回復職が足りません!

栗塩

03 目指すはS級冒険者

あの日から、ルシオの環境は目眩く変わっていった。
フォードとまず、何年かぶりに向き合って対等に話をした。ぎこちなく始まったその会話は、次第にお互いの絡まった糸をほぐしてくれた。
フォード自身も、村の影響に左右され、子供の頃はどう接していいか分からなくなり、それでも関わろうとした結果が、嫌がらせや、あのような態度になっていってしまったと、謝罪をしてくれた。ルシオは今までの恨みが不思議とスッと消えていったのを感じた。

結局、モンスター討伐に向かったパーティは、フォードしか生存者は居なかった。
村の住人を連れて、遺体は回収し、村にある墓地へ埋葬された。最初、自分は責められるものだと思っていたルシオだったが、村人は誰もルシオを責めることはなかった。

『フォード、体力は回復した?』

『おう、俺を誰だと思ってんだよ。完璧だよ』

怪我は回復させたものの、精神的な負担や疲労は治せるものではない。フォードもそれは同じで、ここ数日は自宅で安静にしていた。ルシオは時折、コロを連れて見舞いへ向かった。なんだか今日は本当に調子が良さそうだ。にこにこと笑顔で歩み寄ってくる。不気味だ。

『ところでルシオ、相談があるんだけどよ』

『聞くだけ聞くけど、なに?』

『俺達でルゴーラに行って、冒険者組合に申請登録してこよう。そんでもって、将来はお国直属のS級冒険者になっ──』

『いや、ちょ……なに?え?冒険者?』

『そう!俺とルシオとコロ助でパーティを組んで、それから魔法職も一人欲しいな、それに…』

『僕とコロに冒険者になれって言ってんの?』

『そう言ってるけど』

『ムリムリムリムリ、お断り!』

ルシオは見舞いの品のパンが入ったカゴをどんっ、とテーブルへ置く。びくり、と後ろに居たコロが肩を跳ねさせる。

『無理だよ、そんな危ないの!コロだって、そんなことさせられないだろ!そんな人間の都合に、コロを使うなんてダメだ!』

『なんだよ、コロ助。冒険者になりたくねーの?』

二人の視線が、コロへと向けられる。
コロは、ぱちくりと大きく数回瞬きをした。

『ボウケンシャってなに?』

『冒険者ってのは、夢があってスリルがあって、金も稼げて、強くなれる!そういうもんだ!』

『フォードはどんなユメがある?』

『俺か?まずは冒険者になって知名度を上げて、ばんばん稼いで、強くなって、守りたいものを守れる男になりてぇな。ついでにルゴーラ直属のS級冒険者になる!て感じだ!』

『守りたいものってなに?』

『守りたいもの?それは──』

フォードは一度間を置いてから、ルシオ、次にコロへと視線を向ける。

『仲間や、家族、国民…だな。今回みたいなことを、二度と起こさないように。とにかくこのままここで腐るのは嫌なんだよ』

ずきりと心臓が傷んで重くなる。フォードが本気なのはルシオにも伝わっていた。が、モンスターを前にしての恐怖を、ルシオは知ってしまった。それと同時に、責任は自分にもある。静まり返った室内で、コロはうんうんと何かに納得するように頷いて見せる。

『実はオレにも家族がいる。いる、というか、いた気がする。ぼんやりだけど、覚えてる。だから、フォードの気持ち、わかる……だからオレは家族を探したい。ボウケンシャは、そのユメも叶えられる?』

『断言はできねーが、可能性はある。冒険者は有名になるチャンスがある、コネも出来るし権力も備わる。それに各地いろんな所も回るぜ。まぁそれは…ヒーラーが居ればの話だけどな。長旅は特に』

ああこいつは、本当に頭の回転が早い。それでもって誘導も上手い、策士だ。普段の口調や態度から想像も出来ないがパーティを束ねていただけはある。ルシオは雰囲気にすっかり飲まれ、この場合選択肢は一つしかない。

『………分かったよ…でも、危ないことは無しだからな………首がもげたら、回復できないんだからね』

『よし!!これから俺らはパーティ、チーム、運命共同体だ!』

『ウンメイキョ……ウ…?』

『仲間ってことだよ!コロ助!』

難しい言葉は不得意らしいコロに、言葉を置き換えてフォードはコロの肩をぱんっと叩いた。仲間の意味は流石に理解したらしいコロは笑みを浮かべて叩かれた肩をすりすりと撫でる。そんな絆を深める二人の様子を、複雑な気持ちでルシオは眺めた。

もう一度言うが、ルシオの環境は目眩く変わっている。克服しなければならないことが、山のように重なって見える幻覚に、ルシオは襲われた。

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