南国勇者〜パーティを追放されたおっさん、流れついた先は常夏の楽園でした〜

ノベルバユーザー286429

プロローグ



 ━━その日の酒は、やけに“まわり”が早いと思ったんだ。




 もっと早く異変に気がつくべきだった。

 仲間たちの、俺を見る目が変わっていたことに。

 深い後悔。



 俺の名前はアル・ウェイン。両親から貰った素敵な名前だが、悲しいことに、長いことその名で呼ばれた覚えがない。


「なにぼけっとしてんだよ、おっさん!」


「なぁ、おっさん! はやくしろよ!」


「むりむり。コイツまじ生理的に受け付けないんですけど」


 冒険の仲間たちからの扱いは、まあ、こんなもんだ。

 でも、それも慣れたもんだと思っていた。なんだかんだで命を預け合う旅のパーティ。世間では第一級、Sランクに位置付けられる名パーティ【紺碧の海猫】の中では古株になる俺への一種の愛情表現なんだろうと思っていた。

 実力主義の、いつ死んでもおかしくない、入れ替わりの激しいパーティの中で、俺は俺なりに仲間たちのことは目にかけていたしな。

 戦闘技術にしてもサバイバル技術にしても、人生相談だって、先輩として与えてやれることは惜しみなく与えてきた。そのつもりだった。


 そういうわけで、俺は自分の能力とか大先輩だからという立場に胡座をかいたつもりもなかった。

 確かに俺のパーティ内での役割、つまりジョブは【アデプト】という、ちょっと自慢できる類のものではあった。

 錬金術師《アルケミスト》や付与術師《エンチャンター》や強化術師《エンハンサー》などの各クラスを修めたものが到達できる上位の職業、それがアデプトだ。

 要するにごりごりの補助系職であり、地味だがパーティにとってはこれ以上の縁の下の力的存在はないといのが一般的な見解だ。

 俺の知る限りアデプトにまで到達した人間は世界に数十人といないはずだ。
 才能には恵まれなかったが、運と年の功ってやつだろう。


 なのにあいつらときたら。


 いいだろ?
 今くらい言い訳させてくれ。


 そうなんだよ。
 俺はちゃんと立場をわきまえていた。
 能力を鼻にかけるわけでもなく、恩義を期待するわけでもなく、つい前に出たがる勇者のよき補佐役として一歩引いた冷静沈着な役柄を全うしてきたつもりなんだ。


 なのになぜだ?


 正直、年齢的にも限界は感じていた。気づけば歳も四十手前、同年代の冒険者たちは次々に引退している。故郷に戻るものや次世代の若者を育成する立場に身を置くものも多い。

 こうして仲間たちとの別れの日はいつかは訪れるとは覚悟していた。でも、今ではないと思っていた。

 あと、五年。

 五年は一線で戦える。
 そう思って、中年の体に鞭打って頑張ってきた。

 俺としてはもっと華々しい散り方というのを期待していた。冒険者たるもの、やはり旅の中で死にたいものだ。
 できるならまったく歯が立たない強大な魔物を相手にして、仲間たちの犠牲になって散りたかった。
 自爆魔法を発動する心の準備はいつでもできている。


 でも、こんな捨てられ方ってありかよ。


 なによりリーダーである、勇者アタリが俺をかばってくれるもんだと思った。

 同郷の旧友であり、駆け出し冒険者時代から幾多の苦難をともにしてきた唯一無二の仲間だ。

 でもそう思っていたのは俺の方だけだったことが、海に投げ捨てられた瞬間にわかった。


 考えれば考えるほどムシャクシャする。 


 なんであいつだけ老けないんだよ。俺だけおっさん。あいつは今でも髪はふさふさだし、腹も出ていない。まだまだ十代のガキみたいに動けるし、若いねーちゃんからはモテる。

 不公平だろ。まぁ、それが生まれ持った才能というならそれでもいい。ただ公平なら不公平なりに情けをかけてくれてもいいんじゃないか。


 なぁ、俺は間違ったことを言ってるか?


 ちくしょう。

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