【コミカライズ配信中!】消しゴムで始まる制御不能彼女との日常-さっちゃんなんしよ~と?(原題:ボクの彼女は頭がおかしい。)

来世ピッチャー

面倒な人たち4


「――お待たせ五月」と、僕は言った。

散々工場内を走り回って、結局見つけたのはバンのところだからなぁ。

無駄に体力を消費してしまったよ、まったく。


五月にもう一歩のところまで迫っていた男がこちらを向く。
そしてニヤリと笑った。

「今殺しても、後で殺しても一緒か」

大きな体をひねり、今度は僕に近づいてくる。


ふっ。
何だその余裕ぶった態度は。
残念だけど君に勝ち目はないのだよ。

だってこれラブコメだからね。

僕が死ぬわけないじゃん。

…なんて事も知らずにニヤニヤ笑っている男が、僕には気の毒で仕方なかった。


男がナイフを振りかざす。
(いつの間に武器?)

けっこうな勢いと早さと正確さで。

びゅん。

「ハエが止まるぜ」
それでも僕は、かっこよく敵の攻撃をかわした。

「なっ!?」
男の顔が歪む。

どう、驚いた?

「僕の五月を怖がらせたあんたの罪は重い……食らえ、必殺奥義!」

僕は渾身の右ストレートを打ち放った。

それは男の顔面にヒットし、のめりこむ。

「おっぺけぺぇ!」
男は謎の言葉を残し、気絶した。

「五月、大丈夫だった?」
僕は彼女のもとに駆け寄った。

「遅いよ!」
そう言って抱き付いてくる。

「ごめんね」

「…ゆるさん」

「…………え?(方言?)」

「うそ。ゆるす」

彼女は泣いていた。
目には大粒の涙がキラキラ光っている。

それでも笑っている彼女(無理してるんだろうけど)を見て、凄いなぁ強いなぁなんてぼんやり思った。

















――――――――――
―――――――
――――


「もしもーし」

目を覚ますと、五月が僕の顔を心配そうに覗き込んでいた。

あれ、どうなっているんだ。
目をこすり、周囲を観察する。

公園みたいな風景。
ベンチに座っている。
いや、正確にはベンチに寝かせられている。
いやいや、もっと正確に言うと、五月に膝枕をしてもらっている。

アングルが、えろいです。

「ねぇ早瀬くん、どんな夢見てたの?」

僕は身を起こした。
「夢?」

「うん、なんか寝言が凄かったから」

「何て言ってた?」

「『食らえ、必殺奥義』とかまぁその他諸々」

うわ、最悪だ。
とりあえず話題を変えよう。

「へぇ、あ、でさ、だんだんと状況を思い出してきたんだけど、お化け屋敷はどうなったの?」

そう、僕の記憶が正しければ、気絶する前の僕は確かお化け屋敷にいたはず。
五月とはぐれて。

「あの後ね、私は夢中で走り回って気付いたらゴールしてて、んで早瀬くんがいないから係の人がいる入り口のところまでもう1回行ったの」

「はぁ」

「そしたら係の人が『お連れの方がお待ちしております』って言うからついて行ったら、リタイア組?って言うのかな、まぁ、とにかくその待合室みたいなところに気絶してる早瀬くんがいて、それで早瀬くん引取って――」

「ありがとう五月。それ以上の説明はいらないよ」

直前まで見ていた夢との落差がありすぎて、死にたい。
あまりにかっこ悪すぎる。

「病院行く?」
五月が心配そうに僕の頭をさすってくれた。

違うよ五月。
決して頭が痛いから泣いてるわけじゃないんだよ。

「大丈夫。心配かけて悪かったね」

「ううん」

「じゃあ、次のアトラクション行こっか」
僕は時間を確認した。

あれ、もうあんまり時間ないじゃん。

「最後はやっぱり……」

五月がベンチからピョンと立ち上がる。

「…観覧車ですよねっ?」

こちらを振り返りながら、絶妙な角度と最高級の笑顔で提案する彼女。


「う、うん」
僕はそれだけしか言えなかった。

あんまり君が眩しすぎて。

「わーい」喜ぶ彼女。「ラブラブするぞー」

僕も立ち上がり、彼女に並んだ。

「ラブラブしますか」

「え、早瀬くんがそういうこと言うと変」

笑いながらくっついてくる五月。

ノリで言ってみたけど今さらながら恥ずかしい。
ほら、早く行こう。






そうして今、観覧車に乗っています。

2人だけの空間です。
(ちなみに僕と五月は同じ側に座っています)

なんかいいよね、これ。

さっきから僕の肩に頭を乗せてきたりしきりにベタベタしてくる五月をよそに、僕はこの瞬間の幸せを思いきり噛み締めていた。

「うわ!すごい!」
外の景色を見て大興奮の五月。

夕焼けが綺麗だよね、うん。

「早瀬くんも見てみなよほら、すっごいキスしてるから」

アンタ何見てんの?

「…え…うそ…脱ぎ始めた…?」

えっ!?

五月の言葉を聞くやいなや、僕は思わず窓ガラスにへばりついた。

「…ウソだよ」
冷めた口調の五月。

「ウソ、ですか」

「当たり前じゃん。観覧車で脱いでるカップルなんて見たことないよ」

そうですよね、はい。

一瞬にしてこの空間を覆い尽くす重たい沈黙。

あぁあせっかくの観覧車タイムなのに。

五月も何かそっぽ向いちゃってるし、どうしましょう。

たぶん彼女がイチャイチャしようとしてたのを無視したのがいけなかったんでしょうね。

うん。


話しかけるか。

「五月…」

「なに?」

「えっと…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………とりあえず脱いでみる?」

思いっきり殴られた。



そのまま終わりを迎える。

係りのお兄さんが僕らの個室の扉を開ける。

さわやかな笑顔と「素敵な時間になりましたか?」という言葉とともに。

「どうも」僕はそう言って降りようとした。

しかし五月に腕を掴まれる。
え、何?

「あの、もう一周だけいいですか?」と、係りの人に頼む五月。

「あぁはい大丈夫ですよ。フリーパス見せてください」



そして2周目に突入。


五月は僕の肩に頭を乗せたまま無言。
僕も無言。

そのまま観覧車は頂上付近へ。

夕焼けは綺麗だし、そしてそれ以上に隣の女の子は恐ろしいほどに美しいのだけど、どうしたことか空気が整っていない。

彼女は間違いなくキスを望んでいる。
だって彼女が2周目いくことを決定したわけだし。

それに実を言うと僕もしたい。
(カップルで観覧車と言えば、もうするしかないでしょう)

つまりは、お互いの利害が一致しているということ。

…それでも出来ない自分。あぁ情けない。

このシチュエーションでキスできないなんて、もう男として終わってる。
誰か僕に、『程よい強引さ』という武器を貸してください。

「早瀬くん…」
彼女がポツリと言った。

「え、あ、はい」

なぜか声が裏返る自分。
残念すぎる。

「…もう待てないので……襲っちゃってもいいですか?」


オッケイです。
好きにしてください。














時間になったので集合場所に向かうと、すでに藤堂さんと牛くんは到着していた。

「……なぁ、早瀬」
牛くんが急にニヤニヤしだす。

「何?」

「お前の首元、いや首元だけじゃなくて顔もだけど、何でそんな真っ赤になってんだ?」

ただのキスマークです。気にしないで下さい。
それに君だって人の事言えないでしょう、女王の鎖骨らへんに、なにか残ってますよ。


「お前ら普段からバカップルだけどよっぽどだな?」

「…帰りますか」

僕は牛くんをスルーして言った。

「そうだね、お腹減ったし、帰ろう」と、五月。

そうして二人で歩き出す。

「何照れてんだよ!さてはお前らまさか本気で――」

「やめろどアホ!」
僕は叫んだ。

「うわマジかよ。さすがにそれはひくぜ」

「沙紀、沙紀は牛くんに何されたの?」

五月が藤堂さんに近寄った。
ナイスだ、ナイスすぎる。

今度は僕らの攻撃ターン。

「え、あ、あのあたしは別にな、何もされてないから」

女王のキャラ崩壊しとるがな。

「うっそだぁ」

そう言って藤堂さんに飛びつく
五月。

女の子同士でキャッキャやってるのを見て和む僕たち。

え、僕たち?

あぁ、僕と牛くん。
そっか……僕と牛くん、か。

何か悔しいけど、ちょっと彼と仲良くなってしまったような気がする。

「で、ご飯どうする?」

2人して騒いでいる女性陣を尻目に、僕は牛くんに尋ねた。

「そうだな、食べて帰ろうぜ。時間的にもちょうどいいだろ」

「了解。今日は僕がおごります」

「なんでだよ、どっちかって言うと奢らないといけねぇのはオレのほうだろ」

牛くんはそう言って、僕の返事も待たずに五月と藤堂さんの所に駆けて行き、2人の間に割って入った。

「その辺にしといてやれよ五月」
ふわっと藤堂さんを抱き寄せる彼。

わお、ドラマのワンシーンみたい。
見ると藤堂さんも嬉しそうにしている。

よかった。
結局僕らは何もしなかったけど、2人の愛は復活したらしい。

「おいで五月」

僕は彼女に声をかけた。

「うん!」
笑顔で飛び込んでくる。

「夜ご飯は全部牛くんが奢ってくれるんだって」

「ほんとに?ありがと牛ピー!よーし、今夜は焼肉だ!」
(CM口調にちょっと吹いた)

「ちょ、焼肉とかマジ勘弁……マックぐらいにしとこうぜ」

その後4人で高級焼肉を食べに行った。

牛くんの財布だけではもたなかったので僕も7割加勢した。
あれ、もしかして僕のほうが多――

まぁいいか。


有意義な1日をありがとうございました。
大変面倒でしたが、3年に1回くらいの頻度でしたらアリです。

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