日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)
39.子供向けの異世界
なんやかんやあって空中庭園でのパーティだ。
ちなみに空中庭園っていうのは城の屋上とかに作られてる庭のこと。
本来なら王族とか貴族がお茶を楽しむ場所であり、時間が夕暮れなこともあって景観もなかなか良い。
城下町での凱旋パーティの後、勇者たちはそのまま導かれるように空中庭園に集まった。
ジャボーン三世の計らいで、今は三天星の勇者やパーティメンバーのみの貸し切りとなっている。
宮廷貴族とかと勇者を会わせないようにしてるあたり、ジャボーン三世もなかなか考えてるな。
「うますぎるぅっ! ありがてぇぇっ!!」
「なにこれ! サイサリスのパスタと全然違うしっ!?」
ズルルッとパスタを吸引していくチー坊とJKちゃん。
音を立てて食べるのはマナー違反だぞー。
ちなみに本場だとナイフでパスタをカットして音を立てないように食べるらしい。俺は普通にフォークにクルクル巻いて食べるけど。
「これがパスタだというのなら、余が食してきたモノは何だったというのじゃ……はぅ」
「ああ、陛下! お気を確かに!」
何故かジャボーン三世が婦人女性みたくフラッと倒れて大臣に介抱されてるが気にしないでおこう。
とにかく俺のボンゴレロッソは大盛況で、あっという間に199皿分が空になってしまった。
俺が想定していたより人数が多かったみたいなので、100皿ほど追加しよう。
しかし、てっきりチー坊はハーレムパーティを築いているのかと思いきや、男も結構な数がいるな。
というか普通に王国騎士団とかっぽい。相手が侵略軍だから軍事行動に勇者を組み入れて運用してんのかもしれん。
「おお、貴方が噂の異世界コック様ですか!」
「こんなにおいしいパスタは食べたことがありません! 感動しました!」
「は、はあ」
目立たず端っこの方に立って観察してたら、その騎士団ズに声をかけられた。
気配を遮断してたわけでもないし、そりゃ見つかるか。
「む、いかん! 近衛騎士団よ、サカハギ殿をお守りするのじゃ!」
「「「「はっ!!」」」」
ジャボーン三世の命令で近衛騎士がすっとんできて、勇者パーティの騎士たちを追い払った。
近衛騎士のひとりが俺に向かって唾を飛ばしてくる。
「サカハギ殿、いけませんぞ。近衛騎士団の護衛範囲から迂闊に出ないようにしてくだされ!」
「え、なんでですか?」
「お忘れか! HP1なんですぞ、貴方は!」
あー、そういえばそういうことになってたんだった。
前線出ないための方便だったけど、やりすぎたかなー。
それにしても、ここの異世界人はいい人が多い。
俺みたいな役立たずステータスはレッテル貼られて追い出されたり処分されたりすることも珍しくないのに。
ステータス偽装したときに城の兵士や冒険者崩れのチンピラや他の勇者メンバーが絡んで来るのはお約束。そんでもって半殺しにするまでが異世界の常識なんだと思ってたよ。
「ひょっとすると、子供向けのゲームが原作の異世界なのかな」
原作なんて言い方をすると誤解されるかもしれないので説明しよう。
実のところ異世界の創世神というのは地球のゲームや小説、マンガに何故か親和性が高い。
永遠の寿命を持て余す神々は人間が開発した遊戯で遊び、無聊を慰める。地球で製作された電源ゲーム、果てはソーシャルゲームを遊ぶ神までいるのだ。
ひどい神だと異世界を管理する役目を忘れてヲタク化し、自分の管轄世界を滅ぼしてしまうことすらある。
だけど、その中からはゲームそのままの異世界をパク……参考にしたいなんて創世神も出てくる。
例えばゲーム製作スタッフ陣の運命を操り偶然を装ってバス事故に遭わせて全員を殺害し、霊魂を招いて自分の使徒に転生させた挙句、殺し合いのゲーム模倣型異世界を作らせたりするクソ神とかね。
たぶんこの異世界はもともと残酷表現なども控えめで、尚且つ記号的わかりやすさを重視した子供向けのゲームだったんじゃないかと思う。
悪趣味な模倣型じゃないから、たぶんアイツは関わってない。
「あ、サカハギさーん!」
おや、見かけないと思ったら反対側にいたのか。
手を振りながらイツナが駆け寄ってきた。
「パスタ、すっごくおいしかった!」
「おお、そうか!」
よしよしと撫でてやると「んーっ!」と謎の鳴き声を発しつつ喜ぶイツナ。
うーん、この小動物的反応……癒されるねぇ。
手を離すと、イツナがムズムズした顔でぼそっと呟いた。
「またちょっといろいろ思い出しちゃった」
「……そうか」
何となく話題を変えたくなった俺は普段は聞かない問いを投げる。
「この世界はどうだ?」
「楽しいよ! 面白い生き物がいっぱいいるし。あっ!」
イツナが庭園のバルコニーに身を乗り出して、夕焼け空を指差した。
「ほら、見て! 夕日だよ!」
俺もイツナの隣に来て稜線に沈みゆく赤を眺める。
異世界らしい個性なんて何もない、地球でも見られそうな普通の夕日だった。
「他の異世界でも見られるだろ」
「えー、ぜんぜん違うのに!」
イツナが頬を膨らませて不服を訴える。
そう言われても俺には違いとかわからんよ。
「うーん。でもこの世界のは裏山の秘密基地から見えたのとよく似てるなー」
「はは、なんじゃそら」
秘密基地とか子供かよ。
いや、子供だった時の話なのか。
イケメンや角刈りと一緒に作ったりしたんかねぇ……。
「なあ、イツナ……」
「サカハギさん! あれ見て!」
突如イツナのおさげがピーンと立った。
両手の親指と人差し指でフレームを象り、イツナの指し示す方向を望遠する。
するとそこに夕日を切り裂く巨大な影が映り込んだ。
無数のプロペラを回転させた途方もなく巨大な艦船が、次元の穴から輝きを伴ってゆっくりとこちらへ舵を切ろうとしている。
「ふーん、次元航行可能な飛行艇。それにあの六芒星の頂点に星マークの紋章……間違いない、アンス=バアル軍だな」
アンス=バアル軍。
俺が旅する異世界にたまーに現れる愉快な仲間たち。異世界侵略を生業にした侵略者どもだ。
主に洗脳モンスターが主力だが人間の軍隊も擁している。結構な数のチート能力者を抱えていて、侵略型異世界の中ではおそらく最大規模。異世界単位で軍を抱えており、その全容は俺にもよくわからない。俺が戦うのはたいてい侵略軍の一部で、ちょっと痛い目に合わせるとすぐ帰ってしまうのだ。
指揮官に尋問したときにご立派な大義とやらをのたまっていたけど、正直どうでもいい。
俺の脳にはストレス解消も兼ねて滅ぼしていい連中としてインプットされている。
とはいえ、今は別にイラついてるわけでもないし、異世界人もいい人たちでストレスもないし、ぶっちゃけ充実してる。
ここはひとつ平和的に退場してもらうとするか。
まずは飛行艇を構成する全個別IDを解析。
飛行艇を一つのオブジェクトとして、強制的にひとつの個別IDを割り当てる。
新たなIDを対象としコンソールコマンド《消失》を入力。
するとアンス=バアル軍の次元航行艇がパッと消え去った。
「あれ?」
「どうした?」
目をコシコシさせるイツナに、わざととぼけて返す。
狐につままれたみたいな顔をしながら、俺を見上げてきた。
「今あそこに、何か飛んでたんだけど……」
「何もいないじゃないか。ほら、チー坊たち呼んでるぞ」
「あ、はぁい! じゃあサカハギさん、またね!」
首を傾げながらも、チー坊たちの下へ駆けていく。
そんなイツナを見送った後、夕日に向き直って肩を竦めた。
「まったく、お呼びじゃないんだよ」
そういえば《消失》で消えた魂はガフに運ばれるんだろうか?
いなかったことになるんだから、そもそも連中は死んですらいないわけだけど。
同じIDを対象に《出現》を入力すればまた同じ座標に現れるだろうけど……まあ、ID忘れたから無理だな。
そこまで考えてから気にしたところで何も意味がないことに気づいて、俺はアイテムボックスから取り出したボンゴレロッソをすすった。
ちなみに空中庭園っていうのは城の屋上とかに作られてる庭のこと。
本来なら王族とか貴族がお茶を楽しむ場所であり、時間が夕暮れなこともあって景観もなかなか良い。
城下町での凱旋パーティの後、勇者たちはそのまま導かれるように空中庭園に集まった。
ジャボーン三世の計らいで、今は三天星の勇者やパーティメンバーのみの貸し切りとなっている。
宮廷貴族とかと勇者を会わせないようにしてるあたり、ジャボーン三世もなかなか考えてるな。
「うますぎるぅっ! ありがてぇぇっ!!」
「なにこれ! サイサリスのパスタと全然違うしっ!?」
ズルルッとパスタを吸引していくチー坊とJKちゃん。
音を立てて食べるのはマナー違反だぞー。
ちなみに本場だとナイフでパスタをカットして音を立てないように食べるらしい。俺は普通にフォークにクルクル巻いて食べるけど。
「これがパスタだというのなら、余が食してきたモノは何だったというのじゃ……はぅ」
「ああ、陛下! お気を確かに!」
何故かジャボーン三世が婦人女性みたくフラッと倒れて大臣に介抱されてるが気にしないでおこう。
とにかく俺のボンゴレロッソは大盛況で、あっという間に199皿分が空になってしまった。
俺が想定していたより人数が多かったみたいなので、100皿ほど追加しよう。
しかし、てっきりチー坊はハーレムパーティを築いているのかと思いきや、男も結構な数がいるな。
というか普通に王国騎士団とかっぽい。相手が侵略軍だから軍事行動に勇者を組み入れて運用してんのかもしれん。
「おお、貴方が噂の異世界コック様ですか!」
「こんなにおいしいパスタは食べたことがありません! 感動しました!」
「は、はあ」
目立たず端っこの方に立って観察してたら、その騎士団ズに声をかけられた。
気配を遮断してたわけでもないし、そりゃ見つかるか。
「む、いかん! 近衛騎士団よ、サカハギ殿をお守りするのじゃ!」
「「「「はっ!!」」」」
ジャボーン三世の命令で近衛騎士がすっとんできて、勇者パーティの騎士たちを追い払った。
近衛騎士のひとりが俺に向かって唾を飛ばしてくる。
「サカハギ殿、いけませんぞ。近衛騎士団の護衛範囲から迂闊に出ないようにしてくだされ!」
「え、なんでですか?」
「お忘れか! HP1なんですぞ、貴方は!」
あー、そういえばそういうことになってたんだった。
前線出ないための方便だったけど、やりすぎたかなー。
それにしても、ここの異世界人はいい人が多い。
俺みたいな役立たずステータスはレッテル貼られて追い出されたり処分されたりすることも珍しくないのに。
ステータス偽装したときに城の兵士や冒険者崩れのチンピラや他の勇者メンバーが絡んで来るのはお約束。そんでもって半殺しにするまでが異世界の常識なんだと思ってたよ。
「ひょっとすると、子供向けのゲームが原作の異世界なのかな」
原作なんて言い方をすると誤解されるかもしれないので説明しよう。
実のところ異世界の創世神というのは地球のゲームや小説、マンガに何故か親和性が高い。
永遠の寿命を持て余す神々は人間が開発した遊戯で遊び、無聊を慰める。地球で製作された電源ゲーム、果てはソーシャルゲームを遊ぶ神までいるのだ。
ひどい神だと異世界を管理する役目を忘れてヲタク化し、自分の管轄世界を滅ぼしてしまうことすらある。
だけど、その中からはゲームそのままの異世界をパク……参考にしたいなんて創世神も出てくる。
例えばゲーム製作スタッフ陣の運命を操り偶然を装ってバス事故に遭わせて全員を殺害し、霊魂を招いて自分の使徒に転生させた挙句、殺し合いのゲーム模倣型異世界を作らせたりするクソ神とかね。
たぶんこの異世界はもともと残酷表現なども控えめで、尚且つ記号的わかりやすさを重視した子供向けのゲームだったんじゃないかと思う。
悪趣味な模倣型じゃないから、たぶんアイツは関わってない。
「あ、サカハギさーん!」
おや、見かけないと思ったら反対側にいたのか。
手を振りながらイツナが駆け寄ってきた。
「パスタ、すっごくおいしかった!」
「おお、そうか!」
よしよしと撫でてやると「んーっ!」と謎の鳴き声を発しつつ喜ぶイツナ。
うーん、この小動物的反応……癒されるねぇ。
手を離すと、イツナがムズムズした顔でぼそっと呟いた。
「またちょっといろいろ思い出しちゃった」
「……そうか」
何となく話題を変えたくなった俺は普段は聞かない問いを投げる。
「この世界はどうだ?」
「楽しいよ! 面白い生き物がいっぱいいるし。あっ!」
イツナが庭園のバルコニーに身を乗り出して、夕焼け空を指差した。
「ほら、見て! 夕日だよ!」
俺もイツナの隣に来て稜線に沈みゆく赤を眺める。
異世界らしい個性なんて何もない、地球でも見られそうな普通の夕日だった。
「他の異世界でも見られるだろ」
「えー、ぜんぜん違うのに!」
イツナが頬を膨らませて不服を訴える。
そう言われても俺には違いとかわからんよ。
「うーん。でもこの世界のは裏山の秘密基地から見えたのとよく似てるなー」
「はは、なんじゃそら」
秘密基地とか子供かよ。
いや、子供だった時の話なのか。
イケメンや角刈りと一緒に作ったりしたんかねぇ……。
「なあ、イツナ……」
「サカハギさん! あれ見て!」
突如イツナのおさげがピーンと立った。
両手の親指と人差し指でフレームを象り、イツナの指し示す方向を望遠する。
するとそこに夕日を切り裂く巨大な影が映り込んだ。
無数のプロペラを回転させた途方もなく巨大な艦船が、次元の穴から輝きを伴ってゆっくりとこちらへ舵を切ろうとしている。
「ふーん、次元航行可能な飛行艇。それにあの六芒星の頂点に星マークの紋章……間違いない、アンス=バアル軍だな」
アンス=バアル軍。
俺が旅する異世界にたまーに現れる愉快な仲間たち。異世界侵略を生業にした侵略者どもだ。
主に洗脳モンスターが主力だが人間の軍隊も擁している。結構な数のチート能力者を抱えていて、侵略型異世界の中ではおそらく最大規模。異世界単位で軍を抱えており、その全容は俺にもよくわからない。俺が戦うのはたいてい侵略軍の一部で、ちょっと痛い目に合わせるとすぐ帰ってしまうのだ。
指揮官に尋問したときにご立派な大義とやらをのたまっていたけど、正直どうでもいい。
俺の脳にはストレス解消も兼ねて滅ぼしていい連中としてインプットされている。
とはいえ、今は別にイラついてるわけでもないし、異世界人もいい人たちでストレスもないし、ぶっちゃけ充実してる。
ここはひとつ平和的に退場してもらうとするか。
まずは飛行艇を構成する全個別IDを解析。
飛行艇を一つのオブジェクトとして、強制的にひとつの個別IDを割り当てる。
新たなIDを対象としコンソールコマンド《消失》を入力。
するとアンス=バアル軍の次元航行艇がパッと消え去った。
「あれ?」
「どうした?」
目をコシコシさせるイツナに、わざととぼけて返す。
狐につままれたみたいな顔をしながら、俺を見上げてきた。
「今あそこに、何か飛んでたんだけど……」
「何もいないじゃないか。ほら、チー坊たち呼んでるぞ」
「あ、はぁい! じゃあサカハギさん、またね!」
首を傾げながらも、チー坊たちの下へ駆けていく。
そんなイツナを見送った後、夕日に向き直って肩を竦めた。
「まったく、お呼びじゃないんだよ」
そういえば《消失》で消えた魂はガフに運ばれるんだろうか?
いなかったことになるんだから、そもそも連中は死んですらいないわけだけど。
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