異世界探険史記

宮里 斗希

第3章 〜出会いの刻〜







「っはぁ、はぁ、はぁ・・・」
「何息切れしてるんですか。ほら、今から坂道ですよ。頑張ってくださいねー。」

―こいつ、自分では動かないからって・・・

この世界に来てから4日目。俺は5つ目の村に向かって進んでいた。つまり、1日にひとつの村を訪れたことになる。ちなみに今は登山中。正直、半年運動してなかった人間にはキツイ動きだ。
〈ロレッタ〉の道案内のもと歩いてはいるが、とにかく小言が多い。

「ペース遅くなってませんか?ほら、もっとがんばって!ファイト!ファイト!」

いや、正確に言えばポジティブな言葉を投げかけてくれているのだが、それがうっとしい。というかウザい。

「てめえっ・・・マジで自分の足で歩いてみろ・・・山だぞ山・・・」
「ここ丘です。」
「・・・嘘だろ・・・」

改めて運動神経のなさに気付かされたところで、草むらの方から『ガサッ』と音が聞こえた。

「・・・ウサギか。」
「また狩るんですか?」

〈ロレッタ〉の言い方には少しトゲがある。なぜなら、俺が今までの道中で出会ってきた獣類はだいたい狩ってきたからだ。殺される動物を見るのが嫌なあたり、ある程度の優しさの持ち主・・・なのだろう。

「いちいちシキさんを褒めないといけないんでめんどくさいんですよ。」

前言撤回。

「じゃあ褒めなくていいわ・・・」

肩を落としつつそう言うと、背中にかけていた弓をとり、ゆっくりと矢を引く。狙うは、ウサギが数秒後に来るだろう位置。

宙を切った矢がウサギの頭を的確に撃ち抜いた。

「お見事です。」
「別に褒めなくていいって。」

絶命したウサギの元へ近づき、足を縛って逆さにしたあと空中に放り投げる。するとウサギは青緑の粒子となり、空に消えた。
この世界では、『カバン』という概念は存在しない。代わりに、今俺の手元にある石が必要だ。半透明の緑色をしていて、サイズはガラケーほど。亜空間に荷物を入れられるそうで、劣化しないし制限もない優れ物だ。ちなみにこの石はそこらじゅうに落ちている。一応それぞれの石に別の亜空間があるようで、盗難の心配などもない。
それなら弓矢もしまえばいいのだが、ここに入れると、取り出すのに多少の時間がかかる。そんなことをしていたら獲物に逃げられてしまうのだ。

「日没まであと少しですよー、はやくはやくー。」
「棒読みなのどうにかならねーか・・・?」
「だって、早くしないと間に合わないじゃないですか。」
「間に合わないって、何に?日没?」
「・・・・・・・・・あっ。は、はい!そうですっ!日没です!日没にま、間に合わないかもしれないなぁ〜と思いましたっ!」

日没じゃなかったのがすぐバレるキョドりっぷり。追い打ちをかけようかと思ったけど、もう喋ってくれなさそうだったので、質問を変えた。

「なぁ〈ロレッタ〉?」
「な、なんですか?」
「俺この世界に何しに来たの?」

すると、ペンダントトップがチカチカと点滅した。瞬き・・・だろうか。

「何って、生きるためですよ?」
「俺は1回死んだんだし、生き返らせるにしてももう少しましな人間いるだろ。俺みたいなニートじゃなくてさ。正直言って、わけわかんねーんだよ。俺に何かをさせるためとしか思えない。」

ふたたび点滅する赤い石。

「・・・鋭いですね。」
「だろ?」
「それを言わなければほんとに聡明だと思うんですけどね・・・・・・そうです。なんでも、ある少女の対策のためだそうです。この間、こっち側のお偉いさんが決めました。少女の対策がしやすそうな場所にいて、なおかつ死んでも特に問題なさそうな人、つまり身寄りのない人が必要だったんです。でも、そんな条件の揃った人なんて正直言っていないじゃないですか。そんな人を探すくらいなら、いい感じの場所で死んだ人間を転生させたほうが早い、ってことになって、今に至ります。まぁ言うなればたまたまです。」
「・・・・・・・・・マジか。」
「まじです。」

ある少女ってのが気になるけど、〈ロレッタ〉の声には、もう聞かないで欲しいという願いが混じっている気がした。まぁ、たまたまでも生きられるだけマシだと思う。気を取り直して、また歩き出した。


*******************





「・・・・・・っ、着いたぁぁぁ!!」

すっかり日が暮れたが、なんとか着いた。

「お疲れ様です。」

〈ロレッタ〉の労いの声を聞きながら空気をめいっぱい吸い込む。前の世界と比べて100倍以上美味しく感じる。

「いつまで突っ立ってるんですか。早く探索してください。」
「お前には情緒ってもんがないのか?」
「赤みがかった景色しか見えませんから。ほら、はやくはやく。」
「・・・わかったよ・・・」

改めて村を見渡す。廃れた感じはなく、家の作りもしっかりしている。でも・・・

「やっぱり誰もいねーよな。」
「ですね。」

そう。村に誰一人として住人がいないのだ。今までに訪れた全ての村もそうだった。家には暖炉の火が灯っている。店には料理もある。なのに何故か、住人だけがいないのだった。

「また料理をタダ食いするんですよね?」
「タダ食いっていうな。食材のことを思えば、腐るより食われた方が本望だろ。」
「それをタダ食いと言うんだと思います・・・」

実は、今までの村の料理を、少しもらって食いつないできた。鹿肉や兎肉は豊富にあるのだが、調理法がわからないからである。
ブツブツ言う〈ロレッタ〉の声は、無視することにする。レストランらしき場所の前に行くと、ローストビーフらしきものを発見した。ナイフとフォークを店内から探してきて、ゆっくりとフォークを突き刺した。ハーブのきつい香りに、何か臭みのある動物の肉だろうと思う。しかし今、なんの肉かは問題ではない。食べられるかどうかだ。
ナイフで切ると、柔らかい断面が目に飛び込んできた。香しい匂いがそこら中に広がる。この感じなら、食べても問題なさそうだ。

「いっただきまーす!!」

そう言うと、大きなひと切れを半ば押し込む形で口に放り込んだ。その途端、肉の繊維がほどけて肉汁が溢れ出す。脂っこくなりそうなほどの量だが、そうならない。
いい肉の肉汁は、甘いのだ。ハーブのアクセントも、甘い肉汁とよく合っている。
前世では味わうことのなかった感覚に思わずため息を漏らした。ものの5分もしないうちに、皿が完全に空になった。洗ったわけではなのにピッカピカである。なぜか・・・少なくとも人に見せられる姿で行ったことではない。

「音だけでもだいぶ汚いことが伝わりました。お皿なめまわしてたんですよね、汚い。」
「わざわざにごしたのにそういうこと言うなよ・・・」
「さ、もう腹支度も終わったことですし、探索しましょう!」

辛辣でポジティブな〈ロレッタ〉の声を受け、俺は再び調査を始めた。









調査結果

・家                        洋風な感じ
                             (海外の家見た事ないけど)
・料理                    暖かい
                             (俺でも食べられる)
・人                        いない
                             (人がいるかさえ危うい)
・その他動物         いない
                             (家畜、ペット類も)

結論

この村はつい最近住民及び住民の生活に深く根付く動物が全滅した。










まとめてみると、やはり不可解なことばかりが浮かび上がってきた。ひと通り村を一周すると、古い小屋の前に立った。家畜でもいたのか、わらが沢山敷いてある。

「・・・今日はここに泊まるか。」
「料理はタダ食いするのにベッドは借りないんですね。」

住民がいない以上、ベッドを借りても構わないはず・・・はずなのだが、他人の匂いがするベッドで寝るのはどうも居心地が悪い。親戚の家の布団だとよく寝れない、あんな感じ。もちろん初めから探さなかった訳では無い。客室用のベッドなど、探しはしたのだ。でも、最初の村で見つけたベッドに甘ったるい匂いが充満していた。何をしていたのか・・・考えたくもない。滅べリア充。
というわけで、『そんな所で寝るくらいなら獣臭の方がまだマシだ』と思い、五日連続で小屋泊まりだ。

「しつれーしまーす・・・」
「誰もいませんね。」

ここも、特別荒れ果てた様子はない。飲水のところも綺麗だし、餌のわらもきちんと積んである。縄を括り付けるようなところがあるところを見ると、馬小屋だったのだろう。

「日も暮れたし、今日はここの藁で寝ようかな。」
「昨日は干し草、今日は藁ですか。全く・・・。」
「別にいいだろ。えーっと、どれがいいかなぁ・・・」

するとちょうど良い大きさの高さと大きさの藁山を小屋の奥の方で見つけた。羽織っていたジャージを裏返して被せ、少し距離をとる。

「何するつもりですか?」
「やることは一つだろっ!」

俺は駆け出して、そのままベッドに飛び込んだ。少しチクチクするが、予想以上に俺の体重をしっかりと支えてくれる。俺の服からではないいい匂いと、人肌の温かさが俺を包み込んだ。

―ん?人肌?

すると、急に藁山が内側から何かが起きあがり、崩れ去った。もちろん俺は落下。

「いったぁ!誰よ人の上に乗っかってきたのはっ・・・」

そこで、藁から湧いてきた少女と目が合った。
湧いてきた少女。
湧いてきた・・・・・少女。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」





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