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みんな異世界大好きやな。どんだけ異世界行きたいねん。

長谷川壮真

第三話 頼りにしてるで

「ここって・・・・・・」

 山田は仰向けになって空を見上げた状態のまま、一歩も動けず、何もない草原の真ん中でただ呆然としていた。それは他の三人も例外ではない。

「本当に異世界きたのかなぁ」

 姫白は首だけ回して山田の方に顔を向けると、瞬きも忘れるほど驚いていたようで目に涙が浮かんでいる。
 決して不安そうな顔などしていないのに涙を浮かべる姫白の様子がおかしくなってか、山田が突然「ぶふっ」と吹き出し笑い転げ始めた。

「はぁ、異世界に来てすぐ、目の前でこんなにイチャついてるカップル拝まないといけないなんて思わなかったわ」

 宇水はふてくされた表情で起き上がり、辺りを見渡して「ほんと何にもないところね、萬原さん」と仰向けに寝転んだままの萬原を見下ろした。

「ああ、そうみたいだね。それより笠木くんがいないけど、どこいっちゃったんだろう」
「ほんとね、もしかして私たちを裏切って一人だけ死ななかったとか?」

 宇水が悪そうな笑みを浮かべていうと、山田が横から「やりそー」と笑い声をあげた。
 そんな感じでいつも通りの会話を交わす四人だったが、宇水がふと我に返って姫白と山田が手に握っているものを交互に指した。

「それにしても、紗雪ちゃんと山田くんが持ってるそれ何? 剣と・・・・・・魔法の杖?」
「んー、気づいたら握ってたんでよくわかんないですー。でも魔法の杖だったら異世界チックでなんかいいですね!」

 姫白が三十センチほどの長さをした杖の木目をさする。とてもシンプルなデザインのものだ。

「俺も、なんか気づいたら両手で鞘ごと握ってました。二本もありますけど、剣なんすかね」

 山田は少し慎重になって一方の鞘から剣を抜き出した。

「うおっ、すげー!」

 山田の目が上から下まで闇色に染まったつるぎを映し出す。

「「「おぉー!」」」

 山田が掲げた剣を見て、他の三人も声を上げた。
 その歓声を聞いた山田はテンションが上がって、もう一方の剣も鞘から取り出した。こっちは刃の先から柄つかの先まで真っ白だ。

「これぞ異世界って感じですね! やべー! すげぇ興奮してきた!」

 はしゃぐ山田に皆が笑い声をあげた、その時だった——

 ズドーンと爆発音が聞こえたと同時に、今まで誰も遭遇したことのない大きな揺れが四人を襲った。砂埃が舞い上がり、それが山田たちを飲み込んだ。

「きゃあ! なに ︎」

 姫白が悲鳴をあげ、山田の腕をギュッと掴む。山田は二本の剣を握ったまま、倒れないようにとしゃがみこんだ。

「みんな、出来るだけ固まって離れないように!」

 萬原が最年長らしく声をかけて数秒後、揺れはすぐに収まった。だが、それはこの四人が初めて戦い、そして自分の立場を知るきっかけとなる巨大モンスター登場の合図であったことに気づくのは、あと数秒後のことである。

     *

「おわわわわわわわあああああ!!」

 山田が叫んだのは他でもない、巨大なムカデのような形をしたモンスターが目の前に現れたからだ。他の三人は息をすることも、ましてや叫ぶことなどさらさらできずに立ち尽くしていた。

「えっ? これは戦えってこと・・・・・・? なあみんな!」

 山田の問いかけに誰も答えようとしない。正しくは答えることができないほどに恐怖を感じていたのだ。
 特大メガ盛りモンスターがもうそこまで迫ってきている。

 どうすればいい? どうしたらこの場をしのげる?

 山田は必死に思考を巡らすが、恐怖と焦りでなかなか結論にたどり着かない。そんな時だった——

『山田くーん、大丈夫か? 早く切らんと殺されてまうでーズルズルッ!』

「えっ?」

 突然の聞き慣れた声に、山田は今目の前のモンスターに殺されるかもしれないことも忘れてキョロキョロと声の主を探した。

『こっちこっち。てか俺のことなんか探さんでええから、はよベスター倒してまってーなズルズルッ!」
「こっちこっちって・・・・・・うわ! カメラ!?」

 山田の目前に現れたのは直径約一センチほどの宙に浮かぶ小さなカメラだった。そこから湊の声が聞こえてくる。

『なぁ、早く倒してまわんと。ほら危ない! ズルズルッ!』

 湊の口調が急に変わったことに異変を感じ、山田はさっきまで巨大なバケモノがいた方に視線を向けた。その視線の先からなにやら恐ろしいものが急接近してくるのが見えたが、反応できない。
 山田何人分かなど数え切れない巨大な怪物の餌食になるのだと、その場にいた四人は確信した次の瞬間だった。

 ガンッ! とバカの頭を教科書でぶったような鈍い音が辺りに響いた。

「「「・・・・・・・・・・・・?」」」

 数秒間沈黙が流れた。まぁ、その光景を見ていた三人どころか、さっきまで暴れていたベスターでさえ数秒間固まってしまったのも無理はない。

 四十過ぎたおじさんが片手で馬鹿でかいモンスターを受け止めていたんだから。

『おお! 萬原さんすごいですよ! そんままボコーンと一殴りしちゃってください!ズルズルッ!』
「えっ? 一殴りって・・・・・・こう?」

 突然のことでまだ自分が何をしたかも理解していない萬原は、湊からのいきなりの注文に「あってる?」と不安そうな表情をカメラに向けながら、ベスターを受け止めるのに使わなかった左手でやつの顔面に軽く拳を入れた。

 あとは一瞬。爆音とともにベスターは粉々に砕け散り、草の匂いを乗せた心地のいいそよ風に飛ばされ消えていった。

『萬原さんめっちゃええ感じでしたよ!ズルズルズルー・・・・・・』

 未だに何が起こったのか掴めていない萬原は、ベスターを殴った時の左手を出したポーズのまま石みたいに動けずにいた。

「笠木くん、さっきからズルズルズルズル何食べてるの?」
『ラーメンです、伸びきってうまないですけど』

 宇水の質問に呑気な口調で返す湊に、さっきまで必死な顔だった四人の表情が一気に呆れ果てた。

「えっいや、笠木さんがラーメン食ってるとかどうでもいいんすけど・・・・・・笠木さんが今そのカメラの向こうにいることの方が先決じゃないっすか? あとさっきの巨大ムカデのことも」

 山田が戸惑い気味にカメラの方に目を向ける。すると他の三人も実は生き別れの兄妹かなんかか! とツッコミを入れたくなるほどぴったりと息を合わせて頷いていた。もちろん萬原はパンチポーズのままで・・・・・・

     *

「要するに、私たち人間をこのデータ空間に送り込む邪魔をしてくるやつを叩けばいいってことね」
『さすが宇水さん! 理解が早くて助かるわ〜』

 ある程度の説明を終え、湊が水を一杯飲み干す音が小型カメラから聞こえる。
 
「でも・・・・・・邪魔って、俺たちが後から来たんですよね? それって・・・・・・」

 山田が戸惑いの声をあげた。だが、湊は山田を否定する。そうしなければならない理由があるから。

『これは俺たち人類とヴィオスとの戦争や。生き残るためのな、弱肉強食ゆー言葉はよう聞くやろ? 奴らを倒さなけりゃ俺たちが人口増加かヴィオスに殺される。そうなりたないんやったら戦うんやな』

 湊の口調が変わって、一気に空気が凍りついた。

「だけど話し合いとか・・・・・・戦わないって選択肢はないんですか?」

 非現実の連鎖の中、意外にも冷静な姫白が落ち着いた口調で笠木に問いかける。

『それは無理やなぁ。なんせ脳みそないからな? あいつらはただのバケモンや、この世界を力でねじ伏せてきたな』
「・・・・・・そうですか。それじゃあ戦うしかありませんね・・・・・・」
『ヴィオス以外の生物は確認されてへんけど、村っぽいところも見つかってはいるからもしかしたらヴィオスの他にも違う種族のやつが住んでるかもしらんけど、ひとまずはヴィオス生み出しとる『黒幕』っちゅうやつ倒してもらうで』

「黒幕って、名前ですか?」

 山田がすかさず聞き返す。

『ん? あぁ、俺たちが勝手に呼んでるだけやで。どこにいるんかもまだ検討すら付いてへんけど・・・・・・。君らはえげつない容量やからなぁ』
「容量・・・・・・?」
『あぁ、自分らの強さの程度のことや。ほら、どっかの少年漫画に戦闘力とかあったやろ? それとおんなじようなもんや。それにチートレベルの能力付きや、奴ら倒すくらいなんとかなるやろ』
「また根拠もないこと言いますね。それで、俺たちってなんの能力が備わってるんです?」

 山田が、普段ならやたらハイテンションで聞いてくるようなことを全く声のトーンをブラさずに聞いてきたことに、湊は少々の驚きを感じながら、山田の代わりにハイテンションになって言った。

『それはなあ・・・・・・! 萬原さんがさっき見たみたいに身体能力の向上、宇水さんは頭の中で思い浮かべたものなら何でも生み出せます。姫白くんは杖を使えば魔法っぽいことやったら何でもできる。で、山田くんは剣使うのでイメージしたことやったら何でもできる! 四人揃ってスーパーな能力持ちってわけや!』
「なんか何でもありって感じだなぁ」

 萬原から「あはは」と力無い笑い声を漏れる。ほかの三人もちんぷんかんぷんといった様子で湊の話を聞いていた。

『まぁみんな、やってみる方が手っ取り早いで。どれもイメージするだけやから、この異世界に似合うこんな服を作ろうとか、杖から破壊光線出してみようとか、剣に火を纏わせてみようとか何でもええで。あ、萬原さんはさっきみたいなスーパーパワーでイメージするとかないですけど』

 湊のざっくりした説明を聞いて、宇水、姫白、山田の三人は頭の中で湊が例に挙げたものを思い浮かべてみる。
 すると——

「うわっ、すごい!」

 はじめに声をあげたのは宇水だった。その場にいた全員が声のした方を見ると、三十路のセクシーな女性が、いかにもファンタジー世界にピッタリ合いそうな深緑色をしたマントを両手に広げて持っていた。
 続いて山田が両手に待った剣から勢いよく火花を散らせ、次の瞬間、漫画の世界でしか見たことのないような炎を宿した剣が山田の両手に握られていた。

「ほ、本当にイメージ通りになった・・・・・・」
「すごーい! とっても似合ってるからこれあげるっ」

 驚き固まる山田に、宇水がお前自分の年齢わかってるのか? と疑問を抱かせるような調子でさっき作り出したばかりのマントを山田に羽織らせる。

「わっ、ありがとうございます」

 山田が少し戸惑いがちに言った直後だった。山田の前方に見えていた姫白の持つ杖が一瞬光ったように見えた、次の瞬間後方でからとてつもない振動と、もしかしてまたさっきのベスターみたいなやつが来たんじゃ・・・・・・と思わせるような音が鳴り響いた。音に遅れて爆風が四人とカメラ一つを襲う。

「・・・・・・っえ?」

 この大爆発に、一番驚きを隠せない様子でいたのは破壊光線を出してこの爆発を起こした張本人、姫白だった。
 姫白は自分たちのいる場所から随分遠くで燃え盛る炎を眺めて、それから湊が操作している小型カメラの方に目を向けた。

『いや、私がやったの? みたいな顔すんなや。どう考えても間違いないやろ』
「す、すごい・・・・・・」

 姫白は自分の想像をはるかに超える能力に息を漏らすと、そのままその場にへたり込んだ。

「おい! どうした紗雪!」

 真っ先に駆け寄ったのはもちろん、姫白のボーイフレンド山田だ。

「大丈夫、なんかちょっと疲れちゃっただけ」

 そう言って眠りにつく姫白を、山田はさっき宇水にもらったマントを敷いてそこに寝かせた。
 なかなか紳士的だ。

『強力な魔法使ったからなぁ、どの能力もそうやけど使いすぎると今の姫白くんみたいに体力消耗してまうから注意やで』
「それ、もっと早く言って欲しかったですよ」

 心底不機嫌そうな表情でカメラの向こう側の湊を睨みつける山田だったが

「まぁわかりましたよ。俺、人類救います」

 と随分とスケールのでかいことを真顔で言い切ったのを見て、いい大人たちの和やかな笑い声が永遠と続く草原に広がった。

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