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みんな異世界大好きやな。どんだけ異世界行きたいねん。

長谷川壮真

第四話 ちょっと出てくるわ

 異世界に転生した四人とのやりとりがひと段落し、湊はケータイで『スターツ』のうち一人を呼び出す。
 電話の相手はどうやら男性のようで、随分ダンディで重みのある声だ。

「うん、せっかくやし一月一日の今日行きたいやん。だからちょっとの間だけでええから頼むわ〜」
『うむ、仕方ないな。今から向かう』
「よっしゃ、じゃあ待ってるで」

 そんな電話からたったの五分後、家のベルが鳴って湊は玄関のドアを開ける。

「よお、湊」

 ドアを開けた先で挨拶してきたものの顔は見えない。なぜなら玄関のドアをくぐるのにも体を縮こめないといけないほどデカイからだ。たしか身長は二メートルを超えていた。

「相変わらずでっけーな、牛乳」

 いま湊が『牛乳』と呼んだデカイ男は、スターツの一員、中国人だ。
 こいつのあだ名が『牛乳』なのは『でかい』の前から二文字を取った結果『デカ』になったので、「デカといえば」とスターツ内で多数決を取った結果牛乳が多かったのであだ名が『牛乳』になったという、なんともしょうもない馴れ初めがある。
 湊は絶対アンパンだと主張したのだが、アンパン派は湊一人だったため相手にされなかった。それからは仕方なく『牛乳』と呼んでいる。

「あれっ、牛乳くんじゃん! どーしたの?」
「湊に留守番を頼まれたのだ」
「湊くんどっか行くの? 留守番ならチーコがするけど」
「チーコも一緒に行くねんで」
「どこに?」
「初詣や」

     *

 ということで湊たちは「明日までには帰ってくるわー!」とだけ言い残し、あのオンボロ自動車にチーコを乗せて高速道路を走っている。
 牛乳にはさっき転生した四人のことを書き置きで伝えあるので、データ空間の監視は問題ないだろう。おかげで湊は安心して初詣に向かうことができた。

「ねぇ湊くん。高速道路なんか走ってどこに向かってるの?」
「清水寺」
「どうしてそんな遠くに・・・・・・。東京からどれくらいかかるの?」
「五時間ちょい」

 湊が半笑いになって言うと、チーコは「うぇ!」となんとも言えない変な声を出し咳き込んだ。

「どうして京都・・・・・・?」
肘谷ひじたにんとこ、データ改ざん成功したってのを言いに挨拶ついでや。AWR生産してる工場のおかっぱ頭、何回か会ってるやろ?」

 データ改ざんというのは山田たちが様々な能力を持ったように、現実世界で生きている時にはあり得ないようなことができるようになったり何か体に変化が起こったりすることだ。
 そんなデータ改ざんを湊とともに進めた、湊の大学の同期である肘谷の名前を聞いて

「あぁ〜、知ってる。おかっぱだった」

 と、チーコは「ぷぷぷ」といきなり笑い出した。見たところ肘谷のおかっぱ頭で思い出し笑いしているようだ。

「おまえ、絶対肘谷の前で笑ったらあかんで。あいつ結構あの髪型気に入ってるねんから・・・・・・」

 そんなこんなで三箇所のサービスエリアによりながら車を走らせ、ようやく肘谷のいる工場についた頃にはもうすっかり日が暮れてしまっていた。

     *

「あけましておめでとう」
「おめでとう」

 工場の入り口前で待ってくれていた肘谷が寒そうに腕を組みながら湊とチーコを出迎える。チーコも小声で「おめでとうございます」と口にして、肘谷の方を見て笑うのを一生懸命堪えていた。

「チーコちゃんはひさしぶりだね。今から初詣なんだって?」
「はいっ、肘谷さんも一緒に行かれます?」
「いいや、俺はこの工場の管理をしなくちゃいけないから遠慮しとくよ」

 そう言って肘谷が見た工場はそこそこの大きさで、こぢんまりとした町の工場というものには更々見えないものなのだが、基本肘谷が一人で管理している。

 これもAI発達の賜物だ。

 ここで雇われている人間はいない。全て肘谷が作ってしまった恐ろしい施設なのだ。それもこれもAWRのことを世間から隠すためなのだが、だからといって工場丸々作るような奴は肘谷とかいうおかっぱ以外にいないだろう。

「せや、あの四個のAWR成功したで」
「失敗するなんて思ってなかったけどね」

 肘谷がドヤ顔になって言う。

「そんじゃあ初詣行ってくるわ。今日は泊めてな」
「は?」

 ドヤ顔だった肘谷の表情が一気に崩れ落ちた。だか、そんな肘谷のことなど歯牙にも掛けない湊は

「よろしくー!」

 と、満面の作り笑いを弾けさせたのだが、湊を呼び止めた肘谷の口から予想外の言葉が飛び出した。

「待て湊! おまえ清水寺行くんだろー?」
「そうやけど、それがどうかしたんか?」
「どうしたも何も、もう閉まってるで」
「えっ・・・・・・」

 さっきまで威勢のよかった湊が固まった。

「えー、もう閉まっちゃってるの!」
「いや別に途中までは入れるけど、ほらあの有名な清水の舞台には入れないはずだよ。何も調べてきてないの?」

 チーコがあげた驚きの声に丁寧に答えた肘谷は、馬鹿にするような笑みを浮かべて湊に問い詰める。

「そ、そんなもん知っとったわ! ほな肘谷、お前の部屋に案内してもらおか。俺たちはもうここまで来んのに疲れたんや!」

 照れ隠しなのか言葉に勢いが乗る湊は、荷物を取りにチーコの手を引いて車を停めてあるパーキングにドスドスと行ってしまった。


 小綺麗で立派な工場の隣にある古くさいぼろぼろの一軒家で一晩眠って早朝。湊はチーコと肘谷を連れて清水寺を訪れていた。
 肘谷はもともとこの日は休みの予定だったらしく、工場の運営に回る必要がなく昼まで寝ようとしていたところを湊が叩き起こしたのだった。
 そうして今は清水の舞台を見上げる位置にあるパワースポット、音羽の滝の行列に並んでいた。

「こんな朝は早うからようけ来んねんなぁ」

 参拝が終わった湊は、まだずっと後ろまで続いている行列の後方を背伸びして見ながら呆れた表情になる。
 そんな湊の顔を見てチーコは

「あんなに並んでまで、わざわざどうしてこんなとこへ初詣に来てるんだろうね」

 と、湊と同じ表情になって言った。

「こんなところって・・・・・・。チーコちゃんたちだってわざわざ東京から来てるんでしょ・・・・・・」

 肘谷が苦笑しながらツッコミを入れる。そんないかにも平和な会話が交わされた直後だった。

『きゃあああああああああ!!!!!』

 突然の悲鳴が辺りに響き渡った。それもとてつもない量の人から発された叫び声。

「なんや!?」

 湊が悲鳴の聞こえた上の方を見ると、そこにあったはずの清水の舞台がとてもじゃないほどの熱気を発し、轟々と炎を巻き上げていた。
 そんな中、燃え盛る清水の舞台の上に何人もいた高校生くらいであろう少年の中の一人が、高笑いをして辺りの空気を震わせた。

「ははははは! お前ら全員焼け死ね! 俺たちは死にもしなければ警察に捕まりもしねぇ! これから異世界で楽しく過ごすんだからな! 行くぞ!」

 その少年の合図が一歩踏み出したのを皮切りに、ほかの少年たちも飛び降りた。

 清水の舞台から——

 その場にいた人間は皆パニック状態だった。それは湊の周りも同様、一斉に大人数が逃げようとするので自由に身動きが取れない。

「二人とも、手ぇ離したらあかんで!」

 湊が咄嗟に握った肘谷、チーコの手を一層強く握る。その手を二人はぐっと握り返した。

     *

 AWRによって犯罪者の逃げ道ができた結果がこれだ。
 清水の舞台が放火されたあと消防や警察、マスコミなどが押し寄せ混乱は酷くなるばかりだった。事件が起こって三時間経った今も消化活動は続いており、混乱の収拾は付いていない。
 湊たちは肘谷宅のテレビの前で、朝の報道番組を垂れ流していた。

「なぁ湊、そろそろ公表してもいんじゃないか? またこういう事が起こりえない」

 肘谷が神妙な顔つきになって言う。彼の目は、テレビに映る未だに消えない火事の火を反射させていた。

「まだあかん。国の方からまだ言うな言われてんねん。まだもうちょい異世界に人間送らんとすぐ人口なんか増えてまうからな」
「だからってこんなことが頻繁に起こるなんてたまったものじゃないぞ」
「せやけどな、このこと公表したら確実に異世界転生者は減るやろ。やとしたら俺たちが今までやってきたことも全部パーになってまうかも知れへん」
「ねぇ、公表ってなに? なにを公表しちゃいけないの」

 湊たちの会話を横から聞いていたチーコが問いかける。

「AWRの機能や。現実世界で罪犯してそのまんま法的処置受けてなかったらAWR体に埋めて死んでも異世界転生できひんねん。罪の重さは関係なくな。今日放火した少年たちなんかは死ぬことも生きることもできひんまま俺たちがおる現実世界とデータ空間の間を彷徨い続けてるってわけや」
「へぇー。いやだねそれは」
「てか、自分もスターツの癖になんで知らんねん」

 チーコは自分から聞いておいて、さも興味のないことを無理やり聞かされているみたいにココアをすすった。 
 そしてしばらくの沈黙が流れる——と思ったのだが、タイミングよく湊のガラケーが鳴り出した。

『湊、テレビを見た。大丈夫だったか?』
「大丈夫やで、誰も怪我してない。それだけか牛乳」
『いや、スターツの集まりを今日の午後からやるらしい。出来るだけ早く帰って来てくれ』
「わかった。やったら今からそっち向かうわ。昼過ぎくらいに着くと思う」
『わかった。では待っている』

 カチッとケータイを閉じる音が静かな部屋に響いて、それを合図にチーコはすっくと立ち上がる。

「スターツの集まりあるから戻って来いやって」
「うん、だいたいわかってたよ」
「じゃあさっそく行こか」

 湊は立ち上がったチーコを見上げて言ってから、重そうな腰をあげた。

「うん、それじゃあ肘谷くんまたね」

 肘谷はスターツのメンバーでありながらこの工場から離れることはできないので、参加はいつもテレビ電話の画面越しだ。

「なんか、あっさりだな」

 苦笑する肘谷に湊は「世話んなったな」と礼を言い、肘谷の「気をつけて帰りねー」というなんの面白みのない見送りのもと二人は東京へ舞い戻った。

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