チートはあるけど異世界はありませんでした

シャムゴット

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 突然だが、君たちは輪廻転生を信じているか?


 最近の小説では異世界に転生してチートを得るといった話をよく目にする。
 俺もそういった話は嫌いじゃない、いやむしろ大好きだ!


 しかし、大抵のチートをもらった主人公たちは特殊な奴が多い。


 小さいころから武術をやっていたとか、平凡といいながら作中ではキレッキレな頭脳で危機的状況から抜け出すなど、全くをもって普通ではない。


 では、俺みたいな本当に平凡な奴がチートを得るためにはどうしたらいいのだろうか。


 そこで思いついたのが、来世のためのポイント稼ぎ作戦だ!


 例えば、仏教では過去からカルマを受け継いで今を生きているという。


 わかりやすく言えば、善良に生きているのに不幸なことばかりが起きている人は、前世で悪いことをしていたからという考え方だ。
 ならば、善行をたくさん積めばチートを貰うのも可能なのではないか?


 では、1日にたくさん良いことをしよう。


 一日一善、いや一日十善だ!!


 そう思いついたのが12歳のころだった。






 それから、8年もの年月が経った。


 一日十善作戦は完全に日課となっていたが、俺こと佐藤太郎はすでに本来の目的を忘れていた。


 もちろん、最初は本当に大変だった。


 ポイントのためとはいえ、いじめられっ子を助けたり、迷子の少女の両親を1日中探し回ったりもした。


 痛い経験もたくさんしたし、辛いと思ったこともある。


 でも、悪いことばかりじゃなかったんだ。


 いろんな人を助けるにつれて友達もたくさんできていって、今では彼女だっている。
 お人よしって言われるけど、意外とそれも悪い気はしない。
 そんなこんなで、平凡だった俺はリア充となり最初の目的も完全に忘れてしまっていた。


 ついさっきまでは……




 ー1時間前ー




 今は夜11時、そういえば今日のノルマ1回残ってるなーと思いながらも家へ向かっていた。


 今日は成人式だった。
 髪を朝早くからセットして、スーツも新品を着て式を迎えた。


 その後は、みんなで写真を撮ったり騒いだりして大いに楽しんだ。
 だが、残念ながら俺の誕生日は明日でまだ成人はしていないため、成人になる夜12時からしか飲めないのだ。


 仕方ないから途中で帰ることにした。


 そして今に至る。


 ふと、右を向くと勉強道具をもった高校生が疲れた顔で歩いてるのが見える。


 もう1月だしな、受験も追い込みの時期なのだろう。


「俺にもあんな時期があったなー……」


 昔のことを思い出していると、高校生が歩いている後ろに大型トラックが今にも歩道に乗り上げそうな勢いで突っ込んできていた。


「おい、危ないぞ!!」


 くそっ、あの高校生イヤホンつけてやがる!


 急いで走るが結構距離がある。
 何とか高校生の前に来た時には、トラックは目前に迫っていた。


「こなくそー!!」


 最後の力を振り絞り高校生を突き飛ばす。


 次の瞬間、トラックのライトで視界が真っ白になったかと思うと、すぐに体に衝撃が走り真っ暗になった。




 ーそして現在ー




「はじめまして、佐藤太郎さん」


 目の前に言葉では表すことができないくらいの美女がいた。


「私は転生神ミラと申します。 突然ですが、この度あなたには転生の機会が与えられることになりました」


「はあ…… あの、ちょっと状況がつかめないのですが、説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 いまいち状況がつかめないがこの人が神様だということはなんとなくわかる。


「それは失礼しました。では最初から説明いたしますね」


「はい、おねがいします」


「本日、1月9日23時12分あなたは高校生をかばい大型トラックに跳ねられ、お亡くなりになりました」


 まあ、やっぱりそうだよな……


 もう、家族やみんなに会えないんだよな……


 そう考えると、やはりつらいと感じてしまう。
 でも、高校生を助けたことは後悔してないし、こればかりはしょうがないとしか言いようがない。


「本来であれば今世での業を精算し審議の間に通されます。 そして、そこで天国または地獄のどちらにいくのか、さらに次の転生まで何百年あるいは何千年待つかが決められるのです」


 業によって待つ場所と転生のスパンを決めるわけか……
 思っていたのと大分違うな。


「しかし、成人していない方の場合となると別で、魂の浄化をすることなく、すぐに転生していただくことになっています」


 えっ、なんでだ?


「20歳未満は魂が経験を積むことができていないと判断され、もう一度経験を積むために現世に送り返されることになっています」


「それだけでは難しいんじゃないですか?  例えば、自殺してしまった未成年の人間がもう一度やり直した際に、また未成年のうちに自殺しないとは限らないですよね。 そうなったら意味がないのではないですか?」


「自殺の場合は転生はありません。その方たちは「無」と呼ばれる場所でかなり長い間、自分と向き合ってもらい、その後に審議の間に通される仕組みとなっております」


 なるほど、よくできている。


「では、話を進めますね。これからあなたの業の精算を行い、それを特別ポイントに加算し能力を決めた後、転生していただきます」


 これは、もしや異世界に行く前のチート選択か!!


 これまで頑張ってきたからな結構期待できるかも。


「えー、あなたの特別ポイントは人名救助ポイントが200×32で6400、お年寄りに席を譲るなどの小さな善行をを加算すると……10802ポイントですね!」


 うーん……多いのかわからんな。


「それは、多いのですか?」


「はい! 未成年の方でここまでのポイントは見たことがありませんよ!来世は安泰ですね」


 神様がそう言ってすぐに、俺の前に透明のウィンドウが出現した。


「では、気になった能力を選択してください」


 ウィンドウにはかなりの数の能力が表示されている。


 ―――――――


 ―基本―


 家庭レベル


 容姿レベル


 身体能力レベル


 知能レベル


(なお、レベルは最大5までとする)


 ―特殊―


 記憶引継ぎ


 完全コピー


 魔法


 錬金術


 霊能力


 -pt残量10802―


 ――――――


 項目が少ないように思うかもしれないが、それは俺がポイントの安い料理や掃除などの大量の能力を、もう先に除外させてもらっているからだ。


 やっぱり魔法もある。
 異世界といえば魔力チートなんかは定番だな。


 と、その前に基本って書いてある項目を先にやらないと。


 調べてみると、レベルごとのポイント消費量は1で100pt、2で200、3で300pt、4で400pt、5で500ptだった。
 ということは、レベル5にするには1500ptが必要になるということになる。


「あの、身体能力レベル5ってどのくらいの強さですか?」


「そうですねー、レベル3でオリンピック選手くらいなので、レベル5ともなると超人ですね」


 ふむ、キ〇肉マン的な感じか……


 基本値を全部最大にしても6000で済むから俺のポイントはかなり凄いことがわかる。


 記憶引継ぎは2000ptと少しお高めだが絶対欲しいな。
 魔法と錬金術は3000ptだし、身体能力上げて武術チートのほうがいいはずだ。


 霊能力は100ptだがぶっちゃけ欲しくない。
 流石に幽霊が見えたりするのは怖すぎるからだ。


 それより気になるのが4000ポイントも使う完全コピーだ。
 俺はこれが一番チートだと思っている。


「よく考えないと……」




 ―数時間後―




「よし、決まりました!」


「かなり悩んでいましたね。では、本当にそれでいいですね?」


「はい、おねがいします」


 今回、悩みに悩んだ末に完成した能力値がこれだ。


 ――――――


 ―基本―


 家庭レベル4


 容姿レベル5


 身体能力レベル5


 知能レベル3


 -特殊―


 記憶引継ぎ


 完全コピー


 ―pt残量202-


 ――――――


 ただしイケメンに限るはどの世界でも共通にきまっている。


 完全コピーはどうしても欲しかったからとった。


 悔いはない!


「では、転生をはじめます。では良き来世を」


「はい、ありがとうございました!」


 そして光に包まれた……






 ――――――――――――――――


「ミラよ。さっき完全コピーの能力を持った人間が転生したようなんじゃが、あの能力は項目から消しとくよう言わんかったんかのう?」


 立派な髭を蓄えた老人が言った。


「あっ…… すみません創造神様!  忘れておりました!」


「うむ…… これは、ちょっとまずいかもしれんのう……」




 これがきっかけとなり、これから神々は大いに悩まされることになるのであった。







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