【コミカライズ配信中!】消しゴムで始まる制御不能彼女との日常-さっちゃんなんしよ~と?(原題:ボクの彼女は頭がおかしい。)
後輩
バイト先に新しく入ってきた大雪くんの妹、高校1年生の雫さん。
彼女がまた素晴らしく曲者で、現在、彼女を指導する立場となってしまっている僕としてはなんとも複雑な状況である。
彼女の特徴を言えば、まず、ものすごくおとなしい。
つぎに、小さい。
そして、ドジ。
よく面接受かったなぁ。
店長、可愛いから合格にしたんだろうなぁ。
なぁ?
実際、「雫ちゃんはスマイル担当ね」ってあの人言ってたし。
ここで彼女の曲者っぷりをいくつか紹介しよう。
・ おにぎりを電子レンジで爆発させた
・ レジ打ちで、客が出したアダルトな雑誌を見て店外に猛ダッシュした
・ 床拭きをさせたら急に雷が鳴った
・ 陳列棚の整理をさせたら急に雪が降った
挙げればキリがない。
それでもいまだに彼女がクビにならないのは、彼女が来る前と今とでは明らかに売り上げが違うからだ。
特に男性の客が増えに増えてそれはもう、気持ち悪いったらありゃしない。
そんなこんなで、見事このコンビニの看板娘となった雫さん。
彼女の指導係という僕のポジションも、そろそろ終わりを迎えようとしていたある日の事。
店内の客が雑誌を立ち読みしている数人だけということで、雫さんをレジに立たせ、僕は陳列棚の整理をテキパキとこなしていた。
ものすごく夢中になってハァハァ言いながら頑張っていると、レジのほうで何やらゴタゴタが起こっているらしい雰囲気を察知した。
またいつものアレか、そう思いながら足早に駆けつける。
するとどうだ、僕の予想通り、雫さんが客の一人にナンパされていた。
「頼むよ~番号教えてくれないかなぁ~」
レジの前、身を乗り出して馴れ馴れしく雫さんに話しかけている中年のおっさん。
「…………」
少し困ったような表情の看板娘。
内気なのでハッキリと断れない。
もうこれと似たような光景は27回も見ているので、僕はスマートな動きで彼女とおっさんの間に割って入った。
ものの数十秒でおっさんはから揚げを購入して帰って行った。
「自分で断れるようになるといいんだけど」
「あ、えっと…はい……」
「んー、まぁいっか。雫さん助けるので給料貰ってるようなものだし」
「…いつもありがとです先輩」
「どういたしまして」
真っ白な雫さん、頬が朱に染まっておりました。
数分後。
再びハァハァ言いながら陳列棚の整理を心底楽しんでいると、不穏な空気をいち早く察知しましたナイスガイ早瀬です。
本日二回目。
一日に二回、初めてのことである。
まさか今日は、巷で噂のムラムラデーなのか?
(五月は時々、「今日はムラムラデー…ウヘヘ」という独り言を発する)
これまたスマートに紳士的な動作でレジに駆けつけると……
そこにいたのは、牛くんだった。
あの野郎いっちょ前に雫さんをナンパしてやがる。
「今声かけないと一生後悔すると思ったから、普段はこういうことしないんだけど、いやもうほんと二度と会えないかもしれないじゃん?だから恥ずかしい気持ちぶっ殺して今の俺、超頑張っちゃってます牛ピーですよろしくぅっ!!!」
「……」
目が点になっている雫さんと視線が重なった。
(この人知ってる人だから、まかせなさい)
(…まかせます)
「やぁ牛くん、一昨日ぶりだね」と話しかける。
※決して彼と遊んだとかそういうわけじゃない。バンド練習のため仕方なくである。
彼は声だけで僕だとすぐに気付いたらしい。
振り返った表情がなんともマヌケであった。
(それでもイケメンであったのが実に悔しい)
「ちょ、おまっ。何でここに!?」
「バイトですね」
「しょ、そそうか。ふーん、ちょうどいいや」
「何が?」
「お前のバイト仲間、俺が今から落としてやるからよ~く見とけ!」
牛くんはそう言って、僕に背を向け雫さんと向かい合った。
彼女が二歩後退した。
そんなことにも気付いていないのか、牛くんは大きく口を開け戦闘態勢に入る――
僕は彼の肩をつかみ、こちらに向き直らせた。
「何すんだよっ!?お前は黙って見てろって!!」
「君がナンパしようとしてる彼女、大雪くんの妹さんだよ」
僕のこの発言により、彼の顔色は見る見る蒼白になっていった。
「それマジかよ?」
「マジだよ」
「…き、今日のことは忘れろ!!絶対誰にも言うな!」と、哀れな捨て台詞を残して、牛くんは遥か彼方へ吹き飛んで逝った。
スッキリとした余韻に満たされる店内。
穏やかな笑みを浮かべる雫さんの表情を見て、僕は再びハァハァ言いながら(以下略)
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