みかんのきもち
12.5七尾と千愛3(サブエピソード)
澄んだ空をみていると、世界は何て広くて光で溢れているんだろうと思う。
それにしても今日は良い天気だ。快晴とはこういう日のことを言うんだろう。
この空の青さを例えるなら、そうだな……今うちが頬の中でカラコロと転がしている、ソーダ味のあめ玉くらいの青さだろうか。
青空もソーダ味のあめ玉も、夏らしいと言えばそう感じるから不思議なものだ。
秋だろうと冬だろうとそこに存在するものなのに。
そんな綺麗な空の下でうちは千愛と抱き合っている。抱き合っているというよりは、親戚の子を抱っこしているのに近い体勢かもしれない。
千愛の容姿が幼い事もあるけど、普段の彼女をみていると、ぽわーっとしていると言うか、ふわーっとしてると言うか……そんな立ち振る舞いが子供っぽさに拍車をかけているのだと思う。
悪戯に笑うその顔を見ているだけで、うちの心は満たされていく。
好きな人を抱きしめて、好きな人にキスをして……これ以上の幸せってあるのかな?
もし無いのなら、うちの人生のピークは今この瞬間という事になる。
「千愛……もっと……して?」
「なにをしてほしいの?」
「……言わなくても分かってるでしょ? そう言う意地悪は……いや」
「だめ。自分の気持ちは言葉にしないと伝わらない」
普段無口キャラのくせに、やけに強気じゃないか。
でもそれは違うよ千愛。自分の本当の気持ちなんて、口に出したところで相手に全てを伝えるとこなんて出来ない。
自分が伝えたい事の半分も相手には伝わらない。正に話半分。
うちが何度千愛の事を好きだと伝えたところで、うちの胸の奥から込み上げて溢れ出るこの気持ちの全てが彼女に伝わっているとはとても思えない。
言葉では伝えきれない思い。じゃあどうやって伝える?
伝えきれなかった分のうちの気持ちは、一体どこへ消えていくのだろう。
「……!?」
うちは千愛の首の後ろに両手を回し、やや強引に唇を奪い、はむはむとキスをする。
「七尾……んっ……すごい……積極的」
普段は焦らされてばかりで、やきもきするんだけど、たまにはうちから責めるのもありだよね?
まあ、正直言って焦らされるのも嫌いじゃないないんだけどな。
そんな事考えている間に、キスはだんだんと激しさを増していく。千愛の小さな口腔にうちの短い舌を入れる。
とても柔らかくて暖かい感触。表はザラザラしているけど、裏の方はツルツルだ。
舌と舌が絡み合い、クチュクチュと唾液が艶かしい音を脳内に響かせる。
うちはザラザラしてる方がなんか好きだ。
相手との接触をより強く感じられるからかも知れない。
「んぅ……はぁはぁ。ちゅる……ふぅ……」
千愛の呼吸が荒くなっていく。もしかしたら、うちより体力のない千愛にとっては、激しいキスの連続で息が苦しいのかも。
「千愛? 大丈夫……?」
一旦距離を取り千愛の顔色を伺う。
千愛の目はとろんと垂れ下がり、口はだらしなく半開きになっている。
その周りには千愛のものか、うちのものか分からない唾液がキラキラと輝いていて、綺麗なような、ばっちいような。
千愛の潤んだ目を見ていると、どうしても抱きしめたい衝動に駆られる。
この感情は、たぶんおかしくない。
でも今の状態で彼女を強く抱きしめてしまうと、本当に壊れてしまいそうなので、ぐっと堪えた。
相変わらず呼吸の落ち着かない千愛が本気で心配になってきた時、ようやく千愛の口から言葉が発せられる。
「七尾(ななお)、いきなりびっくりするじゃない」
相変わらずうちの質問には何一つ答えないなこの人……
「ごめん。なんか、我慢できなかった。嫌だった?」
半分冗談、半分本気の質問を投げかかる。
ここでもしも……イエスの答えが返ってきたら、どこか遠い街に引っ越そう……。
心配そうに千愛の顔を覗き込むうちの顔に、無言のまま千愛の顔が再び近づく。
「ちゅっ」と、かわいい音を立てながらもう一度千愛はキスをしてくれた。
そしてうちは小さな小さな女の子に、そのまま押し倒された。
真っ青で綺麗な空を見上げる体勢なのに、うちの視界には、にんまりと笑った千愛の顔が映し出されている。
千愛の細くて柔らかい髪の毛が、重力に従ってうちの顔に垂れ下がる。
風に揺られた毛先がふわふわと、うちを撫でる。
くすぐったいような、気持ちいいような、なんとも言えない独特な感触。
特に耳元と鎖骨のあたりがやばい。くすぐったいと言う感覚は次第にゾクゾクという快感に変化していく。
「あぅ……ちょっと、千愛?」
と言うか、うちの質問には相変わらず答えてくれない。
嫌がっているようには見えないけど……お返しのキスが返事という事だろうか?
言葉にしなきゃ伝わらないって言ったのは千愛なのに、本人は全くしないんだよな。
まあ、そんなうちも、[言葉]の力に頼ろうとしているのだけど。
頭では分かっていても、[言葉]にしてもらわないと安心できない。
どうしようもないくらい不安になる。
相手の口から発させられる空気の振動に、どれだけの信憑性があるのか? と問われれば、答えに詰まるけどさ。
千愛はうちの真上でずっと黙ったままだ。
何も伝える気が無いのか、それとも……いや、これ以上は考えても仕方がない。そう自分に言い聞かせる。
「ねぇ、千愛。うちの事好き?」
「? どうしたの?」
「たまにはうちの質問にも答えてよ」
「……不安なの?」
「言葉にしなきゃ伝わらないんでしょ?」
「七尾」
「……うん」
「飴、ちょーだい」
「え? 飴? まあ、いいけど……何味がいいの?」
そう言いながら、寝っ転がったままの体勢でポケットに手を突っ込む。
話の途中なのに……もう。でも飴が食べたくなったんなら、仕方ないし。
「七尾、違う」
「ん?」
「ちゅう……」
千愛がうちの唇に吸い付き、何度目か分からないキスが始まる。
うそ。本日5回目。ちゃんと数えてる。馬鹿みたいだけどね。
そして舌を器用に使いながら、うちの食べていたソーダ味の飴玉を自分の口を移動させた。
「ソーダ味が良かったの?」
「……」
千愛は黙ったままうちから奪い取った飴玉をころころと転がしている。
「七尾の味がする」
「ば、ばか」
「口、開けて」
「うん?」
言われるがままに控えめに口を開く。
「つば……のんで」
「うん……」
右手で垂れ下がっていた自分の髪の毛を耳にかけながら顔を近づけてくる。
うちの口のすぐ真上にいる千愛の口から、ツーっと唾液が垂れてくる。
心臓のドキドキがとまらない。ドクンドクンと力強く鼓動を打ち続けている。もう少しで千愛がうちの中に入ってくる……という妄想を、現実と重ねていた。
とんだ変態だ。
万有引力により千愛の唾液は見事うちの口の中へゴールを決める。
口を閉じてしばらく味わった後「ゴクリ」と、飲み干した。
千愛の唾液がうちの喉を通る瞬間、ドクン! と、うちの心臓が今までで一番大きな音を奏でた。
謎の高揚感に体が包まれる。あれ、何これ。ちょっと癖になりそうなんだけど……。
好きな人のなら、唾液まで愛せるということなのか。うちってちょっとヤバいやつなのかも知れないです。
「どんな味がした?」
「分かんない……」
うちのなめた飴を千愛がなめて、その唾液をうちに返したんだから三分の一くらいはうちの唾液で……ややこしいな。
「分かんないけど……おいしかった」
「七尾はやっぱりかわいいね」
「千愛の方が……かわいいし……」
千愛の髪を揺らしていた風は、いつの間にかすっかり止んでいた。
それにしても今日は良い天気だ。快晴とはこういう日のことを言うんだろう。
この空の青さを例えるなら、そうだな……今うちが頬の中でカラコロと転がしている、ソーダ味のあめ玉くらいの青さだろうか。
青空もソーダ味のあめ玉も、夏らしいと言えばそう感じるから不思議なものだ。
秋だろうと冬だろうとそこに存在するものなのに。
そんな綺麗な空の下でうちは千愛と抱き合っている。抱き合っているというよりは、親戚の子を抱っこしているのに近い体勢かもしれない。
千愛の容姿が幼い事もあるけど、普段の彼女をみていると、ぽわーっとしていると言うか、ふわーっとしてると言うか……そんな立ち振る舞いが子供っぽさに拍車をかけているのだと思う。
悪戯に笑うその顔を見ているだけで、うちの心は満たされていく。
好きな人を抱きしめて、好きな人にキスをして……これ以上の幸せってあるのかな?
もし無いのなら、うちの人生のピークは今この瞬間という事になる。
「千愛……もっと……して?」
「なにをしてほしいの?」
「……言わなくても分かってるでしょ? そう言う意地悪は……いや」
「だめ。自分の気持ちは言葉にしないと伝わらない」
普段無口キャラのくせに、やけに強気じゃないか。
でもそれは違うよ千愛。自分の本当の気持ちなんて、口に出したところで相手に全てを伝えるとこなんて出来ない。
自分が伝えたい事の半分も相手には伝わらない。正に話半分。
うちが何度千愛の事を好きだと伝えたところで、うちの胸の奥から込み上げて溢れ出るこの気持ちの全てが彼女に伝わっているとはとても思えない。
言葉では伝えきれない思い。じゃあどうやって伝える?
伝えきれなかった分のうちの気持ちは、一体どこへ消えていくのだろう。
「……!?」
うちは千愛の首の後ろに両手を回し、やや強引に唇を奪い、はむはむとキスをする。
「七尾……んっ……すごい……積極的」
普段は焦らされてばかりで、やきもきするんだけど、たまにはうちから責めるのもありだよね?
まあ、正直言って焦らされるのも嫌いじゃないないんだけどな。
そんな事考えている間に、キスはだんだんと激しさを増していく。千愛の小さな口腔にうちの短い舌を入れる。
とても柔らかくて暖かい感触。表はザラザラしているけど、裏の方はツルツルだ。
舌と舌が絡み合い、クチュクチュと唾液が艶かしい音を脳内に響かせる。
うちはザラザラしてる方がなんか好きだ。
相手との接触をより強く感じられるからかも知れない。
「んぅ……はぁはぁ。ちゅる……ふぅ……」
千愛の呼吸が荒くなっていく。もしかしたら、うちより体力のない千愛にとっては、激しいキスの連続で息が苦しいのかも。
「千愛? 大丈夫……?」
一旦距離を取り千愛の顔色を伺う。
千愛の目はとろんと垂れ下がり、口はだらしなく半開きになっている。
その周りには千愛のものか、うちのものか分からない唾液がキラキラと輝いていて、綺麗なような、ばっちいような。
千愛の潤んだ目を見ていると、どうしても抱きしめたい衝動に駆られる。
この感情は、たぶんおかしくない。
でも今の状態で彼女を強く抱きしめてしまうと、本当に壊れてしまいそうなので、ぐっと堪えた。
相変わらず呼吸の落ち着かない千愛が本気で心配になってきた時、ようやく千愛の口から言葉が発せられる。
「七尾(ななお)、いきなりびっくりするじゃない」
相変わらずうちの質問には何一つ答えないなこの人……
「ごめん。なんか、我慢できなかった。嫌だった?」
半分冗談、半分本気の質問を投げかかる。
ここでもしも……イエスの答えが返ってきたら、どこか遠い街に引っ越そう……。
心配そうに千愛の顔を覗き込むうちの顔に、無言のまま千愛の顔が再び近づく。
「ちゅっ」と、かわいい音を立てながらもう一度千愛はキスをしてくれた。
そしてうちは小さな小さな女の子に、そのまま押し倒された。
真っ青で綺麗な空を見上げる体勢なのに、うちの視界には、にんまりと笑った千愛の顔が映し出されている。
千愛の細くて柔らかい髪の毛が、重力に従ってうちの顔に垂れ下がる。
風に揺られた毛先がふわふわと、うちを撫でる。
くすぐったいような、気持ちいいような、なんとも言えない独特な感触。
特に耳元と鎖骨のあたりがやばい。くすぐったいと言う感覚は次第にゾクゾクという快感に変化していく。
「あぅ……ちょっと、千愛?」
と言うか、うちの質問には相変わらず答えてくれない。
嫌がっているようには見えないけど……お返しのキスが返事という事だろうか?
言葉にしなきゃ伝わらないって言ったのは千愛なのに、本人は全くしないんだよな。
まあ、そんなうちも、[言葉]の力に頼ろうとしているのだけど。
頭では分かっていても、[言葉]にしてもらわないと安心できない。
どうしようもないくらい不安になる。
相手の口から発させられる空気の振動に、どれだけの信憑性があるのか? と問われれば、答えに詰まるけどさ。
千愛はうちの真上でずっと黙ったままだ。
何も伝える気が無いのか、それとも……いや、これ以上は考えても仕方がない。そう自分に言い聞かせる。
「ねぇ、千愛。うちの事好き?」
「? どうしたの?」
「たまにはうちの質問にも答えてよ」
「……不安なの?」
「言葉にしなきゃ伝わらないんでしょ?」
「七尾」
「……うん」
「飴、ちょーだい」
「え? 飴? まあ、いいけど……何味がいいの?」
そう言いながら、寝っ転がったままの体勢でポケットに手を突っ込む。
話の途中なのに……もう。でも飴が食べたくなったんなら、仕方ないし。
「七尾、違う」
「ん?」
「ちゅう……」
千愛がうちの唇に吸い付き、何度目か分からないキスが始まる。
うそ。本日5回目。ちゃんと数えてる。馬鹿みたいだけどね。
そして舌を器用に使いながら、うちの食べていたソーダ味の飴玉を自分の口を移動させた。
「ソーダ味が良かったの?」
「……」
千愛は黙ったままうちから奪い取った飴玉をころころと転がしている。
「七尾の味がする」
「ば、ばか」
「口、開けて」
「うん?」
言われるがままに控えめに口を開く。
「つば……のんで」
「うん……」
右手で垂れ下がっていた自分の髪の毛を耳にかけながら顔を近づけてくる。
うちの口のすぐ真上にいる千愛の口から、ツーっと唾液が垂れてくる。
心臓のドキドキがとまらない。ドクンドクンと力強く鼓動を打ち続けている。もう少しで千愛がうちの中に入ってくる……という妄想を、現実と重ねていた。
とんだ変態だ。
万有引力により千愛の唾液は見事うちの口の中へゴールを決める。
口を閉じてしばらく味わった後「ゴクリ」と、飲み干した。
千愛の唾液がうちの喉を通る瞬間、ドクン! と、うちの心臓が今までで一番大きな音を奏でた。
謎の高揚感に体が包まれる。あれ、何これ。ちょっと癖になりそうなんだけど……。
好きな人のなら、唾液まで愛せるということなのか。うちってちょっとヤバいやつなのかも知れないです。
「どんな味がした?」
「分かんない……」
うちのなめた飴を千愛がなめて、その唾液をうちに返したんだから三分の一くらいはうちの唾液で……ややこしいな。
「分かんないけど……おいしかった」
「七尾はやっぱりかわいいね」
「千愛の方が……かわいいし……」
千愛の髪を揺らしていた風は、いつの間にかすっかり止んでいた。
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