チートはあるけど異世界はありませんでした
4
あの「手からビーム事件」から2年と少しが経った。
そして俺は3歳になった。
この2年間で変わったことと言えば、父さんが福岡のサッカーチームに移籍することになって、家族そろって福岡に引っ越したことくらいだ。
前の家はあの事件以降、研究者や警察が調べにきたりしていたから、父さんの移籍がちょうどいい機会でもあったのだ。
もちろん俺はその間、幼児らしくするように心がけていたため特に問題は起きなかった。
今では、ちょっと優秀な3歳児という感じになっている。
と、まあ近況はこんな感じだ。
こうして無事?に3歳になった俺は、本日幼稚園に入園する。
最近福岡に引っ越したことと、親が有名人のため外出にも気を配っていたおかげで、残念ながら同世代の友達が一人もできていない。
「うー、友達できるかな……」
「大丈夫よ。主音はカッコいいから、きっと幼稚園でもモテモテよ」
そう言いながら母さんは俺に入園式のスーツを着させる。
シャツにベストに上着まで凄いお洒落で高級感がある。
これ絶対、前世の俺のスーツより値段高いだろ……
そんなことを思いながら俺は鏡を見ていた。
「海斗君、カメラ持った?」
「もちろんだよ。主音の晴れ舞台なんだし、しっかり撮らないとね。じゃあ出発しようか」
俺は両親に挟まれ手をつなぎ出発した。
―――――――――
「見て見てママ! あの子、王子様みたい!」
「ホントね! あら、あそこの旦那さんは確か……」
「あれってドルフィンズに先月移籍してきた氷室海斗選手だよな?」
「うわっ、本当だ! 氷室選手だ!」
「奥さんも凄い綺麗よねー……」
「やっぱりお子さんもサッカーやるのかしら?」
うむ……なんかホールに入る前から凄い注目を浴びている。
父さん有名人だし、母さんも凄い美人だし仕方ないか。
俺も金髪に青目だし、間違いなく浮いているだろう。
ちなみにサッカーはやろうかと思っている。
まだ東京にいた頃によく父さんの試合を見にいっていたし、今じゃ海外サッカーも見ていてかなりハマっている。
まあそんな感じだし、周りも期待してるみたいだから良い選択だろう。
っと、いろいろ考えている間にもうホールの前の受付に着いてしまった。
「次の方どうぞー」
「はい! 氷室主音です。よろしくおねがいします」
受付の女の人は驚いた顔をして、すぐに笑顔になった。
「あら、しっかりしたあいさつね! じゃあ奥の扉から入っていってね。」
「ありがとうございます!」
そしてホールの中に入り入園式がはじまった。
――――――――――
入園式は意外とすぐに終わった。
年長組の歌や写真撮影などもあったが、両親以外にも撮られていたこと以外は特に問題はなかった。
そして今からお待ちかねのサッカー教室の体験だ!
今まで実際にやったことはないから楽しみだ。
練習場に行くと20人くらいの子供たちがいて、その周りにビデオカメラを持った親御さんたちもちらほらいた。
「みんな集まってー! 今からサッカー体験を始めます!」
赤のジャージを着たお兄さんがグラウンド中に声を響かせる。
見た目はさわやかなのに、どこぞの元熱血テニスプレーヤーの様な雰囲気を持っている。
このジャージのお兄さんが先生なのだろう。
「はーい、じゃあ近くの人とペアを組んでください」
ジャージのお兄さんの指示に従って隣にいた女の子に声をかけてみた。
「僕は氷室主音。よかったらペアを組んでくれないかな?」
「う、うん。私は如月香久弥です。よ、よろしくおねがいしま…す……」
顔を真っ赤にして下を向いてるんだけど……人見知りなのかな?
外見は髪は長くて色白だし、サッカーをする感じの子には見えないな。
それに下を向いててわからなかったけど、すごく綺麗な顔立ちをしている。
「みんなペアは組めたみたいだね。じゃあパスの練習をするよ」
お兄さんが手本を見せ、パスの練習が始まった。
「香久弥ちゃん、いくよー」
ポンッ
ボールは狙い通り香久弥ちゃんの足もとに収まる。
「えい!」
スカッ
そして香久弥ちゃん、見事な空振りだ。
またもや真っ赤になって恥ずかしそうにしてる。
不謹慎かもしれないけど、うん、可愛い!
まあ、他の子たちも似たり寄ったりだし仕方ないよね。
「落ち着いて、ボールをみてゆっくり蹴ってみて!」
「う、うん、わかった」
ポンッ、コロコロコロコロ……
「うん、上手だよ!次はもう少し強く蹴ってみようね」
あからさまに嬉しそうな顔をしていて、めちゃくちゃ可愛い!
それからは、空振りすることなくパスを交換できるようになった。
素晴らしい癒しの時間であった。
ピーー!
10分ほど練習して笛が鳴った。
「さて、今日はあまり時間が無いから実際にゲームをしてみようか」
それから簡単なルールの説明をして、キーパーだけを決める。
そして、ゼッケンを貰い9人ずつのチームに分かれた。
俺のチームは先行になったから、センターサークルに入り試合開始の笛を待つ。
ピー!
試合開始の笛が鳴った。
センターサークルで俺がボールを受け取った瞬間、味方も相手も一斉に俺のほうに突撃してきた。
幼稚園に入園したばかりの子が、ルールなんて知っているはずもないことを忘れていた。
「くそっ」
相手は何も知らずに突撃してくるが、俺の身体能力は大人をも超えているため下手にぶつかると怪我をさせてしまうかもしれない。
パスコースを探すが味方も突っ込んできているだけで出せない。
「仕方ない……」
この中を相手に触れず抜け出すしかない!
そうと決まれば、まず一人目を足裏でボールを引き、入れ替わるようにルーレットで回ってかわす。
その次に2人同時にきた敵を、右に行くと見せかけエラシコという一瞬で外側にあるボールを内側に切り返す技で2人の間を抜ける。
あれ、なんでこんなに上手くいっているんだ!?
あっ、もしかして海外サッカー見てた時にコピーしていたのか……
っと、考えている間に3人突っ込んでくる。
真ん中のポッチャリ君が特にすごい勢いだ!
そして俺は無意識にボールをまたぎ、背面から踵でボールを上げるヒールリフトで抜け出した。
完全にやりすぎた……
冷静になって周りを見ると大人たちは驚きで目が点になっている。
これ以上目立つのはよくないかもしれん。
何か使えるものは……
はっ、ちょうどいいことにゴール前には集団を嫌がって孤立している香久弥ちゃんが!
これは利用するしかない!
トラップしたときにボールがゴールに行くようにかなりスピンのかかった(安全面に配慮し少し遅いスピードで且つ足に擦るくらいの)パスを送る。
ギュルルル!ドン!
狙い通りボールは香久弥ちゃんのシューズに当たりゴールネットに吸い込まれた。
「あわわわ……」
「「「「おおーー」」」」
「女の子だからって油断してたよ」
「すごいね!」
よし、子供たちの注目ははずせた!
だが、大人たちはまだ俺のほうを凝視している。
チッ、流石にごまかせなかったか……
「すばらしい!君は天才だよ。まるでブラジル代表のエースみたいだ!」
お兄さんはかなり興奮した様子でいる。
「君にはぜひチームに入ってもらいたい。君ならいずれプロに、いやそれもワールドクラスの選手になれるに違いない!」
「はあ……ありがとうございます」
「君はもっと熱くるなるべきだ! さあ、僕と一緒に練習だ!!」
やっぱり、このお兄さんは熱い男だった。
この日のことがきっかけで我が家は、これからさらに注目を浴びることになるのであった。
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