異世界召喚ゴムパッチン理論 〜自由意志ゼロの二世界往復、異世界で最強でも現世界ではいつも死にそうです
第三話(一)「ポニーテイルが翻った」
昨日と変わらぬ朝がやってきた。
学校へ行かねばならないことも変わらないが、この日を乗り切れば週末が訪れる。
今度の休日はぼくの中だけで劇的に変ぼうした「日常」に心身をなじませるには都合がいい時間になるだろうと考えながら、昨日と同じように玄関のドアを開くと、昨日とはうって変わって門の向こう側にくりくり天パ頭にアヒル口の女子高生が待ち構えていた。
「おはよー、ハヤ君! 今日も一緒に登校するのだ!」
ぼくは、昨日の疲れがどっとぶり返すのを感じた。
「……おはよう。登校はいいが、ボケは控えめに頼むよ」
門をくぐり、小道に出ると、ハム子がぼくの左脇に添ってついてくる。
「右側! もう、いちいち言うの面倒だから、いい加減憶えてくれよ」
「はーい」
ハム子め、わざとやってるんじゃないだろうな。
しかも毎度毎度、何でそんな嬉しそうな顔をしてるんだ。
こいつが常識外れなのか、ぼくがドン臭いのか。理由は定かじゃないが、何年経ってもハム子が何を考えているのかが理解できない。まぁ、たぶんその両方なんだろう。
早速ぼくの右耳に炸裂するガトリングトークを適当に受け流しながら、今日も波乱の一日になりそうな予感を覚えて、ぼくは早くもアンニュイな気分になっていた。
「……困るんだよね、何で女子ってあんなに恋バナってのが好きなのかなぁ、って」
ハム子は顔を曇らせながら、愚痴をこぼした。
昨日だけでは合宿のエピソードを話し足りなかったらしく、今日は消灯後のルームメイトとのトークについて語っている。まぁ、修学旅行とかの男子部屋でも消灯後には恋バナか下バナと決まっているので、女子に限った話でもないと思うが。
「そういう話題で盛り上がって、私に話を振られてもさ、カレシとかいたことないって言うのも場が白けちゃいそうで、どう答えればいいのかなーっていつも考えちゃうのだ」
確か、中学の時もなにかの話の折に「カレシはいない」と聞いた憶えがある。ただでさえ不思議の多いハム子の中で、最も不思議な現象だ。
なぜかと言えば、こいつは中身はともかく、見た目は可愛いのだ。
背の高さで敬遠されている可能性は否めないが、いつも笑顔だし、誰とでも自然に接することができて、客観的に見て人に好かれやすい方だと思う。
有り体に言って、モテるはずだ。
なぜカレシができないのか、興味がなくはない。
「そうだな。カレシがいないと言っても、気になる男子とか訊かれたりするだろうしな」
「うー、その質問も困るのだ。男の子にどんな気持ちになるのが恋っていうものなのか、分からないのだ。恋愛漫画とかよく読むし、好きだけど、漫画の中で恋だとしてるものが、自分の感覚としてつかめてないっていうか……」
「ああ、それ分かるかも。好きって感情をきっちり分類できるわけじゃないもんな」
「そうなのだ。例えば私、ハヤ君が好きだけど──」
「えっ?」
思わず聞き返した。恋愛感情のことではないとすぐに考え直すが、いきなり真正面から好きと言われたら、さすがにドキッとする。
「……ハヤ君が好きだけど、その好きが……恋愛の好きと、どういう風に違うのかが分からないから……気になる男子とか、言えないのだ」
「あ、ああ、うん。確かにそうだ、うん」
何を動揺しているんだ、ぼくは。
「……で、でもね、こうも思うのだ。もしかしたら、それとこれは──」
「おはよーございまーす!」
「ひゃうっ?」
いきなり大声をかけられて、ハム子が素っ頓狂な声を上げた。
昨日のぼくのように、今日はハム子が校門前の生徒会あいさつトラップに引っかかったようだ。どうだ、恥ずかしかろう。
「おはようございまーす」
「お、おはよーなのだ。生徒会のみなさん、ご苦労様なのだ!」
む、めげない奴め。
それよりも、今日もぼくを呼び止めてきたあの女子はいるのだろうか。
校門の反対側を見やる。立っていたのは男子生徒だったので、ぼくは安堵した。
昨日より前の日にもいなかったように思うし、おそらく交代でやっているのだろう。変に難癖をつけられてはたまらないので、今後も会わない方向でお願いしたい。
校舎に入って、ハム子と別れた後、一組の教室に向かったぼくは、入り口の付近できょろきょろと挙動不審な動きをしている下関を見かけた。
「おはよう。どうした、下関」
「ああ、来たか白河。今、君に会いに来たって人がいて……」
「会いに来た人?」
嫌な予感がする。教室に入ると、ぼくの席に誰かが座っている。女生徒だった。
あのポニーテイルに、すごく見覚えがある。
ぼくが教室に入ってきたことに気づいた周りの同級生がざわついた。それと同時に、ポニーテイルが翻った。
「やあ、おはよう。君を待っていたよ、白河君」
あの生徒会の女子生徒が、刺すような瞳でぼくの顔を見据えてニヤリと歯を見せて笑う。ぼくはただ、唖然としていた。
「えっと……何なんですか、一体」
「おっと、これは失礼した。私は、朝倉映美。二年一組、呉武高生徒会副会長だ。以後、お見知り置きをお願いしたい」
彼女は椅子から腰を上げ、握手を求めるように手を差し出してきたので、ぼくは呆気にとられつつも握り返した。
「それで、朝倉……先輩? どうしてこんな所にいらっしゃったんですか」
「単純に君と話がしたくってね。君と君のカノジョとの登校時間という大事なラブラブタイムを邪魔しては悪いと思ったから、昨日のように校門で会うのは避けて教室で会おうかと──」
「カノジョじゃありません」
ぼくは即答した。しかし周囲のざわつきが、ぼくのクラス内での立場をかなり危うくしたことを告げている。
「何だと、カノジョではない? 肩を並べて、仲むつまじく会話を楽しみながら登校してくる男女の間柄が恋人同士ではないと、君は言うのか」
大げさにショックを受けるそぶりを見せながら、朝倉先輩は声を震わせた。周りのザワザワのトーンが一層大きくなった。
「ただの幼なじみなんですよ。天地神明に誓ってカノジョじゃないです」
「……ただの幼なじみ……だと……? このリア充め!」
「待って。叱責されるポイントがまったく理解できない」
「君というやつは……『世の非モテ男子が考える恋人じゃなくてもうらやましい女の子との関係』第二位にランクインするという『幼なじみ』をタダなどとぬかすとは、何という贅沢の極みだ! ちなみに第一位は『親の再婚で突然できた義理の妹』だぞ」
「いや、知りませんよそんなの! ところで三位は何ですか?」
「『普段は厳しく当たるが残業で二人だけになった時に甘やかしてくれる女上司』だ」
「うーん。一分の隙もない、納得せざるを得ないランキングだ……じゃなくて、本当に勘弁してくださいよ。これ以上ぼくのクラスに、ぼくの根も葉もないスキャンダルをまき散らさないでください」
「分かった分かった、では本題に戻ろうか」
朝倉先輩の顔に、再びニヤけた顔が帰ってきた。
「それで、私が君の教室まで来たのは、君と君の友達以上恋人未満でカップル成立秒読みの幼なじみとの登校時間という大事なラブラブタイムを──」
「そこには戻らなくていいです!」
何てことだ。ハム子とは別の方向性で何度もツッコまざるを得ない。
「せっかく君の意見をちゃんと取り入れて修正したのに、何の文句があるんだ」
「ラブラブじゃないですから。そこ一番重要ですからアンダーライン引いて憶えてください」
「ふふん、仮に君がそうじゃないとしても、彼女がラブではないと果たして言い切れるかな?」
胸がドキリと躍った。
ハム子の方がどう思っているかなんて、ぼくに言い切れるわけがない。朝倉先輩の術中にハマっているような気がしつつも、ぼくは眉をしかめながら言った。
「そりゃあ、まぁ、言い切れませんけど……」
「だよな。そこは、本人に問いただす必要があるよな。じゃあ、彼女のクラスと名前と好きなチキ◯ラーメンの食べ方を教えてもらおうか」
「教えられませんよ。あいつにまでこんな迷惑かけられないし」
「ふむふむ。一年三組、小牧姫舞。バレー部所属、好きな食べ方はそのままかじる、だね」
「何でもう知ってるんですか! 怖っ! あんた怖いわ!」
「いやいや、言っとくけどあの子、この学校で君が思うよりずっと有名だよ? ちょっと特徴を聞いて回ったら、すぐに身元が分かったからな。背が高くて目立つし、何と言っても可愛いからねぇ。クラスの友人の証言によれば、一学期のうちにもう二回も男子生徒から告られて断ったとか」
「あれー? やっぱモテるんじゃないか、あいつ」
「そうだな。うかうかしてられないぞ、少年」
背中をバンと、強めに叩かれた。
「いてっ。い、いや、彼女のモテ事情にぼくは関係ないでしょ……」
「ほーう? 小牧君がその二回の告白を断った理由は何だと思ってるんだ、君は?」
「えっ……え、えーっ? い、いや、そんなはずは……ちょ、教えてください。何なんです?」
しどろもどろになりつつ、思わず小声になって朝倉先輩に訊ねた。
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