好きになったらいけない恋

ホットコーヒー

第64話引退

大会の後悔も残るが3年間やりきった達成感も少しずつ出てきた。


でも今は楽しむことに決めた。


動物園に着くと早速動物の形をしたバスに乗り園内を回る。


バスの側面は網状の檻になっていてライオンやクマなど凶暴な動物達が間近で見れる。


檻に指をかけ目をキラキラさせながらカズヤが外を眺めている


『ライオンかわいいなぁ』


ライオンゾーンが近づき、ライオン達が近づいてくる。


『おいカズヤ、指なくなるぞ』


ハッと檻から手を離し、カズヤが冷やっとしている。


ライオンが近づくと餌を求めて檻に顔を近づけてくる。


カズヤの背中に軽く触れて押すふりをする。


『うわっ! やめてください!』


本気でビビって座り込むとライオンに話しかける。


『あっちの人の方が美味しいですよ
僕は肉ないから先輩の方が食べ応えありますよ』


そう言って俺の方を指差してくる。


『本当に餌にするぞ...』


バスでひと通り回った後、園内のフードコーナーで昼飯を食べる。


『先輩、このステーキ美味しいですね』


『ライオンの餌と同じ肉だって』


『へぇ〜なんの肉なんですか?』


『人...』


『ブッフォッ』


カズヤが思わず吐き出した。


(こいつはなんてピュアなんだ...)


『嘘だわ...牛とかそこらへんじゃないの』


『人の肉って美味しいんですか?』


『知らねーし。知りたくもないわ...
でも実際に食べる部族とかもいるみたいだからね』


『食べたくはないですね。
ライオンの肉とかなら食べてみたいです』


『お前さっきかわいいとか言ってたのに...
食いたいのかよ』


軽くお土産を買って帰る準備をして電車を乗り継ぎ、新幹線に乗る。


疲れ果ててカズヤがうとうとしている


『せんぱい...また夏がきますね
とーっても楽しみです。また海に行きましょう!
あと、夏フェスも!』


『そうだな...』


『去年はただの先輩後輩でしたけど
今年は恋人同士だから、すごく楽しみです!』


『バカ!聞かれるだろ!』


付き合った事以前に、同性愛である事もカミングアウトしてないので聞かれたら大問題になる。


話し声がお互いに小声になる。


『僕は別にバレてもいいですよ』


『バレたら何言われるかわからねぇよ。下手したらいじめられるぞ』


『別にいいですよ。
もう僕には先輩がいるんですもん!』


『カズヤ...』


そっと手を乗せて疲れて眠ってしまった。


カズヤと交際してから初めての夏


去年よりお互いに胸の内を打ち明けて
信頼できる関係になってきた。


このまま悩みなどなければいいのに




学校に戻ると使い込んできた弓や道着を綺麗に掃除した。


今まで一緒に頑張ってきたから道具でも愛着が湧き
寂しくなる。


道場も心を込めて掃除をして、最後にお辞儀をして
あとを去った。


別にまだ卒業する訳でもなく、来る気になればいつでもこれる。でもなぜが4日間で一番涙が溢れた。


初めてこの道場に入った日


練習の日々



仲間との出会い


後輩たちとの出会い


カズヤとの出会い



サボった時もあった。 辞めたい時もあった。


でも3年間続けてよかった



そう心から思えた。




『先輩!一緒に帰りましょ』



弓道部の部員として一緒に帰るのもこれが最後だ


カズヤとだって卒業するまで一緒に帰ることはできる。


だけど、この瞬間を噛み締めてゆっくり帰った。










          

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