みかんのきもち

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8.読書感想部ってなに?

「ところで、お二人は凄く仲が良さそうに見えるのですが、もしかしてお付き合いされてるのですか?」

 話題が変わること自体は、こちらとしてもやぶさかではないのだけど、やっぱり他の人から見たら私達はそう見えてしまうのだろうか。

「んーん。付き合ってないよ。ね? 修斗しゅうと
「そうそう。昔からよく誤解されるんだけど、ただの幼馴染おさななじみだよー」
「やっぱり初対面の人から見たらそう見えるのかなー」
「初対面……そ、そうですね。とても仲が良いので……」
「私は彼氏とかは今は別に欲しいと思わないんだよねー。そう言えば修斗しゅうとはなんで彼女作らないの?」
「え?! いやー……特に理由は無いけど!」
「うん? なんかあやしいがあったなあ。まさか私に隠れて……」
「そんな事ないって! そ、それより! 高橋たかはしさんは何か部活に入ってるの?」

 修斗しゅうと何気なにげないこの質問がきっかけで、私の学校生活がガラリと変わってしまうとは夢にも思っていなかった。

「はい。私、[読書感想部どくしょかんそうぶ]と言う部活に入っています」
「「読書感想部??」」
「ごめん、初めて聞いた部活だ」
「そうですか……部員は私を含めて二人しかいないので、ご存知ぞんじなくても仕方のない事だと思いますよ」
「それってさ、どんな活動してるの? まあ……なんとなく想像はつくんだけど」

「読んで字のごとく、本を読んで感想を言い合うだけですよ。同じ本を読んでも、それを読む人によって感想や思い入れは全く違うものになるんです。そこがとても面白いんです」

「へー。でもなんか難しそうだねえ。私達には無縁かなあ」
「確かにー。本なんて普段、全然読んでないしねー!」

「そんな事はありませんよ。おだいとなる本は交代で決めるのですが、『本』であれば何でも良いんです。例えばライトノベルや少女漫画なんてのも今までにありましたね。ジャンルは問わず、自分の好きなものを他の誰かと共有するんです。そうする事で自分一人では気付けなかった事に気付けたり、そんな見方みかたもあるんだって新しい発見をしたり。とても素晴らしいですよ」

「おー、そうなんだ! そう聞くとちょっと面白そうだね!」

 修斗しゅうとが興味を示した瞬間、高橋たかはしさんの耳がピクリと動いたように見えた。まるで虎か何かの肉食獣が、獲物えものの気配を感じ取った時の様に……。

「そうなんです。凄く面白いですよ。お題の本をそれぞれ読み終わったら集合して部活を行いますので負担にはなりませんし、感想の交換をしている様子をyoutubeeで生放送して『ええやん』を貰えた時はとてもスカッとします」

「youtubeeで生放送?! そんな事までやってるの?!」
「すみません、冗談です」
「だ、だよね! ビックリした!」

 修斗しゅうとはすごく驚いていた。私は素知そしらぬ顔をしていたが、実は少し驚いていた。どちらかと言うと高橋たかはしさんってそんな冗談を言うんだなあ、と。
 普段、冗談を言わなさそうな人が冗談を言ったら、それが本気で言っているのかどうか分からなくて微妙な雰囲気になる事があるよね。まさにそれ。

「お二人とも一度体験だけでもしてみませんか? 入部して欲しいとまでは言いませんので体験だけでも……」
「んー……私は遠慮させ……」
「いーじゃん美柑みかん! やってみよーよー!!」
「え? いや私は……」
日比谷ひびやさん、是非ぜひ

 えぇ……なんで二人して私を説得に掛かってるの? 読書は別に嫌いじゃないけど、本を読んでると眠くなっちゃうんだよねえ。
 それに、[自分の感想]を他の人と共有するのって、あまり得意じゃない……
 自分の心を人にさらけ出す様で、自分の気持ちをさとられる様で……好きじゃない。

「ごめん。私はやっぱりやめておくよ」
「……そうですか。無理強むりじいは良くないですからね。正木まさきさんはどうしますか?」
「えーっと……ごめん! 美柑みかんがやらないなら、俺もやめとく!」
「分かりました。もし今後、興味が出てきたら、お二人とも言ってくださいね。いつでも歓迎しますので」
「うん。ありがとね」

 昔の私なら、「じゃあやってみようかな……」と、断りきれなかっただろう。勿論入部まではしないだろうけど、体験だけなら……と。
 それが良いことなのか、悪いことなのか私には分からないけど、安請やすうけ合いしてロクなことになったためしがない。
 のらりくらりと生きていくのも、存外ぞんがい楽ではないと言うことだ。

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