誰にでもできる異世界救済 ~【トライ&エラー】と【ステータス】でニートの君も今日から勇者だ!~

平尾正和/ほーち

4-5 続・パーティーのお誘い

「じゃあ、俺はそろそろダンジョンに戻りますね」
 
 非常に名残惜しいことではあるが、俺はダンジョンに戻ることにした。
 俺には俺の、デルフィーヌさんにはデルフィーヌさんのペースがある。
 今回はたまたまお手伝いさせていただくという幸運に恵まれたけど、ここでしつこくつきまとって嫌われたくないからな。
 また機会があれば、一緒に依頼をこなすこともあるだろう。
 
「じゃあ、デルフィーヌさんもお元気で……!」
「あ……」
 
 俺は断腸の思いで踵を返し、歩き出そうとしたのだが――。
 
「ショウスケくんさぁ、せっかくパーティー組んだんだから、ダンジョン探索も一緒にやったらいいんじゃない?」
 
 というフェデーレさんの言葉に足を止めてしまう。
 デルフィーヌさんと一緒に、ダンジョン探索……なんて甘美な……。
 
「私も、行きたいな……ダンジョン……」
「え?」
 
 思わず振り返ると、眉をハの字に下げて俺を見るデルフィーヌさんと目が合った。
 
「えっと、あの……」
「でも、私……Fランクだから……」
 
 エムゼタシンテ・ダンジョンは、パーティー内に3人以上のFランク冒険者、もしくはひとり以上のEランク冒険者が所属していないと、入場できない。
 ソロでFランクのデルフィーヌさんがダンジョンへ入るには、あとふたりのFランク冒険者か、ひとりのEランク冒険者と組む必要があるわけなんだけど……。
 
「俺で、いいの……?」
 
 デルフィーヌさんが、こくりと頷く。
 まじかよ……。
 彼女との甘美なときが、この先もまだ……。
 
「あ!?」
 
 しかしそこで俺は大事なことを思い出した。
 
「ちょ、ちょっと、急に大声ださないでよ……」
「あー、すみません……。あの、ですねぇ……。とりあえず10階層まではソロで攻略するようカーリー教官に言われてるんで、それが終わってからでいいですか?」
 
 俺が上げてしまった大声に驚き、胸を押さえて心を落ち着けようとしていたデルフィーヌさんは、ぱっと顔を上げて目を見開いたあと、にっこりと微笑んだ。
 
「うん、いい! ありがとう!!」
 
 こ、この笑顔……ヤバすぎる。
 なんか、胸がドキドキしてきた……。
 
「……ショウスケくん、10階層までソロって本気で言ってんの?」
 
 デルフィーヌさんの笑顔を堪能しているところに、フェデーレさんの横槍が入る。
 うん、あのままだと俺、萌え死んでたかも知れないので、これは助け船だと思うことにしよう。
 
「あー、はい。カーリー教官からの試験というかそんな感じで、10階層までソロで攻略できたらDランク昇格試験をやってくれると」
「なるほど……。つまりカーリーさんは君ならそれができると見たわけだ」
 
 そういうと、フェデーレさんは一冊の本を取り出した。
 表紙には『エムゼタシンテ・ダンジョン完全攻略ガイド』と書いてある。
 まるでゲームの攻略本みたいだな。
 
「ふたりとも、これ見てみな」
 
 ペラペラとページをめくっていたフェデーレさんに呼ばれ、俺とデルフィーヌさんは本を覗き込む。
 そこには半人半牛のモンスターがいた。
 
「これがエムゼタシンテ・ダンジョン10階層のボス、ミノタウロス」
 
 おおう、マジか。
 めっちゃ強そうだな。
 
「ちなみにDランクね」
「じゃあEランクの俺では厳しいと?」
「さて、どうだろうね。ちなみにここでいうDランクっていうのは、Dランク冒険者4人構成のパーティーなら倒せるよ、って目安だから、ソロだとCランク相当だね」
「Cランク?」
 
 それって大丈夫なんですか、教官?
 
「ショウスケくん、いま何階層?」
「えっと、5階層のボスを倒したんで、次は規制解除後にもう1回5階層からです」
「……2日で5階層まで行ったの? ソロで?」
「ええ、まぁ」
 
 フェデーレさんが難しそうな表情で黙りこむ。
 デルフィーヌさんは状況がよく把握できていないのか、俺とフェデーレさんの顔を交互に見ている。
 
「デルフィーヌちゃん、キミ足手まといだわ」
「え……!?」
 
 デルフィーヌさんが泣きそうな顔をした。
 よっぽどダンジョンに行きたかったんだろうなぁ。
 っつかフェデーレっ! 余計なこと言うんじゃねぇ!!
 彼女のことは俺が守る!!
 ……といいたいけど、俺だってそう強くないしなぁ。
 俺のせいで彼女に何かあるかも、って思うと、どうしても及び腰になってしまう。
 
 
「デルフィーヌちゃん、武器は何が使えるの?」
「弓なら……結構得意」
 
 お、さすがエルフだ。
 でも弓はなぁ……、矢が消耗品だからなぁ。
 
「弓は……矢の調達が大変だねぇ」
「う……」
 
 デルフィーヌさん、うつむいちゃった。
 わかる、わかるよ……。
 俺もできれば弓矢を使いたかったもん。
 
「魔術はどんな感じ?」
「えっと、生活魔術と回復魔術の冒険者基本パックとか、下級攻撃魔術パック……あ、あと《聖》属性の下級攻撃魔術は使える」
 
 そう言って、彼女は顔を上げ、得意げな表情で俺を見た。
 たしかに、彼女の《聖矢》《聖弾》はなかなかのもんだったよな。
 
「よし! じゃあデルフィーヌちゃん、そんなアナタに魔弓まきゅうをオススメしよう!!」
 
 そう言ってフェデーレさんは短弓を取り出した。
 
「これはね、下級攻撃魔術の《矢》系魔術を撃てる弓なんだよ」
 
 おお、そんなものがあるのか!
 
「デルフィーヌちゃんは懐に余裕はなくても、魔力に余裕はありそうだもんね」
「ちょ、うるさい!」
 
 デルフィーヌさんが顔真っ赤にして抗議する。
 なんとも失礼なトカゲ野郎だぜ。
 
「ごめんごめん。あとこういうのもあるよ」
 
 フェデーレさんが取り出したもうひとつの武器に、俺の目はくぎ付けになる。
 
「な……、これ!?」
「これは《弾》系魔術を撃てる魔筒まづつね」
「じゅ……じゅ……銃やないですかこれ!?」

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