ユニークチート【恋の力】は確かに強いけど波乱を巻き起こす!?
勘違いされてる⁉︎
(緊張するな)
現在アルフは家でイグナイト団長のマルクを待っている。アルフ自身が緊張する必要は全くないが、それは本人にしか分からないだろう。
玄関をノックされた音が響く。
アルフは直ぐに居間から飛び出し、玄関のドアを開ける。
「......二日ぶりだね、アルフ君」
「久しぶりですね」
敬語を使わないでいいと言われていたが自然と敬語を使ってしまった。
「敬語はなくていいから、そうだね、家にあがらせて貰ってもいいかい?」
「すまん。自分でも自然と敬語を使ってた。入ってくれ」
マルクを招き入れ、居間で二人で話す事になる。
「それでどちらなのかって......聞く必要がないみたいだね」
マルクは苦笑いで応じるが、それも当然だ。もうアルフの横には必要な荷物を纏めてあるのだから。
「こちらからお願いする。俺をイグナイトに入れてくれ」
「ああ。喜んで」
マルクが立ち上がったので、アルフも立ち上がり、二人は互いに握手を交わす。
「......ところで先程からあそこから覗いているのはアルフレッド君の家族かな?」
「え?」
マルクが指をさしたのは、居間の隙間から覗いているヘレナとマリアだった。
バレていると理解したヘレナとマリアは苦笑い気味に出てくる。
「どうして二人とも覗いてるんだ?」
「イグナイトの団長ってどんな人なのかなって」
「このお方は小人族なの?」
ヘレナは悪戯がバレた子供の様にアハハと笑いながら、マリアは当然の疑問をぶつける。
「ああ。そうらしい。俺も最初は間違えてな。マルクの事坊主とか言ってしまったもんな」
アルフは思い出したかのように笑うが、ヘレナとマリアの顔が驚愕に変わる。
「アルって本当に馬鹿なの!?殺されてもおかしくないわよ!?」
「本当にすみません!この子は世間知らずで至らない事ばかり言うんです!」
ヘレナがアルフの頭を叩き、マリアがアルフの頭を持って、地面につけ、二人で土下座を披露する。
(僕はどんなイメージをもたれているのだろうか)
マルクは坊主呼ばわりされた事よりも、自分に対するイメージについて傷ついているようだ。
「気にしていませんから頭をあげてください。僕は小人族ですから勘違いされてもおかしくありませんから」
その言葉に、アルフはマリアの手から逃れて、頭をあげるが、マリアはまだ頭をあげていない。
「シスター?」
アルフが疑問に思うが、マリアは頭を上げるだけで、座ったまま姿勢は崩さない。
更にマリアの顔は真剣そのものだ。
「マルクさん。この度はアルフをスカウトして頂いて、本当にありがとうございます。世間知らずで至らない事を言うかもしれませんが、叱ってくれて構いませんので、お願いたします」
そう言い、マリアはもう一度頭を下げる。
「分かりました。アルフレッド君の事は僕に任せてください」
マルクは笑顔で頷くが、シスターは頭をあげると、
「マルクさん。あなたに一つお願いがあるのですが」
「何ですか?」
「ここにいるヘレナと言うんですが、この子も連れて行ってもらってはもらえないでしょうか?」
それにアルフとヘレナの顔が驚愕に変わり、マリアを見る。
だが、マリアの顔は真剣そのものだ。
だが、反対にマルクは困った顔をして、
「大変申し上げにくいのですが、イグナイトは実力の在る者しか、入れないんです。そこにいるお嬢さんがどれだけの実力を持っているか分からないので、流石に入らせることは出来ないです」
それに対しマルクは拒否をするも、きちんと丁寧に受け答えをする。
だが、マリアの顔は残念な顔にも、悲しい顔にも変わらない。
「この子には才能が有ります。ここにいるヘレナは天才です」
「......シスター?」
ヘレナが自分が天才と言われ困惑するが、マリアは真剣な顔つきでマルクだけを見据えている。
「この子はたった一週間でポーションを作る事が出来たんです」
「普通じゃないの?」
ヘレナはアルフの方を見て聞くが、
「俺が知るわけないだろ」
「......いや、そんな事は普通在り得ない。どれだけ教えが良くても一カ月。時間が掛かる人は一年は掛かる」
「「一年!?」」
アルフとヘレナが同時に驚いた声をあげる。
「すまない。ヘレナと言ったね。君はどうやってポーションを作ったんだい?」
風向きが変わった。今までマルクにとってはヘレナという少女は、アルフの家族という認識だったが、マリアの言葉で変わる。
「......どうって言われましても、私は普通にシスターが作っているのを見て、作っただけですけど」
「それまでポーションを作った事は?」
「ありません。そもそもポーションなんて興味なかったので。ただシスターの手伝いをしたかっただけなので」
(......天才だ)
アルフは心の中で思わず驚いていた。自分の家族に天才がいるとは思わなかったのだろう。
「......分かりました。娘さんのヘレナさんがこちらに入りたいというなら構わないです」
マルクは許可を出したのだが、
「ちょ、ちょっと待ってよシスター。私そんなこと聞いてないし、そもそもこのお店はどうするの?」
「このお店なら大丈夫に決まってるよ。そもそもお客なんて滅多に来ないしね。私はヘレナにこのお店を手伝ってもらうより、アルフの役に立って欲しいよ」
先程の真剣な表情ではなく、マリアは笑顔でヘレナを説得する。
「......分かった。だけどシスターが無茶してたら戻ってくるから」
「安心して頑張って来なさい」
「それじゃあ、ヘレナ君が準備出来たら出ようか」
ヘレナが急いで準備をし、二人は大きなバックを持ち家を出る。
「それじゃあ頑張って来なさい」
「「はい」」
マリアに別れの挨拶をしたアルフとヘレナはイグナイトの家に行くのだが、
「「デカい」」
二人はイグナイトの家?いや、屋敷を見て、唖然としている。
どうみても、アルフ達が住んでいる家の倍はある。
「アハハハ。それじゃあ入ろうか。一応どういう所なのか教えるから」
「はい」
アルフは何とか理性を取り戻し答えるが、ヘレナは未だついて行くのがやっとだった。
マルクが入ると、全員が入り口に目線が集中して、
『お疲れ様です』
全員が頭を下げて挨拶をする。
「.....凄いな」
アルフはもうここを家と考えるのを辞めたらしい。目の前では机で囲み飲んで騒いでいる者もいれば、前衛の恰好をする重装備の人と、後衛の魔法使いのローブを着た人が話し合っている場面もある。
「一階は男女共同で入れる所で、ここではお酒も飲めるし、ご飯も無料で食べれる。それに自分達の冒険活動について振り返る為にここで話すのもいいだろう」
マルクについて行く形で、アルフ達は行くのだが、凄い視線がアルフ達に浴びさせられる。
「なあ、マルク。どうして俺達こんなに見られてるんだ?」
「多分僕がスカウトしたのが分かったんじゃないかい?」
そう言われて、耳を澄ませると、
「.....あいつが団長にスカウトされた人物だってよ。見た目弱そうだが、もしかして凄い能力でも持ってんのかな?」
「知らねえよ。だが強い事は間違いないだろうな」
(違う!全然違う!俺レベル四で全く弱い一般市民です!)
アルフはようやく状況を悟ったのだろう。
マルクというイグナイトの団長自らスカウトするのは中々無い事なのだ。そんな中選ばれたと分かれば、周りから絶対に強いと思うのは仕方ない。
要するに、アルフはもの凄い期待されているのだ。どれだけの実力があるのかと。
だが、そんな事を知らないマルクは説明を続ける。
「これがイグナイトの一番の目玉だと思うんだけど、この紙に書いてあるのが何か分かるかい?」
マルクはアルフ達を一階の壁にある掲示板に案内する。
「これはパーティの名前かなんかですか?」
「その通りだ。この掲示板は一カ月に一回更新されるんだが、ランキング表だよ。大体パーティで戦ってどれだけ迷宮を潜れたのか、どれだけの魔石を持って帰れたのか、それによって変わるんだ」
そこには百は超えるパーティーの名前が並べられている。
「どうしてこれを作ったんだ?」
「僕達の目的は迷宮踏破をする事だ。この表を基に、最奥の間に行くことが出来るパーティーを考えるんだ」
「......これって反則とかあるんじゃないですか?」
「ガハハ。それは出来んのう」
ヘレナが疑問の言葉を発すると、茶色の髭を顎に生やして、肩まであるであろう茶髪の髪を垂らしながらお酒を飲んで酔っているドワーフの人が現れる。
「ガルド。酔っているな。臭いぞ」
マルクが鼻を摘まみながらしかめっ面になるが、ガルドは気にした様子もなく、
「少々細かいの。別にいいではないか。飲みたいときに飲むのが当たり前じゃ。ガハハ」
「どうして反則出来ないんですか?他のギルドと連携して、魔石を手に入れる事も出来るんじゃないですか?」
「ほお。冒険者に詳しそうに見えんが、結構詳しいのう。嬢ちゃん」
「それほどでもありませんが」
「それでその答えはやっても意味がないじゃ」
どうしてか、アルフも疑問に思った様だ。確かにヘレナの話を聞けば、反則が出来るように見えるのだろう。
「そこにいるマルクが言った通り、この表を基に迷宮探索のメンバーに選ばれる。そこに反則して入ったとしても死ぬのがオチじゃからの。わざわざ死ぬ馬鹿はおらん」
「.....成る程」
アルフもヘレナも納得した。確かに言われてみれば、そんな事をする意味がない。
「まあ、それ以外にも上位陣が強すぎるのもあるからの。反則しても直ぐにバレる。あれには相当強くならんと勝てんぞ」
アルフはガルドの話を聞いて、改めて表を見る。すると、一位と二位には何やら数字が書かれており、圧倒的な差がある。
「凄いですね一位の人は。圧倒的じゃないですか」
「まあ、そうじゃが二位と三位はソロでやっとるからの。この条件も仕方ないんじゃ」
その言葉にアルフは唖然としてしまう。
(どれだけ強い人がこのギルドにはいるんだ?)
話を切り替えようとしたのか、マルクが手を叩く。
「それじゃあ、一階が主だから、二階からは簡単に説明するよ。二階が男子の泊まる部屋で、三階が女子の泊まる部屋になっている。因みに、分かってはいると思うけど男子は三階に行くことは禁止だ。ヘレナ君は予定していなかったから、今はアルフ君と一緒に泊まってもらってもいいかい?」
「別に構いません」
「それじゃあ、簡単に説明したけど、最後に聞きたいことはあるかい?」
「一つだけいいですか?」
ヘレナには質問する事があるようだ。
「何だい?」
「先程のランキングなんですけど、最下位の場合何か罰則とかあるんですか?」
「ああ。一応あるよ。最下位はここの食事をタダでは食べれないんだ。次の更新で順位があがらない限りね」
アルフ達にとって絶望的だったが、アルフも今の言葉で疑問を浮かんだようだ。
「一応って事は大丈夫なのか?」
「ああ。最下位は全然迷宮に潜らないからね」
「.....それっていいんですか?」
「それがね、最下位の人は実力があるんだ。別にここのお店の料金が高くても全然大丈夫なほどにね。だから君達が最下位になる事は殆どないと思っていいから大丈夫だよ」
「俺も質問があるんだが、ここには冒険者しかいないのか?」
「いや、鍛治屋の人もいるし、ポーションを作ってる人もいるよ。そうだ。アルフレッド君ありがとう。忘れていたよ。地下には職人たちが住んでいるんだ。鍛治屋の人に限っては、気に入った人にはタダで武器を作るけど、基本は料金が掛かるから、そこは忘れないようにね」
(この屋敷には地下まであるのか)
アルフは別の事で驚いていた。それほどまでに今までと次元が違うのだろう。
「それじゃあ、最後に重要なイグナイトの基本方針なんだけど、普段は自由に冒険してもらって構わない。ただ、最奥の間を目指す際は全員で行動するから、それだけは忘れないようにね。迷宮探索の時間はまだまだだから、それまでは自由に冒険するといいよ」
「ありがとうマルク。――――いや、もうイグナイトに入ったんだ。よろしくお願いしますマルク団長」
もうイグナイトに入ったのだから敬語はきちんと扱う。
「ありがとうございます」
「アハハ。アルフ君は律儀だね。こちらこそよろしく。ヘレナ君も」
マルクは笑顔でそう言って、自分の部屋に戻って行った。
アルフとヘレナはまだ慣れていないので、自分の部屋に割られた所に入る。そこは四人部屋の大きさを二人で使う状況だ。
「それで、これからどうする?俺的には迷宮探索をしたいと思ってるんだけど」
「全然構わない。私はサポーターをすればいいの?」
「そうだけど、ヘレナって結構冒険者について詳しいのな」
「まあね。偶に本で書いているから知ってるのよ」
アルフが言う迷宮探索とは、【五大迷宮】ではない。
今では誰も入らないと言われている【初心者迷宮】と呼ばれている場所だ。
今の時代では、大抵の冒険者は強い人と冒険し、【五大迷宮】でレベルを上げていくというスタイルだが、アルフにはそれが出来ないので、【初心者迷宮】しか潜れない。
そして、ヘレナが行うサポーターとは、昨日アルフが読んでいた『冒険者の基本』に書かれている、後衛に位置する所であり、戦っている冒険者の支援をしたり、前衛や中衛が戦って落ちた魔石を拾ったり、傷をした者にポーションを渡したりする位置にあたる。
「なあ、ヘレナ」
「どうしたの?」
「何だかワクワクしないか?今から俺達は冒険者としてこのギルドでやっていくんだぞ?」
「全く微塵も。命かけてまでやるなんて普通在り得ないでしょ」
「......そうですか」
やる気だったアルフの気力が少し減った。
だが、それでも【初心者迷宮】には行くことが決定しているのだが、そこでは異変が起きていた。
「ウオオオオオオ!」
初心者迷宮で雄たけびをあげる魔物が一体。どうみても初心者が倒せる魔物ではない。
そんな魔物は夜の中、初心者迷宮をひたすら歩いて行った。
この魔物がアルフにとって、因縁の魔物であるのだが、アルフはまだその事を知る由も無かった。
現在アルフは家でイグナイト団長のマルクを待っている。アルフ自身が緊張する必要は全くないが、それは本人にしか分からないだろう。
玄関をノックされた音が響く。
アルフは直ぐに居間から飛び出し、玄関のドアを開ける。
「......二日ぶりだね、アルフ君」
「久しぶりですね」
敬語を使わないでいいと言われていたが自然と敬語を使ってしまった。
「敬語はなくていいから、そうだね、家にあがらせて貰ってもいいかい?」
「すまん。自分でも自然と敬語を使ってた。入ってくれ」
マルクを招き入れ、居間で二人で話す事になる。
「それでどちらなのかって......聞く必要がないみたいだね」
マルクは苦笑いで応じるが、それも当然だ。もうアルフの横には必要な荷物を纏めてあるのだから。
「こちらからお願いする。俺をイグナイトに入れてくれ」
「ああ。喜んで」
マルクが立ち上がったので、アルフも立ち上がり、二人は互いに握手を交わす。
「......ところで先程からあそこから覗いているのはアルフレッド君の家族かな?」
「え?」
マルクが指をさしたのは、居間の隙間から覗いているヘレナとマリアだった。
バレていると理解したヘレナとマリアは苦笑い気味に出てくる。
「どうして二人とも覗いてるんだ?」
「イグナイトの団長ってどんな人なのかなって」
「このお方は小人族なの?」
ヘレナは悪戯がバレた子供の様にアハハと笑いながら、マリアは当然の疑問をぶつける。
「ああ。そうらしい。俺も最初は間違えてな。マルクの事坊主とか言ってしまったもんな」
アルフは思い出したかのように笑うが、ヘレナとマリアの顔が驚愕に変わる。
「アルって本当に馬鹿なの!?殺されてもおかしくないわよ!?」
「本当にすみません!この子は世間知らずで至らない事ばかり言うんです!」
ヘレナがアルフの頭を叩き、マリアがアルフの頭を持って、地面につけ、二人で土下座を披露する。
(僕はどんなイメージをもたれているのだろうか)
マルクは坊主呼ばわりされた事よりも、自分に対するイメージについて傷ついているようだ。
「気にしていませんから頭をあげてください。僕は小人族ですから勘違いされてもおかしくありませんから」
その言葉に、アルフはマリアの手から逃れて、頭をあげるが、マリアはまだ頭をあげていない。
「シスター?」
アルフが疑問に思うが、マリアは頭を上げるだけで、座ったまま姿勢は崩さない。
更にマリアの顔は真剣そのものだ。
「マルクさん。この度はアルフをスカウトして頂いて、本当にありがとうございます。世間知らずで至らない事を言うかもしれませんが、叱ってくれて構いませんので、お願いたします」
そう言い、マリアはもう一度頭を下げる。
「分かりました。アルフレッド君の事は僕に任せてください」
マルクは笑顔で頷くが、シスターは頭をあげると、
「マルクさん。あなたに一つお願いがあるのですが」
「何ですか?」
「ここにいるヘレナと言うんですが、この子も連れて行ってもらってはもらえないでしょうか?」
それにアルフとヘレナの顔が驚愕に変わり、マリアを見る。
だが、マリアの顔は真剣そのものだ。
だが、反対にマルクは困った顔をして、
「大変申し上げにくいのですが、イグナイトは実力の在る者しか、入れないんです。そこにいるお嬢さんがどれだけの実力を持っているか分からないので、流石に入らせることは出来ないです」
それに対しマルクは拒否をするも、きちんと丁寧に受け答えをする。
だが、マリアの顔は残念な顔にも、悲しい顔にも変わらない。
「この子には才能が有ります。ここにいるヘレナは天才です」
「......シスター?」
ヘレナが自分が天才と言われ困惑するが、マリアは真剣な顔つきでマルクだけを見据えている。
「この子はたった一週間でポーションを作る事が出来たんです」
「普通じゃないの?」
ヘレナはアルフの方を見て聞くが、
「俺が知るわけないだろ」
「......いや、そんな事は普通在り得ない。どれだけ教えが良くても一カ月。時間が掛かる人は一年は掛かる」
「「一年!?」」
アルフとヘレナが同時に驚いた声をあげる。
「すまない。ヘレナと言ったね。君はどうやってポーションを作ったんだい?」
風向きが変わった。今までマルクにとってはヘレナという少女は、アルフの家族という認識だったが、マリアの言葉で変わる。
「......どうって言われましても、私は普通にシスターが作っているのを見て、作っただけですけど」
「それまでポーションを作った事は?」
「ありません。そもそもポーションなんて興味なかったので。ただシスターの手伝いをしたかっただけなので」
(......天才だ)
アルフは心の中で思わず驚いていた。自分の家族に天才がいるとは思わなかったのだろう。
「......分かりました。娘さんのヘレナさんがこちらに入りたいというなら構わないです」
マルクは許可を出したのだが、
「ちょ、ちょっと待ってよシスター。私そんなこと聞いてないし、そもそもこのお店はどうするの?」
「このお店なら大丈夫に決まってるよ。そもそもお客なんて滅多に来ないしね。私はヘレナにこのお店を手伝ってもらうより、アルフの役に立って欲しいよ」
先程の真剣な表情ではなく、マリアは笑顔でヘレナを説得する。
「......分かった。だけどシスターが無茶してたら戻ってくるから」
「安心して頑張って来なさい」
「それじゃあ、ヘレナ君が準備出来たら出ようか」
ヘレナが急いで準備をし、二人は大きなバックを持ち家を出る。
「それじゃあ頑張って来なさい」
「「はい」」
マリアに別れの挨拶をしたアルフとヘレナはイグナイトの家に行くのだが、
「「デカい」」
二人はイグナイトの家?いや、屋敷を見て、唖然としている。
どうみても、アルフ達が住んでいる家の倍はある。
「アハハハ。それじゃあ入ろうか。一応どういう所なのか教えるから」
「はい」
アルフは何とか理性を取り戻し答えるが、ヘレナは未だついて行くのがやっとだった。
マルクが入ると、全員が入り口に目線が集中して、
『お疲れ様です』
全員が頭を下げて挨拶をする。
「.....凄いな」
アルフはもうここを家と考えるのを辞めたらしい。目の前では机で囲み飲んで騒いでいる者もいれば、前衛の恰好をする重装備の人と、後衛の魔法使いのローブを着た人が話し合っている場面もある。
「一階は男女共同で入れる所で、ここではお酒も飲めるし、ご飯も無料で食べれる。それに自分達の冒険活動について振り返る為にここで話すのもいいだろう」
マルクについて行く形で、アルフ達は行くのだが、凄い視線がアルフ達に浴びさせられる。
「なあ、マルク。どうして俺達こんなに見られてるんだ?」
「多分僕がスカウトしたのが分かったんじゃないかい?」
そう言われて、耳を澄ませると、
「.....あいつが団長にスカウトされた人物だってよ。見た目弱そうだが、もしかして凄い能力でも持ってんのかな?」
「知らねえよ。だが強い事は間違いないだろうな」
(違う!全然違う!俺レベル四で全く弱い一般市民です!)
アルフはようやく状況を悟ったのだろう。
マルクというイグナイトの団長自らスカウトするのは中々無い事なのだ。そんな中選ばれたと分かれば、周りから絶対に強いと思うのは仕方ない。
要するに、アルフはもの凄い期待されているのだ。どれだけの実力があるのかと。
だが、そんな事を知らないマルクは説明を続ける。
「これがイグナイトの一番の目玉だと思うんだけど、この紙に書いてあるのが何か分かるかい?」
マルクはアルフ達を一階の壁にある掲示板に案内する。
「これはパーティの名前かなんかですか?」
「その通りだ。この掲示板は一カ月に一回更新されるんだが、ランキング表だよ。大体パーティで戦ってどれだけ迷宮を潜れたのか、どれだけの魔石を持って帰れたのか、それによって変わるんだ」
そこには百は超えるパーティーの名前が並べられている。
「どうしてこれを作ったんだ?」
「僕達の目的は迷宮踏破をする事だ。この表を基に、最奥の間に行くことが出来るパーティーを考えるんだ」
「......これって反則とかあるんじゃないですか?」
「ガハハ。それは出来んのう」
ヘレナが疑問の言葉を発すると、茶色の髭を顎に生やして、肩まであるであろう茶髪の髪を垂らしながらお酒を飲んで酔っているドワーフの人が現れる。
「ガルド。酔っているな。臭いぞ」
マルクが鼻を摘まみながらしかめっ面になるが、ガルドは気にした様子もなく、
「少々細かいの。別にいいではないか。飲みたいときに飲むのが当たり前じゃ。ガハハ」
「どうして反則出来ないんですか?他のギルドと連携して、魔石を手に入れる事も出来るんじゃないですか?」
「ほお。冒険者に詳しそうに見えんが、結構詳しいのう。嬢ちゃん」
「それほどでもありませんが」
「それでその答えはやっても意味がないじゃ」
どうしてか、アルフも疑問に思った様だ。確かにヘレナの話を聞けば、反則が出来るように見えるのだろう。
「そこにいるマルクが言った通り、この表を基に迷宮探索のメンバーに選ばれる。そこに反則して入ったとしても死ぬのがオチじゃからの。わざわざ死ぬ馬鹿はおらん」
「.....成る程」
アルフもヘレナも納得した。確かに言われてみれば、そんな事をする意味がない。
「まあ、それ以外にも上位陣が強すぎるのもあるからの。反則しても直ぐにバレる。あれには相当強くならんと勝てんぞ」
アルフはガルドの話を聞いて、改めて表を見る。すると、一位と二位には何やら数字が書かれており、圧倒的な差がある。
「凄いですね一位の人は。圧倒的じゃないですか」
「まあ、そうじゃが二位と三位はソロでやっとるからの。この条件も仕方ないんじゃ」
その言葉にアルフは唖然としてしまう。
(どれだけ強い人がこのギルドにはいるんだ?)
話を切り替えようとしたのか、マルクが手を叩く。
「それじゃあ、一階が主だから、二階からは簡単に説明するよ。二階が男子の泊まる部屋で、三階が女子の泊まる部屋になっている。因みに、分かってはいると思うけど男子は三階に行くことは禁止だ。ヘレナ君は予定していなかったから、今はアルフ君と一緒に泊まってもらってもいいかい?」
「別に構いません」
「それじゃあ、簡単に説明したけど、最後に聞きたいことはあるかい?」
「一つだけいいですか?」
ヘレナには質問する事があるようだ。
「何だい?」
「先程のランキングなんですけど、最下位の場合何か罰則とかあるんですか?」
「ああ。一応あるよ。最下位はここの食事をタダでは食べれないんだ。次の更新で順位があがらない限りね」
アルフ達にとって絶望的だったが、アルフも今の言葉で疑問を浮かんだようだ。
「一応って事は大丈夫なのか?」
「ああ。最下位は全然迷宮に潜らないからね」
「.....それっていいんですか?」
「それがね、最下位の人は実力があるんだ。別にここのお店の料金が高くても全然大丈夫なほどにね。だから君達が最下位になる事は殆どないと思っていいから大丈夫だよ」
「俺も質問があるんだが、ここには冒険者しかいないのか?」
「いや、鍛治屋の人もいるし、ポーションを作ってる人もいるよ。そうだ。アルフレッド君ありがとう。忘れていたよ。地下には職人たちが住んでいるんだ。鍛治屋の人に限っては、気に入った人にはタダで武器を作るけど、基本は料金が掛かるから、そこは忘れないようにね」
(この屋敷には地下まであるのか)
アルフは別の事で驚いていた。それほどまでに今までと次元が違うのだろう。
「それじゃあ、最後に重要なイグナイトの基本方針なんだけど、普段は自由に冒険してもらって構わない。ただ、最奥の間を目指す際は全員で行動するから、それだけは忘れないようにね。迷宮探索の時間はまだまだだから、それまでは自由に冒険するといいよ」
「ありがとうマルク。――――いや、もうイグナイトに入ったんだ。よろしくお願いしますマルク団長」
もうイグナイトに入ったのだから敬語はきちんと扱う。
「ありがとうございます」
「アハハ。アルフ君は律儀だね。こちらこそよろしく。ヘレナ君も」
マルクは笑顔でそう言って、自分の部屋に戻って行った。
アルフとヘレナはまだ慣れていないので、自分の部屋に割られた所に入る。そこは四人部屋の大きさを二人で使う状況だ。
「それで、これからどうする?俺的には迷宮探索をしたいと思ってるんだけど」
「全然構わない。私はサポーターをすればいいの?」
「そうだけど、ヘレナって結構冒険者について詳しいのな」
「まあね。偶に本で書いているから知ってるのよ」
アルフが言う迷宮探索とは、【五大迷宮】ではない。
今では誰も入らないと言われている【初心者迷宮】と呼ばれている場所だ。
今の時代では、大抵の冒険者は強い人と冒険し、【五大迷宮】でレベルを上げていくというスタイルだが、アルフにはそれが出来ないので、【初心者迷宮】しか潜れない。
そして、ヘレナが行うサポーターとは、昨日アルフが読んでいた『冒険者の基本』に書かれている、後衛に位置する所であり、戦っている冒険者の支援をしたり、前衛や中衛が戦って落ちた魔石を拾ったり、傷をした者にポーションを渡したりする位置にあたる。
「なあ、ヘレナ」
「どうしたの?」
「何だかワクワクしないか?今から俺達は冒険者としてこのギルドでやっていくんだぞ?」
「全く微塵も。命かけてまでやるなんて普通在り得ないでしょ」
「......そうですか」
やる気だったアルフの気力が少し減った。
だが、それでも【初心者迷宮】には行くことが決定しているのだが、そこでは異変が起きていた。
「ウオオオオオオ!」
初心者迷宮で雄たけびをあげる魔物が一体。どうみても初心者が倒せる魔物ではない。
そんな魔物は夜の中、初心者迷宮をひたすら歩いて行った。
この魔物がアルフにとって、因縁の魔物であるのだが、アルフはまだその事を知る由も無かった。
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