crew to o'linthart (VRMMO作品)
3話. Another World / 003. エルフ族の少女
01
「ここにはさすがに来ないだろう」
「そうだね……というか、ここが目的地だからここに来られちゃ最悪だ」
「ここなの??」
「ああ、ここで間違いない」
不気味なフィールドの果てにある祭殿の裏側。アイテム欄を開き、食料カテゴリーの中にあるりんごを一つ取り出す。祭ってある大きな大蛇の像の背中にある隙間にそのりんごをはめると・・
ゴゴゴゴゴッ
地響きとともに大蛇の像が動き、その下に隠れてた隠し階段が姿を表す。
「すごい …こんな仕掛けどうやって気づいたの?」
ティアが首を傾げて、不思議そうな目で俺とイナトを見る。
「まあ、偶然が重ねに重なって・・・ね」
苦笑いしながら、イナトをみる。
「うん・・さすがは奇跡の長谷川兄妹ってな感じかな」
「まあ、いいですけどっ」
「そうだな、とにかく行こうか」
隠しダンジョンとは名ばかりで、このダンジョンは最奥にある【隠されし庭園】の発見イベントのために作られた下位レベル級のダンジョンだった。出現するモンスターは肉食の血に飢えたような猪型モンスターのみで、奥に着くと庭園の入り口がある。
「ここだね」
英字の筆記体のような文字が刻まれた扉の前にイナトが立つ。
クヲーレの世界には通常マップには記されてないエリア、隠されし庭園【ヒドゥン・ガーデン】が存在する。
クヲーレ内に存在するにも関わらずRVE社や、運営の本部であるc.r.o.w.n(company recommended original windows network)は、庭園についての質問には一切返答しない。RVE社の公式な設定にはないはずのそのエリアはプレイヤー達の間で聖地化している。
発見した人はクヲーレの公式BBSに位置とMAPデータを載せるとそのID宛に多数のプレイヤーから現実世界で使える賞金が届くほどである。
基本的に庭園内は非戦闘域でモンスターが出るわけでもなく、超のつくレアアイテムがあるわけでもない。しかし各庭園はファンタジーに相応しい幻想的な建物やオブジェで彩られていて見た者を魅了する。
その庭園へ入り口の一つが今目の前にある。
01
02
ピュルルルゥ~ゥ!
身体中の毛が恐怖で逆立つような猛々しい威嚇
……からは程遠い奇妙な鳴き声がフィールドのあちらこちらから聞こえる。大きさは大型犬ほどあるものの、白いふわふわした毛で全身が覆われている顔は豚のようなモンスター達の群れが変な鳴き声をたまに出しては呑気にフィールドに生えている草を食べている。
「なあ、クラウン・・・」
「なにも言うな。何も言わないでくれ」
このメルヘン過ぎるモンスター達に囲まれるような形で俺とイナトそしてさっきからはしゃいでいるティアはいた。
そんな俺らの存在など気にしていない三匹のコルル(この生き物の名前らしい)がその変な鳴き声とともに近づいてきた。
「ってかコイツらキモちわ・・・」
「「かわいいっ 」」
「わる・・くないな!!うん可愛いわー」
「そ、そうだなクラウン」
みゆの一年の内で一度見れるか見れないかのハイテンションに完全に流される。
「楽しそうだね、姫」
「ああ、たまには良いかもな。」
この場所には一度、長谷川兄妹と共に来ているが沢山の果実が実る木々を小さな泉が数十箇所ある場所にコルルがうじゃうじゃいるだけだったので、その日以来、来ていない。
けどある日、みゆが瑛司のこの場所で撮ったスクリーンショットを見つけてしまったため…可愛い?モンスターに目がないみゆを連れていかなきゃいけない緊急クエストが突如受ける事になった。そのクエスト決行日はずっと誤魔化しつつ延期に延期を重ねていたが、朝の事件への償いとしてついにクエストが決行された。
「ティアそろそろ行かないかー?」
「むぅ…わかった…でもまた来よ?」
「ああ、約束する」
ティアは名残惜しそうにフィールドを見渡してから渋々了解してくれた。カメラのアイコンがティアの頭上にポップした。スクリーンショットでも撮ってるんだろう
「それじゃ、帰ろっか」
02
03
「楽しかった~」
すっかり上機嫌になったティアが帰り道の階段をリズム良く駆け上がっていく
「機嫌よくなってよかったね」
「うん…悪いなつき合わせて」
そんな話をしていると前方から悲鳴が聞こえてきた。
「「キャアアア!」」
ん?二人?
「大丈夫かティア!!」
俺より先にイナトが素早くティアの方へ向かって行き、先に階段の上を上っていったティアを支える。
「うん、大丈夫っ・・・あれ?」
「ご、ごきげんよう」
ティアとイナトの前に腰が抜けたのか、女の子座りで地面に座るエルフ族の少女がいた。
「えっと・・・」
「すみません!人の声が聞こえてきたもので、気になって階段の下を覗いたら」
「ちょうど出てきたティアと鉢合わせたんだね?」
「は、はぃ」
消え入りそうな声でエルフ族の少女が答える。装備している水色と白のドレスがよく似合うあやめ色の髪に、特徴的な大きなエルフの耳、エルフの女性らしい他の種族には無い神秘的で美しい顔立ちをしている。
「ごめんなさい、えっと・・・」
「ティァ・・です・・・っ」
こちらも負けないくらい消えそうな声だ。ぎりぎり耳でキャッチできそうな会話が始まりそうだったので、間に入る。
「えっと、初めましてユイナさんでいいのかな?」
女性プレイヤーの頭上にある黒い枠をみる《 y u i n a 》たぶんあってるはず。
「はい、ユイナです。」
「ユイナさんはソロかな?こんなとこに来るソロプレイヤーは滅多にいないが・・」
「いえ…あの…恥ずかしい話なんですけど友達とプレイ中にはぐれてしまって…」
「もしかして迷子に?」
「大変っ!」
そう言うとユイナさんの手を握り、友達が見つかるまで一緒に行動しませんか?と聞くティアの目は真剣だった。何か共感するようなものでも感じたのだろうか
「そうだね、ま・・迷子は大変だ」
笑いを堪えているがバレバレだ・・・イナト
「なにか、言いたい事でもあるんですか?イナト先輩?」
「いえ、あの・・・別に・・何もないです、はい」
ほら怒られた、
「いいんでしょうか?」
「大丈夫ですよ、俺達も帰り道ですし」
「ありがとうございます、すごく助かります」
地面に座ったまま丁寧にお辞儀をするとエルフ族の少女は立ち上がった。
「あの、場所はわかります?」
「はい、確か・・パーヴェルと言っていた気がします」
03
04
目的の場所を言われた瞬間…苦笑いしたのは俺だけじゃないはずだ。
「そういえば自己紹介が遅れました。クラウンです、よろしくユイナさん。んでこっちがイナト」
「よろしく」
「こちらこそ、親切な方々に会えてよかったです。よろしくクラウンさん、イナトさん、ティアさん」
可憐に笑う少女の笑顔は眩しかった。
それから俺達は迷子の少女をパーティーに加えてパーヴェル領への帰り道に戻った。
【パーティメンバー欄】
・crown LV47:Proteus
・イナト LV44:Knight
・Tiara LV39:Witchcraft
・yuina LV31:Mage
「まさか…パーティーメンバーにメイジが入ってくる日が来るなんて!」
帰り道の途中でイナトがパーティーメンバー欄を見ながら呟いていた。俺達のパーティーは、基本3人か長谷川兄妹を加えた5人で組んでいる。前衛のイナトとソラ(長谷川兄)そして援護役のクラウンとシズル(長谷川妹) そして本当はバックアッパーで火力の底上げ役のティアは、その適正役を捨てて後衛回復薬がいないパーティーの後衛役を仕方なくやっていた。メイジやその高位ジョブのアークメイジは回復や状態異常治しに長けている職業で、パーティーやクルーには欠かせないジョブの1つと言える。
まあ、俺達の知り合いにメイジはいないわけで・・・イナトのフレンドに何人かはいるが、どの人も別のクルーに入っていてログイン中は、そちらに顔を出してることが多い。
なのでこうして、メイジがパーティーにいることは珍しいし、ありがたい。
「どうせうちの回復スキルはダメダメですよーだ」
「そんな事ないって!まあ…確かにHPの2割も回復しないのは少し痛いけど」
「フォローになってねーよ」
「ふんっ」
「じょ、冗談だよ姫!いつもありがとね、後ろの方でうる覚えの呪文を唱える姫の声にいつも癒されてるよ!」
そっぽむいてしまったティアだが、照れてるようにも見えた。ユイナさんはそんな二人のやり取りを微笑ましいような表情で時折笑みを含めながら見ていた
「仲がいいんですね二人とも」
「ああ、俺達リアルでもよく一緒にいるので」
何気ない会話につい現実での事を言ってしまい、あっと思った。クヲーレ内では基本的にプレイヤーの現実での話しや関わる情報は極力しないのがマナーだ。でも、この無垢で無害そうなエルフの少女を見ていたらそんな事も忘れてしまいうっかり現実世界の話をしてしまった。
「あの、よろしければ・・・」
「はい?」
「いえ、なんでも・・」
04
05
何か言いたげそうな表情を一瞬見せたエルフの少女の横顔はどこか寂しそうだった。
フリストヴォール領を抜けて、久しぶりに空の下に出た俺達は、不気味な雰囲気のフィールドから脱出したおかげなのか、少し元気になった。領土の外周にあたるこの道は廃墟になっていて、正直あまり変わり映えしないが。それでも昼間に見た景色と違って沈みきった太陽の光が消えた真っ暗になった空に見える星達は、とても清々しく気持ちのいい気分にさせてくれる。
クヲーレの時刻は現実世界とリンクしていて時刻18時40分を表示している。現実世界と同期してあたりが暗くなる。
「すっかり暗くなったなあ」
「6時間くらいはコネクトしてるね、俺達」
「普通だろ!まだまだこれからだって!」
元気なイナトを先頭に俺達もパーヴェル領の一番高い建物が見えてきた道のりを歩く。
ササッ…
俺は極々自然な動作でシステムタブを呼び出し、個人チャットのWS(ウィスパー機能)を開く。
イナトの警戒するような声が耳元で聞こえてくる。
『つけられてるね』
『警戒した仕草を見せないで自然に行動しよう』
『分かった』
イナトも感づいていたようだ。どこか抜けているように見えて底が知れないコイツのこうゆう所を俺は気に入っている。
『たぶん3・・・5人はいるかも』
『どうする?』
『ここまで距離を詰められたら戦闘回避は…無理だな』
『そう来なくちゃ』
会話は、そこで切られる。すかさずWS会話からPT(パーティー)会話に切り替える。
申請を全員が承認し、パーティーメンバーだけに会話が聞こえるPT会話モードに切り替わる。
『何かあったんですか?』
『つけられてるんだ、ユイナさん申し訳ないけど・・』
『いえ、私も即席でありますがパーティーメンバーですから!出来ることはさせてください』
『ありがとう…―― みんな聞いてくれこっちから先に仕掛ける、恐らく後ろでスニーキングしてるであろう一人を出来れば先に戦闘不能にしたい』
『『『了解』』』
『その後はティアはユイナさんの援護。イナトは前衛で俺がカバーに入る。相手のジョブを確認しつつ分かり次第立ち回りを考えて一人、一人丁寧に相手をしよう…ユイナさん』
『は、はいっ!』
『回復は前衛のイナトを優先でお願いします。』
『わ、分かりましたっ!頑張ります』
『よし、あそこに見える一際大きな木を過ぎたら先制攻撃を仕掛ける・・・頑張ろう』
『はいっ!』
『おう』
『うんっ』
05
06
PT(パーティ)会話をしたことによって、あちらもこちら側が自分達に気づいたと知っただろう。時間をかければ、相手に戦闘体制の修正時間を与えてしまう。そうなれば余計不利になっていくのはこっちだ。
脳内でいくつもの戦闘パターンをシミューレートする
あと、10メートル・・・・・
7…6……5
4………3….……2 
ザッ!
イナトが力強く地面を蹴り後ろに飛ぶ。ハンドスプリングのような転回をとる。宙で回転中の1~2秒の間に武器をリアライズ(具現化)させる器用さには本当に敵わない
「わああっ!」
後ろで俺達をつけてたアサシンが驚愕した声音をあげる。一連の動作を見守りながら俺も自分の刀をリアライズさせた。
後ろにも警戒しつつ、イナトの周辺を見渡す。
ザッ、シャッ、ザッ!
イナトの三段斬りがアサシンを裂き、斬撃HITエフェクトとして四方に血が飛び散る。
三段目の斬撃を生かして、イナトがサーベルを振った方向に体を回転させ、【ディレイ】(通常攻撃やスキル発動後に発生する、0.5秒の硬直時間)を連続行動の慣性で消す。
再びイナトのサーベルが輝きだし、緑色系のエフェクトと共にアサシンを貫く。デバフ効果付きの高位スキルだ。デバフ【Debuff】は攻撃力、防御力などの各種ステータスパラメータを引き下げたり、ステータス異常にして敵を弱体化させる魔法付加攻撃。
連続攻撃のチェインボーナスにより敵が【痺れ】ではなく【麻痺】ステータスになる。麻痺になったプレイヤーは、仲間のPOT(ポーション)などで回復されない限り3分間硬直状態になる。
敵を先制攻撃して戦闘不能にするまでにかかった時間は体感にして10秒も無い。相手が弱い訳でもないのにこんな芸当が出来るなんて…正直俺には無理だなと心の中でイナトを褒めながらも意識を敵のいる方へ研ぎ澄ませる。
「イナト、メイジだ!―――後方距離50!その前に大柄な大槌使いだ」
肉眼で捉えた情報を素早く前衛に伝える。
「了解!」
順調だ、相手は気配からして恐らく4人パーティー。こちらも4人しかも…今は回復役もいる…いける
06
07
廃墟街に激しい戦闘音が鳴り響く。
スレッジ・ハンマーを持った大男とイナトが攻め合い。俺は後方のメイジのデバフスペルを何とか避けながらイナトを援護する。
ふと生まれた隙にPT(パーティー)のステータスを確認する。よし…大丈夫…心を少し落ち着かせる。メンバー全員安全内のグリーンだ。
HP(ヒットポイントバー)は満タンの青から順に、緑→黄→赤と減っていくにつれて色が変化する。赤いバーが消えHPが無くなれば【DEAD】死亡扱いになりデスペナルティーを受けた後に安全圏内に強制帰還させられる。
「ぐおおおお」
スレッジ・ハンマー使いの大男の雄叫びのような声が耳に響く。
ズドン!
地面が揺れるんじゃないかと、思わせる重い一撃を何発も打ち込んでくる。
「なんて無茶苦茶なスキル…攻撃が読みにくい…なっ!?」
攻撃を難なくかわし続けていたイナトだが、大男の深く地面を抉るようにして打ち込んでくる攻撃の反動で体勢を崩してしまい、その隙を突かれ重い一撃を入れられてしまった
「やられた・・・」
イナトのHPバーが黄色に変わる。HPの減り方から見て分かるように凄まじい威力だ。もう一撃入ってたらイナトは死んでたかもしれない。
後方からユイナの詠唱が聞こえてくる。
この戦闘で分かったのだが、このエルフの少女は中々のヒーラー(回復役)だ。的確なタイミングで、回復詠唱をしては、自身の援護をするティアの周りの援護もこなしていた。
俺達の回復役を請け負ってくれていたティアを悪く言うつもりは無いが、やはり専門職は違うなと思わされた。
「クラウンさん!」
大きな声で呼ばれ後ろを向いた。
07
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振り向いた先には骨だけになった体を動かすスカル族の大群がいて、その大群にティア達はやがて囲まれていった。
その数は20体以上を超えていて恐怖を震撼させるほどだった。
ティアがエルフの少女をかばい、大型の炎属性を繰り出そうとしてる。
「ダメだティア!攻撃するな!!」
「え・・・?」
詠唱が終わり、ティアのウォンド(杖)から放たれた無数の火球がスカル族の群を襲う。次々と炎が着弾していくスカル・ウォーリアと呼ばれているモンスター達のライフが3/1ほど減っていく。あの短時間でのこの高火力はすごいと思う。だが…ダメだ…攻撃しちゃいけなかったんだ。
「ユイナさん、ティア!早くこっちに!」
しかし、体勢を整えたスカル・ウォーリア達に道を阻まれ、二人の少女が孤立する。
「これは・・やられたね・・・・」
大槌使いから距離をとり戦闘を上手く離脱したイナトが俺の背中をとるようにして、寄り添う。
「やられたよ・・完全に油断してた。これで状況は24対4人だな・・・」
敵の狙いは分かればとても簡単だ。先ほど戦闘をしていた3人の他のもう一人がフィールドを徘徊するモンスターを誘き寄せる。ある定数を誘い出しそのまま他のプレイヤーにロックを変えさせる罠。もちろんあの時攻撃していなければ、ロックは移らずに済むが、ああやって大群に囲まれたらどんなプレイヤーだって、焦って攻撃してしまうだろう。
「ヒャッハハハ、ヒッヒヒ」
暗剣を両手に持った、もう一人のアサシンがしてやったりと高らかに笑う。
先ほどまであのアサシンをロックしていたスカル・ウォーリア達の標的がそいつからティア達に変わる。
ティアのHPがあっという間に減っていきついに【DEAD】表示になる。続いてフォローしていたエルフの少女も倒れてしまった。
大槌を振り回す大男と両手暗剣使いに行く手を阻まれ、二人の少女の援護も出来なかった俺とイナトのHPも徐々に削られていき。
俺達のパーティーは全滅した。
08
09
「ごめんなさい・・・」
何度目の謝罪だろうか、PK達にやられた後パーヴェルに強制帰還させられてからティアはずっとこの調子だった。
「大丈夫だって!姫気にしすぎだよ」
「そのとおりです  方法は違えど、こうして私もパーヴェル領に戻れたことですし。本当に気にしないでください」
その一言に若干落ち込みそうになったが、ティアの頭に手を置き、優しく撫でるエルフの少女を見たら純粋無垢なその顔に悪気は無いと納得させられた。中身はきっと少々天然の女性プレイヤーだろうなと、心の中で苦笑いをする
「お姉さんみたいだな」
その様子をとなりで見てたイナトが微笑みながら言う。
人見知りのティアが初対面の人にここまでなつくのは珍しい。確かにな…と返そうとしたがお姉さんというワードに言葉が詰まった。
「あっ・・・」
無意識に声が出てしまった…他の三人が同時に俺を見る。そういえば、さっきは戦闘で忙しくて見れなかったけど姉貴からビム(ボイスメール)が届いてたんだった。内容はだいたい予想つく。慌ててシステムクロックを確認する。午後7時27分を指していた。
「サッカー観戦のことすっかり忘れてた」
エルフの少女は…?と首を傾げてたが他の二人は状況を理解したようだ。
「やっべーもうこんな時間かよ、こっちの世界にいると時間経つの早くね?!」
「なっちゃん… 」
「みなさん、あの・・・どうかしたんですか?」
オロオロと心配する少女に理由を説明してあげる。
「そうだったんですか!すみません…私のせいで約束の時間を過ぎてしまって」
「ううん、ユイナさんは悪くないよっ 」
「姫の言うとおりですよ、悪いのはあのPKどもだし」
「本当にごめんなさい……みなさんは現実世界でも本当に仲良しさんなんですね」
にこりと笑ってから、立ち上がって握っていたティアの手を寂しそうに離した。
「そういう事なんで、俺達はこれで」
「あの!」
どこか照れくさそうにモジモジしてるエルフの少女が続けた
「あの・・よかったら、その・・・」
「せっかくこうして仲良くなれたんだし、ユイナさんさえ良ければフレンド登録しませんか?」
イナトが少女の本音を察して、先に言ってくれたようだ。
「ほんとうですか!はいっ、喜んで!」
その眩しい笑顔にこっちまで、笑顔になりそうだ。
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俺達とフレンド登録したあと短い別れの挨拶をして、エルフの少女はやってきた友達と共にパーヴェルの街へと去っていった。
「おもしろい子だったな」
「ああ、フレ登録もしたしまた会えるだろ」
となりで寂しそうにしているティアを励ますようにわざと大きめな声でイナトに返事した。
「それじゃ」
「あいよ」
「うんっ」
3人同時に、互いには見えないが自分のシステムタブを呼び出し一斉にコールする。
「「「コネクトオフ」」」
視界からイナトとティアが消え、視界が真っ暗になり何処までも深い暗闇を落下していく感覚が再び体を襲う。その感覚から体感にして5秒…落下感覚が消えると同時に視界が明るくなりRVE社の王冠の様なロゴマークが現れ次にクヲーレのタイトル画面現れる。
音声認識機能が拾える程度の小声で「ゲーム終了」と言って姉貴達が待っているであろう現実に帰る。
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11
視界を覆っていたヘッドマウントディスプレイ(ソムニウム・ミラー)を外して見慣れた別屋の殺風景が視界に入る。脳と一時的に切り離されてた自分の体を起こすように伸びをする。
「おつかれ悠太」
「お互いな」
後ろから聞こえてきた瑛司の声に答える。
「ん~んっ」
同じく疲労からか少し掠れた声をだしながら、みゆがのびをしていた。
「みゆちゃんもお疲れ、急がないとなっちゃんが可哀想だね」
「そうだな、姉貴には今行くって伝えたからまあ大丈夫だろう。あっ…四台とも電源点けっぱなしでいいよ」
「え?ああ、わかった」
「先になっちゃん達のところに行ってる」
そう言うと、もうドア前に立っていたみゆが一足先に帰って行った。後を追うようにして瑛司が出て行く
「あっ、待ってよ姫ー」
「その呼び方やめください 」
外に出た二人のやりとりを聞きながら、俺はもう一度リクライニングベッドに腰を落とした。
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