日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~(※MFブックスから書籍化)

epina

26.よみがえるトラウマ

「エントリーって、本人が行かなくていいんだな」
「ああ。当日に事前登録された名前と整理券が一致すればいい」

 イツナとシアンヌをふたりっきりにするため、エイゼムとともに受付会場に行ってきた。
 まあ、あの様子なら多分殺し合いにはならないだろうし。
 エントリー自体も問題なく済ませ、帰路の途中である。

「それにしても、随分魔法が発展してるんだな。街のいたるところから魔力を感じる」
「わかるのか!?」

 まあ、これぐらいなら鑑定眼やチートを使わなくても。
 魔力感知ぐらいなら基礎中の基礎だし。

「そうか、アンタも魔法を使えるんだな」
「その様子だとお前は使えないみたいだな」

 俺の問いかけにエイゼムが無念そうに頷いた。

「ああ、オレには魔法の才能がない。でも、少し前までならそれで何も問題なかった」
「ほー?」

 異世界事情を詳しく聞くことは滅多にない。
 他の異世界でも共通して役に立つ知識は既に持っているからだ。
 どちらかというと、俺はエイゼム個人の話に興味を持っていた。

「もともとこの国では魔法より剣が主流だったんだ。むしろ魔法使いは弱小でバカにされていたぐらいだ」

 ふーん。
 もともとは魔法不遇の異世界だったと。
 それが、今みたいになってるってことは。

「大方、ひとりの天才魔法使い様がいろいろと開発して、魔法技術を一挙に発展させちまったんだろ?」
「知っているのか!?」
「いやー?」

 知らんがな。
 だけど、異世界における社会不遇を覆す存在となると相場は決まってる。

 チート転生者。

 異世界に前世の記憶を持ったまま転生し、現代知識を持った上で異世界人として生を受ける者。
 しかも、異世界やヤツらからチート能力を授かっていることも珍しくない。
 この間の先代魔王こと酒井彩菜ちゃんもチート転生者に区分される。

「そうか……だが、お前の言うとおりだ。この国に魔法のあり方を再認識させたのは、ヒュラ厶・スペイセル。今では王国の宮廷魔術師となっている男だ」
「へえ」

 エイゼムの話し方にニュアンスの変化があったのを、俺は見逃さない。

「知り合いなのか?」
「……アンタは心が読めるのか?」
「そういうことにしておくよ」

 俺がジョークめかして笑うと、エイゼムはバツが悪そうに頭を掻いた。

「参ったな。こうも手玉に取られるとは。剣星トーリスに笑われるよ」
「そんなことないさ。お前は立派にやってるよ」

 その辺の酒場で奢りつつ、エイゼムを慰めることにする。
 怪我をしてても、酒ぐらいは飲めるだろう。

「今でこそ落ちぶれているが、剣星トーリスが原型を作った剣星流は王国の剣術指南もやっていたんだ。それがヒュラムのヤツが幅を利かせるようになって……」

 酒の入ったエイゼムは俺が促すまでもなく、勝手に喋り始めた。

「ヒュラム自らが企画した第1回魔戦大会が2年前のことだ。忘れもしない……俺たちはヒュラムが育成した魔法使い達相手に、まるで歯が立たなかった。俺だけは決勝戦まで勝ち上がったが、決勝戦の相手がヒュラムで。オレは、負けた」

 無念だった、と。
 エイゼムは語る。 

「去年は決勝にすら辿り着けなかった。だけど、修行しなおして今年の大会でリベンジするつもりだったのに……」
「道場破りか。魔法使いだな?」

 道場の破壊跡は明らかに魔法によるものだ。
 おそらくは風属性の。

「そうだ。仮面を被った黒ずくめの魔法使いだった……クソッ、ヤツは一体何者なんだ」

 酔いが回ったのか、エイゼムが突っ伏した。
 エールジョッキをあおり、俺は独りごちる。

「そうだなー。一体、何ヒュラムなんだろうなぁ」



 道場に戻ると、シアンヌが真ん中でうつ伏せのまま倒れていた。

「あ、おかえりー」
「おいおい、シアンヌ死んでないだろうな」

 やれやれ、俺がいないとヤンチャだなーなどと思いつつ道場にあがる。
 するとイツナが爆弾発言をした。

「さ、さっき電気ショックで蘇生させたよ」
「心停止じゃねえか!」

 シアンヌに駆け寄って症状を診断する。
 呼吸よし、心拍よし……うん確かに蘇生はしているようだ。

「ごめんなさい! もうやめようって言ったのに、シアンヌさん聞いてくれなくてっ!」

 うわあああ!
 やっぱり目を離すべきじゃなかったのかー!

「エイゼム、悪いけどコイツを母屋で休ませてやってくれ」
「あ、ああ」

 母屋に運んで、シアンヌを休ませる。
 あとで看病もするから封印珠には入れないほうがいいだろう。
 無茶しやがって……。
 ともあれ、道場に戻ってイツナをお説教だ。

「まだコントロールがうまくいかなくて」
「言い訳しない」
「……はい」

 シュンとするイツナはかわいいが、こんなことになったのは俺の監督責任だ。
 心を鬼にしなくては。

「ちゃんとやってるか? 能力の基礎訓練」
「えっと……封印珠の中でずっと寝てたから、やってない」

 ああ、そっか。
 最後の訓練は、田中さんのフェアリーマートがなくなった日だもんな。
 俺視点だとそこそこ時間が経ってるけど、イツナにとってはつい昨日のことなんだった。

「まあ、前の異世界では大して時間もなかったしな。フェアマのあった世界では、ゆっくり指南してやれてたけど」
「そ、そうだね……」

 なにしろ1ヶ月、ひたすらフェアマに通ってたからなぁ。
 心満たされて永住まで考えた。
 ああいう誘惑があると、俺はつい初志を忘れてしまう……悪い癖だ。

「いいか、イツナ。繰り返しになるけど、電流操作のコントロールは本来そんなに難しくない。だけどお前の雷霆らいていの場合、出力調整がかなりピーキーだ」
「うんうん、覚えてる!」

 俺が指を立てるとイツナがメモ帳を取り出して、お勉強モードになる。

「お前の場合、最大出力でブッパする分には全く問題ない。電位差さえしっかり操作してやれば、大して制御しなくても雷は勝手に落ちるからな」
「でんい……うん、でんい?」

 あれ、まだ説明してなかったっけ。

「いいか。お前の電流操作は、俺達が住んでいたような『地球の電気に関する現象をだいたい再現する』チートだ。電流操作と言っても、電圧や磁場も関係するんだよ。あくまで俺達の世界の物理法則の影響を受ける。異世界に電気や電圧、荷電粒子やイオンがなくても、だ」

 異世界の法則にそもそも影響されず、独自の法則を持ち込むのがチート能力だからな。
 世界の源理に基づく魔法とは、そこが根本からして違う。

「ふーん……」

 あれ、あんまり興味なさそうな返事。
 座学は苦手みたいだし、実技を見せたほうが早そうだ。

「試しに俺に雷落としてみろ」
「いいの?」
「かまわん」

 イツナが躊躇いがちに指先を向けてくる。
 ピシャーンと雷は落ちたが……。

「え、なんで!?」

 イツナの雷は床を焦がしただけだ。
 俺にはかすりもしてない。

「俺が自分に電流操作を使って、お前と同じ電位になった」
「サ、サカハギさんも使えるんだ……」
「お前の雷霆らいていみたいなデタラメなのは、他のチート能力や魔法を併用しないと再現できないけどな」

 それに異世界の雷属性魔法を使ったほうが早いし、地球の物理法則にも引っ張られない。
 スマホを充電するとかなら断然、電流操作だけど。

「電位が同じ物体に雷は落ちない。だから、お前は標的指定のときに電位が同じじゃないことを確認してから撃たなきゃならん。電位差はお前なら感じ取れるはずだ」
「そーなんだ!」

 イツナが熱心にメモを取り始めた。
 やっぱり直感型には見せたほうが早かったな。

「もしお前と同じように雷を操るチート能力者ホルダーに遭遇した場合、互いに電位を調整しながらの戦いになる。敵が雷を撃つときは同じ電位に、お前が撃つときは違う電位に自分を変えるんだ。お前の能力ならそれができる」
「へぇー!」

 イツナの目がキラキラ輝いた。
 まあ、イツナ級の使い手はまず現れないだろうけど。

「話を戻すぞ。お前の雷霆は出力の調整を間違えば、今回みたいな事故が起こる。どんなときでも自分が思った通りの出力を出せるよう、何度も何度も反復訓練しろ」
「うん、よくわからないけどわかった!」

 大丈夫かな、すごく不安だ。

「そうだ、お前の能力の制御に役立つチートをやるよ」
「チートを?」

 俺がチート能力を付与できることをイツナにも説明する。

「へー。やっぱりサカハギさんはすごいね!」

 いつもの賛辞だが、イツナは心から言ってくれているので何度聞いても嬉しいものである。

「できたてのまま保存してあるから、好きな能力を……」

 アイテムボックスからとっておきのチキンを取り出した、そのときだった。

「チキン……ひ、ぃ……!」

  おや? イツナの様子が……。

「やだ、むり、だめ……!」

 さっきまで元気いっぱいだったイツナがガタガタ震え出した。
 って、おさげからバチバチ放電してるし、マジで只事じゃなさそうな雰囲気だぞ!?

「お、おいイツナ! どうしたんだよ!」
「あ、ああああッ……やだ、死にたくない!! チキンやだあああああ!!!」

 イツナの周囲にこれまで纏ったことのないレベルのプラズマが発生する。
 これ以上はヤバイ。イツナの雷で道場がヤバイ。

「おい、イツナ!」
「やだ! チキンやああああッ!!」

 手を伸ばしたが、問答無用でバチっと弾かれた。
 まさか、これほどの拒否反応を示すとは!

「お、お前まさか……チキン、ダメだったのか?」

 そういえば前にあげたときも、すげえ怖がってたような……あれ、でも最初はイツナが欲しいって言ってたはずだぞ。
 でも俺がチキンを作ったり食べてるとき、何故がイツナがタイミングよく花摘みとかに行ってたな。

「ええい、しょうがない!」

 自己領域展開!
 コピーチート起動:非暴力領域!

 イツナと俺を結界で隔離し、フェアリーマートの非暴力領域を拡げる。

 一度見たチート能力を再現できる強力無比なチート能力……それがコピーチートだ。
 結界の中でしか使えない縛りがあって覚えた当初は使いにくかったけど、自己領域チートを極めた俺にはもう関係ない。

 あれほど荒れ狂っていた電気の嵐がパッと消えた。
 安全を確認した後、アイテムボックスにフェアチキを戻してイツナを抱きしめる。

「もう大丈夫だ、イツナ!」 
「……サカハギさん? もう、チキンない?」
「ああ、ないぞ!」

 しばらくイツナは目をパチクリしていた。
 しかし、やがて安心したのかぎゅーっと抱きしめ返してくる。

「えへへへへ、いつものサカハギさんだー」

 すっかり落ち着いたイツナはそのまま眠ってしまった。
 母屋に連れていき、シアンヌと同じベッドに寝かせる。

「ふぅ……びっくりしたなぁ」

 まさかチキンが死ぬほど苦手だっただなんて。
 イツナも言ってくれれば良かったのになー。

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