回復職が足りません!

栗塩

05 似た者同士

『そうか、ルシオはヒーラーか。魔法属同士宜しく頼む』

『おいそこー、宜しくどうぞはいいんだけどよ、冒険者組合の施設着いたぞ』

村とは比べ物にならない程の人口と、様々な施設、家の数、そしてルゴーラで一際目立つのは中心にそびえ立つ大きな城である。ルゴーラ共和国を中心とする街を始め、周辺ほぼ全域がこの国の物である。隣国に与える影響は大きい。

慣れない人混みに視線を忙しなく向けているルシオとは対照的に、寄り添うように歩くグリスは冷静だった。ルゴーラに来たことのあるフォードも、コロでさえも涼しい顔をしている。
自分だけがなんだか世間知らずなような、田舎者のような感覚に陥る。いや、間違ってはいないけども。

大通りの石畳を行き交う人を避けて進めば、レンガ作りのこじゃれた建物に着いた。多分これが、フォードが来たがっていた冒険者組合の施設なのだろう。中に入れば、そこは人で賑わっていた。どの人物も装備をしっかりと整えている。冒険者なのだろうか?

壁には依頼の紙がびっしりと貼り出されており、真剣にその紙一つ一つへと視線を向ける者が集まっていた。しきりに、これはだめだ、これなら、など呟きが聞こえてくる。

三階建てのこの建物の一階は広く、手前にはテーブルや長椅子などが設置されており、奥の方には受け付けのような窓口がいくつか点在している。
その中に、冒険者登録窓口、という箇所がある。女性が立っているそこへ、フォードが真っ直ぐ向かっていく。

『どうも!冒険者登録を四人、お願いしますー』

『はい、ではこの書類に一人一人記入をお願いします。パーティでいらっしゃるなら、代表者の方を決めておいてください』

『つまりリーダーってことッスね』

『はい、そうなります。そちらのテーブルでどうぞお書きください』

女性から四枚の書類を受け取り、戻ってきたフォードに誘導されて四人で席につく。書類を配るフォードに、グリスは首を振り、受け取らない。

『俺はもう、登録しているんだ、すまん』

『まじかよ、初耳だぞ。段級は…!?』

『安心しろ、D級だ。あまり依頼をこなしてこなかったからな』

『て、ことは俺たちが新規で登録するとFだから、一段階上じゃねーか。気に食わねぇなー』

ルシオは黙って二人の会話を聞きながら書類へと目を通した。説明文に段級分けのことが書いてある。段級は全部で7段階あり、Fから始まり、Aがベテラン。S級が、つまるところの伝説級と言ったところだろうか。段級に応じて受けられる依頼、受けられない依頼が出てくるようだ。
先程の壁の依頼書を見ていた人々の呟きは、多分これのことだろう。

コロは字を書けないようだったので、代わりにルシオが書いてやることにした。職業は、ワーウルフ…でいいのだろうか、悩んでいると、隣にちゃっかり座ったグリスが、それでいい、と言ってくれた。

自分の書類も手早く書いて、リーダーになる気満々のフォードへと差し出す。異論はない、リーダーなんて面倒なだけだ、とルシオは思った。
足早にフォードが先程の窓口へと向かい、受付嬢へと差し出す。

『はいよ、これで頼みま──』

『受付嬢さん!三人分の書類、よろしく!』

フォードが差し出したとほぼ同時に、隣からフォードと同じほどの背丈の男が受付嬢へと書類を差し出した。ばちり、と二人の視線がかち合う。

『あ……嫌な予感が………』

ルシオはぽつりとぼやく。フォードの性格は痛いほど知っている。短気で、喧嘩っ早いのだ。

『おい、テメェ、俺が先に話しかけてんだよ。順番守れよ』

『あ?お前こそ割り込んでくるなよ、後ろに並べ。常識だろーが』

睨み付けながらのフォードのドヤしに、薄い茶髪の男が張り合うように言い返す。険悪なムード、間に挟まれた受付嬢が苦笑いを浮かべた。

『やんのかよ、あ?』

『やってみろよ、オラ』

『こら、おやめなさい』

二人を注意したのは、まさか受付嬢さん!?と尊敬の視線をルシオは向けたが、どうやら違うらしい。二人に近寄ってきた髪の長い女性。身に付けている魔法具から、推測するに、魔法使いだろうか。髪色は先程の男と同じ薄い茶髪、そして整った顔についつい視線が向いてしまう。

『おお……』

先程まで一触即発の雰囲気だったフォードが、現れた女性へと視線を向けたまま固まる。それからドヤしていた男などそっちのけで満面の笑みを浮かべた。ああそういえば、彼は女性に弱いのだ。

『いやいや!俺はこんな奴と喧嘩なんてそんな、くだらねーことなんてしませんよ!安心してくださいって、いやそれにしてもお姉さんお名前は?』

『テメェ!姉さんに馴れ馴れしくすんじゃねーよ!!』

『え?姉さん??』

まぁ、言われてみれば髪色も似ているし、顔立ちも似ている気がする。と、心の中で納得するルシオたちはもう完全にただの傍観者で。更に言えば今は赤の他人のふりをしたいところである。切実に。

『違うんだよ姉さん!こいつが割り込んできたんだよ!俺は悪くねーから!』

『ちょ、なに言ってんだよふざけんな!』

『事実だろーが!』

再び始まった喧嘩に、流石のグリスも止めに入ろうと近寄ろうとした時だった。額をゴッと合わせて至近距離で睨み合う二人に、【姉さん】と言われた女性がずんずんと近寄り、自分の弟であろう男の後ろから頭をスパン!と叩いた。

『こら!だめだったら!!』

あっ、それやっちゃったら…とルシオが思うより先に、よろけた弟の口と、フォードの口がガチッと歯の当たる音と共にぶつかる。

唇が触れあったまま、数秒固まる。現実が受け入れられないのだろう。

『あらやだ!』

悪気があるのか無いのか、男の姉は微笑みを浮かべながら、さも驚いたというように口へ手を当てて後ずさる。途端に二人が勢いよく離れて、おええええっと聞くに耐えられない声を上げてしゃがみこむ。

さながら地獄絵図である。


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