フェテシアお嬢様はディル様の婚約者

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フェテシアお嬢様はディル様の婚約者

「私、ディル・レルモンドは今のこの場で、フェテシア・ミフェルとの婚約を破棄する!」

…………なぜこんなことになってしまったのか……私フェテシアは少し記憶を掘り起こしつつ思い返す。

今日は他国の外交官も招いたレルモンド王国主催のパーティー。
レルモンド王国は1000年の歴史を持つ国で、大陸でも三本の指に入る大国。
ゆえに他国にはいつも注目されていて、今回のパーティーは我が国の国力を他国に見せつける上で大切な物になる
ミフェル家は侯爵家、この国でも有数の大貴族で当然今回のパーティーにも招待されています。
そんなパーティー中のいきなり婚約破棄をした目の前の人物は、この国の第一王子で、王位継承権一位の次期王、そして私の婚約者様なのです。
文武両道でテストでは王立学校の学年5位以上を常にキープ、剣も騎士団の分隊長クラスで、魔法も非常に優秀とのこと。
「今日は特別な話がある」と聞いてはいましたが………。

「おい!聞いているのかフェテシア!」

えぇーと。
取り敢えず冗談かもしれません。
ディル様はユニークな方ですから、沢山の要人がいるこの場で、自ら演劇をされようとしているのかもしれませんね。
ですが、さすがにこの場でそのような振る舞いは、雰囲気にそぐいません。
ディル様に近づき小声で諭します。

「ディル様?流石にこの場で婚約破棄ごっこは不味いです。また今度お付き合いしますので……。」

「うるさい!そうやって問題を有耶無耶にするつもりか貴様!」

そう言い近くに駆け寄っていた私を押し飛ばしたのです。
私はまさかの出来事に踏ん張ることが出来ずに転倒してしまいました。

「一体どうされたのですか?」

思わず、声を大にしてしまいました。
いけませんね。国母になろうという淑女がこのようなことで取り乱しては………。

「どうしたもくそもない!この程度お前がアリア嬢にしたことを考えれば大したことはない。」

そう言うディル様の隣には小柄で愛くるしい見た目をした令嬢がいます。
彼女の名前はアリア・ドモレ。
この国の男爵家のご令嬢です。
ここに来てようやく私は彼が本気で言ってる事が分かりました。
彼女はディル様のお気に入りで最近良く一緒にお話をしているところを見かけます。
ですが、何故そんな事を………。
今日は国王様が体調不良で欠席しており、ディル様初の公務です。
そのような場で、王様の決めた約束を勝手に反古するなんて……。

「フェテシア様………、私辛かったです。仲良くなるのはいまからでも遅くないです。何であんな…………。」

「アリア………なんて人思いなんだ。あんなやつにまで温情を掛けるなんて。」

「は、はぁ。」

私がしたこと…………。
何かしたかでしょうか?
…………思い出せませんね。
そんな事はどうでも良いです。
取り敢えずは……、

「今ならごっこ遊びで言い訳が付きます。早く撤回してください。取り返しの付かないことになりますよ!」

「うるさい。面の皮厚いお前の罪を明らかにするためには公の場でなければ、揉み消されるかもしれないからな。」

その様なことはしませんし、他国の方もいる公の場でなんて言葉を使うなんて……。
以前からオツムが少し弱い方だと思っていましたがここまでとは。
取り敢えず、今のままでは言うことを聞いてくれそうにありません。
誤解を先に解き何とか軌道修正をせねばなりません。

「そもそも私がアリア様にしたこととはなんですか?見に覚えが……。」

「信じられない程の屑だね君は。」

「こんな女が貴族だとは…こんな奴を守るために騎士になったんじゃないんだがな。」

「普通この場面でそんな言い訳する?見苦しすぎるでしょ?」

私の言葉に罵倒で返してきたのは、レルモンド王国現宰相である公爵の息子レレーシュ・アベル、次に現レルモンド王国近衛騎士団長である侯爵の息子キュルェ・ティモル、最後は現レルモンド王国宮廷魔法師長である侯爵の息子ライシュ・ツィレ。
それぞれが知識、剣、魔法で優れており、今後の王国を担っていくと言われている優秀な若者のはずです。
本来は殿下であるディル様とその婚約者である私を支える者達です。
ですが、最近は殿下のアリア様に対する態度を注意するどころか、最近はアリア様を守るかのごとき態度をしています。

キュルェ・ティモル様は地面から立ち上がろうとした私を取り押さえるように、後ろから力を掛けて地面に押し付けてきた。
私は貴族の令嬢、とてもではありませんが、男性騎士の力に敵うわけもありまさん。
なすがままに地面に押し付けられてしまいます。

「痛いです!止めてください。」

「彼女がお前から受けた屈辱はこの程度ではすまないぞ!」

だから身に覚えがありませんって!
手と膝が痛いです。

「身に覚えがありません。理由を教えてください!!」

ディル様は私に見下したような視線を向ける。

「ふっ。離してやれ。」

ようやく離していただけました。
公の場で侯爵家令嬢に暴行、どこまで条件を引き出せるでしょうかね?
………お父様がこの場に居なくて良かったです。
もしそうならキュルェ様を殴り飛ばしてしまいかねません。
そうすればこの事を理由にティモル家を揺する口実が無くなりますから。
まあ、良いです。それはまた後日にしましょう。

「まあいい、そこまで言うならお前に罪を自覚するチャンスをやろう。………まずは学校でアリアに対して「貴女はここにいるべきではないです。」や「身の程を弁えていなければ大変なことになりますよ。」等と脅迫した。それ以外にもアリアがパーティーでわざわざ声を掛けやってもそれを無視し、挙げ句にはパーティーから追い出した。そして自らの護衛にアリアを攻撃させたらしいじゃないか。他にも学校の階段から突き落としたり等おまえはやってはいけないことをやり過ぎている。どうせつまらない嫉妬が理由なんだろうが、そんな奴を妻になどできない。」

嫉妬…………。
いかにも自身満々と謂った感じですか。
というか先程からディル殿下はアリア様を呼び捨てで呼び始めていますが、それでは特別な関係であるとアピールしているようなものなのですが…………。
取り敢えず一つ一つ誤解を解きましょう。

「それでは私からそれについて誤解を解かせていただきましょう。まず私ざアリア様に「貴女はここにいるべきではないです。」や「身の程を弁えていなければ大変なことになりますよ。」と言った件については、私と王子であるディル様の隣に来たからです。アリア嬢は男爵家、そんな彼女が私やディル殿下の隣に来れば要らぬ者の敵意をかいてしまいますし、そもそも私や殿下と話すには家格が低すぎます。勿論家格だけで全ての交友関係を決めろとは思いませんが、彼女と私は友達でもなんでもありません。然るべき手続きを踏んでから私に話しかけねばならないでしょう。」

この国の爵位は上から順には、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵・士爵です。
士爵は一代のみの名誉爵であることを考えると実際は男爵が一番格下。
逆に、公爵家は王になることの出来ない第2王子などが、公爵家を作ります。
その事を考慮すると貴族のトップは侯爵家と言っても良いのです。
家格が違いすぎます。
それに私にも男爵はおろか、爵位を持たぬ友人もいますが、彼女はそれに含まれません。

「相変わらず口だけは回る奴だ。だが、我々は子供で権力を持っているのはお前の父に過ぎない!故にお前はただの小娘なのにありもしない権力をかざすなど考えられんな。まあよい、次こそは反論の余地もない。パーティーの時のアリアに対するお前の態度はどう説明する!?」

「そうですよ。パーティーの時は無視されて、追い出されて、暴力を受けて悲しかったです。言い訳せずに教えて下さいよ!」

またこの方は………礼儀もありませんね。
まだ言いたいことがあったのですが……まあ、構いません。

「まず、パーティーの時に私が貴女を無視したのは確かに本当です。ですが」

「ふっ!パーティーの場で他の令嬢を無視など、お前の方がよっぽどマナーがないな。」

話している途中で止められると腹が立ちますね。

「で!す!が!パーティーの場において特別親しくない場合は、爵位の低い者は、自ら上位の爵位の人に話しかけにいくことはマナー違反です。それに公のパーティーでは爵位が高い順に話しかけていく必要があります。なので男爵家であるアリアさまと話をしていては他の侯爵家や伯爵・子爵をバカにしていることになります。パーティーは社交の象徴。マナーを欠く行為は家の品位を下げます。まさか正太子ともあろう方がこの様な事を知らないわけがありませんよね?」

「と、当然知っているに決まっているだろう。バカにしているのか!」

「いえ、とんでもありません。ディル様流石です。」

ちょっとでも悪く言うとすぐ怒られるので、取り敢えず、煽てておけば良いですかね。

「貴様バカにしているのか!!」

しゅん。
怒られました。

「まあ、それは良いとして、次のパーティーからアリアを追い出して、暴行行為をしたというのはどうゆうことになる!」

「それは、他のパーティー出席者にも同じ態度をとっていたからですわ。私なら多少彼女の人となりを知っているのでまだ我慢が出来ますが、他の招待客の方々は違います。マナーもなしに片っ端に大臣や官僚、そして他国の要人の方々に話しかけていました。相手の方もあまりにもな無礼に顔がひきつっていました。ましてや他国の方は、自国をバカにしているのか?と外交問題になりかねません。なので私が主催者の方に話を通してパーティーから連れ出していただいたのです。ディル様が招待したいとおっしゃられたので仕方なく招待したのにあれでは……。と主催者の方も面目が丸潰れだとかなり怒っておられました……が、我がミフェル侯爵家との取引を条件に怒りを収めていただいたのですよ?」

はぁ。
王太子の友達のスキャンダルなど、社交会での言い話題です。
早めに収めておくに限ります。
ましてやあの場にはディル様がいたので責任問題になる可能性も有りましたから。
ですが、かなり向こうの有利に貿易交渉をさせられてしまいました。
相手は完璧にこっちの痛い所を知っていたので………まあ、珍しい商品も手に入ったのでよしとします。

「うー。アリアがマナーを欠いてたのは悪かったと思うけど、幾らなんでも追い出すなんてフェテシア様酷いです。たったそれだけのことじゃないですか?」

その発言は不味いです!
ここは他国の者もいるパーティーの場、その発言はあまりにも酷すぎる!
最悪の場合は王子でも責任とらされかねないです。
流石に同じ事をディル様も思ったのか早々に話を変えに掛かる。

「そ、それは分かった!じゃあ暴行の件はどうなる?いくらなんでも暴行は良くないだろ!」

「それはパーティーから追い出されたあと、無理矢理パーティーに戻ろうとしていたので、私が阻止しようとしたら押し飛ばされてしまい、護衛が動いてしまっただけです。それも、傷一つなくご自宅までお届けしましたし、問題の無いものであったと判断しますよ。」

一度追い出された者など、招待されていない客よりも質が悪いです。
パーティー会場は高貴な身分の人ばかりなので護衛もそれ相応です。
最悪の場合はアリア様が、殺されてしまう可能性すらありますから。

「で、では、学校の階段でアリアを突き落としたのはどう説明をつけるんだ。」

少し焦りがみえてますね。
大丈夫でしょうか?

「それに関しては全く存じあげませんわ。」

「何を堂々とふざけたことを!都合の良い言い訳がないからといってそんなものは通用しないそ!」

はぁ。
本当に知らないのですが………。
ですが…。

「ですが想像はつきます。」

「なに?」

「ディル様………、そしてそちらのお三方も聞いておいた方が良いでしょう。………皆さんは同然ご存じとは思いますがあなた方四人には幼少の頃より決められている婚約者がいます。それなのにその方々とのお付き合いを蔑ろにしてアリア様と仲良くされている様子。そしてその様子を見ている学生の皆さんの中にはアリア様に良い感情を持ちません。特に契約を何より重んじる商家出身の令嬢や、伝統や爵位を重んじる公爵・侯爵・伯爵家出身のご令嬢は、酷いほどアリア様を嫌悪しています。ですので一部の恨みや妬みを持つものの犯行でしょう。婚約者の方々の犯行か、それともアリア様に嫌悪感がある者の犯行か、はたまた私達婚約者にすり寄りたい者の犯行かは判別がつきません……………。ですが、これも込みで私は忠告しておいたのですが……。」

階段から落とされてしまったことは可哀想ですし、落とした方は犯罪者です。当然悪いのは加害者になります。
ですが動機を持つものなど百人単位でいます。
目撃者がいない限り、いえ目撃者がいたとしても学生は皆同じ服を着ておられるので絞りこむのは不可能に近いでしょう。

「私は特別、ディル様のことでアリア様を虐げようとは思っていなかったので、その様なことはしませんが、そちらのお三方には犯人候補に心当たりが沢山あるのでは?なるべくそういったことが起こらないようにしますが、私以外の方の起こした事件まで責任は取れませんよ?貴女方が巻いた種ですし。」

その言葉を聞いた三人は普段の婚約者に対する少しは態度に思うところが合ったようで顔を下に向けています。

「私の行動の誤解は解きました。先程の婚約破棄の発言を取り消していただけますか?」

ここであの発言を撤回していただけたらまだ取り返しが付きます。
ですがこれでもどうにもならない場合は………少なくともお三方は………。

「出任せの言い訳を幾ら並べようともお前の罪は幾らでもあるのだぞ!そもそも神聖な学院をなんだと思っている!?学院は学問を学ぶ場。そこに貴族も爵位もない!」

…………はぁ。

「そちらの方々も意見は変わりませんか?」

これはもうダメかもしれません。

「なにを貴様が進行している!この場は貴様の罪を改める場だそ!」

「自らの罪を棚にあげて…………救いようがありませんね。」

「それが分からないからこんな下らないことをしたんでしょ。」

先程は婚約者に対して少しは反省していたようですが、それとこれとは別とばかりに私を罵倒してきます。

「本当に私はアリア様には不条理なことを何もしておりませんよ?」

「アリアがいじめられたと泣いていたのだぞ!?なにが心当たりがありませんだ!笑わせるなよこの毒婦が!」

………………。
覚悟を決めましょう。

「では仮に私がアリア様を虐めていたとし、婚約破棄をしたとして正妃はどうするおつもりですか?」

ディル様の顔が笑顔に変わる。
私が諦めたとでも思ったのでしょうか?
まあ、別の意味で確かに諦めてしまいましたが………。

「それは………アリアが最も適しているであろう。虐めの加害者であるお前ともまだ友達になりたいという博愛、身分を笠に掛けない行動。全てにおいて彼女の他に国母に等しい女性はいないのではないか?」

「デ、ディル様!」

なるほど……私との婚約破棄からのアリア様との強引な婚約が狙いでしたか………。
アリア様は満面の笑みで喜んでいるようですが………。
ただ男爵家の者など、正妃なんて出来るわけもありませんのに………。

「それでは…最後に一つ………どんなことがあってもアリア様を愛せますか?どんなに辛くても愛し合い支え合い続けれますか?」

その質問に対してディル様は自分の気持ちを言葉に込めて、アリア様には愛を語るかのように答えます。

「どのようなことになろうとも、私はアリア嬢を愛し続ける。彼女以外に私の隣に相応しい人間はいない。」
 
その言葉を聞きようやく心が決まりました。
この四人は………………もうどうにもなりません。
この際言いたいことを言ってしまいましょう。

「分かりました。ではこの際言ってしまいましょう。ディル様とそちらのお三方、…………貴方達はこの学院で何を学んできたんでしょう?」

「なんだと貴様!」

そう言いながら騎士団長子息のキュルェ様がこちらに来ます。
先程、押し倒された時の事を思いだし体が震えてしまいます。

「こちらへ。」

そう言い、こちらに来ないように押し止めていた護衛を三人呼び寄せます。
さすがのキュルェ様も護衛三人には手が出せません。
これで思う存分話せます。

「王子であるディル様や国の騎士団長・宮廷魔法師団長・宰相をお父様に持つキュルェ達に対して無礼ですよ。」

「貴方こそ無礼です。貴方は男爵家、私は侯爵家。それにお父様の仕事の話をするなら私のお父様は外務大臣です。国外向けの政治に関する全権を委任されている仕事です。」

アリアが不満そうな顔で黙っています。
頭は良いらしいので言っている言葉の意味は分かっているのでしょう。
その頭をもう少し有効活用してくださればこのようなことになることはなかったのですが……。

「そもそも「学院は学問を学ぶ場。そこに貴族も爵位もない!」とおっしゃりましたがそれは誤りです。」

「どこが違うというのだ!」

ディル様は声を荒らげます。

「爵位や貴族が関係ないのいうのは初等部と中等部の話です。確かに初等部・中等部では身分に囚われない様々な交友関係を持つために権力を要素を極力排除しています。しかし高等部である国立レルモンド高等学院では逆です。将来の領地運営や社交界で役に立つ人材になるため積極的に権力に対するマナーを教えられています。全ての学生は常に相手の爵位を考えてはおき、平民の優秀な人材を囲っておいたり、有力貴族との繋がりを深めたりなど、高等部は子供達の社交界なのです。当然爵位は重んじられています。」

ディル様が絶句しています。
なんの為の学校だと思っているのでしょうか?
将来役に立つ知識や経験を得るのが学校なのです。爵位もなく平民と同じ扱いを高等部でも学んでいては話になりません。
我々は貴族、平民とはまるで違います。むしろ違っていなければならないのです。
そうでなければ、領地経営など出来ません。
非常時には平民の命を天秤に掛け、大を救うために小を犠牲にする判断をしなければなりません。
貴族と平民が同じであるという知識を与えられていればまともに天秤に乗せることもできません。

「それと、皆さんが学院でどんな評価をされているのかご存じですか?皆さんはこんな奴らがこの国の未来を担うのか………この国が終わりかねない……。と思ってらいっしゃいますよ?」

「なにをバカのことを………。」

お三方とディル様も含めた四人で口々に私を罵ってします。
もういい加減めんどくさいですね。もうバカ王子と3バカトリオとでも呼びましょうか!

「ディル様は先程からアリア様が「苛められた」と言っていることを根拠として私に誹謗中傷をされておりますが、私はそれを否定してます。何を根拠にアリア様を信じていらっしゃるのですか?」

「私の言うことを信じてくださらないのですか?」

めんどくさいですね。
そんな悲壮感を漂わせないでください。
腹が立ちます。

「貴女には聞いてませんアリア様!ディル様答えてください。」

「そ、それは………アリアがそう言ってるから…………。」

お話になりませんね。

「そうですか…………。ディル様は爵位というものをなんとお考えなのでしょう?………爵位というのはいかにその家が国にどの程度貢献してきたかという指標です。ですので普通であれば男爵家の意見より、より国の力になっている侯爵家の意見の方が重いです。ましてや私は婚約者、貴方が一番にしなくてはいけない存在。それなのに理由もなく男爵家のアリア様を信じるということは次期国王は、貴族の位を蔑ろにしていて、契約も平気で反古する。と生徒達に認識されています。」

「そ、そんなつもりは!」

「つもりがあろうがなかろうが関係ありません。事実ディル様は侯爵家の婚約者を蔑ろにして男爵家令嬢と遊んでいたのですから………。そして今回ディル様が私に対して婚約破棄をしたことで更に印象が悪くなりました。ディル様はどんなに家が国に貢献していても貴族を平民と同じ扱いをし、ディル様個人の気分で契約を反古する。この国の貴族全てをバカにする行為です。もしこの場でディル様が王位を手にいれるなんてことになったら即座に内乱に発展するレベルです。」

ようやくディル様は自分が周囲にどんな風に見られているか自覚したようです。

「そう思っているなら、早く教えてくれればよかったじゃないか!」

「ですからいつも言っていたじゃないですか!「そのような方を隣においていては他貴族の方への示しがつきません」と。そして先程から何度も繰り返し婚約破棄を撤回するようにお伝えしました。それにディル様はこの国の国母という仕事を甘く見すぎです。」

どこから説明すればわかりやすいでしょうかね?

「ディル様は名馬と言われる馬の子供と、特に血統の無いの馬1万匹の中で一番良い馬。どちらがより良い馬だと思いますか?」

「それは普通の馬の一番だろう。確かに名馬の子は良い馬になりやすい傾向が多いがあくまでも割合的に多いというだけ、それよりは普通の馬一万の中から一番を選ぶ方が良い馬に出会えるだろう。」

「そうですね私もそう思います。実際の労力の問題からそのような選び方で馬を探す人間はいませんけどね。」

「それは分かったが、それとこれとがどうゆう関係があるというのだ。」

「その考え方はこの国の王家に非常に影響を与えています。ですので名馬の子つまり王子より、普通の馬の一番つまりは貴族の中のトップの方が優秀という考え方です。」

「なっ!それは王家に対する侮辱だぞ!」

「ええ、ですが、この国の裏では王族ですら同じ考えです。なのでこの国では王子を王とするものの、実際の政務の方針決定は数ある中から選ばれた王妃が行うのです。なので兄弟がいて代わりがいるのであれば、第一王子よりも王妃の方が重要とされる国なのです。学院ではこんな王族への不敬なことを授業出来ませんが、ディル様が国政に興味を持たれて調べられたら直ぐに分かったことですよ。」

「………………そ……んな。」

まさか王子である自分より一貴族の方が重要と言われるとは思わなかったのでしょう。

「なのでこの国では王妃候補の決定には何よりも時間と労力を掛けます。流石に密偵が紛れるリスクがあるのである程度爵位が高い者から選びますが、それでも沢山の人の中から選びます。第一王子が生まれると4年間掛けて属国も含め国内外の様々な貴族令嬢を調べあげ事前に目星をつけます。そして、面談を行い簡単なテストを受けて100人に絞ります。そして一年間みっちり勉強をしてさらに20人に、次は政務や国政、マナーについて学びさらに5人に次は各大臣の下に付き実際に政務を行い結果を出し、一年間王妃様と会話・勉強を重ねてようやく王妃候補は決定します。私はディル様と同い年なので四歳の時に選抜のテストを受けることになります。それゆえその一年半前には勉強を始めました。そしてそれからいままでの15年近く1日たりとも王妃になるための努力を欠く日はございませんでした。当然学院のテストも一点たりとも落としたことはございません。」

長かった王妃教育………。
1日10時間の勉学からの外務大臣補佐として他国との交渉、魔法こトレーニング、マナーのレッスンに、他国の地理や強みや弱み、貴族のの名前や思想、派閥等ありとあらゆる情報を覚える日々………。 それに比べたら学院のテストなど一般常識です。

「15年間毎日…………。」

「仮にアリア様が王妃となるなら当然私と同じ水準を要求されます。確かにアリア様は学院のテストは学年10位圏内をキープされていましたよね。それならば地頭はそこそこのはずです。とすれば今から学び始め、王妃様と私の指導のもと1日20時間を王妃教育をし、それを八年間休みなく続けることが出来れば、及第点位は取れる可能性が出てくるかもしれません。」

「1日20時間!!それを八年間なんて出来るわけ無いです。」

「出来ないことを可能にするくらいの人材でないとこの国では王妃は勤まらないと言うことです。」

本当ら言う気は無かったですが、言ってしまいましょうか。

「今回のディル様の重要な話があると言う言葉を聞いて私はてっきりアリア様を側室にという話だと思っていたのですよ?まさか自分の真に愛している人にこの歳からきつく辛い王妃教育を施させようとするとは思っても見ませんでしたから。そして私はアリア様が側室になっても構わないと思っていました。ですが、蓋を開けてみればアリア様を王妃にするなど不可能に近いことです。」

ディル様は見たことが無いくらい老け込んでいます。

「こんなことになるとは思っていなくて………。………僕はこれからどうなる?」

「そうですね。パターンとしては二つ考えらると思いますよ。一つ目は、このまま第一王位継承権を維持したまま様子見をするという可能性。」

「………もう一つは?」

「王族としての地位の返上して平民になる辺りですかね?まあまずこちらになると思います。」

「!?何故そこまで!」

王位継承権の入れ替わり位ですむと思っていたのでしょうか?
それでは認識が甘すぎます。

「幾ら王妃を大切にする国と言っても第一王子の王位継承権を無くすのは異例なことです。必ず貴族が反発します。特に革新派と言われる派閥の貴族が。」

「革新派?」

「はい。今この国では貴族は主に二つの派閥に別れます。今まで通り王妃を主体として政治をしていこうと言う保守派、国王中心の政治をしようという革新派。革新派は王妃候補にディル様が無理矢理王位継承権の権利を放棄させられたと訴える可能性があります。そしてディル様を筆頭として現王政にクーデターをする可能性が存在します。」

「それは革新派にとってもどんな意味があるんだ。………僕よりも………優秀な王妃が国を運営した方がいいんじゃないのか?」

………僕より、優秀な王妃ですか…………今更自分の間違いに気づいても遅いのですがね………。
………それにしてもここまで言って何故先が想像できないのでしょうか?
学院のトップ5以内に入る頭脳だとは思えませんね。

「革新派にとっては実際のところ、王が実権を持ってようが、王妃が実権を持っていようが関係ないのです。強いて言えば女の分際で大きな顔すんなよ。と思っている程度でしょうか?」

「それは王妃に対してすごく無礼だが………。」

「所詮、腹の中で思っていることです。実際無害なので大したことは無いです。…………革新派の狙いは王が何でも言うことを聞いてくれる傀儡政権を作って甘い汁を吸いたいというだけの者。それには無駄知恵のある王妃などただの邪魔者。故に国王主体の政治にして王妃も大した知恵の無い者から選びたいというのが彼等の目的です。」

「僕は父上に逆らうつもりはない。」

「ディル様の意思は関係ないのですよ。ディル様がもし中途半端に権力を持っていたら無理矢理担ぎ上げて旗元にするだけのことです。平民にまで身分を落とし王家の直轄で暮らせば貴族もおいそれと手出しは出来ないです。もしクーデターが起き時に、一般の平民からしてみれば一番の権力者は王さまなのに、王妃が実権を持っていると言われたら国を王妃に乗っ取られたと反発し革新派に同調する者も多く出るでしょう。」

まあ、今他国の人も多いこの場で革新派の目的を語ったことで彼らもそう簡単にはこんな方法を取れないとは思いますが……。
ですが、この話をするのは他国に弱味を見せることにも繋がってしまいますが、内乱が起こるよりはましでしょう。

「俺は一体どこで道を誤ったんだろうなぁ。」

ディル様は諦めたように考えて込んでいます。
そういえばアリア様に言わないといけないことがありました。

「ディル様は今後慣れない平民生活で疲れてしまうでしょう。是非ともアリア様がディル様を支えてあげてくださいね。」

「えっ?い、いや……?あの……。」

「どうしたんですか?まさかディル様の妻ではなく、王妃になることが目的だったとは言いませんよね?」

そのような戯れ言を赦すことは出来ませんよ?
お二人の純愛の結果なら平民として仲良く暮らせば良いと思いますが、権力を求めディル様を狙ったなんてことはないですよね?

「ち、違うんですフェテシア様。実はディル様が無理矢理私を妻にと……断りたかったのですが王子であるディル様の言葉に逆らえなかったのです!」

「そんな………。」

ディル様が更に絶望的な表情をしています。

「先程の様子ではそうには見えませんでしたが?」
 
そもそもさっきまでは自分より余程高位の貴族である私にマナーは愚か、敬意の一つも抱いていないような態度だったアリア様がその様な事を考えるとは思えないのですが………。

「ですので私は本当はキュルェ様ののことが…………。」

アリア様がキュルェ様を見つめています。
キュルェ様をアリア様の言葉に驚いていましたが、喜びの表情を隠しきれていません。
そして他の二人は嫉妬の表情をしています。
そんな事を考えている暇などあなた達にもないと思いますが…………。

「アリア様。もし仮に権力を求めてキュルェ様に助けてもらおうとしているのなら、キュルェ様は止めた方がよろしいかと。」

「なんですか?」

アリア様は無理矢理作ったような余裕の笑顔で、所々不安な表情が見え隠れしている。

「王子様であるディル様が平民になるのです。同じ事をしたそこのお三方も当然連座で平民になると思いますよ?」

「なっ!?」

「当然のことでしょう?知恵がなければ王族ですら権威を失うのですよ?代替え利く貴族がこのような不祥事を起こして許されると思っているのですか?」

「僕達が平民だと?あり得ない!……あり得ないはずた!」

「僕の父上を誰だと思っているんだ。」

そんな話をしているとパーティー会場のドアが開く。
そこにはこの国の王と王妃の二人がいる。

「な、何故お父上が!?」

「このような騒ぎになったと聞けば風邪どころでは無いだろう…………意味は分かるなディル…………。」

国王様の表情には悲しみが見える。

「ごめんなさいフェテシアちゃんこんなことになるなんて思っては居なかったの。」

「いえそのようなことはございませんよ!ただ私にディル様を虜にする魅力が無かっただけです。」

「そんなのこと無いわ。貴女は学力、政治、魔法、容姿……全てで優秀だわ。次世代の王妃は貴女しかあり得ないと思っていたのだけれど……まさかディルがそのような小娘に絆されていたなんて……。貴女と国を盛り上げていく日々を楽しみにしていたのですけど…………。」

私と王妃様が話している間に王様が最も上座の場所に立ち宣言する。

「我が息子であるレルモンド王国第一王子ディル=レルモンドはたった今この場を持って王族としての権利を返上する。レレーシュ・アベル、キュルェ・ティモル、ライシュ・ツィレの三名の爵位も剥奪する。それぞれの家にもおって沙汰を下す心して待っておれ。そしてフェテシア嬢……息子が申し訳なかった。」

国王様が私に頭をさげています!

「あ、頭をあげてください国王!私はなにも!」

「いや、直ぐには頭を上げることは出来ぬ。フェテシア嬢の青春は王妃教育で潰されていたはずだ。それに次期王妃になるからと言って無理に数々の政務をこなさせてしまっていた。それをこのような形で無駄にさせてしまうとは………。フェテシア嬢の青春を取り戻すことは出来ないが一人の父親として謝らさせてほしい。………申し訳なかった。」

これは謝罪を受け入れない限りは顔をあげてくれそうにありません。

「分かりました。謝罪を受け入れます。」

「そうか…………、代わりといってはなんだがある程度の願いは叶えるつもりだ。何でも言ってくれ。」



「それは嬉しいです。その事についてはいずれ別の場で」

「正太子は第二王子のビルムとする。今日はこのようなことになってしまい申し訳ない。後日再度パーティーを行う。是非とも参加してくれ。」

国王様が貴族や他国の用心達に告げる。
第二王子のビルム様が正太子ということは次期王妃はリリアンヌ様ですね。
彼女はディル様の婚約者決定選考の最後まで一緒に戦った人です。
結果的には、外務大臣補佐として国内外の政治に精通していた私が婚約者となりましたが、財務大臣補佐だった彼女は国内外の経済の動きに詳しい専門家、学園でも私についでずっと学年2位だった彼女なら安心して国を任せることができます。

偶然この場にいたリリアンヌ様が私のもとに来ました。

「フェテシアお姉様…………。」

「リリアンヌ………いえ、リリアンヌ様。今は貴方が次期王妃よ?」

「フェテシアお姉様ほど王妃に相応しい人はいませんわ。私などに務まるか…………。」

「貴女が認めている私が貴女を認めるわ。王妃の座を任せられる人は貴女以外居ないわ。もっと自信を持ちなさい!
本当に貴女の姉になりたかったのだけれども………仕方ないですね………。」

「フェテシア様………貴方に恥じないように頑張りますわ。それで今後の話しなのですが…………大変失礼かもしれませんが、私の元で秘書になりませんか?フェテシア様が近くでアドバイスしてくださるなら百人力です。」

優しい娘ですね。
理由はどうであれ私は王子に捨てられた中古品。
まともな婚約者も得られない私に権力を与えるため誘ってくれたのでしょう。

「嬉しい話ですが大丈夫ですよ。私にはやりたいことがあるので。」

「やりたいことですか?」

「はい。」




ーーー2カ月後王直轄領ーーー

「はぁ。今日も疲れたなぁ。」

「そうですねぇディルさん。」

「なかなか作業にも慣れてきましたからね。」

懐かしい声が聞こえてきますね。

「お疲れ様!」

「おい!アリアお前も少しは手伝えよ。」

「嫌よ。私は絶対に農民なんかで人生を終える気は無いわ。まずは次期村長よ。」

「あの頃のアリアは……いったい何処に…………。」

「そんなの幻想に決まってるでしょ。あー、もうちょっとで王妃だったのに貴方達が無能なせいで!」

「こっちもお前に騙されてこんなことになったんだぞ!」

「知らないわよ。貴方達があの女に負けたからじゃない。」

「いい加減アリアも諦めなよ。この生活も悪くないじゃないか。」

「元正太子の癖になに言ってるのよ。私はお金と権力が好きなの!」

家に近付くに連れて声が大きくなってくる。
ドアの前に立ちノックをする。

「あ♪きっと村長の息子のリデンフよ♪…………貴方達は無駄なこと言わないでよね。」

扉が開きました。

「リデンフ♪会いたかったわ♪いったい何の…………よ…………う…………!貴女がなんで!」

「こんにちはお久しぶりです。」

「こんにちはフェテシア様。………こんな汚ならしい所に何のようですか?」

一瞬驚いたものの直ぐに昔みたいな純真無垢な表情・仕草を作り出す。
恐らく私が彼女の境遇を不憫に感じて連れ戻してくれることを期待しているんでしょうかね?
凄いものですね。

奥の方ではディル様と他のお三方ざ私の名前に驚いて飛び起きています。

「リデンフ様?でなくて申し訳ありません。」

「き、聞いてたの!?」

「はい。私はあちらの方が好きですよ?」

「…………ふん!今更何のよう!落ちぶれた私を笑いに来たの!?」

「いえいえそんなつもりはありませんよ。今日から私もこちらで暮らそうかと思いましてこちらに。」 

「はぁぁ!?いったい何のつもりよ?」

「婚約者が出来ましたので。その方に嫁ぎに来たのですよ。」

「ふん♪中古品で厄介な貴女はこんな辺境に追いやられたわけね。良い気味だわ。」

「あ、相手はいったい誰なんだ。ここの代官か?それとも市長あたりか?」

奥の方から出てきたディルが聞いてきます。

「貴方ですディル。」

「「「「はぁ!?」」」」

ディルを除いた四人の声が重なりました。

「な、どうゆうことだ!?もう僕はただの平民だぞ!?それに婚約は破棄した。」

「はい。なので、国王様に民ディルの婚約者にしてくださいとお願いしました。丁度先の件で国王様が私の願いを聞いてくれるそうだったのでお願いしました。」

「………………いったい何のために?」

「勿論愛する方と婚約したいからですよ。」

「君は僕に何の感情もなかったのではないのか…………?僕らは話したことすらまともになかったのに…………。」

「何を言ってるんですか?私は貴女のことを愛していたんですよ?十数年間ディルのお嫁になるためだけに勉強し続けて来たんですよ?嫌でも好きになります。」

「君は貴族だが、今の僕は平民だぞ!」

「貴族の位は返上してきましたわ。それに優しいディル様に国王は無理です。平民位が丁度良いですよ。アリア様もディルには興味が無いようですし貰っても良いですよね?ディルよろしくお願いします。」


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