死にたがりな美少女(ボク)と残念貴族
XII.突撃、百合娘!
部屋の前。そこには相変わらず綺麗な姿勢で立っている紫苑の姿が有った。手に持っているのはスマートフォンだろうか。
「すみません。お待たせしました」
紫苑は顔を上げ、
「あら、早かったわね。届いた荷物とか、確認しなくても大丈夫?」
「大した量じゃないですし、今すぐ必要な物も無いので、いいかなと」
「そうなの?それならいいけど」
そう言うと、紫苑はスマフォをスカートのポケットへとしまい込み、
「それじゃ、行きましょうか」
「ええ」
瞬間。
「ストーップ!」
声がする。二人はほぼ同時にその方向を向き、
「えっと」
女の子が居た。彼女もまた、紫苑に負けず劣らず美人。しかし、紫苑とは違い、全体的にエネルギッシュな雰囲気を感じる女の子だ。薄緑色の髪はかなり長く、黄色いリボンで一纏めにしている。所謂ポニーテールというやつだ。そして、紫苑ほど胸は大きくないが、女の子らしさを感じられる凹凸と、全体的にすらっとした体形はスレンダーという呼称がふさわしいように見える。
「あら、葉流乃じゃない。どうしたの?今日は見学?」
どうやら、突然現れた彼女は紫苑の知り合いらしい。葉流乃と呼ばれた女の子は急に相好を崩し、
「いいえ先輩。私は今日から早速この寮で暮らすんですよ」
「そ、そうなの?でも、入学式はまだよね?」
「ええ。でも、入寮は今日から可能です。だから、もう引っ越しちゃいました。もう、準備万端です!」
「そ、そう……」
紫苑は若干言葉に詰まる。蓮は横から、
「えっと、紫苑さん」
「そこ!」
割り込まれた。
「え、えっと、何でしょうか?」
葉流乃は眉間にしわを寄せ、
「何でしょうか?じゃ、ないです。アナタ、先輩のなんなんですか?」
「何って……同級生?」
「それだけですか?」
「そ、そうだけど」
「じゃあ、何で先輩と一緒に居るんですか?」
「何でって……」
「それはね」
紫苑が助け舟を出す。
「私が彼女の案内を頼まれたからなのよ。彼女、今年から転入だから」
「案内……ですか?」
「そう」
葉流乃は少し詰まり、
「そ、それだったら、先輩がするまでもありません!私が!この鳳葉流乃が!責任をもってご案内します!それじゃ駄目ですか?」
紫苑は首を横に振り、
「ごめんなさい。そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、これは私が引き受けた事だから。勝手に誰かに任せちゃう訳にはいかないの」
葉流乃は更に詰まり、
「じゃ、じゃあ!先輩に任せた人に許可を貰えばいいんですね?誰ですか?今からひとっ走り」
「学院長よ」
硬直。
「……えっと……一応、聞きますが、今この学院には」
「多分、居ないと思うわ。忙しい人だから」
葉流乃は暫く固まっていたが、やがてがっくりとうなだれ、
「……分かりました」
「ゴメンね。気持ちだけ受け取っておくわ」
「いえ。大丈夫です、」
そこまで言って蓮の方を向き、
「アナタ」
「は、はい」
「お名前は?」
「えっと……三菱蓮です」
葉流乃は嚙みしめる様に
「みつびしれん、先輩」
「は、はい」
蓮にびしっと人差し指を突きつけ、
「今日の所は引きます。でも、言っておきますが、先輩の隣に並ぶのは私、鳳葉流乃だから。そこの所、忘れないでください」
そこまで言うと紫苑の方に向き直り、
「それじゃ、先輩。これから二年間、よろしくお願いしますね!」
すごぉい。さっきまでとは別人のようだ。態度が違いすぎる。蓮と対した時に比べて、声も表情も大分柔らかい。
流石に紫苑も驚いたのか、
「え、ええ」
どこか気の無い返事をする。しかし葉流乃は、紫苑に会えたことで満足したのか、早足で蓮達の元を去っていった。
やがて、葉流乃の姿が見えなくなると、
「なんか、ごめんなさいね……」
紫苑が申し訳なさげに、
「あの子、中学校の後輩なんだけど、その、ちょっと、変わっているというか。そんな感じだから」
「は、はあ」
変わっている。便利な言葉である。そして、確かに葉流乃を表す言葉としても間違ってはいない。しかし、
「えっと、一つ聞いていいですか?」
「……どうぞ」
「彼女は、えっと……紫苑さんの事をどういう意味で好き、なんでしょうか?」
黙る。しかしやがて一つの溜息と共に、
「多分、恋愛的な意味よ」
「そ、そうですか」
間。やがて紫苑が、
「取り敢えず、行きましょうか。余り遅くなるのも良くないし」
やや強引に話題を転換する。彼女にとっても余り触れたくない話題なのだろうか。それならば無理に聞き出すこともない。そう思い、
「ですね。それじゃ、お願いします」
紫苑はふっと微笑んで、
「ええ、任せて」
そう答えた。
◇ ◇ ◇
部屋の前から歩く事数分。寮の一階部分、その最奥にある部屋に蓮達はたどり着いていた。
「到着っと」
「わぁ……」
目の前の光景に蓮は思わず感嘆の声を上げる。どこか風格漂うクラシックな内装は蓮達の部屋と同じだが、広さが違う。最低でも数倍、もしかしたら数十倍はあるかもしれない空間には規則正しく木目調の長机と椅子が配置されていた。ちなみに人は居ない。
蓮は思わず、
「ここって一体……」
紫苑がすかさず、
「正式名称は大広間。だけど、基本的には学食として使われているわ」
「学食……ですか」
「そう。寮に住んでる学生は基本的に、朝と晩はここで食事を取るわ」
「朝と晩……昼はどうしてるんですか?」
「昼は……色々よ」
「色々、ですか」
「ええ。こことは別に、購買部があるから、そっちでパンとかお弁当を買う子もいるし、寮には共用の台所と冷蔵庫があるから、それを使って自炊をしてる子もいるわ。後は、外に食べに行くっていう選択肢もあるにはあるわね」
「外……って、出てもいいんですか?」
びっくり。蓮は校則を完璧に把握しているわけではないが、こういう全寮制の学校というのは外出に制約が掛かるイメージがある。勿論きちんとした手順を踏めば問題はないのだろうが、昼食の為に敷地外に出る、というのはちょっと予想外だった。
紫苑はそんな蓮の疑問にあっさりと、
「大丈夫よ。流石に外泊となると許可が必要になるけどね」
「そ、そうなんですか……」
「驚いた?」
「そ、それはまあ」
紫苑は苦笑して、
「まあ、そうなるわよね。でもね、意外とこれでもうまく回ってるのよ?……まあ、そもそも外出をしようって人が少ないから、問題も起きようがないんだけれどね」
「そうなんですか?」
「ええ」
即答。
「少ない、というか殆ど居ないと思うわ」
「は、はあ」
蓮は呟くように、
「そういう物なのかな……」
「そういう物なのよ」
聞かれてた。
「ほら、ここって女子高で、しかもお嬢様学校みたいなところがあるじゃない?」
「えっと、はい」
「それだから……と、いって良いのかは分からないんだけど、あんまり外に出て色んな所に行ってみよう!とかそういう子はまあ、ほとんどいないわ。それに加えて、生活に必要なものはある程度敷地内で揃うから余計に、ね」
「なるほど……」
紫苑は蓮を伺い見て、
「……三菱さんは」
「は、はい?」
「三菱さんは、外に出掛けたりしたいのかしら?」
「えっと……」
さて、どうだろうか。正直な所、外出の件に関しては、ちょっと疑問に思っただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。しかし、ずっと敷地内から出ないで居たいかと言われれば微妙な所だ。だから、
「まあ、たまにはそういう気分の日もあるんじゃないかと」
そう答える。すると紫苑は、
「そ、そう。まあ、そうよね。たまにはそういう気分になるときもあるわよね」
蓮から微妙に視線を逸らし、明後日の方向を向く。次第に手持無沙汰になったのか、髪を弄り始める。これは、どういう事だろうか。もしかしたら蓮は期待をされていたのだろうか。
沈黙。やがて、紫苑が、
「と、取り敢えず、ここはこれくらいね。次、行きましょうか」
空気を変えんとばかりに切り出したその時、
「おっ、紫苑ちゃん発見!」
背後から声がする。蓮は驚いて振り向くと、
「あれ、君は見ない顔だね。新入生?」
そこには、メイドさんが立っていた。
「すみません。お待たせしました」
紫苑は顔を上げ、
「あら、早かったわね。届いた荷物とか、確認しなくても大丈夫?」
「大した量じゃないですし、今すぐ必要な物も無いので、いいかなと」
「そうなの?それならいいけど」
そう言うと、紫苑はスマフォをスカートのポケットへとしまい込み、
「それじゃ、行きましょうか」
「ええ」
瞬間。
「ストーップ!」
声がする。二人はほぼ同時にその方向を向き、
「えっと」
女の子が居た。彼女もまた、紫苑に負けず劣らず美人。しかし、紫苑とは違い、全体的にエネルギッシュな雰囲気を感じる女の子だ。薄緑色の髪はかなり長く、黄色いリボンで一纏めにしている。所謂ポニーテールというやつだ。そして、紫苑ほど胸は大きくないが、女の子らしさを感じられる凹凸と、全体的にすらっとした体形はスレンダーという呼称がふさわしいように見える。
「あら、葉流乃じゃない。どうしたの?今日は見学?」
どうやら、突然現れた彼女は紫苑の知り合いらしい。葉流乃と呼ばれた女の子は急に相好を崩し、
「いいえ先輩。私は今日から早速この寮で暮らすんですよ」
「そ、そうなの?でも、入学式はまだよね?」
「ええ。でも、入寮は今日から可能です。だから、もう引っ越しちゃいました。もう、準備万端です!」
「そ、そう……」
紫苑は若干言葉に詰まる。蓮は横から、
「えっと、紫苑さん」
「そこ!」
割り込まれた。
「え、えっと、何でしょうか?」
葉流乃は眉間にしわを寄せ、
「何でしょうか?じゃ、ないです。アナタ、先輩のなんなんですか?」
「何って……同級生?」
「それだけですか?」
「そ、そうだけど」
「じゃあ、何で先輩と一緒に居るんですか?」
「何でって……」
「それはね」
紫苑が助け舟を出す。
「私が彼女の案内を頼まれたからなのよ。彼女、今年から転入だから」
「案内……ですか?」
「そう」
葉流乃は少し詰まり、
「そ、それだったら、先輩がするまでもありません!私が!この鳳葉流乃が!責任をもってご案内します!それじゃ駄目ですか?」
紫苑は首を横に振り、
「ごめんなさい。そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、これは私が引き受けた事だから。勝手に誰かに任せちゃう訳にはいかないの」
葉流乃は更に詰まり、
「じゃ、じゃあ!先輩に任せた人に許可を貰えばいいんですね?誰ですか?今からひとっ走り」
「学院長よ」
硬直。
「……えっと……一応、聞きますが、今この学院には」
「多分、居ないと思うわ。忙しい人だから」
葉流乃は暫く固まっていたが、やがてがっくりとうなだれ、
「……分かりました」
「ゴメンね。気持ちだけ受け取っておくわ」
「いえ。大丈夫です、」
そこまで言って蓮の方を向き、
「アナタ」
「は、はい」
「お名前は?」
「えっと……三菱蓮です」
葉流乃は嚙みしめる様に
「みつびしれん、先輩」
「は、はい」
蓮にびしっと人差し指を突きつけ、
「今日の所は引きます。でも、言っておきますが、先輩の隣に並ぶのは私、鳳葉流乃だから。そこの所、忘れないでください」
そこまで言うと紫苑の方に向き直り、
「それじゃ、先輩。これから二年間、よろしくお願いしますね!」
すごぉい。さっきまでとは別人のようだ。態度が違いすぎる。蓮と対した時に比べて、声も表情も大分柔らかい。
流石に紫苑も驚いたのか、
「え、ええ」
どこか気の無い返事をする。しかし葉流乃は、紫苑に会えたことで満足したのか、早足で蓮達の元を去っていった。
やがて、葉流乃の姿が見えなくなると、
「なんか、ごめんなさいね……」
紫苑が申し訳なさげに、
「あの子、中学校の後輩なんだけど、その、ちょっと、変わっているというか。そんな感じだから」
「は、はあ」
変わっている。便利な言葉である。そして、確かに葉流乃を表す言葉としても間違ってはいない。しかし、
「えっと、一つ聞いていいですか?」
「……どうぞ」
「彼女は、えっと……紫苑さんの事をどういう意味で好き、なんでしょうか?」
黙る。しかしやがて一つの溜息と共に、
「多分、恋愛的な意味よ」
「そ、そうですか」
間。やがて紫苑が、
「取り敢えず、行きましょうか。余り遅くなるのも良くないし」
やや強引に話題を転換する。彼女にとっても余り触れたくない話題なのだろうか。それならば無理に聞き出すこともない。そう思い、
「ですね。それじゃ、お願いします」
紫苑はふっと微笑んで、
「ええ、任せて」
そう答えた。
◇ ◇ ◇
部屋の前から歩く事数分。寮の一階部分、その最奥にある部屋に蓮達はたどり着いていた。
「到着っと」
「わぁ……」
目の前の光景に蓮は思わず感嘆の声を上げる。どこか風格漂うクラシックな内装は蓮達の部屋と同じだが、広さが違う。最低でも数倍、もしかしたら数十倍はあるかもしれない空間には規則正しく木目調の長机と椅子が配置されていた。ちなみに人は居ない。
蓮は思わず、
「ここって一体……」
紫苑がすかさず、
「正式名称は大広間。だけど、基本的には学食として使われているわ」
「学食……ですか」
「そう。寮に住んでる学生は基本的に、朝と晩はここで食事を取るわ」
「朝と晩……昼はどうしてるんですか?」
「昼は……色々よ」
「色々、ですか」
「ええ。こことは別に、購買部があるから、そっちでパンとかお弁当を買う子もいるし、寮には共用の台所と冷蔵庫があるから、それを使って自炊をしてる子もいるわ。後は、外に食べに行くっていう選択肢もあるにはあるわね」
「外……って、出てもいいんですか?」
びっくり。蓮は校則を完璧に把握しているわけではないが、こういう全寮制の学校というのは外出に制約が掛かるイメージがある。勿論きちんとした手順を踏めば問題はないのだろうが、昼食の為に敷地外に出る、というのはちょっと予想外だった。
紫苑はそんな蓮の疑問にあっさりと、
「大丈夫よ。流石に外泊となると許可が必要になるけどね」
「そ、そうなんですか……」
「驚いた?」
「そ、それはまあ」
紫苑は苦笑して、
「まあ、そうなるわよね。でもね、意外とこれでもうまく回ってるのよ?……まあ、そもそも外出をしようって人が少ないから、問題も起きようがないんだけれどね」
「そうなんですか?」
「ええ」
即答。
「少ない、というか殆ど居ないと思うわ」
「は、はあ」
蓮は呟くように、
「そういう物なのかな……」
「そういう物なのよ」
聞かれてた。
「ほら、ここって女子高で、しかもお嬢様学校みたいなところがあるじゃない?」
「えっと、はい」
「それだから……と、いって良いのかは分からないんだけど、あんまり外に出て色んな所に行ってみよう!とかそういう子はまあ、ほとんどいないわ。それに加えて、生活に必要なものはある程度敷地内で揃うから余計に、ね」
「なるほど……」
紫苑は蓮を伺い見て、
「……三菱さんは」
「は、はい?」
「三菱さんは、外に出掛けたりしたいのかしら?」
「えっと……」
さて、どうだろうか。正直な所、外出の件に関しては、ちょっと疑問に思っただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。しかし、ずっと敷地内から出ないで居たいかと言われれば微妙な所だ。だから、
「まあ、たまにはそういう気分の日もあるんじゃないかと」
そう答える。すると紫苑は、
「そ、そう。まあ、そうよね。たまにはそういう気分になるときもあるわよね」
蓮から微妙に視線を逸らし、明後日の方向を向く。次第に手持無沙汰になったのか、髪を弄り始める。これは、どういう事だろうか。もしかしたら蓮は期待をされていたのだろうか。
沈黙。やがて、紫苑が、
「と、取り敢えず、ここはこれくらいね。次、行きましょうか」
空気を変えんとばかりに切り出したその時、
「おっ、紫苑ちゃん発見!」
背後から声がする。蓮は驚いて振り向くと、
「あれ、君は見ない顔だね。新入生?」
そこには、メイドさんが立っていた。
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