東のマジア

ノベルバユーザー286206

〈第1話〉もう1つの世界に

運命という言葉について調べてみたが、よくわからなかった。
結局、“運命”の中身は空っぽなんじゃないか?
素敵な言葉でもなんでもない様な気がしてきた。
考えれば考えるほど“運命”がわからなくなる。
きっとだから、“運命”は、運命としか言いようがないんだとおもう。
中身なんて関係ない。“運命”は運命としか言いようがないんだ。

独りぼっちの少年の“運命”は一瞬で姿を変えた。




それはあまりに突然だった。
男手一つで育ててくれた父が交通事故で意識不明だそうだ。
今日の夜ご飯を何にしようか考えている最中の電話だった。
キッチンの横にあった子機を落とし、中から飛び出てきたバッテリーを眺め考えた。
意識不明とはなんだろう。
その病院はすぐそこの駅から五つ先の駅だ。
冷え切った脳みそを必死に回転させ、財布だけを持ち駅へ走った。
靴に入った雪が溶ける前にはもう病院に着いていた。
扉を開けた先の父を見て、僕はやっと意識不明の意味を理解した。
けれど理解した頃にはもう遅かったみたいだった。


何時間も、ただ椅子に座り、そして日が暮れ、
僕は、家に帰り、落ちた電話の子機にバッテリーを入れ、何時間も、ただ椅子に座り、
気づけば朝になっていた。


随分と行っていなかった学校に行こうかとも思ったが、テレビを眺めるうちに日はまた落ちていた。


明日は漫画の発売日だ。
明日おじさん達が来るらしい。
昨日観た映画は面白かったなぁ。
今日の天気は大雪だったな。
お父さんは何時に帰ってくるのだろう。


…。
…帰ってこない、そうだった。


虚しくなり商店街のざわめきに慰めを求め向かっていく。
家を出れば、2つ隣の部屋のおばさんとそのもう1つ奥の部屋のおばさんがこんな冬の玄関先でずっと世間話をしていた。


僕の部屋は3階。エレベーターを使わず階段を使う。滑りそうで危なかった。でも、まあ、落ちてしまっても良かったのだけれど。
商店街は遠くない。近道がある。
いつもは怖かった古びたビル同士の間にある暗い路地。


暗い道を歩いてゆけば、僕の足音も反響してゆく。


そういえば靴紐がほどけているなぁ。
僕は足を止め、足元を見るが、そこは暗く、よく見えない。


明るいところで結ぼうと前を向き、歩こうとして、また足を止めた。誰かの黄色い二つの眼がこっちを向いて光っていた。気のせいだろうか。
それとも、猫だろうか。


いや、違う。
路地の向こうを通る車が照らし出しシルエットはたしかに人間の様だった。


「我らはギャング。」


気のせいではなかった。目の前の猫は喋った。本当に人間だ。
関わるべきじゃないな、近道は諦めよう。


「略奪する者なり。」
後ろに、もう一人。


振り向く間も無く、もう一人に捕まった。


体が石になったように動けない。
叫ぼうとしたが叫べない。


恐怖からではないはずだ、だって僕の頭はもう既に冷え切っているから。


ぱちん。
正面のやつが指を鳴らすと、そこは見たことのないレンガの建物に挟まれた、サイレンと鮮明で大きな声が鳴り響く路地だった。


「ギャング共!その人間を返しなさい!!!!」


上を見ると個性的な制服を身に纏った数十人が空を浮遊し、こちらに右手を向けていた。
叫んでるのは、その中心の女性だろう。


「くそっ!なんでバレた!!!!」
「どうする!?」
「こいつは諦めて、逃げるぞ!」


そう言って彼らは指を鳴らす。
が、なにも起きかった。


「諦めなさい!こっちには異世界移動遮断器いせかいいどうブロッカーに、全移動魔法遮断器いどうまほうフルブロッカーがあるのよ!」


僕を襲った二人は、その細い目に絶望を滲ませた。


「貴方達を異世界住人誘拐の罪で逮捕します!」


今にも泣きそうな顔で自らの頭に右手を当てた。


「くそっ!捕まるくらいなら…!!!」


「やめろ!!!!!」


頭上から大声が響く。
それと同時に短く大きな爆発音。


そこにいた二人は黒い灰のような物となり、視界を埋めた。氷が溶けていくように体の力が抜け、地面にに崩れ落ちる。
それはほんの数分。いや、数秒の出来事だった。
異世界?
ここはどこなんだ?なんかのドッキリ?
なんなんだよ、一体!
飛んでる奴らも何者なんだ、
逃げよう、逃げるしかない。
今、なにが起こったわかるまでの間。
黒い灰のような物で周りが見えないうちに、僕は走り出した。




なんで彼は走るんだい?
その先に目指すものなんて、何も無いだろう?
彼があんなに走るのはいつぶりだい?
そして、彼はどういう人間なんだい?

彼があんなに走っていくから、彼女は今頃怒られてるだろう。
でも、彼女は怒られずとも、もう十分に反省しているだろう。

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