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みんな異世界大好きやな。どんだけ異世界行きたいねん。

長谷川壮真

第八話 朝やで

「ほら、起きな〜!」

 快活の良い澄んだ声が、壊滅状態の町に響き渡る。とても三十を過ぎたおばさんの声だとは思えない。

「うーん・・・・・・」

 山田は宇水の声とガールフレンドである姫白の揺さぶりで目が覚めた。

「朝ごはんできたから食べるよー」
「パンでなく?」
「今日はごはん。味噌汁もあるよ、ミソスープ」
「よっしゃ、和食!」

 山田は宇水の言葉と一階から漂ってくる朝食の匂いで飛び起き「おはようございます!」と無駄に元気な挨拶を放った。
 山田がなぜここまでごはんと味噌汁に喜んでいるのか、それは山田が和食を好きなこともあるが、データ空間に来てからパンしか食べていないからである。
 宇水がお椀やお皿を必要とするものは持ち運びが大変だからとパンだけを作り出して、食べ終わった後にはゴミを残さないようにしていたのだ。

「ここを拠点にするなら作ったものを保管しておけるし・・・・・・あとここね、水道通ってたの」
「それは助かりますねー。というか、そんなことより早く食べたいです、一階ですか?」
「うん、紗雪ちゃんも行くよ」
「はーい」

 家自体は半壊しているくせになぜか階段だけ無傷なのをありがたく思いながら、寝癖頭の山田一同は一階のテーブルに小夜と二人で待つ萬原の所へ向かった。

「「おはようございまーす」」

 山田と姫白が声を揃えて食卓につくと、萬原は左手の指同士を擦り合わせながら「おはよう」と返した。

「どうしたんですか、左手」

 細かいところでありながら気がついた山田が、萬原の左手をじっと見つめながら聞く。

「えっ、ああ。なんだかこうやってあっちの世界にいた時とおんなじような状況だと、毎朝読んでた新聞がないのが違和感でね」
「新聞読みながら朝食って、この時代にまだそんなことしてる人いたんっすね」

 ほぇ〜と馬鹿面丸出しの山田に「そりゃあいっぱいいるだろう」と心の広い萬原は腕を組み、宇水の方を見た。

「な、なによ。私も若くてそんな人がいるなんて知らなかったなぁ」

 宇水はわざとらしく目を逸らし、「それより早く食べましょう! 冷めちゃう」と手を合わせ頂きますをして、ご飯を箸で掻き込んだ。

「小夜くんも食べなよ」

 たまたま小夜の隣に座っていた萬原が、小夜のスプーンを手に取りご飯をすくう。   
 彼女だけスプーンなのは宇水のできた気遣いだ。

「これなに?」

 小夜は怯えた目をして人差し指でごはんを恐る恐るつついた。

「そっか、この世界じゃお米が普通じゃないのか・・・・・・? 大丈夫だよ小夜くん、美味しいから食べてみなよ」
「う、うん・・・・・・」

 そうして小夜が口を開け、温かいごはんを歓迎しようとした瞬間だった——
 ズドーンという重圧のある音がなり、地面が揺れた。

「きゃあ!」

 小夜が隣の萬原の腕を掴んだ時、聞き慣れた声が山田たちをある意味冷静にさせる。

『ヴィオスや! ほんまもう、こんな朝早うから・・・・・・』
「笠木さん、これって退治しに行ったほうがいいんすよね」

 山田がご飯の入ったお椀に味噌汁を流し込みながら言った。

「いいや、別にこっちから行かんくてもヴィオスの方から来てくれるやろ。今回のはロンロンっちゅうてめっちゃ速い。とにかく速い。今はそれしかわかっとらんけどまぁがん——」

 湊が言い終わる前に、突然の爆風が食卓に並ぶ朝食をすべて吹き飛ばした。

「うわっ! 俺のねこまんまー!」

 山田がまるで恋愛映画の恋人が汽車に乗って町を出て行くシーンばりの勢いで叫び、涙目になっていた。

「よくも、俺の朝ごはんを・・・・・・って、葉っぱ?」

 怒りをあらわにするのかと思いきや、目の前に現れたヴィオスを見て声を失う山田。
 山田の瞳には緑の葉っぱが繋がりあった人型のペラペラとした変なのが映り込んでいた。顔であろう部分の葉っぱには真っ黒い斑点状の虚無が三つ、目と口のようについている。

『こいつや! こいつがロンロンっちゅうねん!』
「この葉っぱ星人が・・・・・・」

 山田は自分の身長とさほど変わらないロンロンを眺めて「ほぇ〜」と、新聞が恋しいおじさんを見た時と同じ声を漏らしていた。

「富典、そんなにボーッとしてる場合じゃないんじゃない?」
『せやで、みんな頼むで!』

 湊の声を聞いて山田は鞘に手をかけ、萬原は震えながら無言で涙を流す小夜を背に隠した。

「ねこまんまあああ!」
『まだ怒っとったんか君は』

 はじめに動いたのは山田。正面からロンロンに斬りかかるが——
 山田が振りかざした剣は虚空を斬り、ロンロンの姿が消えていた。

「消え、た……?」
『ちゃうちゃう! 後ろや!』

 山田が振り返った時にはもう遅い。
 ロンロンは震えて動くことができなくなった小夜の背後に回っていた。

『危ない!』

 湊の叫びを、「パチン!」という手のひら同士が勢いよく重なり合う音でかき消された。

「やめてほしいな」

 呟きの方向に視線が集まる。
 そこにはロンロンが振りかざした葉を真剣白刃取りで受け止める萬原の姿があった。顔ギリギリで止めたせいか、鼻先が少し切れて血が流れている。

「山田くん! 早く斬って!」
「あっ、はい」

 目の前で起こっている光景に、あっけにとられていた山田は少し遅れた返事をして、再びロンロンに斬りかかった。

——スパッと耳障りのいい音が何重にも重なり合い、音が鳴り止んだ次の瞬間粉々に切り刻まれたロンロンだった葉っぱが舞った。

『おおっ! やりおるなぁ山田くん、萬原さん』
「へへっ、こんなの朝飯前っすよ」
「その朝飯はぐちゃぐちゃになっちゃったけどね」

 調子に乗った山田がドヤ顔になって言った言葉に、姫白が辛辣なツッコミを入れた。

「のおおおおおおお!!!!!」
『まあまあ山田くん、朝飯くらいまた作ればええやんか』
「ねぇ笠木くん。そんなことよりさっきのロンロンってやつ、小夜ちゃんのこと狙ってなかった?」

 和みつつあった空気を宇水の濁った声がさっき起こった一瞬のことを思い出させる。

『たしかにそんな風に見えたよなぁ、まだヴィオスのことなんかなんも分かってないからなんとも言われへんけど、もしかしたらそういうことかもしれん』

 静寂が荒れた部屋を包む。
 山田一人だけ「そういうことって?」と首を傾げていたが、理解した宇水たちはその質問に答えない。

『まぁとりあえず小夜ちゃんのことは頼んだで。ヴィオスのことはまた考えよう』
「わかったわ、小夜ちゃんのことは任されたわね」
『ほな、よろしくさーん』

 宇水は芯の通った声で返答をし、「ふぅ」と一息つくと

「それじゃあ朝ごはん作り直しましょうか」と床に散乱した朝食を指差して山田たちに片付けるよう求めた。

「よっしゃ、ねこまんまのために頑張るぞー!」
「小夜もー!」

 さっきまで恐怖で押し黙っていた小夜は、山田の陽気な声色に気分が軽くなったのか、両手を上げて楽しそうな笑顔を見せた。

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コメント

  • 殲滅のゼロ

    こんばんは!

    自分の作品を読んでいただき、ありがとうございます!


    滅多にない設定に凄いと感嘆している自分ですが、負けるわけにもいかないのでお互いに頑張りましょう!


    応援しています!!

    1
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