神の力を喰らった魔術師《マジックキャスター》

白葉南瓜

【第13話】逆流の書

 アイルの準備室でアマテラスとシルヴァは覚醒したアイルの姿を見て、驚いていた。
 シルヴァは、ジリキスと同じようにその姿は、魔神かと思っていたが、アマテラスが驚いた理由は、私ではなくカオスを使ったことだ。
 その使った事を、考えていたら一つの結論にたどり着いた。それは《逆流の書・第一節【オーヴァーロード】》。
 アマテラスは、その書の名を無意識に口にしていたらしく、シルヴァが首を捻っていた。

「魔術は、その術式を残すためにそれをまとめた一冊の本になる。それの《逆流の書》に書かれている魔術【オーヴァーロード】」

「な、何ですか!?そんな魔術の名前を私は聞いたことありませんよ!そんな強力な魔術があれば、私の義父様にも入ってくるはずです!」

「なんで、こんなにも強力な魔術が広まんなかったか、それはね...その書は、アイルの父親が死ぬ前に書いたものだからだよ、だから、今の今までアイルの手元にあった」

「後何節まであるんですか?本がかけるってことはいくつかの、節がないと成り立たない」

アマテラスに訊くそのシルヴァの表情には、アイルとアマテラスを疑っているような様子も見えたが、それより何か力を欲しているような感じがしていた。

「この世には、知らなくてもいいことがあるけど...それでも知りたいの?」

シルヴァは少し考えた後にゆっくりと頷いた。


 アイルが、カオスもといオーヴァーロードを使った後は、アイルが一方的にジリキスを殴っていた。ジリキスは、剣でその拳を捌いていたりしているが、攻撃まではいたらなかった。

「王子様よ!さっきまでの威勢は何処行ったよっ!その剣を使ってるなら魔術師ごときに負けられないよな!」

そう言いながら、黒く染まったその拳を振り上げると、それを予測していたようにその拳目掛けて剣を振っる。その剣の攻撃は完全にアイルの右手を宙へ吹き飛ばした。
 だが、吹き飛んだ右手は黒い粒子になって消える。
 アイルに右手を見ると、その散った粒子が集まっていき右手が構成され、先ほどと同じ形になった。

 それからも、アイルの猛攻は止まらず、ジリキスは剣で防ぐしかなかった。

「こんな戦いに意味があるのか?いや、ない...だったら、こんなの終わりにしよう」

アイルがそう呟くと、ジリキスを思いっきり殴り、端の壁にたたきつけた。その壁はクレーターになりその中心に居るジリキスは血を吐いていた。
 ジリキスが、アイルの右腕を見ると、そこには先ほどまで禍々しかった右腕は無く、異様な形の鎧を模した腕になっていた。その鎧はところどころ薄く右腕の中で何かが脈打ってるのが見える。

「我、アイル・インフィニットが命ずる。全てを闇に引きずり込み、その全てを無へと返し、その存在を闇にせよ。汝に命ずる。我に力を、そして彼の者に死以上の恐怖を!《逆流の書・第三節【ナイトメア】》!」

右腕を突き出して、その先にジリキスを捕らえると、その魔術式を発動さした。
 この魔術は、アイルが逆流の書を使ってる時だけ発動できる魔術式だ。その力は強大すぎてアイルのマナを九割使うので、常人が使うと発動もせず、穴と言う穴から、血が噴出してくる程強力な魔術だ。
 その他の条件は、マナが逆流していることが条件になる。マナは、通常は血流と同じ方向へ流れているが逆流の書に示されている物を使うと、マナが活性化しながら逆流すると言う、いわゆる諸刃の剣だ。
 アイルを中心にして、地面に術式が浮いていた。その術式は徐々に光を帯びていき、突き出していた右腕を下げると周りは、真っ暗な闇に包まれた。


 その闇が、晴れるとジリキスはその場で白目をむきながら泡を吹いていた。
 アイルの右腕は、人間の腕に戻ていて、目や頬も元通りに戻っていたが髪の一部分だけ白いままだった。
 そこで、勝者が決定したことが確認でき、国王が席から立ち、「勝者!アイル・インフィニット!」と叫んだ後、周りの観客の雄たけびが響き渡った。
 アイルは、準備室へ戻っていくと、そこからアマテラスと俯いたシルヴァが出てきた。

「シルヴァ、明日から君は僕のものだ。分かったね?」

「ひ、一つだけ約束してください...い、命だけは...」

「それは、分からないな」

アイルがそう言うと、シルヴァは俯いていた顔を勢い良くあげて目を見開いていた。その横で、アマテラスはそのアイルを止めようとしていたが、これは、止まらない事を察したのか諦めて黙っていた。

「君は、たった一人の家族を侮辱した。それが、悪い冗談程度っだったら少しは許せたが、君は何を根拠にアマテラスを『魔女』だって言ったんだ?」

「そ、それは、一度、アイル殿の家に泊まった時に、朝、背中を見たら常人じゃ致命傷じゃすまない傷があったので、それが治せるのは魔女以外ありえない」

「はぁー、そうかーその傷、見られたんだね...それは、誤解をさせたアマテラスも悪いね」

「えっ?私のせい!?」

「そりゃそうでしょ。だって、少し位は警戒してないと...」

アマテラスは、うぅと言いそのまま肩を落としながら準備室へ戻っていった。

「じゃー、僕も一つだけお願いがあるんだけど...いいかな?」

シルヴァは、その事に少し肩をびくつかせながら心の準備をしていた。

「僕と、戦友になって欲しいんだ...ずっと一人で仕事してても楽しくなかったから丁度良いや」

シルヴァは、そんなことかと言いたそうに、視線を送っているがその視線は、流すかのように笑って返した。

「そ、そんなことでいいんですか?もっと他にも、色々と...」

「他には何もいらない...後は、僕って魔術以外、格闘とか無理だからさ...」

そう言いながら、テレポートで移動さしてきた《金色の剣》をシルヴァに渡した。

「この決闘の報酬は、君とその剣...元々は、母の形見なんだけど、使わないより、誰かに使ってもらったほうがその剣も母も喜ぶと思うから」

シルヴァは、困ったように少し半身後ろに下がったが催促するように剣を手に握らした。

「君は、僕の戦友と剣だ。あと、その剣には一部の種族が持つとそれに合わせるようになる様な術式があるんだよ」

シルヴァが、アイルから剣を受け取ると《金色の剣》の周りに金色の粒子が舞い始めた。
 シルヴァは、それに合わせてマナを剣に流し込むと、剣は一層光を増し形を変えていった。その光がなくなる頃には形が変わっていて大剣と言うよりは、カタナのように鋭い形になっていた。

「やっぱりね。《剣の書・第三十五節【金獅子の刀】》何剣の派生から出来るかが分からなかったけど、昔にその《金色の剣》の魔術回路を見たことがあったから、もしかしてと思ったんだ」

そのカタナを、鞘から抜くと鍔は無く手持ちと刃は一直線だった。それ以外の装飾は手持ち近くの刃の上に棘のようなものがあった。
(こんな剣、持ったことが無い。しかも何か不思議な重みがある...これが、剣の記憶?)

「こんな僕だけど、君の事を信用しているからこの剣を渡したんだ。だから、僕の信用と共に受け取ってくれないか?」

「まだまだ未熟ですが、私は貴方の戦友として、剣としてお側に居ます」

「よろしくね。シルヴァ!」

「此方こそよろしくです。アイル」

その会話は、周りには聞えてなくてもそこに友情が出来た事を察した観客の歓声が沸いた。
 だが、その観客の後ろでは、次の闇がうごめいていた。

「いやー、いいねー。此処まで育ってくれてありがと、アイル・インフィニット君...これは、潰し甲斐がありそうに仕上がったね。だけど...あの力カオスは不愉快だ」

そうして、その女は人ごみに紛れて何処かへ姿を消した。

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