僕はまた、あの鈴の音を聞く

りんね

No.4 約束の少女

ーー話は、僕が記憶を無くしてから半年後の今に戻る。

 家から出て、約二キロの場所にある小さな公園。

 そこは、僕が指定されていた場所だった。

 普段運動を一切しない僕が、二キロという距離を歩くのは少々......というか、結構無理があったのだが、なんとか辿り着くことは出来た。

 その後、取り敢えず公園を一回りしてみたが、呼び出した本人はまだいなかったので、休憩がてらに僕は近くのベンチに腰を下ろす。

「あっ!」

 そこで僕は、とても深刻な事に気付いてしまうのだ......。

それは……。

「帰りの事考えてなかった......」

「独りで何言ってるの、しん君?」

「!?」

 突然後ろから話しかけられ、振り向くと、僕を呼び出した張本人こと伊藤穂波いとうほなみがそこにいた。

 黒髪のショートヘアが特徴の、同級生。
クラスは違うが、本人の口ぶりからして、半年前の僕と関わっていた人物の一人らしい。

「しん君、お久だね。一昨日も聞いたけど、身体大丈夫?」

「ああ、問題ない。ノープロブレムだ」

「事故で入院してた期間って、結構長かったよね。えーと、確か......半年くらいかな?」

(入院してた期間か......。僕が目覚めてからは、今日でちょうど、半年だった筈)

「まあ、それくらいだ」

 先に言っておくと、僕の記憶が、なくなっていることを知っているのは、僕の家族、学校の先生、そして妙な友人(変人)だけだ。事をおおやけにして、目立ってしまうと、今の僕ではまともに話せそうにないからな。出来る限り、隠しておきたい。

 それは、目の前の少女も例外ではないのだ。

 そもそも一体なぜ、せっかくの休日というのに、伊藤は僕を呼び出したのだろうか。

 学校に通ってから知った事だが、どうやら僕は、人とそこまで関わるタイプの人間ではなかったようだった。

 茜曰く、女子の知り合いなど一人もいなかったようだし、妙な変人曰く、学校でも女子と話したところは見た事が無かったそうだ。

 そんな僕に話しかけるどころか、休日に呼び出すなど、何か裏があるのではと考えてしまう。

 僕は、さりげなく• • • • •聞いてみる。

「ゴホン、ゴホン......。え、えーと、伊藤は、何故僕をここに呼んだんだい?」

 不自然極まりないな、おい。

「......?」

 彼女は首を傾げた。

(そりゃそうだ)

「いや、何で僕を休日に呼び出したのか、まだ聞いてなかったからな」

「何でって、そりゃあ......」

 彼女が一度深呼吸をした。

「まだ......、返事を聞いていないから」

 彼女は、軽く頬を染め、早口でそう言った。

 ーーどうやら半年前の僕は、とんでもない問題を抱えていたようだ......。

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