この退屈な世界に死の饗宴を

つくつく

6問題児(後編)

「ねぇ。私たち二人だけここに残っていろって言って委員長は行っちゃったけど…大丈夫かな、、心配だね。」
そう言って葵は、笑うが笑顔が引きつっている。
励まさないと、そんな使命感にかられ朋也は口を開いた。
「き、きっと大丈夫だ!祐樹は、何だかんだで凄い奴だから、祐樹なら大丈夫だ。」
と、だんだんと声が小さくなる。
「うん。そうだね。」
そう言って、儚げに笑う。
あぁ。どうして好きな人の前だとこんなにも口下手になるのだろう。安心してほしい。もっと自然に笑っていてほしい。なのに、意味のない、何の役にも立たない言葉ばかりが口から出る。『祐樹なら大丈夫だ』本当はそんなこと言いたくないのに…

舌打ちをしながら走る。チラッと後ろを振り返り距離を確認する。もう小さい方の犬との距離はもうすぐそこだ。
急カーブし曲がった瞬間。後ろを振り返り、銃を向ける。犬が顔を出した瞬間引き金を引く。三匹ほど仕留めたところで、犬の唸り声だけが聞こえる。顔を出せばやれれることに気づいたのだろう。
そして、その隙を逃さないようにそっと音が出ないように離れると再び全力で走る。
色々と考えを巡らせるていると足音が聞こえたと思った瞬間。横から犬に激突された。そして、飛び乗り顔を噛もうとする。
祐樹は犬の顔を抑え離そうとするが予想以上に力が強い。ドーベルマンの後ろ足を蹴りそのまま顔を横に倒し自分が上に乗ると首元に剣の柄を押し当てボタンを押す。中から刀身が出て犬の頭を貫通する。それっきり犬は動かなくなった。

荒い息を整えながら自分の手のひらを見る。チュパ像と戦った時には、そこまで力で押し負けているようには感じなかった。お世辞にもこの犬の方がチュパ像よりも力があるようには到底見えない。
チュパ像の時に火事場の馬鹿力が働いていたのだとしたら納得だが…もしかしたら秘密はこのスーツにあるのかもしれない。
考えろ。今とあの状況の違いを…。
しばらくその場で思考を巡らせる。
うん。分かんねぇ。
「とりあえず、やってみるか」
そう言ってボタンを押し、銃と剣を構えて歩き出した。

「5.6.7、、8匹か。」
不意をついて仕留めてきたが未だに分からない。
仕方ない。一度隠れてみんなに連絡を取るか。そう思い移動しようとした時だった。たくさんの足音が聞こえ、慌ててそこから避難するが、今回はしつこい。まだ、こちらも相手の犬の顔を見ていない。つまり、相手もこちらを視認出来ていないのに、足音だけがどんどん近づいてくる。足音からしてかなりの数だろう。
分かれ道があり、左に曲がろうとすると、足音がと吠える声が聞こえる。慌てて方向転換して右に移動する。
なんとなく違和感を感じる。先ほどまでとは違い統率されたかのような動きをする。
いや、もし仮に統率されているのだとしたら、そう思い走っていると黒夜に騙された場所にたどり着く。
やられたと思いつつ、そこから一刻も早く離れようとした時だった。廊下の奥に誰かが倒れている。
少しずつ近づくとそれが委員長だと分かる。
委員長は足を抑え倒れこむ形で倒れており、足と手から出血が見れた。
慌てて駆け寄ろうとした時だった。破壊された教室から大きな前足が飛び出てくる。
「あっ!やべ」
その時には前足の爪を剣で防ぐが、パワーがあまりにも違う。衝撃に耐えられず、壁に激突する。
しかし、この一撃によって一つ分かったことがある。やはり、パワーではチュパ像の方が上だ。ゆっくりと立ち上がり目の前の三つ首の犬を睨む。
先に仕掛けたのはケルベロスだった。今度は左の前足がくるがスピードもそれほど速くない。横に回転して避けた時だった。不意に委員長が視界に入る。横回転により、先ほどよりもかなり近くなった委員長。
このままでは間違いなく巻き込む。
すると床に大きな影ができる。右の前足を振り下ろしてくる。
委員長とは逆の方向に飛んで回避するが、やはり自分の動きは、あの時ほど速くなかった。
委員長から距離を置くためにさらに後ろに下がろうとするが、後ろには左前足があるのを思い出し体が硬直する。
その一瞬の隙をついてくるようにケルベロスは、両前足に力をぐっと入れるとこちらに頭突きを仕掛けてきた。
咄嗟のことに対応が出来ず、攻撃をもろに受け、壁を破壊してケルベロスがいる教室の向かい側の教室に飛ばされた。
ガハッとこれまた口から血を吐く。
前回よりも傷は浅いはずなのに今回の方がずっと痛い。
ケルベロスがこちらをにらみ距離を詰めてくる。
逃げようにも足の力が抜けて思うように動かない。
ケルベロスがこちらを見下ろしてくる。そこで祐樹は、あぁ。ここの世界って相当天井が高いな。などとどうでもいいことを考えた。その瞬間だった。
教室の後ろの方にいる祐樹のすぐ隣のドア付きの物置のドアが開いており、その中をみると
一人の長い髪の白いワンピースを着ている少女が、笑顔でこちらにしぃーっと口元に人差し指を立てながら言ってきた。
正直、幼女に全く興味のない自分でも綺麗だと思ってしまう少女に見惚れてしまう。
しかし、少女の次の言葉によって再び現実に返された。
「イメージだよ」
少女は、静かにそう言った。
そして、こちらに笑顔で手を振りながらゆっくりとドアを閉めた。
ケルベロスがこちらに右前足で攻撃を仕掛ける。祐樹は咄嗟に横に回転して避ける。
そして、先ほどの言葉が事実であることが判明する。
先ほどまで力の入らなかった足は今ではなんの問題もないと感じられるほどだ。
自分の動きをイメージして動くだけ。左前足がこちらに向かってくるがそれを後方にジャンプして避ける。そのまま天井に両足をつけると剣を構えて思いっきり蹴る。そして、床に振り下ろされた左前脚に剣を振り下ろした。ケルベロスは、たまらずと言った様子で叫び声を上げ、両足をバタバタとさせた。
祐樹の剣は深く左前脚を切ったが、切断には至らなかった。
苦しそうに息をする犬の顔から透明な細長い銃弾が出てくる。
「祐樹君!加勢に来たよ!」「委員長は安全な場所まで運んだ!」
犬が大きく、姿は見えないが葵と朋也だ。
祐樹は、ふっと笑い犬の顔めがけ引き金を何度も何度も引いた。
5分もかからない内に犬は動きを止めた。
残った前足で必死の抵抗をしていたが、祐樹に両足を切断されなす術なくと言った感じだった。

リングからゲームクリアの文字が表示される。黒夜連は数十匹の犬の返り血を浴び、真っ赤になった髪をかきあげながら三つ首の犬の最後を見届けた。そして、楽しそうに笑みを作りながら駆け回っていた水瀬祐樹の顔を思い出し、不敵に笑った。






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