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みんな異世界大好きやな。どんだけ異世界行きたいねん。

長谷川壮真

第五話 どうすんねん

 車で数時間、湊たちはせっかく京都に行ったのに観光することもなく、東京にとんぼ返りしてきていた。

「おかえりなさい」

 部屋の中で一番広いリビングダイニングに入ると、もうすでに肘谷以外のスターツのメンバー全員が揃ってくつろいでいた。   
 その中で唯一まじめにデータ空間の監視を行っていた牛乳だけが出迎えの言葉を湊とチーコにかけた。

「ただいまー。あんたら全員、ここ本部にする言うてもそのだらけ具合はないやろ」

 湊は呆れた顔で荷物を部屋の隅に置き、洗面所へ手洗いうがいをきっちりしに行く。チーコもその後を追ってテケテケと洗面所へ向かった。

「なあこれってお茶とか出した方がええんかな」
「んー、どうなんだろ。初めてだもんねここで集会するの」

 そう、今までスターツの会議はこの湊たちがすんでいる部屋ではなく、国側が用意してくれたそれっぽい感じの広い部屋だった。だが山田や姫白をデータ空間に送ったことにより、監視の目を一切離せなくなってしまった。
 その結果がこれだ。
 スターツのメンバー以外この部屋の立ち入りは禁止されているし、完全に世間から隠されている場所なのだから代わりの監視役を他から呼ぶこともできない。

「うーん・・・・・・」
「とりあえずチーコが昨日買っておいたポテチ出しとこっか。コーラもあるし」
「せやな、なんか会議感ないけどそれでえっか」

 二人は皿とコップの準備、ポテチとコーラの準備に分かれて手早く二人用、一人用のソファーそれぞれ二つずつに囲まれた机に広げた。

「もう紛れもなくお菓子パーティーやん」

 湊の独り言で机の上に広げられたポテチに気がついたのか、部屋の中なのにサングラスをかけたスキンヘッドの強面が「Oh〜!」とポテチに手を伸ばした。

「グラさん、今日集まったんはここで遊ぼう言うわけじゃないんやからな」

 アメリカ人であるグラさんと湊に呼ばれたその黒人男性は、「まぁまぁ、いいじゃなーい」と鼻歌を歌いながらコップにコーラー注いで、それを一気に飲み干した。
 見た目が強面なのに対して言動が合っていないのに湊はもう見慣れて特に反応することもないが、チーコは隣で「プククッ」と必死に笑いをこらえている。そんな光景を横目に見ながら、湊もグラさん同様コップにコーラを注ぎ、それを一気に飲み干して気合いを入れ直す。

「よーし、ほんなら始めるでー。集合や集合」

 肘谷とのテレビ電話をパソコンから繋げて、一応スターツのリーダー的存在である湊がメンバーを机の周りに集める。こうして集めて改めて、なかなか個性的なメンバーだ、と湊は苦笑いを浮かべた。

「で、まずは今朝起きた事件のことですね」

 白髪ショートにメガネのクールな女性が、ひんやりした目で湊に話を持ちかける。イッポリータ・チッポラ、イギリス産の美人だ。

「せやな、犯罪者が罪犯したまんま異世界転生できひん言うのを公表するべきがどうかの話や。国からOK出るかはさておきでな」

 と、ようやく空気が極秘組織のそれになり始めた時だった。

「ん? んんん?」
「どうしたんですか湊」

 イッポリータが「なにをふざけているんですか」と見られただけで首を切られそうになる程鋭い目つきで湊に視線を向ける。

「いや、あれ。あることは知っとったけどこんな間近なんは初めてちゃうか?」
「なんですか、会議中に」

 イッポリータが湊の指差すモニターを見る。そこには——

「なっ、町ですか!?」
「みたいやな、あいつらもうあんなん見つけとんか」

 山田たち元会社員四人を映し出すモニターには、彼らが人の住んでいそうな町の中に入って行く様子が映っていた。町の中はあちこちが破壊されていて何かが住んでいる様子はない。きっとヴィオスが襲ったのだろう。
 でももしここに人が住んでいたなら、そうでなくても何かしらの生物が住み着いていたりその痕跡を見つけることができれば、データ空間解析の大きなヒントを手にすることになる。

「音声受信を行う。スピーカーの電源を入れるぞ」

 気の利く牛乳がすぐさま立ち上がって、壁に沿って取り付けられたテーブルの上に置いてある小型スピーカーを手に取る。

「ああ、それ使うとうるさくて近所迷惑になってまうけどしゃあないな」

 この人数で話を聞くのにはこの方がいいだろう。というか、そもそもこの人数分ヘッドフォンがこの家には存在しない。

「湊、これで頼んだ」
「任せときぃ〜」

 牛乳の手から湊の手にピンマイクが渡った。
 スピーカーのスイッチを入れると彼らの会話がこの部屋に筒抜け状態になる。
 何か犯罪でも犯している気分になった。なっていないのはこんな状況にもかかわらずポテチを口に放り投げてはコーラで流し込んでいるグラさんだけだろう。
 湊は牛乳がキーボードを弾いて小型カメラを転成者四人に近づけたのを見計らって声をかけた。

「山田くんたち、聞こえとるかー?」

 あいも変わらず緊迫感のないトーンで湊が言う。

『あぁ、その声は笠木さん?』
「せやせや。ちょっと君らに頼みたいことがあんねん」
『なんすか? それより見てください、すごい建物並んでますよ! なんかヨーロッパ旅行に来た気分だなぁ』
『ねー、なんかオシャレー!』

 山田と姫白がじゃれ合う会話が部屋中に充満する。湊はそれを見て自分のことでもないのになんとなく恥ずかしくなって「で、頼みたいことなんやけど」と無理やり話を戻した。

「その町の探索をしてくれへんか? もし人とか、なんでもええけどヴィオス以外の生物やったらなんでも、おったら報告して。他にも物とか食料とか色々集めてしばらくそこで待機や。もしかしたらそこの世界のことがなんかわかるかも知れん」
『ってことはしばらくここに住む感じ?』

 宇水がカメラに顔を寄せて『笠木くーん』と呼びかけた。

「そうですね。そん代わりしっかり調査してもらいますで」
『わかったー! ですっ』

 宇水の顔とカメラとの狭い間にスルリと入ってきた姫白が敬礼しながら鼻息荒く返事をした。

「ようそんな慣れへん環境で元気にいられんなあ。今日までも宇水の作ったもんで野宿とかしとったんやろ?」
『そうですね〜。あっ、ここもそっちの世界と一日の時間そんなに変わらないんですね。あとこっちの世界にも太陽と月があって面白いですよ!』
「太陽と月があることがおもしろいなんて言葉初めて聞いたわ。んじゃよろしく頼むで」
『はーい!』

 モニターの向こうに姫白が手を振ってカメラから離れていくのが見える。その奥には萬原が『若いとそんなに元気でいられるのか』とでも言いたげな苦笑いを浮かべて立っていた。

「あんな人たちだったんですね」
「俺は知っていた。一日半ほどだが監視をしていたから。彼らはすごい。ヴィオスが現れてもさして動じない」

 イッポリータのつぶやきに牛乳が答えながらスピーカーの電源を切る。

「なんや、俺たちがここ空けてる間にもなんか出てきたんか」
「ベスターが一体だけだが」
「またあのクソムカデかいな」

 どうやらあいつらの適応能力は半端じゃないらしい。普通同じモンスターが二回出てきたからって二回戦目を冷静に切り抜ける、なんてことできるやつはそういない。持っている能力がチートということもあるが、それにしてもだろう。

「じゃあ湊、会議を始めますよ」

 イッポリータ特有の名前だけは呼び捨てという話し方で促された湊は

「そんじゃあ改めて今朝の事件の話からや」

 と再びソファーに腰掛けた。

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