隻眼の現人神《隻眼のリビングゴッド》
7つの冥界門《セブンス・クル・ヌ・ギア》
雲ひとつない夜空に駆ける青い流星群を、病室の窓から、睨み付けるように少女は覗く。
これ、やばそうだな……
あの星一つ一つがまるで小さな現人神…… 向こうがやり合う気なら、槍を回収して隼人さん達と合流した方がよさそうだね。
來花は起き上がり、病室の窓から飛び降りる。
少女は身体を襲う重力に顔をしかめ、どんどん近づく地面に向かって両手を伸ばし、自身の身体と、地面に電流を走らせる。
衝突寸前の身体はフワリと浮き上がり、何事もなかったかのように地面に足をつくと、來花はそのまま焼け落ちたショッピングモールの跡地へと駆け出す。
「我が力の象徴たる豪槍よ、我が元に来たりて共に敵を穿たん。 だったっけ?」
少女の言葉に応えるように、瓦礫を裂いて、雷光を放ちながら、猛スピードで矢のように一直線に飛んでくる槍を、來花は右手でパッと掴み取る。
「さっすが僕だね! 合ってた合ってた!!」
來花は、踵を返して隼人の住む街の方へと向かうが、その道は7〜8人の看護師と、自分と同じ入院服を来た患者達によって阻まれる。
『我が主、アルラトゥに血肉を捧げよ、我が主、アルラトゥに生命を差し出せ』
生気の無い顔と、瞳孔の開いた瞳、そして手に持ったハサミやメス。
まるでパニック映画の世界に招かれたかのような状況に、來花は苦笑する。
「やだやだ、僕、怖いの嫌いなんだよ。 だから……  手加減できなかったら、ごめんね?」
來花の全身から電撃が迸ると、目の前の集団に向かって少女は飛び込む。
彼らの斬撃を躱わしながら、槍を風車のように振るい、彼らの腹部や背に叩きつけていく。
槍と相手が触れる度に眩いばかりの稲光が発光し、1人、また1人と倒れていく。
半数を蹴散らした來花は、そのまま一心不乱に走り去る。
あの人達から感じた変な気配、間違いなくさっき見た星と同じ物だね。
てことは、だいたい数百人くらいはあんな感じになってるって事か……
もっと急がないとマズそうだなぁ…仕方ない、やっちゃうか!
來花は、自らの身体中に電流を流し、自身の脚の神経を狂わせると、まさに電光石火と言わんばかりの速度で駆け出す。
道路を走る車両をぐんぐん追い抜いて行き、隼人と初めて出会ったバス停までたどり着くと、今度は、どんどん近づいて来ている2人の気配を頼りに探す。
『我が主、アルラトゥに血肉を捧げよ、我が主、アルラトゥに生命を差し出せ』
「うげ、やっぱここにもいるよねー…」
子供から老人まで、包丁やカッターナイフなど、様々な刃物を持った先ほどの倍くらいの人数が、來花の行く手を塞ぐ。
「ま、近くまで来たっぽいし、ここで数減らしてもよさそうかなぁ!!」
前足を踏ん張り、黒く燻んだ軌跡を描きながら、少女は速度を落とすと、槍を頭上で回転させる。
槍は、電撃を迸らせると、雷光が辺りを照らし、ゾンビのような人間達は、腕で目を隠す。
「よーし!いくよっ!!僕の、全力全開カッティングッ!!!」
回転する槍の矛先から放たれた稲妻は、轟音と共に縦横無尽に駆け回り、命中した敵は口を大きく開け、バタバタと倒れていく。
來花は、安堵した顔で大きく息を吐くと、再び倒れた人々に槍を構える。
「ふむ、年の割には中々の使い手じゃないか。 ガルラ霊共が手も足も出ないとはな」
辺りに声が響いた後、大きく開けられた人々の口腔から、どす黒い霧が吐き出され、一つの塊へと姿を変えると、喪服に身を包み、冷徹な笑みを浮かべた男性が現れる。
こいつの権能、マジでやばい…!!
目の前の男から感じた気配は、今まで出会った同族からは感じた事のない、酷く冷たい物だった。
「君の【神核】があれば、我が主の望みが現実となる事は間違いないだろうね。  すまないが、君の命をいただけるかな?」
來花は、額に汗を掻きながら槍を握り直し、咆哮を上げながら、男めがけて槍を突き込む。
「そうか、それが君の答えか。 実に滑稽だ」
男は、漆黒の霧を身体中に纏わせると、心底可笑しそうに笑いながら、少女の突き込んだ槍の切っ先に拳を振るった。
_______________________________
緊急ニュースです!!
現在、この町内で、集団ヒステリーが発生している模様です!!
附近に住まわれている方は、戸締りをしっかりとして誰もお家の中には入れないようにして下さい!!
現時点で100人ほどの方が意識不明の……きゃああああ!!
『我が主、アルラトゥに血肉を捧げよ。 我が主、アルラトー』
地域ニュースを放送していたテレビは砂嵐がザーッと耳障りな音を立てて中断される。
「お前が言ってたなんかの気配のせいか!? 今、この街で何が起こってるんだ!?」
テレビの電源を落とし、隼人はソファに座って俯くハトホルの肩に手を添えて尋ねる。
「……アルラトゥは世界創世後に、増えすぎた人間を減らし、死者を管理するために権能を与えられたシュメールの女神であるエレシュキガル、彼女の冥界での呼び名です……。 先ほどの揺れは恐らく彼女の権能により、冥界の門【7つの冥界門】が召喚された際に起こったのでしょう……。 
隼人、危険な必至だとは思いますが、門全てが開き切る前に止めなくては大変な事になります。 
これだけの力であれば後を追うことも容易い……!
すぐに向かいましょう!!」 
「もし、止められなかったらどうなるんだ……?」
彼女は顔を上げ、息を飲んだ少年の緋色の瞳を真っ直ぐ見つめながら、重い口を開く。
「この街と……いえ、この世界と冥界が入れ替わり、生きとし生けるもの全ては死に至ります。 」
少年の脳裏には、透や父親、クラスメイトや教師、そして和奏の姿が浮かび、その次の瞬間破裂音を上げ、蜘蛛の巣状の傷が入ると、砕け散った。
「行こう。 案内してくれ」
ハトホルは立ち上がると、花びらが舞い上がり、身体中を覆う。
花弁が消えた後、現れた彼女の姿は、学校指定のジャージではなく、初めて出会った時に着ていた白いワンピースを身に纏っていた。
「ええ、100人弱の魂を得ているのであれば、恐らくもう3つ目までは開いているはず。 時間がありません」
2人は玄関へと向かうが、ガンガンと力任せにドアを叩く音に足を止める。
「隼人!!! 俺だ!! 早く開けてくれ!!」
ドア越しに聞こえた、悪友の声に応えるようにドアを開け放すと、隼人は驚愕し、固まる。
「小鳩さんって怪我とか病気治せるんだろ! この前みたいに、こいつを助けてやってくれよ!?」
透は、息を荒げた、身体中に黒い班目が浮かび上がった幼い金髪の少女を床に下ろすと、家中に響き渡る大声で懇願する。
「黒死病…… やはり、彼も来ているということですね……」
少女の身体に手を触れ、新緑の光を迸らせると、真剣な表情でハトホルは続ける。
「透さん、目覚めたばかりの貴方にお願いするのは気が引けますが、状況は差し迫っています。
私と隼人に、力を貸しては頂けませんか?」
隼人と、透は顔を見合わせて見つめ合うと、大きく頷いた。
_____________
気味悪く赤に輝く石造りの門は、小さな黄色い光放つ球体を何個も吸い込み続ける。
その姿を見つめながら、女は呟く。
「アルラ……パパと、ママ。 もうすぐ……会える?」
『もちろんよティナ。 あと4つ、あと4つ開放されれば貴女はまた、両親と幸せに暮らすことが出来るの。 もう少しだけ、頑張ってくれるかしら?』
「うん……。 パパ、ママ……ティナ、頑張るから……もう少し待ってて」
冷たい風がティナの頰を撫でると、風に乗った純黒の夜霧は、姿を変える。
「ティナ様、大変申し訳ございません。 現人神を仕留めかけたのですが、別の現人神の介入により、目標を見失いました。 現在、ガルラ霊共に捜索させておりますので所在が分かり次第、再び強襲をかけます。」
ヴィンセントは心底申し訳なさそうに、こうべを垂れ、跪く。
「いい……。 アルラが、ね……多分、来るから……大丈夫って」
ティナは厳かな装飾の棺に手を触れると、少し微笑み、呪文を唱える。
「太古に、振るわれし…魔剣の、担い手よ。 冥界の…統治者たる、我が……其方に、再び戦さ場を…与えん」
妖しく紅紫に発光する棺は、ギィと音を立てて開け放たれ、中から白髪白髭の、オニキスに似た黒い光沢を放つ鎧をまとった老兵が姿を現わす。
「ヴィンセント…… ガルラを、呼び戻して。 迎え…撃つ」
「はっ! 御心のままに!」
ヴィンセントは、再び風に乗って姿を消す。
「ふふふ、神殺しの英雄シグムント。 貴方がいれば、私に敵はないわぁ…!  あぁ、早くこっちに来てくれないかしら」
ティナの不気味な笑い声は、森のざわめきによってかき消された。
これ、やばそうだな……
あの星一つ一つがまるで小さな現人神…… 向こうがやり合う気なら、槍を回収して隼人さん達と合流した方がよさそうだね。
來花は起き上がり、病室の窓から飛び降りる。
少女は身体を襲う重力に顔をしかめ、どんどん近づく地面に向かって両手を伸ばし、自身の身体と、地面に電流を走らせる。
衝突寸前の身体はフワリと浮き上がり、何事もなかったかのように地面に足をつくと、來花はそのまま焼け落ちたショッピングモールの跡地へと駆け出す。
「我が力の象徴たる豪槍よ、我が元に来たりて共に敵を穿たん。 だったっけ?」
少女の言葉に応えるように、瓦礫を裂いて、雷光を放ちながら、猛スピードで矢のように一直線に飛んでくる槍を、來花は右手でパッと掴み取る。
「さっすが僕だね! 合ってた合ってた!!」
來花は、踵を返して隼人の住む街の方へと向かうが、その道は7〜8人の看護師と、自分と同じ入院服を来た患者達によって阻まれる。
『我が主、アルラトゥに血肉を捧げよ、我が主、アルラトゥに生命を差し出せ』
生気の無い顔と、瞳孔の開いた瞳、そして手に持ったハサミやメス。
まるでパニック映画の世界に招かれたかのような状況に、來花は苦笑する。
「やだやだ、僕、怖いの嫌いなんだよ。 だから……  手加減できなかったら、ごめんね?」
來花の全身から電撃が迸ると、目の前の集団に向かって少女は飛び込む。
彼らの斬撃を躱わしながら、槍を風車のように振るい、彼らの腹部や背に叩きつけていく。
槍と相手が触れる度に眩いばかりの稲光が発光し、1人、また1人と倒れていく。
半数を蹴散らした來花は、そのまま一心不乱に走り去る。
あの人達から感じた変な気配、間違いなくさっき見た星と同じ物だね。
てことは、だいたい数百人くらいはあんな感じになってるって事か……
もっと急がないとマズそうだなぁ…仕方ない、やっちゃうか!
來花は、自らの身体中に電流を流し、自身の脚の神経を狂わせると、まさに電光石火と言わんばかりの速度で駆け出す。
道路を走る車両をぐんぐん追い抜いて行き、隼人と初めて出会ったバス停までたどり着くと、今度は、どんどん近づいて来ている2人の気配を頼りに探す。
『我が主、アルラトゥに血肉を捧げよ、我が主、アルラトゥに生命を差し出せ』
「うげ、やっぱここにもいるよねー…」
子供から老人まで、包丁やカッターナイフなど、様々な刃物を持った先ほどの倍くらいの人数が、來花の行く手を塞ぐ。
「ま、近くまで来たっぽいし、ここで数減らしてもよさそうかなぁ!!」
前足を踏ん張り、黒く燻んだ軌跡を描きながら、少女は速度を落とすと、槍を頭上で回転させる。
槍は、電撃を迸らせると、雷光が辺りを照らし、ゾンビのような人間達は、腕で目を隠す。
「よーし!いくよっ!!僕の、全力全開カッティングッ!!!」
回転する槍の矛先から放たれた稲妻は、轟音と共に縦横無尽に駆け回り、命中した敵は口を大きく開け、バタバタと倒れていく。
來花は、安堵した顔で大きく息を吐くと、再び倒れた人々に槍を構える。
「ふむ、年の割には中々の使い手じゃないか。 ガルラ霊共が手も足も出ないとはな」
辺りに声が響いた後、大きく開けられた人々の口腔から、どす黒い霧が吐き出され、一つの塊へと姿を変えると、喪服に身を包み、冷徹な笑みを浮かべた男性が現れる。
こいつの権能、マジでやばい…!!
目の前の男から感じた気配は、今まで出会った同族からは感じた事のない、酷く冷たい物だった。
「君の【神核】があれば、我が主の望みが現実となる事は間違いないだろうね。  すまないが、君の命をいただけるかな?」
來花は、額に汗を掻きながら槍を握り直し、咆哮を上げながら、男めがけて槍を突き込む。
「そうか、それが君の答えか。 実に滑稽だ」
男は、漆黒の霧を身体中に纏わせると、心底可笑しそうに笑いながら、少女の突き込んだ槍の切っ先に拳を振るった。
_______________________________
緊急ニュースです!!
現在、この町内で、集団ヒステリーが発生している模様です!!
附近に住まわれている方は、戸締りをしっかりとして誰もお家の中には入れないようにして下さい!!
現時点で100人ほどの方が意識不明の……きゃああああ!!
『我が主、アルラトゥに血肉を捧げよ。 我が主、アルラトー』
地域ニュースを放送していたテレビは砂嵐がザーッと耳障りな音を立てて中断される。
「お前が言ってたなんかの気配のせいか!? 今、この街で何が起こってるんだ!?」
テレビの電源を落とし、隼人はソファに座って俯くハトホルの肩に手を添えて尋ねる。
「……アルラトゥは世界創世後に、増えすぎた人間を減らし、死者を管理するために権能を与えられたシュメールの女神であるエレシュキガル、彼女の冥界での呼び名です……。 先ほどの揺れは恐らく彼女の権能により、冥界の門【7つの冥界門】が召喚された際に起こったのでしょう……。 
隼人、危険な必至だとは思いますが、門全てが開き切る前に止めなくては大変な事になります。 
これだけの力であれば後を追うことも容易い……!
すぐに向かいましょう!!」 
「もし、止められなかったらどうなるんだ……?」
彼女は顔を上げ、息を飲んだ少年の緋色の瞳を真っ直ぐ見つめながら、重い口を開く。
「この街と……いえ、この世界と冥界が入れ替わり、生きとし生けるもの全ては死に至ります。 」
少年の脳裏には、透や父親、クラスメイトや教師、そして和奏の姿が浮かび、その次の瞬間破裂音を上げ、蜘蛛の巣状の傷が入ると、砕け散った。
「行こう。 案内してくれ」
ハトホルは立ち上がると、花びらが舞い上がり、身体中を覆う。
花弁が消えた後、現れた彼女の姿は、学校指定のジャージではなく、初めて出会った時に着ていた白いワンピースを身に纏っていた。
「ええ、100人弱の魂を得ているのであれば、恐らくもう3つ目までは開いているはず。 時間がありません」
2人は玄関へと向かうが、ガンガンと力任せにドアを叩く音に足を止める。
「隼人!!! 俺だ!! 早く開けてくれ!!」
ドア越しに聞こえた、悪友の声に応えるようにドアを開け放すと、隼人は驚愕し、固まる。
「小鳩さんって怪我とか病気治せるんだろ! この前みたいに、こいつを助けてやってくれよ!?」
透は、息を荒げた、身体中に黒い班目が浮かび上がった幼い金髪の少女を床に下ろすと、家中に響き渡る大声で懇願する。
「黒死病…… やはり、彼も来ているということですね……」
少女の身体に手を触れ、新緑の光を迸らせると、真剣な表情でハトホルは続ける。
「透さん、目覚めたばかりの貴方にお願いするのは気が引けますが、状況は差し迫っています。
私と隼人に、力を貸しては頂けませんか?」
隼人と、透は顔を見合わせて見つめ合うと、大きく頷いた。
_____________
気味悪く赤に輝く石造りの門は、小さな黄色い光放つ球体を何個も吸い込み続ける。
その姿を見つめながら、女は呟く。
「アルラ……パパと、ママ。 もうすぐ……会える?」
『もちろんよティナ。 あと4つ、あと4つ開放されれば貴女はまた、両親と幸せに暮らすことが出来るの。 もう少しだけ、頑張ってくれるかしら?』
「うん……。 パパ、ママ……ティナ、頑張るから……もう少し待ってて」
冷たい風がティナの頰を撫でると、風に乗った純黒の夜霧は、姿を変える。
「ティナ様、大変申し訳ございません。 現人神を仕留めかけたのですが、別の現人神の介入により、目標を見失いました。 現在、ガルラ霊共に捜索させておりますので所在が分かり次第、再び強襲をかけます。」
ヴィンセントは心底申し訳なさそうに、こうべを垂れ、跪く。
「いい……。 アルラが、ね……多分、来るから……大丈夫って」
ティナは厳かな装飾の棺に手を触れると、少し微笑み、呪文を唱える。
「太古に、振るわれし…魔剣の、担い手よ。 冥界の…統治者たる、我が……其方に、再び戦さ場を…与えん」
妖しく紅紫に発光する棺は、ギィと音を立てて開け放たれ、中から白髪白髭の、オニキスに似た黒い光沢を放つ鎧をまとった老兵が姿を現わす。
「ヴィンセント…… ガルラを、呼び戻して。 迎え…撃つ」
「はっ! 御心のままに!」
ヴィンセントは、再び風に乗って姿を消す。
「ふふふ、神殺しの英雄シグムント。 貴方がいれば、私に敵はないわぁ…!  あぁ、早くこっちに来てくれないかしら」
ティナの不気味な笑い声は、森のざわめきによってかき消された。
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