【コミカライズ配信中!】消しゴムで始まる制御不能彼女との日常-さっちゃんなんしよ~と?(原題:ボクの彼女は頭がおかしい。)

来世ピッチャー

悪夢が始まる


今年の文化祭が幕を閉じた。

人気投票の結果は……

1位、女王

2位、五月

3位、3年生のマドンナ

~以下略~



となった。

なんでも女王と五月の差はわずかに2、3票だったらしい。









「いやぁ危なかったよ」

隣を歩く五月。
安堵のため息を漏らしている。

ちなみに今は下校中。
五月の家を目指し、もう辺りは暗くなり始めているけど2人でのんびり歩いています。


「けっこう大変だったんだよ――」
僕にベッタリくっつきながら、今日の活躍ぶりを熱く語る五月。

それによると、茶道部の活動が終了した後、彼女は校内を駆けまわりまだ投票していない人たちに女王に投票するよう頼んでいったらしい。

もちろん女王にバレないように。

なんて言うか、五月と女王の友情って一体…?




「五月って変わってるよね」と、僕は言った。

「どうして?」

「だって普通だったら、やっぱり2位よりは1位のほうが嬉しいものじゃない?」

「そうかもね。でもわたしは、早瀬くんからの1票があればあとはもうどうでもいいんだ」

そう言って彼女は笑った。





僕は思わずドキッとする。





あまりの彼女の美しさと、そして、『五月に投票しなかった』という事実のために。




「なに、どうしたの早瀬くん」

僕が急に足を止めたためだろう、彼女は不思議そうにして顔を覗き込んできた。



目と目が合う。



同時に罪悪感がこみ上げてくる。


「ごめん」

「え?」
彼女は首をかしげた。


「ごめん……五月に投票しなかった」


僕は言った。
言わなければバレなかったのだろうけど、言ってしまった。


「それホントなの?」

「うん」

「えー、ヘコむなぁ」
悔しそうに言う五月。


それに対し、僕は何も言えなかった。



「…まぁでも、わたしと沙紀のこと考えてくれてそうしたんだよね。まさか沙紀のほうが本気で可愛いと思って投票したわけじゃないでしょ?」

彼女は軽い調子で僕のわき腹をつついてくる。




再び心臓が『ドキッ』とするのを感じた。







僕は藤堂さんにも投票していない。





「五月」



この時、言わないほうがいいんじゃないか、という思いが全身を駆け巡った。



一瞬。



ほんの一瞬。





「なに、早瀬くん?」









「僕…………」


「雫さんに投票したんだ」





彼女の表情は微塵も変わらなかったが、何か大切なもの――目には見えないそれ――が激変したのを肌で感じ取った。













一言も会話をせずに歩き続け、やがて彼女の家の前に到着した。



彼女が僕から離れ、家の中に消えていこうとする。



まずい、何か言わなくては――





「あのね、早瀬くん…」



不意に五月が玄関に入る直前で立ち止まり、こちらに背を向けたまま小さくそう言った。



見えないと分かりつつも、僕は彼女に先を促すためうなずいてみせる。





「前から聞こうと思ってたんだけど……」



続きを言うべきかどうか迷っているように見える彼女の後姿。



なんだかこのやり取り、前にどこかであったような気がする。



僕は額の汗をぬぐった。













「雫ちゃんのこと、どう思ってるの?」

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