日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)
52.幻のダウンロードコンテンツ
用務員室で起床した俺はフェアチキと豆乳で軽めの朝食を済ませると、女子寮に向かった。
寮長に遭遇したものの催眠魔法で無力化し、計画通りに隠しカメラと盗聴器をすべての部屋に備え付ける。
これで今夜からは貴族娘たちの寝姿をたっぷり愉しむことができるだろう。
「へへへ、ネタが集まるのが楽しみだぜ」
鬼畜な笑みを浮かべつつ用務員室に戻ると、何故か彩奈ちゃんが待ち受けていた。
「まったく、どこに行ってたのよ」
「ああ、野暮用でな。なんでここに?」
「アンタが用務員やってるって言ってたからでしょ」
ぶすっとむくれる彩奈ちゃん。
そういや説明したっけ。
隠しカメラと盗聴器のことは秘密にしてあるけど。
「それで、どうだった?」
「角のせいで人外だと思われたから最初はちょっとてこずったけど。転生者だって話をしたら割と早かったわ」
まあ、悪役令嬢の立場を考えれば自分と同じ境遇の味方は心強いだろうしな。
「結論だけ先に言うと、彼女はこの先起こることに関して……ほとんど何も知らなかったってことになるかな」
「どういうことだ?」
嘆息する彩奈ちゃんにお茶を出しながら、先を促してみる。
「まず、この異世界は『胸キュン☆イケメン王子様!』っていう乙女ゲー……略して『胸イケ』の世界みたいね。残念ながらあたしの聞いたことのないタイトルだったけど、展開は王道よ。異世界にトリップしたヒロインがなんやかんやあって貴族の学園に通うようになって、そこでいろんな男と出会って玉の輿するっていうやつ」
なんか、聞いてるだけで胸イケっていうか胸ヤケしそうな展開なんだが。
一体何が面白いんだ?
「で、セリーナ=ブロンシュネージュはお察しのとおりヒロインを邪魔してくる悪役令嬢。メイン攻略対象であるアレックス=オーヴァンの婚約者ね」
ああ、アレ王子ね。
あいつがメイン攻略対象とかいろいろ終わってないか、胸ヤケ。
「今はそのアレンルートのラストだろうって。婚約破棄するシーンがあるのはアレンだけで、その宣言を一度保留させる選択肢が出るのもアレンルートだけらしいから」
「ふーん……なんで保留する選択肢なんてものが出るんだ?」
「エンディングの分岐に関わるからよ」
彩奈ちゃんが難しい顔をして指を2本立てた。
「婚約破棄を通した場合、その場でセリーナ=ブロンシュネージュはボロを出し今までの罪を悔いて、ゲームから退場。末路については語られすらしない。そのままアレンと結婚するエンディングまで時間が飛ぶんですって」
彩奈ちゃんの中指が折られる。
「そして……今通っている婚約破棄保留ルート。こっちの場合、セリーナは死ぬわ」
「は?」
婚約破棄を保留したら死ぬ? どういうこった。
「卒業式はパーティーの1週間後。実際に2度目の婚約破棄を叩きつけるまで猶予を与えることになるんだけど、実を言うとノベルパートはほとんどないらしいの。そこで語られる内容はこの一文に集約されるわ」
――セリーナ=ブロンシュネージュは卒業式を待つことなく、事故死した。
「はぁぁぁ? なんじゃそら、意味がわからん」
俺なら確実に画面叩き割るぞ、そんなの見たら。
彩奈ちゃんが残った人差し指を折りつつ、得意顔で解説してくれた。
「いわゆるザマァ展開というやつね。この後、卒業式に後味の悪い雰囲気が流れてアレンとは結ばれずに終わり。この失敗エンドのせいで公式サイトの掲示板が炎上したみたい。でね、婚約破棄保留ルートの真相はダウンロードコンテンツで追加される予定だった隠しキャラ用のルートらしいの」
「ダウンロードコンテンツねぇ」
つまり発売時点では実装されなかったシナリオが入る部分だったってことか。
そこでセリーナの死の真相がわかるとか、そんな感じかね。
「隠しキャラは人気キャラでありながら攻略ルートの存在しなかった第二王子ドレイク=オーヴァンが有力だったらしいけど、これは公式サイドが否定してるからまったく別のキャラが用意されてたみたいね。でも、結局このダウンロードコンテンツは実装されることなくサービス終了……幻のまま立ち消えた」
ひでぇな胸ヤケ。
ライターが途中で逃げてるだろ、それは。
「……つまり、セリーナにも自分が1週間の間に何らかの形で事故死する……ってことしかわからないってことか」
協力してもらうつもりだったけど、これじゃあ先に導いてもらうってわけにもいかないな。
「ええ。とりあえず、一旦セリーナには元の生活に戻ってもらうことにしたわ」
お茶をすする彩奈ちゃんがやけに呑気に見える。
「おいおい、そんなことして大丈夫なのか?」
「アンタ、本当に寝ぼけてるの? つまり、こういうことよ」
彩奈ちゃんはビシッと俺を指差して、こう言った。
「アンタを召喚したのはセリーナ=ブロンシュネージュ。誓約はズバリ『自分を死の運命から救ってほしい』よ。だからアンタが守ってあげなさい」
……ふーむ。
確かに一見筋は通るんだけど。
でも、それだと矛盾があるんだよなぁ……。
「あと気になったのは……ヒロインの性格がだいぶ違うって言ってたことかしら」
っと、彩奈ちゃんの話はまだ終わってなかったらしい。
「ヒロインの性格?」
「白海蓮実。まあ、デフォルトネームとは違うから別人なのかもしれないけど」
ヒロイン、ヒロイン。
あっ。
「……そうだ、思い出したぞ。俺が今まで歩いた7つの悪役令嬢の異世界全部。ヒロインの中身もプレイヤーだったんだ」
つまり、ヒロインの姿をしてるけど中身は別人ということだ。
まったく、なんでこんな肝心なことを忘れていたんだ。
俺の呟きを聞いた彩奈ちゃんが考え込むように顎に指をあてる。
「ということは、ヒロインもセリーナと同じ情報を持ってるってことよね。じゃあ、白海蓮実の目的って……幻のDLCルートの開拓?」
空白の1週間。
悪役令嬢の謎の死。
原作と性格の違うヒロイン。
「……面白くなってきたじゃねーか」
ようやく俺が呼ばれた理由の片鱗が見えてきやがった。
要するにコイツはまともな悪役令嬢の異世界なんかじゃない。
公式が半ば放り捨てた未完のゲームを、どこかの創世神が再現したものなのだ。
悪役令嬢とヒロイン、それぞれに日本人の魂を吹き込んだのも……おそらくは乙女ゲー創世神。
当然この異世界を作っているからには、神自身も胸ヤケのプレイヤーだ。
ひょっとすると、自らの手で完成させられなかった物語を転生者たちに紡いでもらおうという意図があるのかもしれない。
その空隙の始まりと同時に召喚された俺という存在。
そいつは果たして偶然か?
「ありがとう。おかげで方針が決まった」
今までは何かの間違いで俺が紛れ込んだだけのような気がして迷いがあった。
しかし、どんな形であれ召喚される必然性があるというのなら、ここは俺の領域。
いつもどおり、思うがまま、すべてを破壊するだけでいいということ。
「そう? あ、ところであたしはいつ帰れるの?」
「あー、いつでもいいぞ? なんなら俺が召喚されると同時に自動送還するようにしとく」
「ほーい、それでいいや。あたしはせっかくだから学園の生徒のフリとかしてみる!」
変身魔法を使って学園の制服姿の女子になる彩奈ちゃん。
もちろん角もきれいさっぱりなくなっている。
「じゃあねー!」
ウキウキした笑顔を振りまきつつ、彩奈ちゃんは用務員室を飛び出していった。
あの分だと、いい感じに学園ヒロインのひとりとして溶け込めそうだ。
彩奈ちゃんの気配が遠ざかったのを確認してから腰を上げる。
本棚の本を一部ずらすと、地下通路の入口がぱっくりと開いた。
「乙女ゲーよ。確かに俺はお前の物語を、展開を、ロジックを知らない。だけど同じノベルゲーである以上……エロゲーの理論も通用するはずなんだよ」
螺旋階段を一歩一歩踏みしめながら、サディスティックな想像で脳を掻き立てる。
「未完成女性向け恋愛ゲーム。お前を完成させてやるよ……この俺、用務員サカハギがな!」
乙女ゲー世界を創世した神よ、残念だったな。
俺が来た以上、お前の願望は実らない。
ビッチハンター逆萩の異名が伊達ではないことを思い知るがいい!
寮長に遭遇したものの催眠魔法で無力化し、計画通りに隠しカメラと盗聴器をすべての部屋に備え付ける。
これで今夜からは貴族娘たちの寝姿をたっぷり愉しむことができるだろう。
「へへへ、ネタが集まるのが楽しみだぜ」
鬼畜な笑みを浮かべつつ用務員室に戻ると、何故か彩奈ちゃんが待ち受けていた。
「まったく、どこに行ってたのよ」
「ああ、野暮用でな。なんでここに?」
「アンタが用務員やってるって言ってたからでしょ」
ぶすっとむくれる彩奈ちゃん。
そういや説明したっけ。
隠しカメラと盗聴器のことは秘密にしてあるけど。
「それで、どうだった?」
「角のせいで人外だと思われたから最初はちょっとてこずったけど。転生者だって話をしたら割と早かったわ」
まあ、悪役令嬢の立場を考えれば自分と同じ境遇の味方は心強いだろうしな。
「結論だけ先に言うと、彼女はこの先起こることに関して……ほとんど何も知らなかったってことになるかな」
「どういうことだ?」
嘆息する彩奈ちゃんにお茶を出しながら、先を促してみる。
「まず、この異世界は『胸キュン☆イケメン王子様!』っていう乙女ゲー……略して『胸イケ』の世界みたいね。残念ながらあたしの聞いたことのないタイトルだったけど、展開は王道よ。異世界にトリップしたヒロインがなんやかんやあって貴族の学園に通うようになって、そこでいろんな男と出会って玉の輿するっていうやつ」
なんか、聞いてるだけで胸イケっていうか胸ヤケしそうな展開なんだが。
一体何が面白いんだ?
「で、セリーナ=ブロンシュネージュはお察しのとおりヒロインを邪魔してくる悪役令嬢。メイン攻略対象であるアレックス=オーヴァンの婚約者ね」
ああ、アレ王子ね。
あいつがメイン攻略対象とかいろいろ終わってないか、胸ヤケ。
「今はそのアレンルートのラストだろうって。婚約破棄するシーンがあるのはアレンだけで、その宣言を一度保留させる選択肢が出るのもアレンルートだけらしいから」
「ふーん……なんで保留する選択肢なんてものが出るんだ?」
「エンディングの分岐に関わるからよ」
彩奈ちゃんが難しい顔をして指を2本立てた。
「婚約破棄を通した場合、その場でセリーナ=ブロンシュネージュはボロを出し今までの罪を悔いて、ゲームから退場。末路については語られすらしない。そのままアレンと結婚するエンディングまで時間が飛ぶんですって」
彩奈ちゃんの中指が折られる。
「そして……今通っている婚約破棄保留ルート。こっちの場合、セリーナは死ぬわ」
「は?」
婚約破棄を保留したら死ぬ? どういうこった。
「卒業式はパーティーの1週間後。実際に2度目の婚約破棄を叩きつけるまで猶予を与えることになるんだけど、実を言うとノベルパートはほとんどないらしいの。そこで語られる内容はこの一文に集約されるわ」
――セリーナ=ブロンシュネージュは卒業式を待つことなく、事故死した。
「はぁぁぁ? なんじゃそら、意味がわからん」
俺なら確実に画面叩き割るぞ、そんなの見たら。
彩奈ちゃんが残った人差し指を折りつつ、得意顔で解説してくれた。
「いわゆるザマァ展開というやつね。この後、卒業式に後味の悪い雰囲気が流れてアレンとは結ばれずに終わり。この失敗エンドのせいで公式サイトの掲示板が炎上したみたい。でね、婚約破棄保留ルートの真相はダウンロードコンテンツで追加される予定だった隠しキャラ用のルートらしいの」
「ダウンロードコンテンツねぇ」
つまり発売時点では実装されなかったシナリオが入る部分だったってことか。
そこでセリーナの死の真相がわかるとか、そんな感じかね。
「隠しキャラは人気キャラでありながら攻略ルートの存在しなかった第二王子ドレイク=オーヴァンが有力だったらしいけど、これは公式サイドが否定してるからまったく別のキャラが用意されてたみたいね。でも、結局このダウンロードコンテンツは実装されることなくサービス終了……幻のまま立ち消えた」
ひでぇな胸ヤケ。
ライターが途中で逃げてるだろ、それは。
「……つまり、セリーナにも自分が1週間の間に何らかの形で事故死する……ってことしかわからないってことか」
協力してもらうつもりだったけど、これじゃあ先に導いてもらうってわけにもいかないな。
「ええ。とりあえず、一旦セリーナには元の生活に戻ってもらうことにしたわ」
お茶をすする彩奈ちゃんがやけに呑気に見える。
「おいおい、そんなことして大丈夫なのか?」
「アンタ、本当に寝ぼけてるの? つまり、こういうことよ」
彩奈ちゃんはビシッと俺を指差して、こう言った。
「アンタを召喚したのはセリーナ=ブロンシュネージュ。誓約はズバリ『自分を死の運命から救ってほしい』よ。だからアンタが守ってあげなさい」
……ふーむ。
確かに一見筋は通るんだけど。
でも、それだと矛盾があるんだよなぁ……。
「あと気になったのは……ヒロインの性格がだいぶ違うって言ってたことかしら」
っと、彩奈ちゃんの話はまだ終わってなかったらしい。
「ヒロインの性格?」
「白海蓮実。まあ、デフォルトネームとは違うから別人なのかもしれないけど」
ヒロイン、ヒロイン。
あっ。
「……そうだ、思い出したぞ。俺が今まで歩いた7つの悪役令嬢の異世界全部。ヒロインの中身もプレイヤーだったんだ」
つまり、ヒロインの姿をしてるけど中身は別人ということだ。
まったく、なんでこんな肝心なことを忘れていたんだ。
俺の呟きを聞いた彩奈ちゃんが考え込むように顎に指をあてる。
「ということは、ヒロインもセリーナと同じ情報を持ってるってことよね。じゃあ、白海蓮実の目的って……幻のDLCルートの開拓?」
空白の1週間。
悪役令嬢の謎の死。
原作と性格の違うヒロイン。
「……面白くなってきたじゃねーか」
ようやく俺が呼ばれた理由の片鱗が見えてきやがった。
要するにコイツはまともな悪役令嬢の異世界なんかじゃない。
公式が半ば放り捨てた未完のゲームを、どこかの創世神が再現したものなのだ。
悪役令嬢とヒロイン、それぞれに日本人の魂を吹き込んだのも……おそらくは乙女ゲー創世神。
当然この異世界を作っているからには、神自身も胸ヤケのプレイヤーだ。
ひょっとすると、自らの手で完成させられなかった物語を転生者たちに紡いでもらおうという意図があるのかもしれない。
その空隙の始まりと同時に召喚された俺という存在。
そいつは果たして偶然か?
「ありがとう。おかげで方針が決まった」
今までは何かの間違いで俺が紛れ込んだだけのような気がして迷いがあった。
しかし、どんな形であれ召喚される必然性があるというのなら、ここは俺の領域。
いつもどおり、思うがまま、すべてを破壊するだけでいいということ。
「そう? あ、ところであたしはいつ帰れるの?」
「あー、いつでもいいぞ? なんなら俺が召喚されると同時に自動送還するようにしとく」
「ほーい、それでいいや。あたしはせっかくだから学園の生徒のフリとかしてみる!」
変身魔法を使って学園の制服姿の女子になる彩奈ちゃん。
もちろん角もきれいさっぱりなくなっている。
「じゃあねー!」
ウキウキした笑顔を振りまきつつ、彩奈ちゃんは用務員室を飛び出していった。
あの分だと、いい感じに学園ヒロインのひとりとして溶け込めそうだ。
彩奈ちゃんの気配が遠ざかったのを確認してから腰を上げる。
本棚の本を一部ずらすと、地下通路の入口がぱっくりと開いた。
「乙女ゲーよ。確かに俺はお前の物語を、展開を、ロジックを知らない。だけど同じノベルゲーである以上……エロゲーの理論も通用するはずなんだよ」
螺旋階段を一歩一歩踏みしめながら、サディスティックな想像で脳を掻き立てる。
「未完成女性向け恋愛ゲーム。お前を完成させてやるよ……この俺、用務員サカハギがな!」
乙女ゲー世界を創世した神よ、残念だったな。
俺が来た以上、お前の願望は実らない。
ビッチハンター逆萩の異名が伊達ではないことを思い知るがいい!
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