一万の聖剣を持つ精霊

夢野つき

決闘を申し込まれた

 リチャードからの呼び出しを終えて教室へと戻って行く。教室までの廊下はなんとも言えない静けさがあった。
 今回の呼び出しは、戦場に出ていたかの確認だけだった。おそらくだが、近頃またリチャードに呼び出されることになるだろう。そんな事を考えながら足を進めて行く。
 今は授業中だからなのだろうか、廊下ですれ違がったのは二、三人ほどの教師だけだった。しかし、どの教師たちもイルミナ、『獣人族』を見るとあまり良い顔をする事も無く目を背けた。やはり獣人族はあまり人族には好かれていない種族なのか?

「ここだったけかイルミナ?」
「うんそうだよ!」

 すると、俺たちが教室のドアを開けた途端、教室中の生徒たちが俺たちに目をやる。あぁ…だめだ、どうしても俺は前世からこの空気に慣れない。
 そう思いながらだが、表情を一切変える事なく自らの席に歩いて行く。

「やぁおかえりだね。ヒメさん、イルミナさん、そしてリョーマさん。丁度今、この教室についてのお話と昨日あった魔物の事件についてのお話が終わったところです。まだまだ話すことはあるので早く席について下さい」
「あぁ、言われなくてもわかってる」

 そして俺たちは席に着く。
 そのあとに待ち構えていたのは、ウィリアムの長い長い学園の説明だった。黒板に学園の地図を貼って場所を教えたり、何をする場所なのかを言ったり。一年生がこれから学園でして行く事など。それに校則。そして何と言っても所々に挟んでくる世間話がとてつもなく面白くない。これほど無駄だと思った時間は初めてだった。
 世間話で街にある武器屋や本屋、雑貨屋などの話をされても全くわからない。
 精霊族はあまり睡眠を取らないのだが、この時だけは寝てしまいそうだった。
 そうこうしているうちに、どうやら話が終わったようだ。

「もうそろそろチャイムの鐘がなりそうですね。この後の時間は休みを挟んだ後に部活動紹介・勧誘があるのでみなさんはそちらに移動して下さい。確か場所は…運動場ですね。別に今日は無理だ、という人がいても構いませんよ、部活動紹介・勧誘は今日を合わせて三日間で行われますのでその間に見学でも言って来て下さい。まぁ、簡単に言うと今日の授業はここまでです」

 言い終わるのとほぼ同時にチャイムが鳴る。

「おっと、なっちゃいましたね。それではみなさん、明日はしっかりと授業があるので教材を持って来ておいて下さい。それでは」

 そう言うと、ウィリアムは教室から出て行った。
 その途端に、教室中の生徒が喋り始める。ウィリアムの声だけが響いてた静かな教室だったが、急に騒がしくなる。
 所々ではもうグループが出来上がっており、何人かが集まって話し合っていた。

「さてと、これからどうするイルミナ。と言うか眠そうだな」
「うん…昨日はたくさん動いたし睡眠をとってないから…眠たいよ…でもしっかりと先生のお話は聞いたよ…」
「あ、あれ?もう先生の話終わってた?」

 おい、イルミナはしっかりとウィリアムの話を聞いていたのにお前は寝ていたのかよ。まぁ、俺も言える立場じゃないけど。

「おいお前たち!」
「なら今日は寮に戻るか。部活動見学に行きたいのならまた明日にしよう」
「「うん、そうしよ〜…」」
「おいお前ら聞こえてんのか!」

 そうして俺たちは寮に戻るために立ち上がった時…

「お前らのことを言ってんだよ!聞こえてんのか!?」
「うるさい黙れ」

 先ほどからギャーギャーうるさく喋りかけてくる奴らを睨みつける。そこに立っていたのは3人の男子生徒だった。
 俺が睨みつけた途端、一番前に立っているやつ以外はヘタレ込んでしまった。でもすごいな、少しだけだが殺気も飛ばしたのに真ん中だけ立っている。普通の一般人なら2人同様ヘタレ込むんだけどな。と感心していたのもつかの間、足を見てみると思いっきり震えていた。

「なんのようだ?さっさと用件を言え」
「ははっ!そ、そこの獣人族の女とお前!調子にのってんじゃ」
「そんな前置きを聞きたいとは一言も言っていないぞ。さっさと用件だけを言え」

 さらに殺気を飛ばし、スキルで長めの長剣を取り出す。そして、男の喉仏に剣先を突きつける。
 その行動が見えなかったのか、それまた急すぎる行動に驚いたのか、はたまた両方。剣を突きつけると少し遅れてギリギリ立てていた男子生徒も後ろに倒れ込み、教室に悲鳴が響き渡る。それと同時に他の生徒達がざわつき始める。

「ちょッ!りょうにー!何してるの!?」
「そうですよ!リョーマ!やめてあげてください!」

 その途端、イルミナの一声で体が金縛りをあったかの様に動かなくなる。
 いきなりで驚いたものの、なんとなくだがこれが精霊契約の掟のようなものだと感づく。簡単に言うと『契約精霊は契約者の命令は必ず聞く』だろう。思いの外、この掟が思考が拒む事なくすんなりと体に入ってくる。
 が、しかし…

「イルミナ、なんで止める…?」
「リョーマ少し怒ってますよね?少し高圧的に話しかけられてイライラしてしまってるのかもしれませんが、誰かを傷つけるのは間違ってると思います!」

 そう言って、イルミナは俺の手を握って剣を下げる。
 少しは怒っているが高圧的に話しかけられたからではない。イルミナを馬鹿にするような言い方をこいつらがしたからだ。
 そして俺は渋々と剣を収納スキルにしまい、倒れ込んでいる3人組の男達を睨み付ける。

「で、なんのようなんだ?」

 3人の男達は蒼白な顔をしながらもだが、真ん中に倒れ込んでいる男がイルミナと俺に向かって話す。

「よっ、よくもこの俺を馬鹿にしてくれたな!俺を誰だかわかっていってるのか!?」
「いや知らん。それと俺は馬鹿にはしてないぞ?ゴミがあると思って親切にお掃除してやろうと思っただけだ」
「なっ!?ええい!もういい!お前ら2人とも俺たちと決闘しろ!格の違いを思い知らせてやる!」

 そして手袋を投げつけられた。
 







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