好きになったらいけない恋

ホットコーヒー

第74話離さない手

最後の花火が上がると同時にカズヤが俺の耳元で囁いてきた


花火の音で消されて聞こえずらかったが確かに、こう聞こえた。


『せ... ぱい。 今までありがとう....』








カズヤのおじさんの家から帰ったその日、こっちではちょうど花火大会の日だった。


疲れは溜まっていたがカズヤがどうしても行きたがったから家出眠ってから重い身体を起こして
去年カズヤと買ったじんべえを取り出す。


(あいつも着てくるかな?...)


薄暗くなってきた午後6時過ぎ頃カズヤの家に向かうとカズヤが出てくると顔を合わせて同時に笑ってしまう。


『先輩も着てきたんですね!』


『なんだよやっぱりお前も...』


紺と黒 色違いだけどお揃いのじんべえ。


わざわざ合わせなくても同じ行動をとる。
それくらい仲がいい証拠だ。


『じゃあ行くか!』


手を差し出すとカズヤがそれを掴む。


『はい!』


薄暗く中歩いて行くと少しずつ浴衣姿のカップルや親子連れ、中学生くらいのグループ達がみんな同じ方向に歩いて行くのを見つけた。


『僕たちは周りからどう見えてるんですかね?』


『友達かな?』


『手繋いでるのにですか?』


カズヤが笑う。


『暗くなったらそんなに目立たないよ。』


『そーですね!』


『話変わりますけど、今日何日でしたっけ?』


『んーと...13日だよ。 なんかあった?』


カズヤが言いづらそうにする。


『えーと...ぼくの誕生日覚えてます?』


『あっ!.... 8月1日だったよな... ごめん
進路だなんだで忙しくて忘れてた...』


『そうだとは思ってましたよ...』


(やべ...すっかり忘れて...)


『あれ、俺誕生日カズヤに祝ってもらったっけ?』


『いつでしたっけ?...』


『おい! 5月20日 とっくの前だわ』


『でしたっけ?』


テヘッと舌を出してとぼける。


『来年はお互い忘れないようにだな』


『....来年ですね。』


少しの間がこの時何故か気になった。


花火大会は河川敷に屋台がずらっと並んで川の向こう側で花火が上がる。


花火まではまだ30分ほどある。


『うわ...人いっぱいだな。屋台みる?』


『見ましょうよ!せっかく来たんですから!』


人混みの中はぐれないようにカズヤの手を握って歩いた。


屋台はどこも行列で並ぶには少し気が重い。


『あのキラキラ光る飲み物買いましょ!』


クルクルと回ったストローが大きいカップにささっていて、ストローがキラキラ光っている。


言われるがまま買ってみると、まぁ中身は多分ただのコーラだ。


店員が気を利かせたのか、ストローはいわゆる
カップルストローみたいに吸い口が2つある。


『先輩も飲みます?』


カズヤが片方を加えながら言ってくる。


『飲んでいい?』


もう一口の方を加えて勢いよく吸うとカズヤが慌てる。


『飲み過ぎですよ!』


花火の時間も近づき、河川敷の土手にある階段に座った。


『はぁ〜 くったびれたな。』


『ふふっ先輩はお年寄りですね』


『そーいや、来週の夏フェス楽しみだな。
天気も晴れそうだし』


『暑くて死んじゃいそうですね。』


{花火打ち上げの為、照明を落とします。
足元には十分ご注意下さい。}


花火打ち上げのアナウンスが終わると照明が消え、星空が目立つ。


(こんなに星が出てたんだ...)


ピュ〜  バァーン


花火が上がり始める。


赤 青 緑 色鮮やかや花火が次々に上がるとともに花火紹介のアナウンスも入る。


そっと右腕をカズヤの方にまわしてくっつくと、
俺の左手をカズヤが握ってきた。


カップルみたいな事をしているが周りの人達は花火に夢中で俺らに興味などない。


30分ほど花火が上がると、とうとう最後のアナウンスが入る。


{次で最後になります。千輪菊です。}


花火が打ち上がると上空で炸裂して一瞬遅れて小花が咲き乱れる。


と同時にカズヤが俺の耳元に口を近づけてきた。


花火の音で消されて聞こえずらかったが確かに、こう聞こえた。


『せ... ぱい。 今までありがとう....』


花火が終わると同時に人がゾロゾロと帰路につく


階段に座ってたので邪魔にならないよう流れに任せて歩いた。


(なんだ...今までありがとうって...)


まるでこれが最後みたいな言い方に違和感を覚えた。


今すぐにどういう意味が聞きたかったが人混みで聞くに聞けない。


離れぬよう手を握って歩いていたが、人混みの重圧で手が離れてしまった。


『カズヤ!...』


(いやだ...これで最後なんて...)


この先もずっと一緒にいる。


そのはずなのにあいつの一言がとても不安を煽る。


人混みを逆走するがカズヤは見つからない。


ひとまず人混みから離れようと人のいない脇の方に出ると、カズヤが立っていた。


『なんだ...心配したぞ』


『ごめんなさい。』


『お前、さっきの...』


聞きたかったが怖くて聞けなかった。
聞いたらこれで本当に最後になるんじゃないか
そんな不安が芽生えた。


カズヤの手を握り人混みに向かう。



『もう絶対、離さねぇから。  お前も離すな』


『先輩、あの!』


『言うな!... なんでか分からないけど...


お前は俺の前から居なくなろうとするんだろ。


それだけはわかる...


さっきのありがとうは... さよならって意味のありがとうだ...


そんなの聞きたくねぇ。 理由もあるんだろうけど
そんなの知らねぇ。


お前は俺と一緒に居ればいいんだよ!


どーせまた、つまらない事で俺の前から消えようとしたんだろ...


そんなの許さねぇ。 』


そのまま手を離さず一言も話さず


俺の家に向かって泊まらせる事にした。

          

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