は、魔力適正も書かれる。

そのため、登録にはスキルや魔力適正を測ることが求められる。魔道具で測った結果とさっき書いた登録票を今度は別の魔道具に入れると、ギルドカードを発行することが出来るらしい。この魔道具を造る技術は既に遺失している。つまりアーティファクトなのだ。

そのアーティファクトから造られるギルドカードは、一種の魔道具でもあり、依頼状況や討伐したモンスターの種類や数まで記録する。偽造することは不可能らしい。

「へぇ…便利なもんがあるんだな」

「すごいね」

言われた通り魔道具に手をかざすと、小さく光った。すると受付嬢は、「ここで少々お待ち下さい」と言って、魔道具と登録票をもって奥の部屋に消えた。

5分ほどで受付嬢は2枚のカードをもって戻ってきた。

「こちらがトーヤ様とユーリ様のギルドカードになります」

「これが?」

左上に大きく『E』と書かれていて、その横には登録票に書いた内容が記載されているが、下半分は空欄だった。

「下記には先ほど測ったスキルや魔力適正が書かれるのですが、そう言った個人情報は本人様が魔力を流して『オープン』と唱えない限り、誰にも見ることは出来ません。」

「なるほど、そう言う個人情報は守られるのか」

「はい。もう半分の枠の中には、討伐したモンスターの情報や依頼状況が表示されます」

さすがアーティファクト。

ランクについて聞くと、ランクはどんな実力者でもEからの出発で、D、C、B、A、Sと上がっていく。Sランクともなると、英雄の領域と言われており、この世界には7人しか居ないそうだ。

「では、トーヤ様、ユーリ様、冒険者としての活躍を期待しております。」

説明を終えた受付嬢は、俺達をにこやかに送り出した。

「これからどうする?」

「まずは金だな。入門税で減っちまったし。宿をとるにも金が必要だからな」

買取受付と書かれたカウンターへ向かった。

「いらっしゃいませ。素材の買い取りですか?」

「あぁ、これを買い取ってくれ」

「こ、これを……?!」

カウンターに置かれたのはどれもBランク以上のモンスターの素材だ。

「失礼ですが、ギルドカードを提示してください」

「カードを?悪いがついさっき登録したばかりだぞ」

「…ついさっき?!しょ、少々お待ち下さい!」

受付嬢は慌てて奥の部屋に消えたと思ったら、また慌ただしく戻ってきた。手には魔道具を抱えていた。俺のスキル 完全看破で見ると、やどうやら嘘を見抜く魔道具らしい。

まぁ確かに、登録したての冒険者が高ランクモンスターの素材を持ってきたら疑うのも無理はない。

「ここに手をかざしてください。その後質問しますので、嘘偽りなく答えてください」

「わかった」

手をかざしたのを見計らって、受付嬢は俺に質問した。

「こちらのモンスターの素材は、貴方が討伐したものですか?」

「そうだ」

「そのモンスターを倒したとき、誰と一緒でしたか?」

「優理とだ。俺の隣にいる、俺の仲間だ」

「他に周りに誰か居ましたか?」

「俺達以外にいなかった」

質問され俺が答えても、魔道具はピクリとも反応しなかった。どうやら嘘をつくと反応する類いの魔道具だったらしい。

本当にこの世界の魔道具と言うものは便利だ。

「……問題ありませんね。では、査定してきますので、もう暫くお待ち下さい。」

俺の持ってきた素材を持って、査定をするために再び別の奥の部屋へと行った受付嬢。そのタイミングを見計らってか、別の冒険者がやって来て俺達に声をかけてきた。

「おい坊主。随分羽振りが良さそうじゃねぇか?先輩に分けてくれよ」


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