異世界探険史記

宮里 斗希

第4章 〜説明の刻〜

今俺が座っているのは柵。少女は新しく積み上げた藁の上に座っている。もちろん俺のジャージの上でもある。
ーー後で洗おう。うん。

「・・・・・・・・・君の名前は?」
「聞いた方から言うのが礼儀じゃないんですか?」

名前を聞いた俺にツッコむ〈ロレッタ〉。当の少女は、目を白黒させて俺たちの会話を聞いていた。
腰にかかるほどの黒髪ロングヘアで、大きな瞳の色は黄金色。元々華奢だと思われる体なのに、少しサイズが大きめの赤茶色チェックのワンピースのせいで尚更細く見える。でも、それもまた、可愛い。

「あの、そんなにジロジロ見られたらなんか嫌なんだけど・・・」

少女の顔をポケーっと見ていたのだが、そういわれてはっとした。というか、初対面にして嫌って。思いの外きついタイプの性格なのかもしれない。

「それもそうか。えっと、俺の名前はシキ・ミヤリ。こっちの小生意気な赤い石は〈ロレッタ〉。」
「『俺』の前に『一言多い』って足してくださいよ、まったく。」

俺たちがそう言うと、少女は若干戸惑いながらゆっくりと答えた。

「あたしはリース・プロミネンス。よろしく。」
「おっけい。んじゃリースちゃんでいい?」

すると、リースは露骨に顔を顰めた。

「『ちゃん』って何?よく分からないけどリースにして欲しい。不快な気分になった。」
「『ちゃん』って言うのは、自分より下の立場と思う女の子につけるものです。確かにひどいと思います!」
「えぇ・・・・・・親愛の証だよ・・・・・・」

女子と女子(仮)に罵られ、俺は顔をひくつかせた。

「うわ、シキさんが笑ってますよ。Mですね。」
「ほんとね。」
「ちょっと風評被害がすぎないか!?」

ー失礼な。
まぁでもリースと〈ロレッタ〉の相性はよかったのか、会話は弾んでいた。

「それじゃ、軽く自己紹介しましょう!私は〈ロレッタ〉、一応14歳です!『ホビット』と『アビリティ』は・・・って言うまでもないですよね。」
「まぁ、確かにね。私はリース、年は16。『ホビット』は・・・」
「ちょっと待ってちょっと待って!!」

テンポよく話を進めていく2人に対し、俺の頭は困惑だらけだった。そんな俺をリースは不思議そうな目で見た。

「なに?」
「いや、『ホビット』と『アビリティ』ってなに?」

そう言うとリースは大きな瞳を見開き、首をかしげた。その動作まで可愛いというのはもう罪でいいと思う。

「シキってそんなのも知らないの?逆に何者?」
「ご、ごめんって・・・」

ちょっと落ち込んだ俺に、〈ロレッタ〉がフォローを入れた。

「いやぁ、すみませんシキさん。説明遅れてましたね。えっとですね、属族ホビットって言うのは、主に『火』『水』『風』『土』『光』『闇』の6種類あって、これらを総称して通常属族ノーマルホビットと呼びます。」
「わかった、その属族ホビットによって使える魔法が変わるとか?」

そういうと、赤い石は正解を示すようにチカチカと光った。

「ご名答です。例えば属族ホビットが『水』、能力アビリティが【熱湯】なら、温められた水を扱うのが得意になる、みたいな。でも別に熱湯じゃなくても操れる、と言った感じです。」
「ほーん、結構汎用性あるんだな。〈ロレッタ〉は何なんだ?」

すると、リースが話に入った。

「ほんとにシキって何者?常識よ、赤い石がついた何かから声がしたらそれは・・・」
「あああぁぁぁー!!ストップ、ストップですリースさん!今はまだ言っちゃダメって言われてるんですー!!」

言いかけようとしたリースを〈ロレッタ〉は慌てて止めた。

「誰に言っちゃダメって言われたの?」
「あっ・・・」

明らかに口が滑った様子の〈ロレッタ〉。今、俺の中でお前のドジっ子キャラが確立されたよ。

「と、とにかく!ダメなものはダメです!!もう何も言いませんからね!!」

そう叫んだと思うと、赤い石から光が消えた。こうなると、もう何を話しても返事が返ってこないのだ。
諦めて、今度はリースに向き合った。

「んで、リースの属族ホビットって何?ついでに能力アビリティも。」
「私は・・・能力アビリティしかわからないの。分かりにくいんだけど・・・【見抜く】、これが私の能力アビリティよ。」

そういうリースの瞳に哀しみの色が滲む。

「・・・・・・・・・質問続けても大丈夫か?」

彼女から溢れる、あまりに濃い負のオーラに思わず声をかける。

「え、ええ。大丈夫よ。」

彼女の瞳が元の色に戻ったのを確認して、続ける。

「話を聞いた限りじゃ、能力アビリティから大体の属族ホビットは特定できそうなんだが・・・」
通常属族ノーマルホビットじゃないのよね。ほんとにわかんない。それで、シキは?」

気まずい雰囲気を破るように、リースは俺に質問した。

「え?えっとー・・・・・・」

再び流れる気まずい雰囲気。そこで初めて、俺は自分の力でさえまともに知らないことに気づいた。

「わからな」
「えー!リースさんそれ希少レアじゃないですか!!」

どこから話を聞いていたのか、あるいは聞いていなかったのか、リースが話に割り込んできた。

「会話のテンポがひとつズレてるよ〈ロレッタ〉。今はシキの能力アビリティを聞いてるところ。」
「あ、そーなんですかー。」

しらを切る〈ロレッタ〉に軽く息をつく。

「〈ロレッタ〉、俺の能力アビリティって何?」
「えー、自分で見れますよ。『ステータス』って言えば。」
「それを先に言えっての。」

少し間を置くと、言われた通りにステータス、と呟く。
もちろんの事ながら俺は若干興奮していた。なんてったって絶賛厨二病継続してるからな。
そんな俺の期待に応えるかのように、目にうっすらと青い文字盤が映し出された。



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