チートはあるけど異世界はありませんでした

シャムゴット

7

 
「くそっ、見つからない…… まさか、あのデブ嘘ついていたのか?」


 俺は吐かせた情報を頼りに2つ目の基地を探している。
 だが、先ほどからそれらしいものがまったく見当たらない。


『んー、あの状況で嘘をつけるほど根性のあるやつには見えなかったんだが……』


 仕方ない、時間もないし次を当たるか。


「ん?あれは……」


 下を見ると2人の兵が崖の近くに立っているのが見える。


「まさか……確かめてみるか」




 シュンッ




 瞬間移動で奇襲をかけにいく。


『なっ、なんだ!急に、うっ……』


『ヨンビョン! 貴様ー殺っ、ぐはっ……』


 ドサッ


「悪いが、セリフを聞いてる暇もないんだ」


 1人目は首トン、2人目はムカついたから腹パンで気絶させた。
 崖の下を覗いてみると、ぽっかりと空洞になっていた。


 そして中にはむき出しになったミサイルが……


「よし、ビンゴだ!」


 今回は潜入なしでミサイルを潰すことができる。
 見張りはいるが無視しよう。


『なんだ、貴様は!』


『あの餓鬼を捕まえろ!』


 うるさいな……


 早いとこ終わらせるとしよう。


 今回は海も近いし簡単な方法がある。


 俺はミサイルの後ろに移動し片手を前に突き出す。


『何をする気だ!?』


 なーに、能力検証の時に覚えた、オリジナルの技を披露してやるだけだ。




 ギュイーン!




『やっ、やめっ』


「はぁーっ!!」




 ズドーン!




 俺の手からとんでもない威力の衝撃波が放たれた。


 そしてミサイルは、発射台ごと海に沈没した。


「よし、次だ」


『まっ待て!』




 シュンッ




「3つ目はあそこか……」


 こうして俺は次の基地へと向かった。




 __________




『何!? 南も潰されただと!』


 北の最大基地であるここに、とんでもない情報が流れてきた。


 なんでも、キツネの面をかぶった子供によって、すでに2つの東と南の基地に設置されたミサイルが潰されてしまったらしい。


 ありえないと思ったのだが、送られてきた監視映像には確かにキツネの子供が映し出されていた。
 その子供はまるでCGのような動きで、簡単に兵たちの意識を刈り取っていた。


「日本の人間兵器……あるいは本当に超能力者なのか……」


 部下たちの間でも悪魔や超能力者など、いろいろな憶測が飛び回っている。
 それにしても、まさか東基地までやられるとは……


 確か南の基地にコネだけで昇級したキルとかいう司令官がいたか。
 おそらく、あいつが情報を漏らしたか何かしたのだろう。


 何故そう思うのかというと、東の基地は電波も遮断する独自のシステムもあって、普通なら探知すらできないし、このことを知っているのは軍でも1握りの者だけであるからだ。


『ちっ、裏切り者め!』


 このことにより、現在、我が軍はかなりの混乱状態に陥っている。


『なんでも東は全滅させられたらしい。俺たちも危ないかもな……』


『そんな化け物に勝てるわけねえ!俺は逃げさせてもらうぜ』


『ばか! 逃げたりしたら国に殺されることになるぞ!』


『じゃあ、どうすりゃいいんだよ!』




 兵たちの精神状態も限界だ。


 何かしらの手をうたなければ……


『指令!西の基地に例のキツネのガキが現れたそうです!』


 うむ、ここも時間の問題だな……


 仕方ない!


『予定を変更させ、5分後にミサイルの発射を行う! 各自持ち場につき準備を開始しろ!』


『よろしいのでしょうか? 上に許可なく行えばさすがにまずいことになります!』


『全責任は俺がとる! いいから早くやれ!』


 あいつは確実にミサイルのみを狙っている。
 先に撃ちあげてしまえば基地は狙われないはずだ。


 それに、それこそ4発すべて失敗に終わってしまったほうがまずいことになる。
 へたしたら全員殺されるかもしれん。


 これは冗談ではなく、この国なら本当にやりかねないのだ。


『準備、完了しました!』


『よし、発射!』




 ゴオーン! プシューー……




 よし、打ち上げは成功だ。


 これでキツネのガキに一矢報えたか……




 __________




「よし、あと1つで終わりだ!」


 それは俺がちょうど3つ目のミサイルを無効化させ終わった直後に起こった。




 シュウウーーッ




「おいおい、嘘だろ!?」


 まだ距離はあるがミサイルが発射されているのが確認できた。


 しかし、あと20分は発射まであったはずだ!


 これは気付かれて裏をかかれたということか……


 そしてミサイルは、かなりのスピードでここを通り過ぎようとしている。


 瞬間移動で体勢を立て直してもいいが、あのスピードなら移動しても時間の猶予はあまりないだろう。


「ここで決める!」


 あの封印されし技を使う時が来た。


 腰を落とし両手にエネルギーをためる。




 ギュイーン……




「消し飛べー!!!」




 ズギューーン




 見事ビームはミサイルに命中し、それは跡形もなく消え去った。


 そして俺のキツネのお面も遠くへ飛んで行ってしまった。


「あぁーー、風呂入りてえなー」


 こうして俺は日本の平和を守ることに成功した。




 __________




『連合ニュースはK国が日本時間午前6時20分、4つの基地からミサイルの発射を試みたものの失敗したと伝えました。アメリカ軍や近隣諸国の軍は詳しい状況を調べています』


 帰ってきて1時間ほど休みリビングに行くと、ちょうど今朝のニュースが速報として流れていた。


「おはよう、父さん。今日は何で休みなのにもう起きてるの?」


「おう、おはよう主音。 今日は6時にサイレンが鳴ってね、それから目が覚めていたんだ」


 確か、本当に日本が危なくなったらテレビや携帯でサイレンが鳴るんだったな。


「あれ、母さんは?」


「アリアは昨日眠れなかったみたいで、さっき安心して寝たところだよ」


 そうだったのか……


 うん、頑張ってよかった。


 安心したら眠たくなってきたなー……


「僕ももうちょっと寝てくるよ」


「おいおい、主音はもうそろそろ幼稚園の時間だぞ」


「え……」


 完全に忘れてた。
 はぁー、どうやらヒーローに休息はゆるされないらしい。


「ほらっ、準備しなさい」


「はーい」


 今日も平凡?な一日が始まった。


 __________




『死亡者数0か……なめられてるな』


『申し訳ございません! まさか、子供一人に計画を阻止されるとは思いませんでした!』


 会議室のような場所で、小太りでソフトモヒカンの男に、ガタイのいい短髪の男が土下座をしている。


『まず情報を流したキルという男は処刑にする。あと、あの子供の特定を急がせろ! それから他国には知られるなよ。あいつは絶対に殺してやる……」


 会議室のスクリーンには、キツネの面をかぶった黒ずくめの子供が映し出されていた。


『待ってろよ、クソガキが』


 主音の知らない場所でいろいろと物騒な話が行われていた。







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