誰にでもできる異世界救済 ~【トライ&エラー】と【ステータス】でニートの君も今日から勇者だ!~

平尾正和/ほーち

2-2 初めての魔物討伐

 その日も、いつものように採取キットをレンタルして、採取ポイントに向かった。
 最近では根に効能がある薬草も採取してるので、スコップも借りている。
 スコップっつっても、花壇とかいじるときに使う、移植ゴテくらいの小さいやつね。
 そうそう、薬草採取のおかげで、〈草刈鎌くさかりがま術〉〈野鋏のばさみ術〉〈掬鋤すくいぐわ術〉というスキルを習得できた。
 3つだぜもだぜ、3つも!!

 どうやらスキルってのは、SPを消費しなくても覚えるみたい。
 まぁ最初のうちにバンバン習得してたから、なんとなくわかってたけどね。
 ちなみに〈掬鋤術〉ってのは、スコップ術のことらしい。
 こんな単語、はじめて見たよ。

「ま、どれもこれも戦闘用スキルじゃないけどねー。こんなんで救世主なんてやれるんだろうか?」

 最近は冒険者や門番に顔なじみが増えたから、いろんな人と、挨拶やちょっとした雑談なんかをするようになった。
 引きこもりのコミュ障が、えらく進歩したもんだ、と我ながら感動するね。
 適度に働いて、顔なじみと雑談して、夜のそれほど遅くない時間に寝て、朝早起きして仕事に向かう。
 なんだか充実した日々を送ってるなぁ、と実感できるね。

「でも、あの娘はいないんだよなぁ……」

 俺を助けてくれた、あのエルフちゃん。
 冒険者だっていってたから、ギルドでバッタリ出会う、なんてことを少しは期待したんだけど、いまのところ発見できていない。
 いまのところ、あの娘以外にエルフっぽい人はいなかったから、聞き込みなんかをして、探せば見つかるのかもしれない。
 でも、どんな理由があって探せばいいっていうんだ?
 だって俺と彼女は、まだ出会っていない、、、、、、、、、赤の他人なんだから。
 それでもいつか、こうやっていろんな人と交流しながら生活していると、エルフちゃんの噂を耳にするかもしれない。
 どこかで偶然すれ違うかもしれない。
 この街にきて、そんなに時間はたっていないんだ。
 まだ慌てる時間じゃない。

 そんな感じで、ここ数日を振り返りつつ移動していたら、採取ポイントに到着したので採取開始。
 薬草採取士とかいう称号のおかげで、採取の効率が上がったのを実感する。
 草むらを見ても「アレとアレが薬草だな」ってのが簡単にわかるんだよね。
 で、適当にハサミ入れても、ちゃんと薬草だけ採取できたりさ。
 薬草1本とってみても、茎に効能があるもの、根に効能があるもの、葉に効能があるもの、といろいろなんだが、その部位分けも、効率が上がってるんだわ。
 なので、いまじゃギョム草ひと袋で15Gもらえるようになってる。
 相場の五割増しだぜ? すごくね?

 そんな感じで調子よく薬草採取してたら、〈気配察知〉に引っかかるものがあった。
 ある程度装備も揃ったし、レベルもステータスも上がってきたけど、やっぱ魔物と闘う心の準備はできていない。
 だから常に〈気配察知〉全開で作業してたら、スキルレベルが2に上がったんだよね。
 そのおかげで、以前より気を抜いてても、近くにいる魔物の気配を感じ取れるようになったんだ。

「ちょーっと油断しちゃったかぁ……」

 どうやら採取作業にのめり込み過ぎたみたいで、魔物の接近を許してしまった。
 向こうはどうやら俺に気付いてるようだ。

「うへぇ、ウサギかよ」

 草むらから顔を出してみると、でっかいウサギがいたよ。
 でも角が生えてないから、たぶんあれジャイアントラビットだ。
 なんかやる気満々って感じで、赤い目をこちらに向けてるね。

「採取キットで魔物を狩るのは、禁止されてるんだけどなぁ」

 ま、緊急避難ってことで勘弁してもらおう。

 俺は右手に鎌、左手はスコップを逆手に持ち、軽く腰を落としてジャイアントラビットと対峙した。
 こっちが怯える気配がないのを察知したのか、そいつはちょっとだけ怯んだ。
 できればそのまま逃げて欲しいんだが、気を取り直して向かってくるみたい。
 無理すんなよウサ公。

「キィッ!」

 しばらくにらみ合いを続けたあと、ジャイアントラビットが一気に間合いを詰め、飛びかかってきた。
 ジャイアントラビットは、踏み込みと同時に身体をひねって半回転させて、後ろ足で俺の顎のあたりに蹴りかかってくる。

「どわぁっ……っとと……!」

 俺はそれを逆手に持ったスコップでなんとか受けたが、予想外の威力によろめいて、尻もちを着いてしまった。

「ケペェッ……」

 しかし、蹴りを防御されたジャイアントラビットも、バランスを崩して着地に失敗し、顔を地面に打ち付けていた。
 ウサギは前足が短いから、人みたいに手をついて受け身を取ることが、できないみたいだな。

「せあぁっ!」

 体勢を立て直したのは俺のほうが少しだけ早かったので、今度はこっちから向かっていく。
 敵は俺に対峙する形で体勢を整えたものの、ウサギの後ろ足って前には勢いよく跳べても、後退は苦手みたいだ。
 向かっていく俺とすれ違うように、ソイツは角度を変えて前に跳んだが、俺の右側に跳んだのが運のツキだな。
 とっさに鎌を持った右手を出すと、ジャイアントラビットは自分から鎌の刃へ突っ込むことになった。

「ギッ……」

 空中で方向転換できるはずもなく、鎌はジャイアントラビットの喉を貫く。

「ざっくり入ってんなぁ……よいせっと」

 鎌を引っこ抜くと、勢いよく血が流れ出し、しばらく痙攣していたジャイアントラビットだったが、やがて動きを止めた。

《レベルアップ》

 お、レベル上がった。
 さて、今日はまだ早いけど、ジャイアントラビットの死骸を持って、いったん帰りますか。
 戦闘で鎌使ったの、怒られるかなぁ……。

**********

「あら、それは大変だったわね」

 ギルドに顔を出し、エレナさんに事情を説明すると、それほど怒られなかった。
 なんか最初と違って、随分フランクな対応になったのが、ちょっと嬉しい。
 
「そうね……。スコップは少しへこんでて、鎌は……先端が少し曲がっているのと、骨にあたったのか多少刃こぼれがあるみたい。修繕費として5Gってとこかな」

 怒られなかったけど、お金は取られたよ……。

「ジャイアントラビットはどうする? こっちで買い取ろうか?」

 魔物ってのは皮や骨、肉なんかが素材や食材になるから、死骸まるごとでも買い取ってもらえるんだよね。

「お願いします。もしよかったら、解体の見学をさせて欲しいんだけど……」

 とはいえ解体して持ち込んだほうが、高く買い取ってもらえるって話を、ガンドルフォさん――最初に俺を殺……過失致死させた牛獣人の人ね――から聞いてたので、ちょっと解体には興味あったんだ。

「じゃあ解体講座、受けてみる? オススメよ」
「あ、そういうのがあるんだ」
「ええ。受講料は150G。報酬から天引きでいいかしら?」
「あー、お願いします」

 結構高いな……とは思ったが、これも必要経費だ。
 エレナさんが俺のカードを台座に乗せ、なにやら手続きをする。

「じゃ解体場へ行きましょっか。こっちよ」

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