【コミカライズ配信中!】消しゴムで始まる制御不能彼女との日常-さっちゃんなんしよ~と?(原題:ボクの彼女は頭がおかしい。)

来世ピッチャー

面倒な人たち


駅前。
五月を待っています。

今日は快晴の日曜日。絶好の遊園地デート日和です。
何かもうテンション上がっちゃってます。


「あれ、早瀬じゃん」
心の中で飛び跳ねていると、背後から世界で1番か2番目に聞きたくない男の声が聞こえてきた。

何でここにいるんだろ?
僕は聞こえなかったフリをして、そーっとその場を離れようとした。

「ちょ、逃げんじゃねぇよ!」
声をかけてきた男――牛くん――にガッチリと肩を掴まれる。

「あ、おはよう牛くん、こんなところで、偶然だね、じゃあ、またいつか!」
肩に置かれた牛くんの手を払い落とし、再びその場を離れようとする。

「だから何なんだよお前のその態度は!ヒドすぎるだろ?」

「そうかな、そうかもね。うん、確かに僕の君に対する態度はヒドいと思う。ごめん。ごめんね。じゃあ、また!」

「待てって!…お前に…沙紀のことで相談あんだよ」
牛くんにしては珍しく、真剣な声。

僕は足を止めた。

正直、ちょっとだけ牛くんたちの恋愛事情に興味があった。
保健室作戦以来、女王との接触は一切なかったので2人の仲が進展したのかどうかさえ僕は知らない。

「結局、藤堂さんとは付き合う事になったの?」

「あぁ、ちょっと前からな。んでさ、アイツ、沙紀な、最初は今までとは違ってめっちゃ可愛いかったんだけど、今はなんつーか、ただの自己中オンナって感じ?でさ、もうオレどうしようかなぁって」

牛くんにしては長いセリフ。イケメンがため息つくと絵になるよね。

「別れちゃうの?」

「かもな」

「無責任だなぁ」

「は?無責任?」

「どう考えたって無責任でしょ。いったん付き合うって決めたんならとことん付き合わなきゃ」

「お前……よくそんな奇麗事言えるよな」

「奇麗事なんかじゃないです。僕と五月は――」

「ちょっ!ストップ!!」

せっかくのアドバイスが牛くんによって遮られる。
あまりにも無情、理不尽。

まぁいいや、どうせ言っても分からなかっただろうし。


牛くんに腕を掴まれ、ぐいぐいぐいぐい引っ張られる。
何なのこの人、何がしたいのこの人。


20歩ほど歩いて、急に立ち止まった。

「いやぁ偶然って素晴らしいね!どう、オレらと遊ばない?」

何をするのかと思ったらこの人、僕を巻き込んでナンパし始めちゃいましたよ。
相手は6人組みの女の子。たぶん高校生ぐらい。
1人で6人を相手にするのはきついっていう理由で、多分僕を引っ張ってきたのだろう。
(まぁ、6対2でもまだ無理あると思うけど)

あぁ…今日は最高の五月Dayになるはずだったのに。
牛くんのおかげで出だしは最悪だよ。

早く五月来ないかなぁ、などと考えている間に、牛くんはあっさり6人の女の子を口説き落とした。

これはガチ。
ほんと話術レベルは0に等しいんだけど、いかんせんルックスが規格外ですからね。

「じゃとりあえずカフェでも入っちゃう?」
ニヤニヤしてる牛くん。

うぜー。

…あ。

そっか。
僕がぶち壊してやればいいんだ。

「牛くんカノジョさんいるのにこんなことしてていいの?」
わざと大きめの声でその場の全員に知らせる。

女の子6人の表情が固まり、直後に態度が一変する。

「あぁ?アンタさっきカノジョいないって言ったじゃんかよ!?」
「ふざけんな!アタシらバカにしてんのかって!」

鬼ギャルたちにど突かれ始める牛くん。
いい気味だ。

――なんて一人でほくそえんでたら、どうしたことか僕までどやされ始めた。

「そこのオタクっぽいお前!そう、アンタだよアンタ!なんかアンタの顔見てたらイライラすんだよね」
「そうそう!サゲオ!」

ちょっと泣きそうです。

6人の鬼ギャルに囲まれ、なす術もなく言葉の暴力を浴びる僕たち。
あぁもうホント面倒くさい。
(それにちょっと怖い)






「ちょっとあなたたち。何やってるの?」

青天の霹靂――

どこからともなく救世主の声が鳴り響いた。

五月だ、この美声は間違いなく五月様だ!


鬼ギャルたちが振り返る。
続いて僕らも伏せていた顔をあげる。

「それ、わたしのだから返してもらっていい?」
僕を指差しながら鬼ギャルたちに向かって堂々と言い放つ五月。

「あ、どうぞ」と、女の子たち。

どうやら五月の圧倒的な美しさと気迫に、あっさり打ちのめされたらしい。



隣の牛くんを一瞥し、ギャルの間をすり抜け五月のもとへ。


「彼氏が迷惑かけたみたいで悪かったね。じゃっ」
五月は女の子たちにそう言うと、僕の手を引いて歩き出した。


「ありがとう五月」

「いいっていいって!」

てっきり怒ってるかと思ったら、そんなことはない。
逆に不自然なほど機嫌が良い。

「ホント助かったよ。もしあのまま五月が来てくれてなかったら、僕たち酷い目に遭ってたんだろうなぁ」

「そうかもねぇ…………ん?…いま『僕たち』って言った?」

「言ったよ?」

「ってことはさっきの騒動の中にもう一人の被害者が……?」

「被害者かどうかは分からないけど、うん、牛くんが」

「あちゃー」
自分で額をポンッと叩き、しかめっ面をする五月。

一体、どうしたというのだろう?

「ちょっとここで待ってて!」
僕の返事も待たずに、五月は回れ右して慌てた様子で駆け出した。






数分後。
グッタリとした牛くんを引きずって五月が帰ってきた。

「何でその人連れてきたの?」と、ごく自然に飛び出す僕の質問。

「えっと、実は早瀬くんには言ってなかったんだけど――」













それからさらに数分後、ある一人の人物がこの場に到着した。


その人物とは、あろうことか、『女王』こと藤堂沙紀さんである。

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