みかんのきもち

名前はまだない

13.曖昧な輪郭の関係?

 ご飯は食べ終わったけど、話は続く。

「でもさ、束縛までいくとちょっとあれだけど、やきもち焼くのは普通のことなんじゃ無い? それだけ相手を好きってことなんだし」
「それはそうなんだけどさ……なんかこう、お互いの関係が曖昧あいまいと言うか……貴方にそんな事を言われる筋合いはないとか言われたらショックじゃん」
「関係が曖昧って、具体的にどんな感じなの?」

 友達以上、恋人未満か。 親友……とは少し違うのか。
 長い歴史の中で、何処にでもありそうなその状態に名前がつかなかったのは何故だろう。
 そんな曖昧な存在を世の中は許さないと言うことだろうか?

 男女間の友情は成立するのか? についてしばしばろんじられることがある。
 どちらが多数派なのか分からないけど、私は成立すると考えている。根拠こんきょ修斗しゅうと

 小さな頃から知り合いで、多くの時間を共に過ごし、互いに成長してきた。
 いつの間にか修斗しゅうとの事を異性として意識しだしていて、自分でも気づかないうちに修斗しゅうとに恋をしていた……なんて事にはならなかった。

 普通の友達とは違う。でも、親友とも少し違う気がする。って、私のことはどうでもいいんだった。

「うーん……なんて言ったらいいのか分からない。なんか、微妙な関係!!」
七尾ななおさん、話が進まないよ」
「だって分かんないんだもん。ちょっと距離が近かったりたか、手を繋いだりとか、その……まあ、色々あるんだけど……」
「付き合ってないのに?」
「うん」

 ますますわらかなくなってきた。はたから聞いていると、なんで付き合わないの? って感想なんだけども。まあ、色々事情があるんだろうと無理矢理に自分を納得させる。

「ちなみにさ、お相手は誰? 私の知ってる人?」
「そ、それは言えない!! と、友達の名誉のために!」

 まだ友達の話のていを諦めてなかったのか……。ただでさえややこしい話が、更にややこしくなっている気がするんだけどなあ……

「そかそか。じゃあ、その友達はさ、相手の人に『好き』って事を伝えたのかな?」
「伝えてる」
「相手からは?」
「好き……と言われたことはない……」

 あ、明らかにテンションが落ちちゃった……

「その友達は相手と付き合いたいと思ってるのかな?」
「……それは、よく分からない」
「相手を独り占めしたい?」
「……し、したい!」
「じゃあさ、思い切って相手の人に私だけを見てって言ってみるのはどうかな? それか、彼女にしてくださいって言ってみるとか」
「それは……言いたいけど、それで今の関係が壊れるのはやだ」
「んー、話を聞いている限り両想いだと思うんだけどなあ」

 新たな一歩を踏み出すのには勇気がいる。
 今の関係が壊れるのが嫌だと七尾ななおは言った。それは十分理解できる。誰だってそんな気持ちになる事はあるだろう。

 相手のことを大切に思う気持ちが強ければ強いほど、相手が離れていくことが怖くなるのは当然だ。
 だけど……だけどね、七尾ななお……


「これから先、ずっと今のままの関係が続くなんて、あり得ないんだよ。良い方向にいくにしても、悪い方向にいくにしても、人は進んで行かなくちゃいけないんだから。放っておいたら、両想いだったはずの二人が、少しづつ違う方向に行っちゃうかも知れない。それで気付いた時には取り返しのつかない距離になってしまっているかも知れない。そうならない為に、声に出して気持ちを伝えて、手を繋いで、二人で同じ方向に歩いていくんじゃないかな?」
日比谷ひびや……?」
七尾ななおは、その人がいない道へ進んで行ってもいいの?」
「……そんなの嫌だ」
「だったら……ね?」

 グッとテーブルの上で握りこぶしを作り、真剣な表情になる七尾ななお
 道に迷っている七尾ななおの背中を、少しだけど後押し出来たのか、それとも全く出来ていないのかは……正直分からない。後は七尾ななお次第だから。


 結果がどうなるにしろ、大切な友達の七尾ななおには後悔して欲しくない。
 キャラじゃないのは分かっているんだけど、ついつい熱く語ってしまった。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。

日比谷ひびや、ありがと」
「どういたしまして。お友達に宜しくね」
「え? あ、ああ! そうだね!」

 今まであまり恋とか愛とかについて深く考えた事は無かったけど、身近な友人である七尾ななおの恋愛相談を聞いて、少し不思議な気持ちになっている。
 私もいずれ恋をするのだろうか。

 今はまだ考えられないな。
 恋する七尾ななおが羨ましい、と言うか少しまぶしく見えた。

「よし! じゃあ次は日比谷ひびやの悩みを聞いてやろう!」
「えー? 別に悩みなんてないよ」
「悩みがない人間なんていないって」
「うーん……悩みかぁ。あ、そうだ。読書してる時に眠くなったらどうすればいいかな?」
「は? 読書? なんでまた急に」
「それがさ、なんか勢いで部活することになってさ。その部活で本を読まなきゃいけないんだよね」
日比谷ひびやが部活ー? なんか似合わないな」
失敬しっけいだな君は。まあ、否定できないけどね。で、どうしたらいいと思う?」
「眠くなったら寝る! んで起きてから続き読めばいいじゃん!」

 なんとも的を射たアドバイス。だが甘いな。

「一度寝たら次の日まで起きないよ私」
「そうなん? じゃあ次の日にまた続きを……」
「次の日もすぐ眠くなるよ私」
「部活やめたら?」
「諦めるのが早くないですかね七尾ななおさん」
「知るかよー。大体なんでいきなりそんな部活入ったんだよ。日比谷ひびやそんな暇じゃないだろ?」
「いやいや、そんな忙しくもないって」
「そうかー?」
「この間さ、修斗しゅうとと私ともう一人、三人でご飯食べてた子、覚えてる?」
「あー、なんか頭良さそうな子?」

 すごく適当なんだけど、実に的確な表現だった。

「そうそう。その子に誘われてさ、まあ……なんとなくね」
「……へー?(あの日比谷ひびやが……? 珍しいな)」
「今、珍しいなって思ったでしょ?」
「え? なんで分かるの?」

 七尾ななおは考えている事がすぐ顔にでる。非常にわかりやすい。本人にその自覚は無いみたいだけど。

「顔見れば分かるって。あはは」
「まじか。でも実際そうじゃん。どんな心境の変化よ?」
「さぁ? 私もよく分かんないんだよね。第一印象は『仲良くなれそうにない人』だったんだけどね」
「そっか。でも悪い事では無いんだし、いいんじゃない?」
「そだね」

 一頻ひとしきりお喋りを楽しんとあと、ファミレスを後にした私たちは、二人並んで帰り道を歩いている。
 このご時世、夜に女子高生の二人歩きなんて危ないかも知れないけど、幸いこの辺りは治安が良い。

 なにか事件に巻き込まれるとしたら、どんなに気を付けていても無駄だろうし。
 まあ、その時はその時で、七尾ななおを囮に……じゃなくて、七尾ななおだけでも逃して私はどうなってもいいや。
 人生で一度は言ってみたいセリフトップ3。
「ここは私に任せて先に行って!!」

 そう叫びながら。

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