この退屈な世界に死の饗宴を

つくつく

5問題児(前編)

「く、黒夜連」
朋也が怯えたように言うと、黒夜はそれに反応し、朋也のことを見る。
「ひっ!」
と朋也は言って祐樹の後ろに隠れた。
黒夜は、こちらに気づくと、フッと意味ありげに笑うと、立ち上がり辺りを見渡し出した。そして、自分の格好を確認するとこちらを見てきた。
「おい。お前はすでにここにきたことがあるのか?」
「俺たちはー」
と委員長が言いかけたところで黒夜はそれを遮り
「お前には聞いてない。俺は、お前に聞いてるんだ。」
そう言って、黒夜は祐樹を指差した。
黒夜の真っ黒な眼がこちらを凝視していた。
「あ、ある。一度だけ」
それに黒夜は、数秒間黙ったままこちらを見ていた。何かを試されているように感じ、自然と身構える。やがて黒夜はゆっくりと口を開いた。
「ルールを教えろ。」
それに、祐樹は顔の筋肉を無理やり動かし、ニィっと笑うと
「いいぜ。教えてやるよ。」
大体のルールとリング、武器の使用方法を教えた。その間、黒夜は顎に手を置き、真剣に聞いていた。
そして、左手のリングに触れ今回のターゲットを確認した。
【ワンちゃんの討伐】
その横には、どう見てもワンちゃんなんて可愛い呼び名の犬ではない顔写真が写っていた。
「今から作戦をー」
「必要ねぇ」
と委員長が言いかけたところでまたもや黒夜が遮った。
「なんだと?」
「必要ねぇって言ったんだ。」
そう言って黒夜が委員長の前に立つ。
委員長も身長が小さいわけでないが、黒夜が高身長なこともあり、委員長が小さく見えた。
「こんな顔写真一つでたいした作戦も作れないだろ?時間の無駄だ止めておけ」
「何も考えずにバラバラに動くよりはいいと思うが?」
教室に険悪な空気が流れる。
「おい!二人ともやめろ!」
朋也がそう言って二人の間に立つように止めた。
「では、お前は勝手にやれ。」
「あぁ。そうさせてもらうぜ。」
と二人は互いに逆の方向に歩き出した。そして、委員長は教室の後ろに集まるようにこちらに視線を送ると、それに従うように歩き出そうとすると、黒夜がすれ違い様にこちらの肩に手を乗せるとそのまま引き寄せられた。
「へ?」
と声が漏れる。
「おい貴様!何をやっている!水瀬をどうするつもりだ!」
それに黒夜はニヤニヤ笑うと
「俺が何をしようと俺の勝手だろ?こいつ借りるぜ」
「な!?ま、待て!」
そう言って返事も聞かないまま黒夜を引っ張って教室を出て行った。
「お、おい黒夜!どう言うつもりだ」
それに黒夜は自分の口元で人差し指を立てる。
そして、耳元に近づき、コソコソ話をするような音量で話した。
「正体不明の犬だ。用心にこしたことはない。匂いは仕方ないにしても音量くらい調節しろ。」
それに緊張した眼差しになり静かに頷いた。
前回は、うまくいったが、今回も無事倒せる保証はないのだ。今日死んでも何もおかしいことはないのだ。
声量を落とし話し出した。
「なんでお前が俺にこだわる?」
「こだわる?何のことだかさっぱりだな。」
「こだわってるだろ!質問も俺に聞いたし、今もこうして俺を連れてきたじゃねぇか!」
それに黒夜はこちらを見るとフッとまた意味ありげに笑うと
「なんとなくだ。」
「は?」
「俺と同じ気がしたんだよ。ただの勘だ。」
「意味分かんねぇよ。」
黒夜は、こちらに待てと言うように手を向けると、壁に移動し、隠れてそっと辺りを見渡した。その様子はさながらストーカーのようだった。
だが、軽口をたたく気にもなれなかった。
鼻孔をつくような獣臭がしたのだ。近くにいる。
そっと壁から顔を出すと、一匹の犬が歩いていた。
ドーベルマンだろうか。普通よりも少し大きいぐらいだった。
それを黒夜は睨むとこちらに向き直り
「お前が前回戦ったのはどんな奴だ?」
「チュパ像って言って、2メートル越えの頭がチュパカブラみたいで首から下は仏像で、手には棍棒?みたいな棒を振り回す奴だ。」
言っていて思ったが、もし、相手があれだけなら拍子抜けもいいところだ。つまり…
「他にもいるだろ?…お前も俺と同じ考えだろ。」
黒夜は顎に手を置くように考えるとニヤッと笑う。
「おい。後をつけるぞ。先に行け。」
そう言って、怪しみながら獣に隠れながら近づく。後ろをチラッと見たが、ちゃんとついてきていた。
案外いい奴なのかもな。噂は所詮噂だな。そう思った瞬間だった。
黒夜は急に立ち上がると犬めがけなんの躊躇いもなく引き金を引いた。透明な攻撃が犬の頭を見事に撃ち抜いた。
そして、黒夜はこちらの襟を掴んだ。
「え?お、いー黒夜!」
と、こちらの制止も聞かずに犬にめがけ投げ飛ばした。
床にバウンドし、大きな音が辺りに響いた。
その瞬間だった。先ほどの数倍大きな3メートルほどもある頭が三つある犬が教室の壁を壊して出てきた。
ネーミングセンスだろ!ケルベロスとかあっただろ!
ケルベロスのような犬がこちらを睨むと地響きのような咆哮をした。それに、中から
先ほどの殺した犬ほどの大きさの犬達がこちらを睨み出てきた。
一瞬視線を外し、黒夜の方を見ると、黒夜は腹がよじれんほど大爆笑をしていたが、必死にその声が漏れないように堪えていた。
それにムカつきながらも犬達がいない方向めがけ猛ダッシュで駆けて行った。
「あの野郎!絶対殺す!次会ったらぶん殴ってやる!」

その様子を誰もいなくなった廊下で腹がよじれんほど笑った後、黒夜は、呼吸を整えるように息を吐いた。 
そして、その背後からゆっくりと近づくと黒夜の頭めがけ銃を構えた。
「右手に持っている銃を置け」
「おいおい。どう言うつもりだメガネ君。」
「新太郎だ。貴様こそ今の自分の立場が分かっているのか?」
それにわざとらしく肩をすくめ、右手に持っていた銃を見せつけるようにして横に投げた。
その瞬間だった。ロングコートで見えなかった左手で黒夜は剣を向け、ボタンを押した。刀身が出てきた剣は、委員長の右手に突き刺さり、銃を離してしまう。
そして、黒夜はゆっくりと立ち上がると
「撃つ覚悟もねぇくせにいっちょまえな脅ししてんじゃねぇよ。」そう言って委員長の銃を拾うとそれを委員長の足めがけ打った。
ガラスの銃弾が委員長の膝に刺さる。
「ヴッ、ガアァァァァ!」
と足を抑え倒れこみながら黒夜を睨む、黒夜は目を合わせることもなく無防備な背中を向けた。
「次はねぇぞ」
と言って黒夜は祐樹が走って逃げた方向をリングで確認しつつ、歩き出した。


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