日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)
159.閉じていく宇宙
同じような異世界、似たようなシチュエーション。
無限に続く異世界巡業に、俺は常に辟易してきた。
どんな敵であろうと存在していれば滅ぼすことができる。
だけど自分の中に湧きあがってくる『飽き』だけはどうしようもない。
たとえ記憶を封印しようと、先送りにしかならないのだから。
そういう意味で逆萩亮二にとっての最大の敵は、魔王でもクソ神でもなく、食傷だったといえる。
だがしかし。
そんな環境に如実な変化があらわれ始めた。
「あなたを召喚したのは他でもありません……滅びゆく世界を救っていただきたいのです!」
俺を召喚したのは魔王退治を望む王ではない。
みすぼらしいローブを羽織った、しかし、見目麗しい女性が俺にひざまづいている。
ここも王城の一室ではなく、岩肌の露出した洞窟だ。
魔法陣も急ごしらえというか、いささか雑な感じがする。
「わたしの名前はガイア。とある滅びた王国の、元王女です」
「……どういう状況なのか、説明してもらえるか?」
「はい。この世界にはかつて魔王がいました。それがある日、突如として消失したのです」
ああ、やっぱり……と思いつつも続きに耳を傾ける。
「世界を混沌に陥れていた魔王の消失に、最初はみんなが喜びました。しかし……消えたのは魔王や魔族だけではなくて……エルフやドワーフ、ドラゴン、妖精……枚挙に暇がありません。人間も果たしてわたし以外にどれだけ残っているのか……」
魔物や文明がことごとく消失していく……か。
「話はだいたいわかった。頭を上げてくれていい」
『何度目になるかわからない新パターン』だと確信した俺は、顔をあげたガイアに訊ねた。
「最初に聞いておきたい。この世界が何故滅びるのか、理解してるか?」
「い、いえ。それは……残念ながらわからないのです。ですが、此度の召喚魔法は……古代に神より王家へと伝えられた勇者召喚の秘法。きっとこの危機を脱することができると思い――」
「そうか」
この際、その勇者召喚が神の仕込んだ片道切符なのかどうなのかは……どうでもいいだろう。
ガイアの必死さ、真摯さに疑いの余地はない。
「まず、何が起きているか教えよう。この世界は永久った」
「……えっ、えた?」
「永久凍結。動詞化すると永久るだ。早い話が、この世界は神に見捨てられたのさ」
永久凍結。
神が世界の管理をやめることによってあらゆる熱が失われていく現象を、エヴァがそう呼んでいる。
「大前提として、創世神は慈善事業で世界を創造するわけじゃない。一番は信仰が目当てだ。信仰を集めるために星の上に信者が暮らせる世界を創る。ここまではいいか?」
「は、はい。信仰のアクセントに、何故だかとてつもない悪意を感じますが……」
「そこは俺の個人的な感情だから勘弁してくれ。で、だ。世界を創るのだってタダじゃない。膨大な
『魂エネルギー』がいる。だからほとんどの神はより上位の存在から融資を受けるわけだが……今はそいつが滞ってるんだ」
「な、何故……?」
「さあな」
もちろんガフの部屋を俺が破壊したせいだが、もちろんそんな余計な情報は与えない。
「少し前まで信仰を集めれば『魂エネルギー』が振り込まれる状態だった。だから、いろんな世界が乱造されてきた。本来なら消えていくしかないはずの可能性分岐した並行世界も、存在するだけで『魂エネルギー』になった。とにかく信仰さえ集まれば、それでよかったのさ。だけど、そのバブルがはじけた。今までの構造が成立しなくなったら……『魂エネルギー』の無駄遣いはやめるって話になるだろ? だけど、世界を滅ぼすのにもやっぱり『魂エネルギー』が必要だから、神々はベースとなる基幹世界を除いた並行世界を放置して、干すことにしたんだ」
「お待ちください……とてもではありませんが、わたし如きには理解が及びません。つまり、どういうことなのですか?」
「まあ、要するにこの世界は神によって滅ぼされるでもなく、最後の日を迎えるでもなく……その手間すら惜しまれて永久凍結……忘れられたってことだ」
「そ、そんな。ひどすぎます……!」
まあ、そうだ。酷い話ではある。
だけど、ガフの部屋ありきと比べてどっちが酷いのか……正直俺にはわからない。
カネのなる木の実として生育されているのと、神に見放されて天然自然のままに永久るのと。
「本来ならこの世界は消えるしかない。だが、アンタは俺を喚んだ」
ガイアがはっと顔をあげる。
ここはガフの部屋がなければ最初から消えるしかない並行世界だった。
ここに住まうものに落ち度は一切ない。
それに、さすがの俺もガフの破壊者として責任の一端も感じている。
「俺は自分の管理宇宙を持っている。そこに、この世界を加えてもいい。もちろんタダというわけにはいかんが……」
「わ、わたしのすべてを捧げます! どうか……この世界をお救いください!」
「いい覚悟だ。なら、アンタにはこの世界の新たな創世神になってもらうことになる。もちろん信仰はゼロスタートだ。だからとっても苦しいぞ。本当にいいのか?」
「は……はい! どのような代償でも払います!」
ならば、その想い……受け取った。
おもむろにアイテムボックスから世界珠を取り出して語り掛ける。
「もしもし野上シノ、聞こえるかー? 異世界一丁入りまーす」
『えっ、またですか!? 最近多くないです!? 現世幽世増えすぎてパンクしそうなんですけど。マジでヤバいんですけどー!』
「元を正せばお前のせいでもあるんだからな。諦めて責任を取れ」
『おのれサカハギ……おのれーっ!!』
世界を灰燼に帰しそうな呪詛を残らずエネルギーとして吸収しつつ、ぷちっと通信を切った。
「あの……今のは?」
「ん? ああ、これからお前さんの上司になる神の一柱だ。管理宇宙の死者の世界を一手に担ってるからいつも死にそうになってる俺の嫁」
「は、はあ……」
「アンタも他人事ではいられないぞ? 俺を頂点にした万神殿に所属する女神には全員、俺の嫁になってもらわなきゃならない。国生みのためにアンタも俺に抱かれる必要があるからな」
「うっ……嘘じゃない、んですよね? 本当に世界は救われるんですよね!?」
涙目になって自分の体をぎゅっと抱きしめるガイア。
相手の弱みに付け込んで関係を強要する背徳感に思わず舌なめずりしそうになるが、さすがに自重してっと。
「誓う。約束は必ず守ろう」
そう言うと、俺は豪華なダブルベッドを召喚した。
赤面するガイアをベッドまで促すと、彼女はこちらをジッと見上げてくる。
「ど、どうか。優しくしてください……」
「もちろん。俺に任せておけ」
目をきゅっと閉じるガイアに、俺はゆっくりと覆いかぶさった。
なーんてことが多々ありつつも、召喚を繰り返すにつれて『滅びる世界を救ってください案件』も減ってきた。
並行世界が消えたとしても、星そのものが滅びるわけじゃない。
だから星の意思による俺の召喚は行われないし、ガイアのように世界を諦めずにいる人の近くに魔法陣がなければ、俺の出番はない。
回収したよりはるかに多くの並行世界が永久っているはずだ。
だけど、俺からは観測しようもないので……だからせめて俺の出す条件を呑んだ世界はすべて掬い上げることにした。
いつものように高圧的な王族も滅多に現れず、数多の世界が創世神となる女神候補を俺に捧げている。
そして、俺は俺で大きな変化を感じていた。
「だいぶ減ったんだな。異世界……」
魔王を始末した後に出現する魔法陣が長いこと消えずに、俺をこの場に留まらせていた。
位相の近いところに召喚条件が合致する異世界が見つからないのだろう。
もうここも基幹世界を残して、可能性分岐する並行世界がなくなっているのかもしれない。
「となると、俺の旅の終わりも近いのかもな」
ガフの部屋崩壊によって、クソ神宇宙全体の異世界の数もかなり減ったはずだ。
並行世界分岐がないなら、酷過ぎる世界は問答無用で滅ぼすという選択肢も今後は可能になってくる。
とはいえ、基幹世界を容赦なく滅ぼしまくればエヴァからストップがかかることは間違いないはずだし、戦略としても下の下だ。
それに雑で適当な乱造異世界が減るのは、俺にとってメリットのあることだ。
生き残った基幹世界は厳選されているだけあって手応えも真新しさもあるだろう。
「そうだとしても、俺のやることは変わらない」
定型化された召喚パターンが途絶えることはあるまい。
魔王退治の勇者召喚は今後も続くだろう。
そして俺は……まさに次の異世界で初の召喚ケースを経験するのだが――
それは俺じゃなくて、俺の嫁にとっての試練として立ちはだかるのだった。
無限に続く異世界巡業に、俺は常に辟易してきた。
どんな敵であろうと存在していれば滅ぼすことができる。
だけど自分の中に湧きあがってくる『飽き』だけはどうしようもない。
たとえ記憶を封印しようと、先送りにしかならないのだから。
そういう意味で逆萩亮二にとっての最大の敵は、魔王でもクソ神でもなく、食傷だったといえる。
だがしかし。
そんな環境に如実な変化があらわれ始めた。
「あなたを召喚したのは他でもありません……滅びゆく世界を救っていただきたいのです!」
俺を召喚したのは魔王退治を望む王ではない。
みすぼらしいローブを羽織った、しかし、見目麗しい女性が俺にひざまづいている。
ここも王城の一室ではなく、岩肌の露出した洞窟だ。
魔法陣も急ごしらえというか、いささか雑な感じがする。
「わたしの名前はガイア。とある滅びた王国の、元王女です」
「……どういう状況なのか、説明してもらえるか?」
「はい。この世界にはかつて魔王がいました。それがある日、突如として消失したのです」
ああ、やっぱり……と思いつつも続きに耳を傾ける。
「世界を混沌に陥れていた魔王の消失に、最初はみんなが喜びました。しかし……消えたのは魔王や魔族だけではなくて……エルフやドワーフ、ドラゴン、妖精……枚挙に暇がありません。人間も果たしてわたし以外にどれだけ残っているのか……」
魔物や文明がことごとく消失していく……か。
「話はだいたいわかった。頭を上げてくれていい」
『何度目になるかわからない新パターン』だと確信した俺は、顔をあげたガイアに訊ねた。
「最初に聞いておきたい。この世界が何故滅びるのか、理解してるか?」
「い、いえ。それは……残念ながらわからないのです。ですが、此度の召喚魔法は……古代に神より王家へと伝えられた勇者召喚の秘法。きっとこの危機を脱することができると思い――」
「そうか」
この際、その勇者召喚が神の仕込んだ片道切符なのかどうなのかは……どうでもいいだろう。
ガイアの必死さ、真摯さに疑いの余地はない。
「まず、何が起きているか教えよう。この世界は永久った」
「……えっ、えた?」
「永久凍結。動詞化すると永久るだ。早い話が、この世界は神に見捨てられたのさ」
永久凍結。
神が世界の管理をやめることによってあらゆる熱が失われていく現象を、エヴァがそう呼んでいる。
「大前提として、創世神は慈善事業で世界を創造するわけじゃない。一番は信仰が目当てだ。信仰を集めるために星の上に信者が暮らせる世界を創る。ここまではいいか?」
「は、はい。信仰のアクセントに、何故だかとてつもない悪意を感じますが……」
「そこは俺の個人的な感情だから勘弁してくれ。で、だ。世界を創るのだってタダじゃない。膨大な
『魂エネルギー』がいる。だからほとんどの神はより上位の存在から融資を受けるわけだが……今はそいつが滞ってるんだ」
「な、何故……?」
「さあな」
もちろんガフの部屋を俺が破壊したせいだが、もちろんそんな余計な情報は与えない。
「少し前まで信仰を集めれば『魂エネルギー』が振り込まれる状態だった。だから、いろんな世界が乱造されてきた。本来なら消えていくしかないはずの可能性分岐した並行世界も、存在するだけで『魂エネルギー』になった。とにかく信仰さえ集まれば、それでよかったのさ。だけど、そのバブルがはじけた。今までの構造が成立しなくなったら……『魂エネルギー』の無駄遣いはやめるって話になるだろ? だけど、世界を滅ぼすのにもやっぱり『魂エネルギー』が必要だから、神々はベースとなる基幹世界を除いた並行世界を放置して、干すことにしたんだ」
「お待ちください……とてもではありませんが、わたし如きには理解が及びません。つまり、どういうことなのですか?」
「まあ、要するにこの世界は神によって滅ぼされるでもなく、最後の日を迎えるでもなく……その手間すら惜しまれて永久凍結……忘れられたってことだ」
「そ、そんな。ひどすぎます……!」
まあ、そうだ。酷い話ではある。
だけど、ガフの部屋ありきと比べてどっちが酷いのか……正直俺にはわからない。
カネのなる木の実として生育されているのと、神に見放されて天然自然のままに永久るのと。
「本来ならこの世界は消えるしかない。だが、アンタは俺を喚んだ」
ガイアがはっと顔をあげる。
ここはガフの部屋がなければ最初から消えるしかない並行世界だった。
ここに住まうものに落ち度は一切ない。
それに、さすがの俺もガフの破壊者として責任の一端も感じている。
「俺は自分の管理宇宙を持っている。そこに、この世界を加えてもいい。もちろんタダというわけにはいかんが……」
「わ、わたしのすべてを捧げます! どうか……この世界をお救いください!」
「いい覚悟だ。なら、アンタにはこの世界の新たな創世神になってもらうことになる。もちろん信仰はゼロスタートだ。だからとっても苦しいぞ。本当にいいのか?」
「は……はい! どのような代償でも払います!」
ならば、その想い……受け取った。
おもむろにアイテムボックスから世界珠を取り出して語り掛ける。
「もしもし野上シノ、聞こえるかー? 異世界一丁入りまーす」
『えっ、またですか!? 最近多くないです!? 現世幽世増えすぎてパンクしそうなんですけど。マジでヤバいんですけどー!』
「元を正せばお前のせいでもあるんだからな。諦めて責任を取れ」
『おのれサカハギ……おのれーっ!!』
世界を灰燼に帰しそうな呪詛を残らずエネルギーとして吸収しつつ、ぷちっと通信を切った。
「あの……今のは?」
「ん? ああ、これからお前さんの上司になる神の一柱だ。管理宇宙の死者の世界を一手に担ってるからいつも死にそうになってる俺の嫁」
「は、はあ……」
「アンタも他人事ではいられないぞ? 俺を頂点にした万神殿に所属する女神には全員、俺の嫁になってもらわなきゃならない。国生みのためにアンタも俺に抱かれる必要があるからな」
「うっ……嘘じゃない、んですよね? 本当に世界は救われるんですよね!?」
涙目になって自分の体をぎゅっと抱きしめるガイア。
相手の弱みに付け込んで関係を強要する背徳感に思わず舌なめずりしそうになるが、さすがに自重してっと。
「誓う。約束は必ず守ろう」
そう言うと、俺は豪華なダブルベッドを召喚した。
赤面するガイアをベッドまで促すと、彼女はこちらをジッと見上げてくる。
「ど、どうか。優しくしてください……」
「もちろん。俺に任せておけ」
目をきゅっと閉じるガイアに、俺はゆっくりと覆いかぶさった。
なーんてことが多々ありつつも、召喚を繰り返すにつれて『滅びる世界を救ってください案件』も減ってきた。
並行世界が消えたとしても、星そのものが滅びるわけじゃない。
だから星の意思による俺の召喚は行われないし、ガイアのように世界を諦めずにいる人の近くに魔法陣がなければ、俺の出番はない。
回収したよりはるかに多くの並行世界が永久っているはずだ。
だけど、俺からは観測しようもないので……だからせめて俺の出す条件を呑んだ世界はすべて掬い上げることにした。
いつものように高圧的な王族も滅多に現れず、数多の世界が創世神となる女神候補を俺に捧げている。
そして、俺は俺で大きな変化を感じていた。
「だいぶ減ったんだな。異世界……」
魔王を始末した後に出現する魔法陣が長いこと消えずに、俺をこの場に留まらせていた。
位相の近いところに召喚条件が合致する異世界が見つからないのだろう。
もうここも基幹世界を残して、可能性分岐する並行世界がなくなっているのかもしれない。
「となると、俺の旅の終わりも近いのかもな」
ガフの部屋崩壊によって、クソ神宇宙全体の異世界の数もかなり減ったはずだ。
並行世界分岐がないなら、酷過ぎる世界は問答無用で滅ぼすという選択肢も今後は可能になってくる。
とはいえ、基幹世界を容赦なく滅ぼしまくればエヴァからストップがかかることは間違いないはずだし、戦略としても下の下だ。
それに雑で適当な乱造異世界が減るのは、俺にとってメリットのあることだ。
生き残った基幹世界は厳選されているだけあって手応えも真新しさもあるだろう。
「そうだとしても、俺のやることは変わらない」
定型化された召喚パターンが途絶えることはあるまい。
魔王退治の勇者召喚は今後も続くだろう。
そして俺は……まさに次の異世界で初の召喚ケースを経験するのだが――
それは俺じゃなくて、俺の嫁にとっての試練として立ちはだかるのだった。
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