チートはあるけど異世界はありませんでした

シャムゴット

13

 
 幼稚園が終わり、今日はサッカースクールも休みだったため俺は冬馬に呼び出されていた。
 十中八九、俺の顔を見て悲鳴を上げて泣き出してしまった女の子のことだろう。

「で、あの子は何で俺を見てあんなに怯えてたんだ?」

「うーん、なんて言ったらいいかな……」

 冬馬が少し言いにくそうにしている。 
 もしかして、俺が聞いちゃいけない事なのだろうか。

「言えない事なら、別に無理に言わなくてもいいぞ?」

「あっ、そういうことじゃないよ。 ただ主音くんが嫌な気分になっちゃうかも……」

 冬馬は俺の心配をしているようだが、俺は20年の人生経験があるんだ。 
 ちょっとやそっとじゃ揺さぶられないぜ。

「いや、俺なら何を聞いても大丈夫だ。 気にせず言ってくれ」

「……うん、わかった。 落ち着いて聞いてね。  あの子の名前は神子戸葵羽ちゃんって言って、お家が神社でお化けが見えるらしいんだ」

 あー、出だしの時点で何か嫌な予感がする。

「それで葵羽ちゃんが主音くんの方を見たとき……主音くんの後ろに、すごいたくさんの兵隊さんがいて、じっと主音くんの方を睨み付けていて怖かったって言ってたんだ」

 ……

 最悪だ、自分で言わせといてなんだが聞かなきゃよかった。
 しかも、それって今も俺の後ろにいるみたいな感じだよな。
 いないって思っても、一人でいるとき鏡とか意識しちゃうじゃん!

「それって、俺をからかってる……とかじゃなさそうだな」

 冬馬もちょっと怖がっているようだし、それ以上に神子戸葵羽という女の子の様子は尋常じゃなかった。
 それに最近、身の回りで起こっている不幸を考えると、ちょっと信憑性がある気がしてしまう。

「えっと………(やべえ、ちょっと動揺しすぎて何言ったらいいかわかんねぇ)」

「ほっ、ほら、お化けとかいるわけないし、いたとしても主音くんならやっつけられるよ!」

 確かに、今のところ物理的な攻撃は効かないし戦えば勝てる気がしないでもない……見えないけど。
 昔から幽霊とかは信じてないんだが、心霊映画とか怖いものは怖い。
 でも、冬馬に怖がってると思われるわけにはいかない。

「とっ、当然だろ。 まあ、幽霊なんているわけないだろ。まあ、教えてくれてありがとな。また来週!」

 やべっ、まあって2回言っちゃったよ。

「うん。そっ、そうだね!じゃあ、またね!」

 冬馬に対して強がりつつも、俺はいつもの3倍速い速度で家に帰った。


 ――――――――――


 家に帰ってから、特に何か起こるわけでもなく時刻は20時を過ぎようとしていた。
 家には俺と母さんだけで、俺は風呂も食事も済ませあとは眠るだけという状態である。

 俺は前世でも幽霊なんてものは全く信じていなかったのだが、やはりあんなことを聞いてしまったからか、誰かに見られているような感じがして落ち着かない。

 プルルルル、プルルルル、プルルルル

「はぁ~い、氷室で~す」

 母さんの間延びした声が聞こえる。 相変わらず電話でもおっとりさ全開である。
 それにしても、こんな夜中に電話がかかってくるのは珍しい。

「………………はい、…………………主音が…………………………………………変わったことですか?………………………………………………………」

 何やら俺に関わる話みたいだ。
 まあ、最近は特に問題も起こしてないし大した話ではないだろうと思い、俺は部屋でだらだら過ごすことにした。
 ちなみに我が家は、海外の家庭のように小さいうちから両親とは別で眠っているため、部屋ももちろん1人部屋である。

 俺が部屋に入って15分くらいしたころ急に母さんが部屋に入ってきた。

「何かあったの?」

「今から出かけるから支度しなさい。 詳しいことは後で説明するわ」

 こんな時間から出かけるって、そんなに大事な用事なのだろうか?
 話しかけられる感じでもなかったので、俺は急いで上着を着て車に乗り込んだ。

 車に乗ってから少し経ったころ、俺は母さんに事情を聞くことにした。

「母さん、そろそろ話してもらってもいい?」

「……わかったわ。 主音は神子戸葵羽ちゃんのことは知ってる?」

「確か、同じ幼稚園の子だよね?」

「そうよ。それで、神子戸ちゃんのご両親から連絡があって、神子戸ちゃんのおばあちゃんの家で御祓いしなくちゃいけなくなっちゃったの。 主音には言ってなかったけど、最近、家で大人数の足音がしたり、いたずら電話がかかってきたり、あと急に食器が割れたりとかで私も困っててね」

 まさかのタイムリーな事情だった。
 それに俺が気付いてないだけで、そんなパラノーマルなアクティビティー的なことが起こっていたとは…… 
 まあでも、父親が有名人ということから嫌がらせの可能性がある。
 もっ、もちろん俺は信じてないぞ。

 それにしても御祓ねぇ……
 正直に言うと、高いお金を請求して、霊を祓う効果があるとか言って胡散臭い塩を売りつけたりするイメージしかない。 
 実際にそうだったら、母さんを無理やりにでも連れて帰ろう。

 でも、普通に考えて神社側から御祓いに来てくれって言われることってあるのか?
 そんなことを考えながら車に揺られているうちに、俺は眠りについてしまった。



コメント

  • 鈴

    とても面白いです!

    0
  • りりり

    とても面白いです!
    早く続きが読みたい!

    0
  • 茶々丸

    更新楽しみにしてます

    0
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