召喚獣のお医者さん
3.クレムポルテ王国
静かな、静かな昼下がり。
穏やかな晴天が、王都を明るく照らしている。
国王ガルドは執務室の窓から平和に見える王都を見下ろし、満足げに微笑んだ。
マントの裾からのぞく白髪混じりの黒い尻尾がゆらりと揺れる。
リィィン。
魔力で動く呼び鈴が、王の元への来訪者の存在を告げる。
「陛下」
「入れ」
執務室の重い扉を開け入ってきたのは、丸い耳と大きな体躯を持つ熊型の獣人。
国王の側近の一人である。
「失礼いたします国王陛下。ガイア教司祭ピーター様が陛下に内密のご報告があるとのことで、先ほど裏門より登城されましたが、如何いたしましょう」
国王ガルドは、美しく整えられた黒いあごひげを指で撫でて思案する。
ふむ。ピーターか。何かあったな。
「ここに通せ。その後は私が呼ぶまで誰もこの部屋に近づけぬよう」
「は。畏まりました。すぐにお通しします」
側近は恭しく一礼し、速やかに退室する。
大陸の北東部に位置するクレムポルテ王国。
獣人が多く住む国で、代々の王を務めるクレムポルテ家もそのほとんどが黒豹型の獣人だ。
現国王ガルド=クレムポルテも例外ではなく、純粋な黒豹型の獣人である。
52歳だが、程よく筋肉のついた身体に、やや暗いカーキイエローの瞳、黒い大きな耳、黒い尾を持つ。
本来の毛色は黒一色なのだが、加齢とともに白髪混じりになってきているため、少し離れて見るとダークグレーにも見える。
魔力・武力共に非常に高く、王太子時代は国を代表する魔剣士であった。
整った風貌も相俟って若い頃から国の女性達を虜にしていたが、歳を取ってからはさらに渋みを増しており、また常に国民想いの有能な王様とあって、老若男女いずれからも絶大な支持を誇る。
クレムポルテ王国はここ100年近く近隣国との大きな争いはなく平和な状態だが、それでも天災や魔獣による被害には悩まされ続けている。
ここ数ヶ月は特に、西の森からやってくる魔獣が王国領土内に侵入し、辺境部に住む王国民や家畜が襲われる被害の報告が増えてきていた。
しかし、今日は朝から被害の報告は1件も届いていない。
最近にしては珍しく善い日だと思っていたのだが。
リィィン。
再び呼び鈴が鳴った。
「陛下、失礼致します」
先ほどの側近の太い声とは違う、少し掠れた静かな男の声が聞こえる。
「入れ」
「は」
静かに入ってきたのは、白いローブを纏った老齢の猫型の獣人、ピーター=ヒュー。
クレムポルテ王国だけでなく、大陸で広く信仰されているガイア教の司祭のひとりである。
クレムポルテ王国内で司祭の地位にいるのはピーターのみであるため、国内のガイア教の中では最高権力者だ。
緑がかったグレーの瞳を持ち、顔には小さな丸眼鏡をかけている。
薄いグレーの耳を倒して神妙な面持ちで腰を折る。
「ガルド国王陛下におかれましてはご健勝なこととお慶び申し上げ……」
「おい、ジジィ茶番はやめろ。今は俺しかいない。さっさと用件を言え」
芝居がかった態度で挨拶を始めたピーターの言葉を早々に遮り、ガルドは客人を睨みつけた。
ピーターは曲げた腰をあっさり伸ばすとニヤリと笑う。
「ほほほ、たまにはジジィの小芝居に付き合ってくださってもいいじゃないですか」
「うるせぇ。王様業は忙しいんだよ」
国王ガルドと司祭ピーターは昔からの顔馴染みである。
来月76歳になるピーターと歳は離れているが、ガルドが幼い頃はピーターの元に一時預けられ国教であるガイア教についての勉強をしていたのだ。
親子のような関係であり、そこにはお互いに遠慮などない。
「今日はお暇でしたでしょう?」
ニヤリと呟かれた意味ありげなその科白に、ガルドは目を見開いた。
「……ジジィ、何を知ってる」
ガルドの問いに、ピーターは表情を引き締め、居住まいを正す。
本題だ。
「本日、国境の外側で新たなる聖女が誕生した気配を当教会にて感知致しました。魔獣の襲撃がなかったのは、この気配を警戒してのものかと思われます」
「なんだと!?」
「また、此度の聖女誕生にはどうやらミザリア様が絡んでおられるようで、よろしく頼むとのご神託がつい先ほどございました」
「あんのクソババァ……!」
「陛下、さすがにお控えなされ。天(・)に聞こえますぞ」
国王とは思えない言葉遣いを連発するガルドを、ピーターが諌める。
「で、その聖女が今どこにいるのか分かるか」
「残念ながら……。魔獣が襲撃を控えていることからも、生まれたのは西の森のどこかではないかと見当をつけているのですが」
「範囲が広いな」
ガルドは渋い表情であごひげを撫でる。
「今はまだ魔獣たちも警戒しているだろうが、気配に慣れれば逆に襲われる心配もある。既に力が覚醒しているならいいが……あまり期待はできない。ミザリア様が絡んでいるのなら、本来はあちらの住人なのだろう?」
「おそらく」
「早めに保護するためには軍を送って捜索させたいが、あそこは自由区だからな。他国の手前、堂々と軍を送るのはまずいんだ」
「冒険者ギルドに依頼するのはどうでしょう。冒険者であれば自由区でも行動が制限されません」
ピーターが提案する。
ガルドはしばし考え、その案を承諾した。
「よし分かった、お前の名前でギルドに依頼を出してくれ。報酬金は立て替えてくれれば後ほど国から教会への寄付金として出せる。ただし、依頼は口が堅く身元のしっかりした冒険者に限って欲しい」
「承りました」
「見つかった場合のフォローも頼む。ピーターにしか分からないこともあるだろうから」
「はい、そのつもりでございます。早速依頼を出しに行くとしましょう。御前失礼いたします」
ピーターは深々と礼をし、来た時と同様に静かに退出する。
ガルドはその姿を見送り、自分しかいなくなった部屋の中でポツリと呟いた。
「聖女か……さて、吉と出るか凶と出るか」
トモカは戦っていた。
大量の埃と。
 持ち主不明の小屋を使わせてもらうことにしたのは良いが、埃だらけで座ることすら躊躇われる状態。
ましてやこのままでは寝泊まりなんぞ出来ようもない。
幸いなことに、小屋の中の造り付けの戸棚に、いくつか掃除に使えそうな道具があった。
箒と、ハタキ、布きれ、金属製のバケツ。
これだけあれば充分だ。
と、意気込んで掃除を始めたのだが……
「キリがないじゃない!」
窓と扉を全開にし、埃を掃き出そうとするが、いくら掃いても掃いても埃はなくならない。
舞い上がった埃が掃除し終わったはずのところに再び堆積し、またやり直しになってしまう。
引き出しに入っていたキレイめな布を顔に巻いてマスク代わりにしているが、目にも埃が入って不快なこと極まりない。
「なんかこう……ババっと全部の埃を吹き飛ばす方法とかないのかな」
そう口に出した直後。
ギュルルルルルルル!!
「キャァァァァァッッ!」
部屋の四隅から突風が吹き、部屋の中に旋風が発生した。
旋風は部屋の隅から隅までを舐めるように移動し、埃という埃を全て吸い上げて、最後は扉から外に出てしまう。
そして小屋から少し離れたところで突然勢いをなくし、吸い上げたものを全て地面に落とした。
小屋の外に、あっという間に大量の埃が小さな山のように積み上がった。
すっかり埃の無くなった小屋の中では、トモカが呆然と立っていた。
「何、今の……」
埃を吹き飛ばす方法はないのかな。
そんなことを口にした途端、旋風が発生した。
部屋の中で。
ありえない。
そういえばあの木の実を取る時も、風で落としてくれないかな、というようなことを口にした途端、突風が吹いて木の実を落としてくれた。
あの時はただの偶然だと思っていたけれど、今回のは偶然じゃない。
だって正面の扉と反対側の窓は開けていたけれど、そこではなく壁しか無いはずの四隅から風が吹いて旋風を起こしたのだから。
マップと言うと目の前に地図が飛び出ることも合わせて考えると……
(もしかして、この世界では私でも魔法が使えちゃったりするの?)
トモカは試しに色々口に出してみることにした。
「手が洗いたいなー」
「落ち葉を焼きたいなー」
……。無反応。
ダメか。
少し考えてもうひとつ。
「涼しい風が吹いて欲しいなー」
ビュオオオオオ!
途端に気温よりも少し冷たい優しい風がトモカの顔に向かって吹き始めた。
一瞬で終わったけれど。
なるほど、なんでも出来る訳ではなく、風を吹かせることなら出来るということか。
(すごぉぉぉい!楽しい!)
ゲームの世界に入り込んだようで、トモカは興奮した。
風だけでも操れるなら色々使い道はありそうだ。
(そっか、マップが出せるならステータスなんかも見れるんじゃない?)
ふと思いつき、呟く。
「ステータス」
その瞬間、目の前に半透明の文字盤が浮かび上がる。
(やっぱりできた!)
......................................................
トモカ (獣人[猫]・聖女) 16歳 メス
HP 115/150  MP 29987/30000
魔法属性:聖、風、雷
肉体操作:Lv1
精神操作:Lv3
魔法操作:Lv1
特殊技能:ステータス、マップ、聖核精製
聖核練度:0
......................................................
(あ、16歳なのか)
やはりかなり若返っている。
獣人[猫]はなんとなく分かっていたから良いとして、聖女ってなんだろう。
そういえば魔法属性にも聖って書いてあるし、もしかして治療魔法使えたりするのかな。
前の世界でこそ欲しかった機能だ。
(治療に魔法が使えたら仕事楽だったろうなぁ)
魔法属性が聖、風、雷ということは、風だけでなく雷も操れるのか。
(上手く使いこなしたら超カッコ良さそう)
ステータスの色々な数値の詳細はよく分からない。
ただ、MP30000とは。
HP150に対し、多すぎやしないだろうか。
それともこの世界ではこんなものなのか。
一般的な平均を知らないので、なんとも言えない。
操作系の各レベルもどういうことなのかよく分からないし、1番謎なのが聖核精製という特殊技能と、聖核練度とかいう数値である。
(ま、そのうち分かるかな)
気にぜず、ステータスを閉じた。
マップもそうだが、ステータスも閉じる時は特に何か言う必要はなく、意識を別のものに逸らすと勝手に閉じるようになっているようだ。
(魔法が使えそうだし、MPはたくさんあるようだから練習してみるか!)
だいぶ日は傾いたが、それでもまだ明るく、夜にはまだ早い。
寝るところも見つかり、掃除も一気に終わってしまったし、トモカは前向きに魔法を使える世界を受け入れることにした。
穏やかな晴天が、王都を明るく照らしている。
国王ガルドは執務室の窓から平和に見える王都を見下ろし、満足げに微笑んだ。
マントの裾からのぞく白髪混じりの黒い尻尾がゆらりと揺れる。
リィィン。
魔力で動く呼び鈴が、王の元への来訪者の存在を告げる。
「陛下」
「入れ」
執務室の重い扉を開け入ってきたのは、丸い耳と大きな体躯を持つ熊型の獣人。
国王の側近の一人である。
「失礼いたします国王陛下。ガイア教司祭ピーター様が陛下に内密のご報告があるとのことで、先ほど裏門より登城されましたが、如何いたしましょう」
国王ガルドは、美しく整えられた黒いあごひげを指で撫でて思案する。
ふむ。ピーターか。何かあったな。
「ここに通せ。その後は私が呼ぶまで誰もこの部屋に近づけぬよう」
「は。畏まりました。すぐにお通しします」
側近は恭しく一礼し、速やかに退室する。
大陸の北東部に位置するクレムポルテ王国。
獣人が多く住む国で、代々の王を務めるクレムポルテ家もそのほとんどが黒豹型の獣人だ。
現国王ガルド=クレムポルテも例外ではなく、純粋な黒豹型の獣人である。
52歳だが、程よく筋肉のついた身体に、やや暗いカーキイエローの瞳、黒い大きな耳、黒い尾を持つ。
本来の毛色は黒一色なのだが、加齢とともに白髪混じりになってきているため、少し離れて見るとダークグレーにも見える。
魔力・武力共に非常に高く、王太子時代は国を代表する魔剣士であった。
整った風貌も相俟って若い頃から国の女性達を虜にしていたが、歳を取ってからはさらに渋みを増しており、また常に国民想いの有能な王様とあって、老若男女いずれからも絶大な支持を誇る。
クレムポルテ王国はここ100年近く近隣国との大きな争いはなく平和な状態だが、それでも天災や魔獣による被害には悩まされ続けている。
ここ数ヶ月は特に、西の森からやってくる魔獣が王国領土内に侵入し、辺境部に住む王国民や家畜が襲われる被害の報告が増えてきていた。
しかし、今日は朝から被害の報告は1件も届いていない。
最近にしては珍しく善い日だと思っていたのだが。
リィィン。
再び呼び鈴が鳴った。
「陛下、失礼致します」
先ほどの側近の太い声とは違う、少し掠れた静かな男の声が聞こえる。
「入れ」
「は」
静かに入ってきたのは、白いローブを纏った老齢の猫型の獣人、ピーター=ヒュー。
クレムポルテ王国だけでなく、大陸で広く信仰されているガイア教の司祭のひとりである。
クレムポルテ王国内で司祭の地位にいるのはピーターのみであるため、国内のガイア教の中では最高権力者だ。
緑がかったグレーの瞳を持ち、顔には小さな丸眼鏡をかけている。
薄いグレーの耳を倒して神妙な面持ちで腰を折る。
「ガルド国王陛下におかれましてはご健勝なこととお慶び申し上げ……」
「おい、ジジィ茶番はやめろ。今は俺しかいない。さっさと用件を言え」
芝居がかった態度で挨拶を始めたピーターの言葉を早々に遮り、ガルドは客人を睨みつけた。
ピーターは曲げた腰をあっさり伸ばすとニヤリと笑う。
「ほほほ、たまにはジジィの小芝居に付き合ってくださってもいいじゃないですか」
「うるせぇ。王様業は忙しいんだよ」
国王ガルドと司祭ピーターは昔からの顔馴染みである。
来月76歳になるピーターと歳は離れているが、ガルドが幼い頃はピーターの元に一時預けられ国教であるガイア教についての勉強をしていたのだ。
親子のような関係であり、そこにはお互いに遠慮などない。
「今日はお暇でしたでしょう?」
ニヤリと呟かれた意味ありげなその科白に、ガルドは目を見開いた。
「……ジジィ、何を知ってる」
ガルドの問いに、ピーターは表情を引き締め、居住まいを正す。
本題だ。
「本日、国境の外側で新たなる聖女が誕生した気配を当教会にて感知致しました。魔獣の襲撃がなかったのは、この気配を警戒してのものかと思われます」
「なんだと!?」
「また、此度の聖女誕生にはどうやらミザリア様が絡んでおられるようで、よろしく頼むとのご神託がつい先ほどございました」
「あんのクソババァ……!」
「陛下、さすがにお控えなされ。天(・)に聞こえますぞ」
国王とは思えない言葉遣いを連発するガルドを、ピーターが諌める。
「で、その聖女が今どこにいるのか分かるか」
「残念ながら……。魔獣が襲撃を控えていることからも、生まれたのは西の森のどこかではないかと見当をつけているのですが」
「範囲が広いな」
ガルドは渋い表情であごひげを撫でる。
「今はまだ魔獣たちも警戒しているだろうが、気配に慣れれば逆に襲われる心配もある。既に力が覚醒しているならいいが……あまり期待はできない。ミザリア様が絡んでいるのなら、本来はあちらの住人なのだろう?」
「おそらく」
「早めに保護するためには軍を送って捜索させたいが、あそこは自由区だからな。他国の手前、堂々と軍を送るのはまずいんだ」
「冒険者ギルドに依頼するのはどうでしょう。冒険者であれば自由区でも行動が制限されません」
ピーターが提案する。
ガルドはしばし考え、その案を承諾した。
「よし分かった、お前の名前でギルドに依頼を出してくれ。報酬金は立て替えてくれれば後ほど国から教会への寄付金として出せる。ただし、依頼は口が堅く身元のしっかりした冒険者に限って欲しい」
「承りました」
「見つかった場合のフォローも頼む。ピーターにしか分からないこともあるだろうから」
「はい、そのつもりでございます。早速依頼を出しに行くとしましょう。御前失礼いたします」
ピーターは深々と礼をし、来た時と同様に静かに退出する。
ガルドはその姿を見送り、自分しかいなくなった部屋の中でポツリと呟いた。
「聖女か……さて、吉と出るか凶と出るか」
トモカは戦っていた。
大量の埃と。
 持ち主不明の小屋を使わせてもらうことにしたのは良いが、埃だらけで座ることすら躊躇われる状態。
ましてやこのままでは寝泊まりなんぞ出来ようもない。
幸いなことに、小屋の中の造り付けの戸棚に、いくつか掃除に使えそうな道具があった。
箒と、ハタキ、布きれ、金属製のバケツ。
これだけあれば充分だ。
と、意気込んで掃除を始めたのだが……
「キリがないじゃない!」
窓と扉を全開にし、埃を掃き出そうとするが、いくら掃いても掃いても埃はなくならない。
舞い上がった埃が掃除し終わったはずのところに再び堆積し、またやり直しになってしまう。
引き出しに入っていたキレイめな布を顔に巻いてマスク代わりにしているが、目にも埃が入って不快なこと極まりない。
「なんかこう……ババっと全部の埃を吹き飛ばす方法とかないのかな」
そう口に出した直後。
ギュルルルルルルル!!
「キャァァァァァッッ!」
部屋の四隅から突風が吹き、部屋の中に旋風が発生した。
旋風は部屋の隅から隅までを舐めるように移動し、埃という埃を全て吸い上げて、最後は扉から外に出てしまう。
そして小屋から少し離れたところで突然勢いをなくし、吸い上げたものを全て地面に落とした。
小屋の外に、あっという間に大量の埃が小さな山のように積み上がった。
すっかり埃の無くなった小屋の中では、トモカが呆然と立っていた。
「何、今の……」
埃を吹き飛ばす方法はないのかな。
そんなことを口にした途端、旋風が発生した。
部屋の中で。
ありえない。
そういえばあの木の実を取る時も、風で落としてくれないかな、というようなことを口にした途端、突風が吹いて木の実を落としてくれた。
あの時はただの偶然だと思っていたけれど、今回のは偶然じゃない。
だって正面の扉と反対側の窓は開けていたけれど、そこではなく壁しか無いはずの四隅から風が吹いて旋風を起こしたのだから。
マップと言うと目の前に地図が飛び出ることも合わせて考えると……
(もしかして、この世界では私でも魔法が使えちゃったりするの?)
トモカは試しに色々口に出してみることにした。
「手が洗いたいなー」
「落ち葉を焼きたいなー」
……。無反応。
ダメか。
少し考えてもうひとつ。
「涼しい風が吹いて欲しいなー」
ビュオオオオオ!
途端に気温よりも少し冷たい優しい風がトモカの顔に向かって吹き始めた。
一瞬で終わったけれど。
なるほど、なんでも出来る訳ではなく、風を吹かせることなら出来るということか。
(すごぉぉぉい!楽しい!)
ゲームの世界に入り込んだようで、トモカは興奮した。
風だけでも操れるなら色々使い道はありそうだ。
(そっか、マップが出せるならステータスなんかも見れるんじゃない?)
ふと思いつき、呟く。
「ステータス」
その瞬間、目の前に半透明の文字盤が浮かび上がる。
(やっぱりできた!)
......................................................
トモカ (獣人[猫]・聖女) 16歳 メス
HP 115/150  MP 29987/30000
魔法属性:聖、風、雷
肉体操作:Lv1
精神操作:Lv3
魔法操作:Lv1
特殊技能:ステータス、マップ、聖核精製
聖核練度:0
......................................................
(あ、16歳なのか)
やはりかなり若返っている。
獣人[猫]はなんとなく分かっていたから良いとして、聖女ってなんだろう。
そういえば魔法属性にも聖って書いてあるし、もしかして治療魔法使えたりするのかな。
前の世界でこそ欲しかった機能だ。
(治療に魔法が使えたら仕事楽だったろうなぁ)
魔法属性が聖、風、雷ということは、風だけでなく雷も操れるのか。
(上手く使いこなしたら超カッコ良さそう)
ステータスの色々な数値の詳細はよく分からない。
ただ、MP30000とは。
HP150に対し、多すぎやしないだろうか。
それともこの世界ではこんなものなのか。
一般的な平均を知らないので、なんとも言えない。
操作系の各レベルもどういうことなのかよく分からないし、1番謎なのが聖核精製という特殊技能と、聖核練度とかいう数値である。
(ま、そのうち分かるかな)
気にぜず、ステータスを閉じた。
マップもそうだが、ステータスも閉じる時は特に何か言う必要はなく、意識を別のものに逸らすと勝手に閉じるようになっているようだ。
(魔法が使えそうだし、MPはたくさんあるようだから練習してみるか!)
だいぶ日は傾いたが、それでもまだ明るく、夜にはまだ早い。
寝るところも見つかり、掃除も一気に終わってしまったし、トモカは前向きに魔法を使える世界を受け入れることにした。
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