日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)

epina

158.嫁の喧嘩は異世界を食らう

「ふーん。シアンヌさんって、その程度の力でリョウのお嫁さんになったの?」
「ハッ、コウとか言ったな、人間風情。その生意気な口、二度と叩けんよう顎を引き抜いてやる!」

 それは、とある異世界でのこと。
 くだらないやりとりに端を発した嫁同士の諍いが、血を血で洗う凄惨な殺し合いに発展した。

「いいか、これはあくまで練習試合だ。喧嘩じゃないからハーレムルール違反じゃない。そういう前提だし、エヴァにもそう説明する。まぁ……死んでも生き返らせてやるから、好きなだけ殺し合え」

 しばらく一緒に連れ歩いてみたが、一向に和解する様子がなく。
 いい加減、仲裁するのが面倒くさくなった俺の宣言により、召喚の間で死闘が始まったのだ。
 こういうのは一回ぐらい決着をつけた方がいい。

「な、仲間同士で争っている場合ではないのだ! 魔王の脅威はすぐそこにまで迫って――」

 俺たちを召喚したどこかの国の王の首がスパッと飛んだ。
 王の影から現れたモンスターが高笑いをあげる。

「ふわーはっはっは! 勇者召喚と聞いて来てみれば仲間割れとは好都合! 闘魔六方陣がひとり“蠢影の”サルビオール様が全員まとめて――」
「そこじゃーま!」
「どけっ、木偶の坊!」

 魔王軍の幹部と思しきモンスターが嫁同士の喧嘩に巻き込まれて四散した。

「せめて決着つくまで見てればよかったのに」

 転がってきた生首をグシャリと踏みつぶしながらフェアチキをかじる。

「わかっちゃいたけど、コウとシアンヌの相性は最悪かー」

 コウを嫁にしてから2ヵ月が経過している。
 そろそろ同期の嫁と引き合わせる時期だったので、ひとりずつ会わせていた。
 イツナとステラちゃんは何も問題がなかった。まあ、このふたりは誰とでも仲良くするので心配してなかったけど。

 案の定、シアンヌは駄目だった。
 ただでさえ自分が戦闘力的に置いて行かれる焦りから貪欲になっているので、コウじゃなくても駄目だったろうけど。
 最初は友好的に接していたコウもあからさまに自分を下に見てくるシアンヌに対してブチ切れてしまったのだ。

 当然のことだけど、殺人鬼と人間嫌いの魔族であるふたりに、周囲の異世界人を巻き込まないなんて配慮は一切ない。
 逃げ遅れた兵士や召喚士たちがバラバラに切り刻まれたり、爆発したりしている。
 ま、召喚魔法に奴隷化術式を混ぜてるような連中だったし、どっちみち俺が手を下していただろうけど。

 チートの数の分だけシアンヌが押しているが、しぶとさではコウが上だ。
 どちらが勝つかは、時の運といったところか。

「また再生か! 貴様、本当に人間なのか!?」
「ふっふーん、そう簡単にはやられないよ?」
「チッ……心臓を爆弾に変えられれば……!」
「見つけられるかな? 位置はいくらでも変えられるからね~。そんなことより――」

 両手両足を爆破されたコウは、無数の肉触手でシアンヌを攻撃する赤黒い塊と化していた。
 もはや誰がどう見ても人外の化け物である。

「よくもリョウの前でこんな醜い姿にしてくれたね! 絶対に許さないよ!」

 一応、コウも女の子として気にしてはいるらしい。
 大丈夫大丈夫、ハスターって黄色い奴を滅ぼして寝取ったもっとすごい邪神嫁もいるからね。
 シュブニグラスっていうんだけど。

「ええい、かくなる上は!」

 シアンヌが一際巨大な爆弾球体を作り出した。
 なるほど、再生する前にコウの全身を一度に吹き飛ばそうという魂胆か。

「させるかぁー!」

 突っ込んでいくコウ。
 次の瞬間、王城は光に包まれ……跡形もなく消滅するのだった。




「うーん、シアンヌは自爆。コウも消滅。両者死亡で引き分け……」

 ふたりを蘇生させて封印珠に入れた後。
 その世界の魔王の首を念動力でねじ切って玩具にしながら、俺は次の召喚陣の上でひとり悩んでいた。

 もともと俺が同時に出す嫁を選抜しているのは、嫁同士の無駄な諍いを減らすためだ。
 基本的に同期の嫁しか同時に出さないようにしているし、エヴァにもその条件で承知させている。
 一応エヴァと会わせて問題ないようであれば、他の嫁と会わせても大丈夫という基準は成り立つが。

 ただ、同期のシアンヌと仲が悪いとなるとエヴァがどう見るかなぁ……。
 まだしばらく先送りできるけど、いつまでも会わせないわけにもいかないし。

「やっぱ、コウをリリースするしかないのかな」

 どちらを優先するかと言われれば、やはり前任のシアンヌだ。
 もとからコウはリリースを見越した上で嫁にしているわけだし。
 どれだけやらせても死闘の末に友情が生まれる……ことはなさそうだな。あのふたりだと。

「まあ、まだ決めなくてもいいか」

 別にあと一年ぐらいは猶予期間があってもいいだろう。
 同時に出さないようにすればいいだけだ。
 出会って喧嘩しなければハーレムルール違反にはならないし。




 そんな風に思っていた時期が俺にもありました。

「コウを出せ」
「シアンヌを出してよ」

 んー、何故でしょう?
 どちらか片方を連れていると、もう片方を封印珠から出すように言われるんですけど。
 顔を合わせれば互いに悪態を吐き、俺公認の『試合』に発展するのは何一つ変わらないのに。


 そういうわけで、互いがいないときにひとつずつインタビューしてみた。


――どうして仲が悪い相手を表に出すように言うんだ?

「気づいていると思うが、最近の私はストレスが溜まっていてな。なかなか発散する機会がなかった。あの女だったら、イツナやステラと違って何の遠慮もなく殴れる。自分がどれぐらい強くなったかを測る指標としてちょうどいい。サカハギ、お前と違ってな!」
「僕は別にシアンヌのことはどうとも思ってないよ。でも、向こうが突っかかってくるからさ。こっちが歩み寄ろうとしても反故にしてくるし、カチンと来るじゃん? だからと言って会わないように避けてると僕が逃げたみたいで嫌だし。だからかな(笑)」


――互いに実は認め合ったり、友情を感じていたりは?

「それはない」
「それだけは絶対ない(笑)」


――相手のことをどう思っているんだ?

「サンドバッグだ」
「からかうと面白い(笑)」


――最後に相手に一言。

「私はお前が気に食わん。次も殺す」
「僕は別にシアンヌを憎んだりしてないよ(笑) でも殺すから」


――ありがとうございました。

「……これはいったい何の茶番だったんだ?」
「なんか雑誌記事のインタビューみたいで面白かった(笑)」




「……なるほど。それでこの報告書をわたくしに」

 俺がまとめた書類をめくりながら、エヴァが「ふぅ」と息を吐いた。

「どうだ? ハーレムルール的に」
「ギリギリアウト……と言いたいところですが、まあ他のメンバーの迷惑にならないのであればよしとしましょう。ルール4はハーレムそのものの崩壊を防ぐためのルールですから。そういうことにはならなさそうですし」

 ルール4は『俺には既に何人か嫁がいる。そいつらと仲良くやれ』だ。

 人間的な尺度だと仲良くやっている、と言えないこともない。
 とはいえエヴァに認めてもらえるかどうかはわからなかった。
 エヴァの俺に対するダダ甘さに全振りしたギャンブルである。
 まあ、勝てると思ったから実行に移したのだけど。

「それにしても、わたくしが眠っている間にお父様の宇宙が随分と様変わりしたものですね」

 ガフの部屋の崩壊。
 人造転生者の乱造。
 メガミクランの蠢動。

 事のついでに、俺はクソ神と話して明らかになった事実をエヴァにも共有していた。
 
「どうする? 奴は……圃馬英二はお前を狙ってるみたいだが」
「別に何も。こちらから動けば捕捉されるでしょうし。マスターと行動を共にして現状を維持するのがよろしいでしょう。そんなことよりガフの部屋の方が問題です」
「や、やっぱ怒ってる?」
「いえ、マスターのことですからいずれガフの部屋は破壊されたでしょう。ただ、宇宙のルールを維持するというわたくしの本来の役割からすると、やらなくてもいい仕事が増えたという感じでしょうか。少なくともガフの再建までの幽世の合法化は必須でしょう。わたくしの使い魔に通達を――」
「あ、エッグメイカーにも俺が引導を渡しちゃった。てへ」
「…………どうしてそれをもっと早くおっしゃらなかったのですか」

 げ、エヴァが真顔になった。

「ああ、もう。やったならやったで、すぐにおっしゃってくれればまだよかったものを。ああ、無理ですね。わたくしとの接続も切れて……いや、これは。マスター、結果論に過ぎませんがどうやらマスターの行動は正解だったようです」
「お?」
「圃馬はどうやらわたくしの使い魔を介して、こちらに接触を試みようとしていたようですね。マスターが先手を打ってくれたおかげで助かりました」

 ああ、俺の勘が何故か当たっているっていう、いつものやつだな。
 俺の行動を結果オーライだと馬鹿にする奴もいるが、そういうのはたいてい因果の流れが見えてない連中だ。気にすることはない。
 まあ、俺にも別に見えてるわけではないのだが。

「では、どのみちガフの部屋は捨てざるを得なかったわけですね。ルールの再構築がたくさん必要です。ああ、マスター……これがどれだけ大変な作業か、おわかりになりますか?」
「い、いや……」
「そういうわけで、わたくしはマスターのせいでやらないといけなくなった膨大な作業を行なうために、しばらく封印珠ではなく表の方に出ておきますので。マスターは責任を取ってわたくしと逢瀬を過ごすこと。よろしいですね?」

 にっこりと笑うエヴァ。

「お、おう。任せとけ……」

 無論、負い目のある俺に否やがあろうはずもない。
 力なく頷くしかなかった。

「次の異世界の幽世の再建、間に合ってるかなぁ。いや、冥府ごと消えたら意味ないか……」

 ああ、どうやらシアンヌとコウの喧嘩に巻き込まれた奴らは、まだマシだったらしい。
 俺にしては珍しいことに、これから巡るであろう運のない異世界人たちに祈りを捧げるのだった。

コメント

  • 炙りサーモン

    エヴァさん最強

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