誰にでもできる異世界救済 ~【トライ&エラー】と【ステータス】でニートの君も今日から勇者だ!~

平尾正和/ほーち

デルフィーヌ 後編

 ギルドに戻って報告を終えた。
 そのとき、あの人のことを少し聞いたんだけど、彼は最近登録したばかりの新人で、『薬草名人』って呼ばれるみたい。
 薬草採取をメインにしてるってことは、私とおんなじね。

「ああ、デルフィーヌさんも、薬草採取がメインだったね。彼とは話が合うんじゃない?」
「そ、そうかしら?」
「彼すごく採取の効率がいいから、そのあたりの情報交換とか、いいんじゃないかな? 夕食時にはギルドの食堂に来るから、声かけてみたら?」
「え、ええ」

 ああ、いまはフェデーレさんの軽さが、ちょっと羨ましい。
 私はそのあと、部屋に戻って体を拭き、着替えたあとで、またギルドを訪れた。
 よくよく考えれば今日は一日走りっぱなしで、一息ついたら疲れがどっと出てきたのだ。

「あれ? デルフィーヌさん、ギルドの寝台使うんですか? 珍しい……」
「ちょっと、疲れたから」

 仮眠をとるくらいの時間はあるし、できるだけ疲れはとっておきたい。
 さすがに疲労回復効果のある寝台なんて、個人じゃ持てないし。
 寝台に入る前に浄化施設を使ったけど、とくに深い意味はないんだからね?
 汗だくだったし、体を拭いただけじゃ、キレイにならなかったから……。

**********

 ちょうどいい時間に目が覚めたので、食堂に降りる。
 客席を見回すと、彼がいた。
 そこに行こうとしたけど、なかなか足が動いてくれない。
 しょうがない、お酒の力を借りよう。

「なにか飲みやすいお酒はないかしら」
「おや、君がお酒とはめずらしい。ではこのスパークリングワインをおすすめしておこう」

 細長い磁器のグラスに、スパークリングワインが注がれる。
 ひと口飲んでみたら、本当に飲みやすくて美味しかったので、一気に飲み干した。

「ありがとう。おかわりいただけるかしら?」
「言い飲みっぷりだが、飲み過ぎにはきをつけなよ?」

 2杯目が注ぎ足されるころには、なんだか気分が落ち着いてきたので、グラスを片手に彼のいるテーブルへ向かう。
 4人がけのテーブルにひとりで座っていた、彼の向かいの椅子に座った。
 なんか私、すっごく見られてない? 恥ずかしいんだけど……。

「ちょっと……ジロジロみないでよ」

 ごめんなさい。
 でも無言で凝視されると居づらいわよ。

「あ、すいません」

 あら、素直に謝ってくれるのね。

「……なにか用です?」

 そういえば私、声もかけずに相席しちゃったわ……。
 とにかく謝らないと。
 あとお礼も。
 本当は私が襲われていたのに、まるで彼が襲われていたようなこと言っちゃったし。
 でも、実際あの後、彼も襲われたのよね?

「私……嘘はついてないから」
「はい?」
「だって! あのあと、あたなが狼の群れに襲われたのは事実でしょ?」

 ああああ……! 考えなしに怒鳴っちゃった……。

「ああ、まあ、そうですね」

 あれ……なんか呆れられちゃった?

「それに、あなたが逃げ延びたんだから、私だって大丈夫だったろうし……」

 ああ、こんなことが言いたいわけじゃないのに……。
 でも、意外と平然としてたし、案外大したことなかったのかしら?
 私が気にしすぎてるの?

「そうですね。今回はお互い、運が良かったということで」
「そ、そうね……」

 ふぅ……。
 なんか、あんまり気にしてみたいね。
 そうだ!! 私まだ名前も……。

「私、デルフィーヌ」
「え? あ、ああ。えーっと、俺はショウスケ」

 ――ショウスケ……、ショウスケね。

 忘れないようにしないと。

 ……いま私、声出てなかったよね?

「ああ、そういえば、どうしてあんなところにひとりでいたんですか?」
「ちょっと採取に没頭しすぎちゃって……」

 なに言ってのよ私!
 そんな恥ずかしいこと、言わなくてもいいじゃないの!!

「って別にあなたには関係ないでしょ!!」

 ああ、またキツい言い方しちゃった……。

「いや、まぁそうなんですけど……、気になっちゃって。たとえばパーティー組んでたのかな、とか」
「パーティー!? 組んでないわよ!! 文句ある?」

 私、こうみえても人付き合いは苦手なのよね。
 だからパーティーなんて無理。
 あ……もしかして、彼のパーティーに誘われてるのかしら?
 ショウスケも私と同じで、薬草採取をメインにしてるみたいだし。

「なに? 誘ってんの!?」
「め、めめ、めっそうもない!!」

 しまった……、私ったら、またキツい言い方しちゃって……。

「俺も、ソロですから」

 あら、彼もソロなのね。
 じゃあふたりで薬草採取っていうのも、悪くないわよね。

「まぁ……どうしてもって言うんなら――」
「当分はパーティー組む予定はないんで」
「え……? そうなの?」
「ええ、団体行動が苦手なんで。やっぱソロが気楽でいいですよね」

 ……私ったら、なにひとりで舞い上がってたのかしら。

「そ、そうね。ソロが気楽よね……」
「ですよね!?」
「う……」

 そんなに嬉しそうに言わなくてもいいじゃない……。

「あの、お互いソロ同士、これからもがんまりましょう」
「あ……、うん」

 なんでだろう。
 なんか私落ち込んでない?
 私がひとりで薬草採取するのなんて、いままでとなにも変わらないじゃない。
 なのに、なんでこんなに気分が落ちてるの……?
 自分でもよくわからないけど、いまは彼と一緒にいるのがちょっとツラい。

「じゃ……私行くわね……」

 あ……お礼言わなきゃ。

「あの……、ありがとう」
「あ、いえ、俺のほうこそ」

 なんで彼がお礼を言うのかしら。
 ああ、救援要請を出したから……。
 結局彼は自力で生き残って、意味はなかったけど。

 私はいつのまにかお酒を空にしていたみたいで、バーカウンターにグラスを返して、宿に帰った。
 宿につくころには酔いが回ってきたのか、ちょっと頭はポーッとするけど、気分はよくなってきた。
 私もショウスケも、薬草採取をしてるんだし、もしかしたら作業中に偶然会う、なんてこともあるかもしれないわね。
 そういえばフェデーレさんも、情報交換がどうこう言ってたし、話しかけても変じゃないわよね?

 よーし、明日からも、薬草採取頑張ろう!!
 あ、でも、森には近づかないようにしよう……。

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