crew to o'linthart (VRMMO作品)

ノベルバユーザー290341

6話. クロノス学園 / 002. コンビニ・ヤツカ



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生徒集会なんていっても、近況の風紀連絡や毎回集会の最後に行われる生徒会長のご丁寧なスピーチがあるだけで、他の学校と対して変わらない至って普通の集会だ。

クロノス学園の生徒証は少々特別で、スポンサーであるRVE社が生徒のために特殊な携帯端末を提供してくれている。その携帯端末の中にセキュリティー付きの身分照明証や校内での遅刻数、単位などが簡単に記録されている。

【Personal Terminal Unit】という名称のその端末は、最初の単語二つの頭文字を取って生徒の間では【 PT 】と呼ばれている。

便利といえば便利だが、生徒集会の度に風紀委員会の委員達にPTを渡し、遅刻数や校内でルール違反などをチェックされるのは見せしめのようで俺は嫌いだ。

デスクのドロアーにPTがあるのを確認し、それを取って適当にカバンの中に突っ込んだ。





いただきまーす

リビングに全員それぞれの声が聞こえ、みんなで朝ご飯をいただく。

大人数で食べる朝ごはんは久しぶりだねと母さんが嬉しそうに言った。確かに親父や兄貴がいないせいで最近は俺一人、もしくは姉貴と二人で食べることが多かった。みゆも稀に来ることはあるがここ最近は来ていなかった。

なぜかと言うといつもなら朝ごはんを食べた後に、まだ寝てるであろうみゆを起こしに家まで行って、ご飯を食べさせるのが俺の朝の日課だからだ。

「ごちそうさまー」

ひと足先に姉貴が立ち上がり、食べ終えた食器を片付けにキッチンへと消えた。

「もう行くの?」

「行くよー。悠太のお姉ちゃんは忙しい人なのでーす」

にこりと笑いながら、洗った食器を乾燥機に置き、カバンを取って支度をする。それじゃ行ってくるね、と言ってさっさと行ってしまった。

「愛理さんっていつもあんな感じなのか?」

「ああ、朝はパン一切れかホットミルクだけ飲んで行ってしまうんだよ」

自分の皿の上が空になり、横で食べ終えた瑛司の皿の上に置く

「おっと、これはなんだー?」

「いや、昨日から洗いたそうな顔してたからなあ」

「してねーよ!おい、待てよ悠太!」

「ありがとう瑛司」

耀太も便乗して自分の皿を乗せる。美麗とみゆは先に洗ってとっくに支度を始めている。

「「「いってきまーす」」」

「行ってくるね、なっちゃん」



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「おまえらなー」

学校行く途中も瑛司はずっと文句言っていた。

「それでさー今日の放課後なんだけど」

「話をそらすな」

「いいじゃねーか、小さい男だなあ。そんなんじゃモテないぞ」

「それとこれは関係なくね!?」

「それで?放課後になんて?」

瑛司をスルーして話を進めた。美麗はくすっと笑っていて、隣にいるみゆはまだ眠そうな顔をしている。お前、一番寝てるはずなんだけどなあ・・・

「そうそう、放課後みんな予定がなければ今日中にクルーを設立しようと思ってな」

俺はもちろん暇だと返し、瑛司もうんと返事をする。美麗はバイト終わりにならと言って了承した。みゆは小さくこくんと頭を立てに振ったので大丈夫ってことだろう。
これで決まりだ。放課後までにクルー名を考えなくちゃな


中等部の校門に着いて、ここでみゆとはひとまずお分かれた。いつも寂しそうな顔をして中等部の校舎へと消えるみゆの背中に、来年になればみんなと一緒だからもう少し頑張れと、心の中で励ます。


その後、高等部の校舎に着いた俺達もそれぞれの教室に向かいクラスが一緒の耀太と二人でD組みの教室へと向かう。
ちなみに瑛司がA組で美麗は俺達の隣の教室C組に所属している。



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毎朝律儀に行われるホームルームが終わり、生徒集会開会10分前の合図でもあるチャイムが鳴る。

教室内の生徒達が各々生徒集会の会場である第2体育館に向かう。耀太の姿も無く、教室に残っているのは俺を含めて6人ほどしかいなかった。




俺も行くか、とやれやれ動こうとした時に教室の入り口から美麗が顔をだした。

「いたいた、藤ヶ谷ー」

教室に入ればいいのにと内心思いながら、立ち上がって教室のドアに向かった。よく見ると美麗の隣には見知らぬ女子生徒が立っていた。

「どうしたの?」

「藤ヶ谷のPTを拾ったって結名が言っててねーあっ、この子が結名。うちのクラスメイトでC組の風紀委員もやってるんだよ」

それは、ご苦労なこった。
ん?PT?

「あの・・・これ、藤ヶ谷くんのですよね?」

美麗と同じくらいの背丈で腰近くまである長くて綺麗な黒髪。女の子らしい小さな顔に凛とした瞳。動物で例えるなら猫のような女の子が俺に手を差し出し、その手の上に乗っている携帯端末を受け取った。

確かに俺のPTだった。姉貴にもらった皮製の黒いカバーに入っているその携帯端末に見間違いようが無い。

どこで落としたんだろうと考えていると、それを見透かしたように少女が話し始めた。


「下駄箱にいる時に落されませんでしたか?私が拾った時には、その・・藤ヶ谷くんの姿がなくて」

すぐに渡せなくてすみませんと、視線をあっちこっちに移動させながら付け足した。

「いえ、こちらこそありがとう。えっと・・・」

「結名よ、さっき言ったじゃない?」

いや、そうじゃないって。いきなり初対面の女の子を呼び捨てなんてハードルが高すぎるよ。

「す、すみませんっ!自己紹介遅れました。C組の端本 結名です」


なんて気が利く子なんだ。


「藤ヶ谷 悠太。よろしく、端本さん。」



端本さんはにこりと笑ってから、はいと返事をしてくれた。

そういやあ、どっかで聞いた名前だなあ。


「とりあえず生徒集会まで時間がなし、そろそろ行きませんか?」

そう伝えると女子二人もそうですねと言い、俺たちは第2体育館へと急いだ。




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「いろいろ至らないところもあると思いますが、生徒会一同と風紀委員の方々と共に努力をして、皆さんと一緒に快適で楽しい学校生活が出来るよう精進します」

生徒会会長ののテンプレートされつつある挨拶が終わり、最後のPTチェックに入る。生徒達は学年とクラスごとに並んでいるので一クラスに二人の風紀委員が行き、クラス一人一人のPTチェックを行う。

不正が無いようにそのクラスの風紀委員は自分の所属しているクラスのチェックは行わず、別のクラスの風紀委員がチェックしに来る事になっている。

あっ、自分の番が来たのでPTを渡そうとしたところで目の前の風紀委員と目が合った。

「さきほど届けたPTを手渡されるなんて、なんだかおかしいですね」

くすっと笑う少女の横顔に魅入ってしまいそうになり、べ、別にさっきは落としたくて落としたわけじゃないんだからな?と訳の分からない事を言ってしまった。

どこのツンデレだよ。今すぐここからいなくなりたい【DEAD】表示になって自宅にリスポーンしないかな・・・

違反なし、遅刻なしです。
そう言うと俺の内心なんて知らず無邪気な笑顔で預かったPTを差し出す端本さんからPTを受け取った。


順調にチェックが終わったところで、タイミング良く生徒集会終了のチャイムが鳴った。

やれやれとクラスごとに解散していく生徒達。

「俺達も行くぞ悠太」

後ろ肩を叩かれ、先に行く耀太の後を追って歩いた。前方には、C組の後列を歩く美麗と端本さんの姿が見えた。



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昼休み。


退屈な授業が続いた午前中のせいか、頭がぼーっとする。退屈に耐え頑張った脳のために甘い物でも補給しようと食堂の隣にある校内のコンビニへと向かった。



ピピッ♪

・新着メール3件


この時間は瑛司だな。


携帯端末のメール画面を開き、中身を確認する。メールマガジン2通に、瑛司からが1通。

確認しなくても分かる。

分かりますとも。メールなんて姉貴か瑛司、長谷川兄妹それにみゆからしか来ないしな・・・おっと、あぶねえ。心の汗が流れるとこだった。

きっと俺がコンビニに行くのを見越して、自分の分のジュースを買って欲しいとかそんなところだろう。

画面を閉じ、携帯端末をポケットにしまった。



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「よう、兄ちゃん。今日は何がお求めだい?」


言うの忘れたが、校内にあるコンビニは大手チェーンのコンビニではなく、いま目の前にいる無精髭を生やして室内なのにサングラスをかけている見ため柄の悪いおっちゃんの自営業コンビニだ。

「見た目が怖いので、初めてこのコンビニに来て逃げ出した生徒は数知れず・・・」

「おい、そこ。なにブツブツ人の悪口を言ってんだ」

「しまった!心の声がっ。仕方ない、ここは誤魔化すか」

「だーから、聞こえてるって言ってるだろ?」


頭を掻きながら、レジ奥でなにやらリストを確認しているおっちゃん、もとい谷塚さん。みんなは、店長かあだ名でやっさんと呼んでる。

「やっさん、甘い物ない?」

「範囲が広いなあ、おい」

「まあ、正直なんでもいいんだけど」

「裏の棚の一番上だ。新商品の<南国のトロピカルパン>があるぞ」

言われた場所に行き、目的の棚を見ると異様な存在感を放つパンを見つけてそれを手に取った。一番目立つ棚の上だったからとかそういう問題ではなく、食欲すら消えそうな色をしていたので真っ先に目に入った。

「美味そうだろう?まだお試し段階でなあ、市場にまだ出回ってないんだよ。」

チェックしてたリストをレジの上に置き、何故か自慢そうに続けた。

「あまりにも美味そうだったんで、何とかお願いして先行発売を頼んだんだ。昨日は10個注文したんだけど不思議と1個も売れなくてなあ~」

「んで、今日は売れたのか?」

この異様な色をしたパンを美味そうと言った、やっさんの感性には触れずに質問をした。

「いやあ~、昨日売れなかったからなあ。今日は3個しか仕入れてねーんだよ」

まあ、それは正解だろう。

「今さっき、可愛いお嬢ちゃんが一個買ってったんだよ。やっぱりもっと仕入れとくんだったかなあ~」


買ったやついるのかよ!?


「この店が潰れないよう、祈ってるよ」

皮肉で言ったつもりだったんだが、
やっさんは、おおっ!嬉しいことを言ってくれるじゃねーか!とご機嫌そうに返してきた。

あとで、なんかの罰ゲームにでも使うか。

「やっさん、この残りの二つ買うよ。」



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昼飯のおにぎりと焼きそばパンを買い、ついでに瑛司のジュースを買ってコンビニ・ヤツカを後にした。

通い続けてから半年…いまさらだけど、このネーミングセンス…いや…きっとツッコんだら負けなんだ。うん。



食堂棟を出て校舎に向かう途中で、グラウンドで汗を流す陸上部員達を見た。短い昼休みさえ練習に費やすとは、すごいなあと敬意を感じながら自分の教室があるB棟の校舎に入った。

まあそれはそれとして、じゃあ、お前もやるか?と言われたら全力で断らせていただきますがね。
と、引き篭もり精神が染み付いた考えをしているうちに教室に着いた。

グラウンドが見渡せる窓際の俺の席には、すでにいつもの面々が座っていた。といっても瑛司と耀太だけだが。

「なに残念そうな顔してんだよ悠太」

「いや、別に。ほら、ジュースだろ?」

サンキューと言って、俺の投げた炭酸ジュースを受け取る瑛司。その横に座りコンビニ・ヤツカの袋に入ってる昼飯を取り出した。
うっかり一緒に入っていたトロピカルパンが顔を出してしまい、それを見た耀太と瑛司が同時に俺を軽蔑する目で見た。

お、落ち着いて訳を聞きやがれください…

「悠太・・・」

「ま、まあ、そういう時もあるよな悠太。何か困ったことがあったらいつでも俺達を頼っていいんだぞ?」

「別に病んでねーよ!?」


昼飯を食べながら、
この見た目もトロピカルで、きっとこれを注文したコンビニの店長の頭の中もトロピカルな事になっているであろう、異様なパンを買った経緯を二人に話した。二人は半分疑う目で俺を見ながら、な・・なるほどねと答えた。


絶対に信じてないなお前ら


「ってか悠太、目的だったはずの甘い物買ってなくね?」

耀太のその言葉に、俺は咥えていたパンを落としかけた。




隠すようにしてコンビニ・ヤツカの袋に戻しておいたトロピカルパンに「ふっ」と鼻で笑われた気がした。



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「待てって、悠太」

「正気か?」

昼飯を食い終えて、再び袋から出して机の上に置いたそいつと見つめ合う俺を心配するよう目で見ながら、耀太と瑛司が俺に心配の言葉をかけ続けて5分。

分かっている…

分かっているんだ二人とも。心配してくれてありがとう。
こいつを口に含んだが最後、姿を消したはずのおにぎりと焼きそばパンが、きっと俺の口から再びリアライズ(具現化)される事になるだろう。

そんな事も分かっている。


だが、
俺の脳が糖分を欲しているんだ!!



糖分を求める脳の欲求に応え、包みの袋を勢いよく開けた。袋を開けた瞬間に漂うこのグッドスメル・・・柑橘系だ

どこまでトロピカルなんだこいつは!

俺を見守っていた友人二人の顔が、辛いものでも見たような表情になっていく。

「ゆうたあー!」

「トロピカルすぎるぜ・・お前・・」

無駄に大きい声を出して俺の名前を呼ぶ瑛司と、この茶番の変な空気に当てられて意味不明な事を言い出した耀太を横目に俺はついに、やつを口に運んだ。




「あれ?、普通に美味いんだけど?」

素に戻り、一口目を普通に飲み込んだ最初の一言。

「はあ?」

「マジか?どこまでが演技だ?」

今度は本気で俺を疑うような目で見る二人

「いや、マジだわ・・・なんか、ごめんこれすげえ美味しい」

ウソつけ!と言いながらトロピカルパンを一口ちぎって口に運ぶ瑛司。

「マジだ・・これ美味しい」

瑛司がそう言うと、俺達が自分を騙そうとしてるんじゃないかと疑いながら耀太も一口食べた。

「トロピカル・・・」

耀太のその一言が笑いのツボに入ったのか、瑛司が体をいっぱいくねらせて笑い転げる。なんとか我慢していたが瑛司のせいで俺も笑ってしまい、爆笑する俺達を見ていた耀太までつられるようにして笑った。



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「それじゃ、また放課後に」

昼休み終了5分前の予鈴チャイムが鳴り瑛司が立ち上がって、教室を後にした。




「悠太次の選択科目は?」

「俺は、プログラムだからコンピ棟に行かないと」

「そっか、じゃあ俺達もここで別々か」

耀太に了解と返して、机の上に散らかったゴミをまとめた。
今度やっさんにトロピカルパン美味かったって言わないとなあ。見た目はあれだが・・・


さて、行くか。



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「高等部の校舎は中々強敵でした・・・」

そう言ったのは、夏休み前に行われた高等部の学園祭で遊びに来て早々に迷子になってA棟の階段で縮こまっていた綾瀬みゆだ

確かにみゆじゃなくても入学当初は、俺もこの広すぎる学園に困らされていた

学年ごとのA、B組がいるA棟。CとD組のB棟があり、さらには、第1、第2体育館。コンピューターなどの精密機械があるコンピューター棟。通称コンピ棟。
その他に弓道場や格技棟などがあり、軟式野球場とサッカー場、それにテニスコートが4面もある。
初めて来た人なら、軽く迷うのもしょうがないくらい無駄に広い。

三年間で校舎以外に俺が関わるのはきっとコンピ棟ぐらいだけだと思う。自慢じゃないが格技棟と弓道場などその他の校舎関しては、学園に通って半年経つのに一度も中を見たことすらない。
まあ、見る必要も無いし、見る機会もないだろうな。コンピ棟の入り口にある自動ドアの開くボタンを押しながら一人思っていた。

「あっ・・・」

「こんにちは、藤ヶ谷くん」

俺を待っていたかのように、端本さんがコンピ棟内の下駄箱に置いてある生徒用のソファーに座っていた。

「こんにちは」

状況が読めなかったので、とりあえず挨拶を返した。

「今日は、いろんなとこで会いますねっ」

そう言って生徒集会の時に見せた、見た人を惹きつけるような笑顔をしてみせた。

「そうですね。って事は、あれ?端本さんもゲーム科?」

「そうです…私はプログラムとか詳しくなくて、キャラクターデザイナーとCGデザイナーですけどね」

「へえ、なんか意外」

「よく言われます。藤ヶ谷くんは、ゲームプログラマーとプランナーですよね?」

首を小さく横に傾け、俺との身長差のせいで自然に上目遣いになる少女を見て正直可愛いと思った。
みゆや美麗は学園内の男子生徒全員がその名前を知っていると言っても過言ではないくらい一位二位を争う美少女だが、それとは違うというか言葉には表せないけど…はっきり言ってしまうと
恥ずかしながら今日面識があったばかりのこの少女の無垢な笑顔に惹かれていた。


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