裏切り勇者と平凡最強のドラナヴァク
プロローグ1. 破滅を齎す者
______その日、世界の均衡が崩れた。
「_____世界の均衡を保つため、力を貸していただきたい」
純白の光彩を浴びる西洋風の神殿、かなり広い。そして、その中に居る数百人余りの若い男女達。
その大勢を前に一言、一人の老人はそう言い放った。
老人を前にする男女達は、老人の何気ない一言だけで背筋と肝を震え上がらせる。
老人と言っても、ただの老人とは全く違う。老人のような弱々しく覇気がない雰囲気...否。
その老人の雰囲気はまるで、獲物を食らう「雄獅子」。もはや老人ではない何かだった。
ヒトという種族、いや全生物を超越した存在。
....まさしく、「 神 」そのものである。皆は自然に、そう心の中で悟った。
「皆の思っているとおり、我は君達と同じ人間ではない。私はそれを遥かに超越している存在だ。
....だからと言って、そう畏怖するでない。手短に済ませるゆえ、しばし我慢してくれ」
老人は、自身を「人を遥かに超越した存在」と宣言。
端から見れば、メチャクチャな事を言ってはいるが誰も胡散臭いとは思わなかった。
....皆、彼が至高なる存在であることを無意識のうちに理解したからだ。
「早速、君達が此処に呼ばれたわけだが...単刀直入に言うと、【魔神王の討伐】をしてもらいたいのだ」
周りの若者達は、その至高なる存在である彼の口から【魔神王討伐】という言葉を聞き、思わず困惑した。その中の何人かは、フッと笑いをこぼすものも少なからず出てきた。
「...君達には、私が【神技巧】を与えた後に【異世界】に転移させる。その後は各自、自由にして構わない。魔神王はまだ眠りについている。近いうちに魔神王が復活するだろう。その時、行動してもらえればいい。自由は約束する。そして君達に一切、私は干渉はしない。」
若者達はいきなり、異世界と言われても信じられるはずもなく、戸惑うばかり。
声を荒げ騒ぎ出す者、泣き出す者、沈黙を浮かべる者。誰一人として、平常心を保つものは誰一人いない。
「慌てふためくのも仕方ない。が、時間が無いのでな...早速転移してもらうぞ。」
その瞬間、辺りは稲光のような眩しい光に包まれる。
....しばらく経つと、白く眩い光は次第にうっすらと消えていき、辺りの明るさは落ち着きを取り戻した。...そして、大勢の若者達もさっきの光のように何処かへと消えていた。
*
「ハハっ...愚かなものだな。選ばれし勇者たちよ。」
若者たちの姿が消えた神殿の中で、至高なる存在は微笑みをこぼした。
その微笑みは、にこりとしたものだったが...どこか邪悪なものをほのめかしていた。
「皮肉なものよな。討伐すべき魔神王...それが我であるとも知らずに。 洗脳も奴らの前で話してる間に済んだ。後は、奴らが世界を....我の望んだ世界へと創り変える。欲望のままに...な」
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