誰にでもできる異世界救済 ~【トライ&エラー】と【ステータス】でニートの君も今日から勇者だ!~

平尾正和/ほーち

3-6 訓練後の実戦

 無事、基礎戦闘訓練を終え、DランクやEランクの魔物にも勝てる、とカーリー教官から言われたことだし、そろそろグレイウルフの納品を始めようと思う。
 グレイウルフは単体でEランク、5匹以上の群れでDランクだからな。
 基礎戦闘訓練修了の実績があれば、納品しても不自然じゃないだろう。
 とはいえ、厳しい戦闘訓練を終えたんだ。
 ちょっとくらい休んどこうってことで、翌日の闇曜とその次の無曜とあわせて2連休をとった。

「ふぃー……極楽じゃあ……」

 昼に起きてランチ食って、腹ごなしにあるいて戦闘で風呂に入った。
 ほんと、働きもせず引きこもってたころは、風呂なんて面倒だと思ってたのになぁ。
 風呂に入る時間も労力も惜しんで、来る日も来る日もゲームにアニメにマンガにラノベと……ああ、思い出すと、ちょっと懐かしいかも……。
 あれはあれで、やっぱいい生活だったわ。

「でも、こっちにゃ引きこもってひとりで楽しめる娯楽って、あんまないんだよなぁ……うぃっ……!」

 休日って事もあってか、前回よりも少し賑やかな露天通りを歩きつつ、ビール片手に串焼きを頬張り、ほろ酔い気分でそんなことを呟きながら、俺は風呂上がりの昼下がりを楽しんだ。
 二日続けて、楽しんだ。
 もう何日か続けたら、たぶんなし崩し的に堕落しそうだな。

「よし、明日からがんばろう」

 連休2日目の夜、まだ少し酔いが残っているのを自覚しながら、自分に言い聞かせるようにそう言って、冒険者ギルドの寝台に寝そべった。
 ひとりで満喫した休日だったけど、隣にデルフィーヌさんがいたら、もっと楽しかったのかな、なんてことを、ちょっとだけ考えながら、眠りについた。

**********

 翌日――訓練修了から3日後――、身も心もリフレッシュした俺は、さっそく依頼を受けた。
 内容は、ホーンラビット10体と、ジャイアントボア5体の討伐。
 もちろん薬草採取も並行して行う。
 ここでイキがってグレイウルフの討伐依頼なんかを受けると、たぶんたしなめられるからな。
 グレイウルフについては、偶然はぐれた奴をみつけた、とかなんとかごまかして、小出しに納品していこうと思う。

 ホーンラビットは強力な攻撃手段を持ってるせいか、ジャイアントラビットより警戒心が弱く、好戦的なんだそうな。
 一応つのというやっかいな武器を持ってるってことで、討伐ランクはE。
 ちなみにジャイアントボアも、同じランクだな。
 元の世界だと、猪の出現ってのは下手すりゃニュースになるレベルの獣害だったりするんだが、ジャイアントボアはその猪よりもデカくて凶暴だ。
 そのジャイアントボアと同列に扱われるってんだから、ホーンラビットもかなりの脅威なんだろう。

「すいません、いつもの採取キットと、今日は鋼のレイピアを貸してください」
「おお、ついに剣士デビューだね。基礎戦闘訓練で教わったこと、忘れないでよ?」

 受付のフェデーレさんはそう言いながら、鋼のレイピアを渡してくれた。
 曲線を描くつばと、ナックルガードがついた柄――スウェプトヒルト――が特徴的な、細身の長剣だ。
 ほとんど装飾のない鞘から、すらりと剣を抜く。
 刃渡りは1メートルちょっとで、剣身の幅は2センチちょいってところか。
 細身のわりに、案外重い。

「折ったら弁償だからねー」

 フェデーレさんが冗談めかしていったけど、目はマジだ。
 実際レイピアは、剣身が細くて硬いから、折れやすい。
 まっすぐ突いて、まっすぐ引き抜く。
 斬撃は控えめに。
 防御のときはうまくいなして、装飾のような曲線を描く鍔で、相手の武器を絡め取る。
 ……まぁ魔物相手にそれは無理なんで、普通に盾とか、防御用の短剣とかを使ったほうがいい。
 全部、カーリー教官の受け売りだけどな。

**********

 レイピアを腰に下げつつ街を出て、森へ。
 木陰に隠れ、〈気配察知〉で相手の場所を探り、〈気配隠匿〉を駆使して近づく、というのはジャイアントラビットのときと同じ戦法だ。
 いま狙っているのは、ホーンラビット。
 こっちに来てすぐのころ、何度も俺を殺してくれた憎き奴だ。
 まあ、あのときにその場で仕留めたから、いまさリベンジってのもおかしいけどさ。
 しかしあの時のステータスで、よくEランクの魔物に勝てたな、俺。

 おっといかんいかん、目の前の獲物に集中しないとな。
 気づかれないよう背後からそろーりと近づく。
 正直この距離なら《魔刃》か《魔槍》で1発なんだが、いまは剣術の修行も兼ねてるから、魔術は最終手段だ。
 俺が仕掛けたグレイウルフの肉にガッツいて、まったく振り向く素振りすらねぇ。
 肉にかじりつくウサギの姿ってのも、なかなか新鮮だな。

 そうそう、グレイウルフの素材だが、牙や爪、骨、毛皮はともかく、肉はたまに冷凍しなおしてたんだけど、やっぱ冷蔵庫機能じゃ保存も限界で、痛み始めていた。
 そのうえ犬系魔物の肉は需要がないらしく、大した値で買い取ってくれないから、納品する必要もないってことで、ありがたく狩猟用のエサとして使わせてもらってる。
 そのグレイウルフ肉にガッツいてる、ホーンラビットの背後から、延髄めがけて……チェストォ!!

「――ケペッ……!」

 確かな手応え。
 剣身の半分ほどが、ホーンラビットの首の裏に埋まっている。
 剣先は口から出ているようだ。
 すっとレイピアを引き抜く。
 何度も訓練した動きだから、ぶれることなく刃は抜け、ホーンラビットがどさりと倒れた。
 血振りをして剣を鞘に収めた俺は、痙攣するホーンラビットを転がし、解体用ミスリルナイフで頸動脈を切る。
 
「早いとこ《血抜き》、覚えてーなぁ」

 なんて愚痴をこぼしつつ、レイピアでの初討伐がうまくいったことに、つい口元が緩んでしまう。

 さて、次はジャイアントボア。
 コイツにも何回か殺されたけど、まだリベンジが終わってなかったな。
 同じように、グレイウルフの肉でおびき寄せる。

 やっぱでかいなコイツ。
 牛くらいはあるかな。
 流石にこの巨体だと、真後ろから延髄をひと突きって訳にはいかない。
 しかも、基礎戦闘訓練で習ったところによると、こいつの視野はかなり広くと、ちょっとでも斜め後ろになると、視界に入ってしまう。
 いくら気配を消してても、視界に入ったら気付かれるわけで……。

「うん、無理はよくないな」

 俺は真後ろから《魔槍》を放ち、延髄を貫いた。
 俺ってば魔道剣士なわけだし、なにも剣術にこだわる必要はないんだよねぇ、ってことにさせてもらおう。

「リベンジ完了っと」

 ジャイアントボアを解体し、《収納》したところで、冷蔵機能付き収納庫がいっぱいになったので、今日の狩りは終了。
 まだちょっと早いから、森の中で薬草採取してから帰るとするか。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品